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第ニ章『テテュス編』
7 テテュスの初恋
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テテュスはため息を、付いた。
まるで夢のような一日だった。
二人とずっと一緒で、自分をとても、気遣ってくれた。
夕食後、レイファスとファントレイユは同じ寝室でいいとお休みを言い、二人がとても仲がいいのは解ったけど。
彼もその中に受け容れてくれてる感じで、でもすんなり入っていけない自分に戸惑った。
あんまり貴族としての催しとか付き合いに、出ていないから二人との違いにそれは戸惑うんだと、自分を慰めた。
でも…。
夕食前、支度が出来るまでと控え室で待っている時。
軽いおやつを出され、テテュスは凄くお腹が減っていたけど、レイファスとファントレイユがそれを受け取り、先に食べるのを、待った。
女中からお菓子の入ったバスケットを受け取る彼らはとても嬉しそうで、それを見ているとお腹がぺこぺこなのを、つい忘れた。
レイファスが、ぼっと見つめているテテュスに気づき、寄ってきて、それは可憐ににっこりと微笑んで、バスケットのお菓子を勧めた。
鮮やかな明るい、首の当たりまである栗毛に囲まれた可愛らしい顔立ちが本当に可憐で、何とも言えない愛らしさが溢れていて、くっきりとした青紫の瞳がきらきらして、本当に綺麗で可愛らしい子って、いるんだな。と、テテュスは改めて思った。
その彼にバスケットを自分の為に差し出されると、つい頬が熱くなったから、きっと赤くなってるんだ。と自分でも解った。
レイファスが、呆れていやしないかと心配になったけど、その瞳は馬鹿にしている風で無くて、テテュスは本当にほっとした。
でもお腹がぺこぺこだった筈なのに…そのお菓子は味が全然、しなかった。
視線がレイファスの後を付いて行って、彼が振り向いた時自分がまだ、彼を見つめているのに気づいて、また頬が熱くなった。
でも振り向いたレイファスはそれを咎める風じゃなくまた、にっこりと微笑んでくれたから、テテュスの心に甘酸っぱい感じが登ってきて、つい、ファントレイユの言葉が蘇った。
『彼みたいな子が彼女だったら、嬉しい?』
でもレイファスは、男の子だ。
時々ちゃんと、男の子に見えるし。
でも寝台に寝ころぶとつい、その笑顔が何度も何度も脳裏に蘇った。
…そう…まるで…ピンクの、花の妖精みたいだ。
可愛らしくって、どの仕草も何とも言えず愛らしくって、何だかとても、くすぐったい気がした。
目を閉じてもまだレイファスの、微笑や首を傾げる可憐な仕草や、ゆっくりと物を取り上げる時の白くて綺麗な小さな手の優雅な動きとか、輝くような笑顔とかがずっと、ずっと浮かび続けて眠りについた。
朝、目が覚めるとまるで花の香りに酔ったような自分に、どうしようかと、テテュスは困惑した。
足元が、ふわふわしてた。
しっかりしなきゃと下に降りると、朝日溢れる広間に騎士の姿を見つけ、テテュスは顔を、上げた。
「…ロー……」
言い終わらない内に彼に、飛んで行って抱きついた。
いつもみたいにローフィスはテテュスを抱き止めるなり、抱き上げてくれた。
「…元気か?」
彼の顔迄抱き上げられ、その顔が間近でテテュスは彼の首に腕を巻き付けた。
ローフィスは気遣う表情を、していた。
金に近いとても明るい艶やかな栗毛で、明るい青い瞳をしたその軽やかな笑顔の伊達男は、でも少し悲しそうな顔に見えた。
「…たった今着いたの?」
聞くとその横に、ディングレーが並んだ。
ローフィスより頭一つ、長身だった。
「…よぉ」
王族の血を継いでるのは、エルベス叔父さんも同じなのにこのディングレーは全然、威厳だとかが無い。
じっとしてるととても品良くて凄く男前に見えるけど、言葉も乱暴でぶっきら棒で、気取った所がまるで無かった。
真っ直ぐの腰まである黒髪や、濃い青い瞳のせいか、とても鋭い感じがして、近寄りがたい雰囲気がある。
そのディングレーの、とても男らしくて少し陽に焼けた引き締まった顔つきを目にし、テテュスの顔がほぐれる。
「ディングレー!」
叫ぶと彼は、苦笑した。
それでテテュスは小声でささやいた。
「…うんと、しょげてると思った?」
ディングレーはテテュスを抱き上げているローフィスを見た。
ローフィスがテテュスの顔を覗き込んで明るい声で言った。
「…いや。こんなに歓迎されて、感激だ!」
笑いながらテテュスを下に降ろすと三人は、広間の戸口の人の気配に振り向く。
そこには、レイファスとファントレイユが顔を見せていた。
朝日に照らされて彼らは本当に、人間離れして綺麗に、見えた。
「レイファス!ファントレイユ!
ローフィスとディングレーが来てくれた!」
テテュスが全開の笑顔を見せて二人に叫ぶと、二人は顔を見合わせる。
テテュスが二人の騎士に振り向くので、騎士達はテテュスの、後に続いた。
「…彼の、いとこ殿達だろう?」
ローフィスがそっとささやくと、ディングレーがぼそりと言った。
「…姫じゃなくて?」
ローフィスが口の悪いディングレーを、“知ってる癖に”と目で諭した。
が、ディングレーはやれやれと首を横に、振った。
ファントレイユはまるで彫像を見上げるように長身の、二人の立派な騎士を、見上げた。
「やあ!」
人好きのする笑顔でローフィスはその小さな子供に声をかけると、本当に大きな人形のように見えるそのとても綺麗な淡い色をした、綿飴みたいな髪を背迄垂らす、浮かぶようなブルー・グレーの瞳の子供は頬を、染めた。
もっと小柄で肩の上迄の短髪の、けれどとても鮮やかなウェーブのかかった栗毛がその顔立ちをとても明るく華やかに見せて、色白の小顔にとてもくっきりとした青紫の宝石のような瞳と、赤く小さな唇が映えるとても可愛らしい…どう見ても女の子にしか見えない子が、口を開いた。
「…テテュスが、来てくれたらいいのにって、待ってた二人の騎士ですか?」
姿の割にとてもしっかりした口調に、ローフィスも気づいたがディングレーも解ったようだった。
二人は瞬間、目を見交わした。
だがテテュスが、そのレイファスを見つめて頬を染めたりしたから、二人は少しため息を付くようにローフィスは顔を下げ、ディングレーは横を、向いた。
「着いたばかりで腹ぺこなんだ」
ディングレーが相変わらずぶっきら棒に言うと、テテュスは途端に微笑んだ。
「じゃあ一緒に食べられるね!」
二人はテテュスの笑顔に、釣られて微笑んだ。
ファントレイユとレイファスの瞳に、ローフィスとディングレーは、テテュスの笑顔をそれは嬉しく感じてる。
と映った。
二人はテテュスを挟んで座り、交互に気遣うように彼を見つめた。
「…アイリスが心配してね。
妹の秘蔵の息子が二人も居て、テテュス一人で何かあったら、君がまた落ち込むんじゃないかって」
ローフィスが言うと、ディングレーもぶっきら棒に告げる。
「…お前、何かあってもすぐ自分一人で抱え込むだろう?
餓鬼の癖に、生意気なんだよ!」
二人は狼みたいに近寄りがたい雰囲気の男が、笑ってテテュスの額をこずくのを、目を丸くして見た。
テテュスも、笑った。
「じゃ、面倒見てくれるの?」
ローフィスは思い切り肩でため息を、わざと付き
「仕方ないな」
と悪戯っぽく笑って言い、テテュスに、笑って叩かれた。
ローフィスが愉快な男で、ディングレーはそれは怖そうなのに実は子供に優しい男だと、二人が気づいたのは直だった。
食後に木の枝で騎士ごっこをして、はしゃぎ回った時だった。
ファントレイユがふらつくと、ディングレーはさっと手を出し、背を受け止めて転ぶのを防ぎ、ファントレイユはその素早い動作と気遣いに、それは感激していた。
ディングレーは低く横を這う太い木の枝にファントレイユと掛け、彼の質問を矢継ぎ早に、受けた。
「戦った事がある?」
「どんな風の戦い?」
「仲間と、はぐれたりした?」
ファントレイユの瞳がきらきらし、ディングレーは彼の中味は凄く男の子だと感じたものの、そのもの凄くお行儀のいい様子に、それで女の子っぽく見えるのか。と、合点がいった。
ローフィスはレイファスとテテュスに追いかけ回され、二人を交互に担ぎ上げては地面に転がし、彼らはその度に体をうんと高く掲げ上げられて、きゃっきゃと笑い声を、立てた。
「…ディングレー!代わってくれ!こいつらまだ元気だ!」
二人はそれでもかかってくるのでローフィスはとうとう、二人に倒されて降参した。
「…負けた!」
「まだだ!」
テテュスが言うと、ローフィスは勘弁してくれと、笑った。
襲いかかるテテュスを、ぱんと手で軽くはたき、言った。
「お前らで鬼ごっこでもしろ!」
レイファスは艶やかに笑い走ると、必死でディングレーから話を引き出すファントレイユの腕を、いきなり掴んで引き、
「テテュスが鬼だ!」
と叫んでファントレイユの腕を掴んだまま走り出す。
テテュスは転がったローフィスの上から体を起こし、途端に駆け出す二人を追いかけた。
レイファスは木の枝の下を潜って逃げ、テテュスはあっと言う間にファントレイユを捕まえ。
鬼にされたファントレイユは、逃げるテテュスとレイファスをムキになって追いかけ始めた。
ディングレーは木の枝に掛けたまま、息の切れたローフィスを隣に迎えると、感想を述べる。
「…ありゃ母親の躾けがきちんとし過ぎるだけで、本人は騎士が大好きな、普通の好奇心の塊な男の子のようだ」
ローフィスが笑ってそう言う王族を見つめた。
「ちゃんと中味は男の子か?」
ディングレーは頷いた。
が、ローフィスが言った。
「…問題はあっちだな」
レイファスを見ながら言うローフィスの言葉を聞くなり、ディングレーは唸った。
「問題は、テテュスだ」
二人は顔を見合わせて、頷き合った。
いつの間にかレイファスが鬼。
テテュスは彼に追いかけられ、とても嬉しそうに頬をピンクに染めていたから。
ローフィスが、レイファスを見た。
「…実はやんちゃで、気が強い」
ディングレーも唸った。
「頭の、回転も早い」
ディングレーは走り回る彼らを見ながらつぶやいた。
「俺達と暫く居たらちゃんと男の子に見えるようになると思うが………」
ローフィスは、肩をすくめる。
「母親が許さんだろう?女親を敵に回す根性が、あるか?」
「そんなのはアイリスの、仕事だろう?」
ローフィスはディングレーを、まじまじと見つめた。
「あいつにも、苦手な物くらいある」
ディングレーはすげなく『嘘だな』という顔をして言った。
「初耳だ」
だが、昼食を終えた午後だった。
テラスでおしゃべりに興じ、テテュスもレイファスも早くまたローフィスに放り上げて欲しいと、うずうずしていた。
がローフィスは、腰を上げる様子が無かった。
その時馬車が庭園を走り抜け、彼らの前に、止まる。
出て来た、アイリスに面差しの良く似たとても美人のご婦人その1は、アイリスの友人の騎士の姿を息子の側に見つけた途端、眉を潜め。
その2、背の高い方も同様だった。
ローフィスがディングレーを見、顔を寄せてささやいた。
「…どうする。援軍が居ない」
ディングレーは肩をすくめた。
「俺は口ベタだって知ってるだろう?」
ローフィスは自分に全部任せる気のディングレーを、じっと睨んだ。
「…ごきげんよう」
小柄で明らかにレイファスの母親だと解る、可愛らしい顔立ちの美人は、戦闘準備は整ってる。と言うように丁重に二人に、挨拶した。
セフィリアはファントレイユの側に付くと、息子を腕に抱いて聞いた。
「お熱は、出なかったの?」
ファントレイユは少し甘える顔をしたものの
「僕じき六歳なんだよ?
それにテテュスも強い騎士達も居るし、熱は逃げ出しちゃうよ!」
ファントレイユがそう言うとテテュスがそれは嬉しそうで、セフィリアは好感の持てるアイリスの息子の様子に、目を止めた。
「うんと仲良く、なったの?」
ファントレイユは、頷いた。
レイファスの母親、アリシャは蛇を相手にするように、少し様子見のように遠巻きから二人をじろじろ眺め、可愛らしい赤い唇を開く。
「いつ、いらっしゃったの?」
ローフィスは人間扱いされず、ため息混じりにささやいた。
「たった、今朝に」
アリシャは、頷く。
ずいぶん気取って、もったいぶって見えた。
負ける気は毛頭無いようだ。
ディングレーがぼそりと言った。
「ご子息が心配なのはアイリスだけじゃ、無いようだ」
アリシャは当たり前だ。と言うように顎を上げて相手を見下した。
「当然でしょう。で?お兄さまのお相手はどちら?
お二人とも、そうなの?」
ローフィスとディングレーが顔を、見合わせた。
それは美貌の、ローフィスの義弟シェイルとかがが間違われるならともかく。
自分らが彼と…なんて疑いを、今まで一度も持たれた事すら無かった…筈だ。
ディングレーは想像してぞっとし、思わず顔を手で被った。
ローフィスは果敢に言い返す。
「…ひどい誤解が、あるようだ」
だがアリシャは反撃した。
「…あら。私とセフィリアにしっかり情事を目撃された騎士も、お兄さまの寝室から出た後、私達にそう言われたわ。
あれをどう、誤解したら何も無いと思えるのか、聞きたい位」
セフィリアも言った。
「…私達を馬鹿だと思ってるのね」
ひどく冷たい言葉で、ディングレーはすっかり戦意を無くし、ローフィスは何とか勝機を探ろうと尋ねる。
「…それは君達が幾つの時の話か、聞いてもいいかい?」
アリシャがセフィリアを、見た。
「…私が13よ。アリシャは12」
ローフィスは頷く。
「その騎士は君達が子供だから言いくるめられると思ったんだ。
私はそう思わない。こんな大きな子供が居る立派なご婦人達だとちゃんと、解って言ってる」
アリシャがぴしゃり!と言い返す。
「…それが、何?
大抵殿方は自分の不正を、絶対面と向かって認めたりはなさらないものよ?」
ローフィスは顔を背けた。
どう話せば言葉が通じるのか、解らなくなったようだった。
ディングレーが俯いて背を、向けきった。
ローフィスは顔を上げて口を開こうとし、待ちかまえる二人の美女の戦意満々の顔につい、顔を下げ気味にした。
「…頼む。アイリスと寝室を共にしたように思われてるだなんて、今夜絶対、うなされる………」
そう、憔悴しきってぼやく。
本心だった。
が、セフィリアは呆けた表情で尋ねる。
「…じゃ、貴方はお兄さまと楽しんだりなさらないの?」
ローフィス迄想像してつい、真っ青に、成った。
「…それは楽しみとは言わない。拷問に近い」
ディングレーがそうつぶやくローフィスを思わず、振り向き見つめた。
が、アリシャとセフィリアの態度が更に、厳しく成った。
「…じゃもしかして、男好きじゃなくて、女がお好きなの?」
ローフィスはどう返答したものか、もの凄く困ったが、ともかく言ってみた。
「…アイリスを相手にする位なら、絶対女性がいい」
二人は更に、険悪なムードを醸し出した。
「…つまり、女好きね?」
セフィリアが毛虫を見つけたようにつぶやくと、アリシャも扇を口に当て、ささやく。
「…いかにも、遊び人風よね?」
ディングレーが背を向けたまま、どっちに転んでも鮫の口。の事態に、いかにもこの場を逃げ出したい風に、体をもじった。
ファントレイユが、二人はとても立派な騎士だと、言おうとしても口を挟む隙無く。
テテュスも二人の様子とご婦人の厳しい態度に、どうしていいのか困惑し。
レイファスは相変わらず冷静に、事態を見守っていた。
ローフィスが、ささやくように言った。
「…君達が思い描く女好きがどんな風か、大体の想像はつくが、そういう種類でも無い」
彼の言葉に二人は驚いたように顔を、見合わせた。
そして、ぎんぎんした視線で見つめられ、ローフィスはどうなったんだ?と顔を上げる。
「…つまり…お二人が、そうなのね?」
この言葉に、ディングレーも呆けて顔を上げた。
そして二人が、どっちが女役をしてるのか吟味してる様子で小声でささやくのを、聞いた。
セフィリアが言う。
「…だってどう見ても金髪のお方でしょう?」
アリシャが返した。
「あら?だって思ったより男らしいわ。意表をつくのかもよ?」
二人は顔を寄せてささやいたが、会話は筒抜けだった。
だん!
ディングレーがとうとう、怒りに歪んだ表情で立ち上がった。
「あんたたちはそれしか、頭に無いのか?!
どこをどう見たら……俺達が恋人に見える!
一度医者に、診てもらえ!」
だがこの、いかにも怖い風の騎士の怒鳴り声にも、二人はめげなかった。
「…真理を突かれると人は怒るそうね」
アリシャが言い、セフィリアもささやいた。
「怒るって事はやっぱりあの方が………」
女役ね。と二人は頷き合った。
ディングレーはもう、どう言っていいのか解らず、ローフィスの気の毒そうな視線を受けてつい、怒鳴った。
「…俺をコマしてると思われてんだぞ!お前は!
気の毒がってないで、なんとか、しろ!」
「事実、何も無いのにどうしてそこ迄誤解出来るのか理解出来ない。
恋人だろう?と聞かれたら証明出来るけど、そうじゃない証明はどうすればいいのか、聞きたいのは俺の方だ」
と手の上に顎を乗せ、問題を投げ出した。
テテュスは、両脇に立つローフィスとディングレーを、交互に切なげに見つめた。
ファントレイユはセフィリアに手を引かれ、彼女を見つめた。
レイファスはアリシャの横で、俯いて背を、向けていた。
ファントレイユがとうとう、セフィリアの手を振り払ってテテュスの横に、駆け込んだ。
レイファスも振り向いてそれを、見た。
「…ファントレイユ!駄目よ。戻ってらっしゃい!」
ファントレイユは怒鳴った。
「…だって…!
ゼイブンだってセフィリアが外で遊んで来いって言うから、ちっと戻らないで僕と遊んでなんかくれない!
どうしてディングレーとローフィスは駄目なの?
テテュスとだって…。離れたくない!
僕はテテュスともっと一緒に、居たい!」
ファントレイユのストレートな要請は、セフィリアの胸を打った。
「…だったらちゃんと…私が素姓のはっきりとした騎士を、遊び相手に探すから!
…そしたらテテュスに、家に来て、貰いましょう。
ね?お願い。そうして?ファントレイユ…」
ファントレイユは首を横に、振った。
「…ローフィスとディングレーがどうしていけないの?!
素姓がちゃんとはっきりしてるじゃないか!
アイリスの友達なのに!」
ローフィスとディングレーは、そこが、まずいんだよな。と顔を見合わせた。
「…ファントレイユ。
でも、何かあってからじゃ、遅いのよ?」
「…だって!ディングレーもローフィスも絶対護ってくれる!
ちゃんと立派な騎士だもの!
どうして解らないの?
二人共、凄く素晴らしい騎士だって!
セフィリアの瞳は、ふし穴なの?!」
ディングレーもローフィスも、この人形に見える男の子の賞賛に心が暖かくなった。
ローフィスは静かにつぶやいた。
「子供に、貴方方が考えているような悪影響は決して与えないと約束する」
ディングレーも怒鳴った。
「純粋培養じゃ余計に、危ないぞ!」
婦人達は二人の言葉に振り返り、ディングレーが更に唸った。
「…戦い方を、俺なら教えられる。
ちゃんと男の子としてやっていく方法も。
第一、テテュスを可哀想だとは思わないのか?やっと出来た友達だ。
俺達をアイリスが寄越したのは、大人の監督者が必要だからで、あいつは自分の息子に手を出し、悪影響を与える者を寄越したりはしない。
あいつの息子可愛さはあんたらより更に、上だ。
一緒に居る時間が取れないから、余計に!」
ディングレーの言葉には説得力が、あった。
大層、怒っていたので。
その怒りは自分の誇りが傷付けられた事よりも、テテュスの友達を取り上げられる悲しみを、この不器用な男が気遣った為だと。
御婦人達にも解った。
レイファスはアリシャを見つめた。
「…父さんはしてくれないけど、ローフィスは肩車をしてくれるんだ」
アリシャは俯いた。
「だって…カレアスは、貴方と遊ばないの?」
「…アリシャ。貴方が療養してる時彼は仕事から帰るとすぐに貴方の元へと、飛んで行く。
一緒に居る時は貴方の側に、べったりだ。
僕もファントレイユも父親に相手にして貰えなくて、凄く、寂しい。
生意気な口をきくけど、ローフィスやディングレー達の方がよっぽど、父さんみたいなんだ」
『父さん』が、きいたようだった。
ディングレーはレイファスを、やっぱりこいつは頭がいい。と感じ、ローフィスはさすがに母親の泣き所を知ってると、感心した。
「残りたいの?」
アリシャが言うと、レイファスは俯いた。
「だって家に帰っても、カレアスは遊んでくれやしない。
それに…。テテュスの事が凄く、心配だ」
レイファスに心からそう言われ、息子の優しさにアリシャは感激した。
ファントレイユは、レイファスがやった!と心の中で感じた。
セフィリアも、ため息を付いた。
「…熱が出たら…」
ファントレイユは言った。
「もう、出ない。レイファスと一緒になってから一度も。
セフィリアも、知ってる癖に」
きっぱり息子にそう言われ、セフィリアは俯いた。
確かに、ゼイブンはアイリスに任せろと言った。
もう息子を女の子と間違われて襲われたりしない為には。
二人はとうとう、引き下がった。
「お二人にはご迷惑でしょうけれど」
いい若者が、子供の相手を買って出るなんて。と思ったが、二人がテテュスを気遣うように両脇に寄り添い立つのを見て、納得した。
「ごめんなさいね。テテュス」
セフィリアが言い、アリシャは飛んで来て、テテュスを抱きしめてささやいた。
「貴方がどうだとか、言う事じゃ決して、無いから。ただ…」
アリシャは柔らかくて可憐でいい匂いがし、レイファスとやっぱり似ていると、テテュスはくすぐったかったが思った。
「…解ってます。レイファスがとても、大切なんですね?」
アリシャが顔を上げ、兄そっくりだけどとても誠実そうなその息子の顔を見て、また安心した。
「…そうなの。でも今度は是非、家に遊びに来てね?
いいわね?テテュス」
テテュスは微笑んで、頷いた。
ディングレーとローフィスが、やれやれと顔を、見交わした。
馬車が去って行き、ディングレーはローフィスが、アイリスでも苦手な物がある。と言った意味を、もの凄く実感した。
ディングレーとローフィスが、くたびれ切ったようにテラスの椅子に体を投げ出して掛け、テテュスとレイファスは、また放り上げてくれないかなと見つめたが、叶いそうに無い位、ローフィスは消耗してる様子だった。
ファントレイユが、レイファスに聞いた。
「二人は、恋人同士なの?」
あまりにも素朴な疑問で、レイファスははっきりと言い諭す。
「ファントレイユ。女って生き物は時々とんでも無い事を想像するんだけれども、それがどれだけ現実からかけ離れていても、自分が決して間違って無いと、信じ込んでるんだ」
ファントレイユは頷いた。
「それって二人が恋人じゃないのに、セフィリアとアリシャはそう思い込んでるって事?」
レイファスは呆れたように言った。
「だってどう見ても、恋人に見えないじゃない!」
「でもセフィリアはいつも言ってる。
殿方は何かやましい事がある時程、何にも無いって顔をするから、言う事は全然信用出来ないって」
レイファスは眉を、寄せて訊ねた。
「ゼイブンが、いつもそこら中の女性と浮気してるから?」
ファントレイユはまた、頷いた。
「…シャーレス侯爵婦人と、宿屋から朝出て来る所を見られてるのに彼女とは別に何もない、ってしゃあしゃあと嘘を付かれた、って。
浮気しても良い。って言ってあるから、正直に関係した。って、どうして言えないのかしらって。
凄く、怒ってた」
レイファスは、呆けた。皆がつい、聞き耳を立てた。
ファントレイユは続けた。
「…だからゼイブンに、どうして嘘を言うの?って聞いたら、条件反射だって。
やっぱりご婦人は、浮気していいと言いながら、自分が一番だと思いたいから。
つい、他の女性とは無かった事に、してしまうんだって。
レイファス。意味解る?
僕も正直に言った方がセフィリアは納得すると思う」
「でも正直に言ったらセフィリアは、不潔って思って、ゼイブンがセフィリアにキスしたくなっても、嫌だと拒絶すると思う」
「じゃあどうすればいいの?
ゼイブンは浮気していいって言われたのに」
「それはだって、駆け引きだろう?
いいと言われて本当にしたら、睨まれるんだ」
素直なファントレイユは、それは、混乱した。
「して、いいって言って…。
でも本当は、駄目なの?」
「相手を試したい時は女性は時々、やるみたいだ。
大抵の男は嘘を付くから」
「…どうして嘘を付くの?」
「もちろん、目の前の相手に一番良く、思われたいからさ。
たった一人だけ好きならいいけど。
でもゼイブンだってセフィリアの事凄く好きなのに、農家の女将さんととても仲がいいのを知ってるでしょう?」
ファントレイユは俯いてつぶやいた。
「どうして、たった一人に出来ないんだろう…」
「…年頃の男は相手が誰でも、いいらしいんだ。
体の構造が、そうなってる」
この言葉に、テテュスは飛び上がりそうにびっくりし、ローフィスはつい、吹き出しそうになり、ディングレーは呆れた。
ファントレイユはしょんぼりして、尋ねる。
「……じゃ、僕も大人になったらそうなる?」
「多分ね。でもほどほどにしないと、本当に大切な相手に、信じて貰えなくなるって」
ファントレイユは、頷いた。
「体の構造の、せいか」
レイファスも『そうだ』と頷いた。
テテュスはあんぐり口を開け、ローフィスは口を抑えて笑いをこらえ、ディングレーは目を、まん丸にしていた。
二人ははっ、と皆を、見た。
テテュスが、レイファスをまじまじと、見つめてた。
「ファントレイユ……」
レイファスがしょんぼり、彼を見た。
レイファスがしょげているので、ファントレイユはテテュスに振り向き、真っ直ぐ彼を見つめて言った。
「レイファスは本当は凄く、やんちゃなんだ。
でもそうすると、アリシャが心配するでしょう?アリシャは体が弱いし…。
でもレイファスは悪戯も暴れ回るのも大好きで、我慢出来ないから…。
アリシャの前ではもの凄く、いい子してるんだ。
とっても、大変だと思わない?」
ローフィスがついに、大口開けて笑い転げ、ディングレーに呆れて見つめられた。
テテュスはぼそりと、つぶやいた。
「そう…なんだ………………」
彼の中に咲き誇ったピンクの花が、枯れて落ちていくのが。
皆の目に、見えるようだった……………。
テテュスはそれはしょんぼりと足を抱え込んで座っていて、レイファスは自分の失態に落ち込み、ファントレイユはどうしていいのか、困った。
ローフィスがテテュスの横に、掛けた。
テテュスが彼を、見上げた。
ローフィスはテテュスを見ないままつぶやいた。
「レイファスは可愛いな。女の子みたいだ」
テテュスは、俯いた。
「でも中味はちゃんと君と同じ、活発な男の子だ」
テテュスは顔を揺らした。
「…でも最初は同じ人間にも、思えなかった。
誰かが僕をからかって、大きな人形を置いて…。
それを本当に僕がいとこ達だと信じ込んで話しかけたら、悪戯な本当のいとこが現れて、僕の事、笑うのかと思ってた」
ローフィスは呆れて彼を、見た。
「…確かにとても、綺麗だ」
そして俯くテテュスに更に、言った。
「レイファスは特にとても、可愛いし」
テテュスは、頷いた。
「でも君も、解るだろう?
ディングレーが俺と恋人だと勘違いされて凄く嫌だったみたいに。
レイファスだって本当は思い切り男の子したいのに、女の子のように思われたら、嬉しくない」
テテュスは、大きくため息を、付いた。
「本当に、そうだ」
「…あの母親達が相手だ。レイファスだって一生懸命、頑張ってるんだ。
応援、出来るな?」
テテュスはローフィスを、見上げた。
やっぱり、綺麗な青い瞳だなと感じた。
「出来る」
ローフィスは、いい子だ。と言うようにテテュスの頭に手を置いてぐりぐりとかき混ぜ、レイファスとファントレイユに振り向いて、ウィンクして見せた。
レイファスはローフィスに思い切り抱きつき、ファントレイユはディングレーに、にっこり笑って頷いた。
「テテュス!」
アイリスは馬から降りるなり叫んで、転がるようにテテュスの元へと駆け寄った。
テテュスはファントレイユとレイファスと、相変わらず鬼ごっこをしていて、アイリスが叫ぶなり振り向いたがいきなり彼に抱き上げられて、びっくりしたような顔の後、アイリスを見つめて微笑んだ。
「…会いたかった?」
テテュスに聞かれ、アイリスは言った。
「とても!」
アイリスに頬にキスされ、くすぐったいような表情を見せるテテュスを、ファントレイユとレイファスは羨ましそうに、二人並んでぼーっと立ちすくみ、見つめていて。
ディングレーもローフィスもそれに気づいて、やれやれと首を横に、振った。
アイリスは二人の子供に目を移すと、微笑んだ。
「…テテュスと遊んでくれて、ありがとう」
とても、チャーミングな笑顔で、ファントレイユは思わず押し黙り、頬を染めて首を横に、振った。
レイファスが、言った。
「でも、大変だったんだ。
母さん達が来て、もう少しで連れて帰らされる所だった」
「…セフィリアとアリシャが、来たのか?!」
アイリスが眉を寄せて椅子に座るローフィスとディングレーに振り向く。
ローフィスとディングレーは、忘れたい記憶を蘇らせて二人同時に、そっぽ向いた。
テラスの椅子でアイリスはマントを取らぬままお茶を口に運んだが、テテュスに聞かれた。
「エルベス叔父様は一緒じゃないの?」
「…私の代理で置いてきた」
ローフィスが呆れ、ディングレーが眉間を寄せる。
「…『神聖神殿隊』付き連隊本部にか?
だって彼は、部外者だろう?」
「ローフィスに頼もうと思ったのに、それを言い出す前にさっさと執務室を、出ていってしまうんだもの」
「連隊長のヘイムルは、お前を後釜に据える気でいるんだ。
俺が居座るとあいつの機嫌が悪いだろう?」
アイリスがささやいた。
「…だって連隊長職は、君の椅子だ」
「俺が連隊長じゃ、不満な奴が大勢居る。俺より身分の高い男が半数じゃな」
ディングレーが呆れた。
「…そんな所に部外者の大公を放り出して来たのか?」
アイリスが素っ気なく言った。
「コネがたくさんあるし、大公の彼には誰も、文句が言えないからいいんだ」
ディングレーとローフィスは顔を、見合わせた。
アイリスは言葉を続ける。
「だってローフィス。君なら身分がどうとか言ってる輩だって丸め込むのは得意じゃないか」
「…面倒だ」
また、そんな事を言って。とアイリスは眉をひそめた。
「どうして君達はそんなに対照的なのに、その点だけは同じなのかな。
ディングレーも役職に着くのは面倒だと、思ってるだろう?」
「だって面倒だろう。そう言うのは、面倒見のいい奴の仕事だ」
アイリスは肩をすくめた。
「…言ったろう?今までさんざんテテュスに世話をかけたから、私は辞退して、もう少し仕事を減らして彼の側に、居たいんだ」
途端、ローフィスはテテュスを見つめた。
「…それじゃがっかりだろう?テテュス。
お前、アイリスの事を敬愛してるもんな。
やっぱり父さんが仕事先で一番偉くて格好良く、いて欲しいだろう?」
アイリスがローフィスを睨む。
がテテュスは朗らかに
「うん!」
と頷き、ローフィスにそれ見た事かと見つめられ、アイリスは俯いて言った。
「私の息子に釜かけてないで。
自分の息子を、作ったらどうだ」
ディングレーが途端、笑った。
「焼き餅か?」
ローフィスも、言った。
「連隊の可愛げの無いロクデナシ共の世話焼くくらいなら、テテュスの方がうんと可愛い。
飲み込みは早いし、素質も文句無し。将来有望だ」
ファントレイユとレイファスが顔を、見交わした。
アイリスが二人の様子に気づき、隙を突く。
「彼らの母親が来たそうだな?」
ディングレーは言われた途端、そっぽ向いた。
「…ディングレーは何か、言われていたのかい?」
アイリスが二人の子供にそっと問うと、レイファスは横目でディングレーを気遣うように見つめ、ささやいた。
「アリシャが言うには、アイリスとそういう関係じゃないなら、二人が恋人同士だろうって」
ぶっ!
アイリスは吹き出した途端、俯き、肩を揺らして笑い出したものだから、騎士達二人の瞳は険悪になった。
「…お前と寝室を過ごしてないと解らせる迄も大変だったのに、その後はこれだ。
ディングレーは医者に診て貰えとまで、叫んだんだぞ!」
アイリスはまだくっくっくっくっ!と肩を揺らし続け、笑いが止まらなかった。
二人はいつ、アイリスの笑いが納まるのか、腕組みして待ったが、アイリスの笑いは終わりを見せなかった。
「…そんなに、可笑しい事?」
ファントレイユが素朴に、尋ねた。
アイリスは肩を揺らしながら言った。
「…だって…だってどう考えても、この二人でロマンチックな雰囲気に、なる筈も無いじゃないか………」
アイリスは目に涙を溜めて、それでもまだ、笑っていた。
「…ろまんちっく、が要るんだ」
ファントレイユがレイファスに言うが、ファントレイユがろまんちっくを解っている様子が、無かった。
それでテテュスが言った。
「…つまり、君とレイファスが恋人だろうと、言われたようなものだと思う」
テテュスの言葉にファントレイユはびっくりした。
「…僕とレイファスって、恋人だったの?」
レイファスが、そんな筈ないじゃないかと呆れて彼を、見た。
「…あっちの方がどう考えても、ありそうだ」
ディングレーが投げやりに言い、ローフィスは彼を軽蔑の眼差しで見つめ、怒鳴った。
「…六歳の餓鬼に恋人が解るか?!」
レイファスは解ってないファントレイユに、言い諭した。
「ファントレイユ。僕らが恋人だなんて、間違っても他人の前で言っちゃ駄目だ。
特にセフィリアの前では」
「どうして?」
「…僕ともう、遊べなくなってもいいの?」
ファントレイユはびっくりした。
「…どうして恋人だと、遊べなくなるの?」
アイリスは途端、ファントレイユを気の毒そうに見た。
「…セフィリアはとても多くの勘違いを平気でするからさ。
もしそうだとしても、恋心っていうのはとても大切なものなのにね」
ファントレイユはアイリスを見つめた。
「勘違いするから、言わない方が、いい?」
アイリスがにっこり微笑み、ファントレイユはぼっと頬を染め、レイファスは彼の素朴な質問から解放されて、ほっとした。
テテュスが優しく訊ねた。
「ファントレイユ。恋人って、解ってる?」
だが、ファントレイユのその、とても綺麗な顔は何の表情も無かった。
困惑すらも。
皆がつい、彼を注視した。
でもファントレイユは口を開いた。
「セフィリアとゼイブンはもう結婚してるから、恋人じゃ、ないよね?
じゃあ、ゼイブンが仲良くしている農家の女将さんとゼイブンは、恋人?」
「…それは、浮気だ」
ディングレーが身も蓋も無く、言い切った。
ファントレイユが素直に聞いた。
「…どう違うの?」
ローフィスはディングレーを睨んだ。
「ファントレイユ。ゼイブンが彼女に惚れて、相手もゼイブンに惚れてたらちゃんと、恋人だ」
ファントレイユはようやく解った気がした。
「お互いが惚れてると、恋人なの?」
アイリスは正解。と言うように微笑んだりしたから、ファントレイユはまた、ぼっと頬を染めた。
ディングレーとローフィスは、一見分かり難そうだが実はとても解りやすいファントレイユを、見た。
「お前、アイリスに惚れてないか?」
つい、ディングレーが覗き込んでファントレイユに聞く。
レイファスがつぶやいた。
「彼は僕みたいに本で騎士の話を読んだりしないし、父親に全然相手にされなくて、騎士欠乏症なんだ」
ローフィスとディングレー、そしてアイリスは、了解したと、頷いた。
テテュスが、尋ね返す。
「騎士欠乏症?」
レイファスが、テテュスを見る。
「だって君はアイリスや、ディングレーやローフィスみたいな立派な騎士に構って貰えるけど。
僕らが構ってもらえるのは、あれをしちゃ駄目の、駄目駄目だらけの母親と女中だけだ」
テテュスを含めた三人の大人は思い切り、頷いた。
ファントレイユが、少し顔を下げて真情を吐露する。
「…木登りも、木の枝を振り回す事どころか、持ってもばい菌が入るって五月蠅いし」
テテュスはびっくりして目を、丸くした。
「…そうなの?」
アイリスの、心から気の毒そうな眼差しについ、ディングレーが言った。
「…啖呵、切っちまった。俺達ならもっと男の子らしく出来るって」
アイリスは目をまん丸にする。
「…それをした後、二人から苦情の山だぞ!」
ローフィスとディングレーは顔を見合わせ、投げ出すように、声を揃えた。
「せいぜい、頑張ってくれ」
「おい…………!」
まるで夢のような一日だった。
二人とずっと一緒で、自分をとても、気遣ってくれた。
夕食後、レイファスとファントレイユは同じ寝室でいいとお休みを言い、二人がとても仲がいいのは解ったけど。
彼もその中に受け容れてくれてる感じで、でもすんなり入っていけない自分に戸惑った。
あんまり貴族としての催しとか付き合いに、出ていないから二人との違いにそれは戸惑うんだと、自分を慰めた。
でも…。
夕食前、支度が出来るまでと控え室で待っている時。
軽いおやつを出され、テテュスは凄くお腹が減っていたけど、レイファスとファントレイユがそれを受け取り、先に食べるのを、待った。
女中からお菓子の入ったバスケットを受け取る彼らはとても嬉しそうで、それを見ているとお腹がぺこぺこなのを、つい忘れた。
レイファスが、ぼっと見つめているテテュスに気づき、寄ってきて、それは可憐ににっこりと微笑んで、バスケットのお菓子を勧めた。
鮮やかな明るい、首の当たりまである栗毛に囲まれた可愛らしい顔立ちが本当に可憐で、何とも言えない愛らしさが溢れていて、くっきりとした青紫の瞳がきらきらして、本当に綺麗で可愛らしい子って、いるんだな。と、テテュスは改めて思った。
その彼にバスケットを自分の為に差し出されると、つい頬が熱くなったから、きっと赤くなってるんだ。と自分でも解った。
レイファスが、呆れていやしないかと心配になったけど、その瞳は馬鹿にしている風で無くて、テテュスは本当にほっとした。
でもお腹がぺこぺこだった筈なのに…そのお菓子は味が全然、しなかった。
視線がレイファスの後を付いて行って、彼が振り向いた時自分がまだ、彼を見つめているのに気づいて、また頬が熱くなった。
でも振り向いたレイファスはそれを咎める風じゃなくまた、にっこりと微笑んでくれたから、テテュスの心に甘酸っぱい感じが登ってきて、つい、ファントレイユの言葉が蘇った。
『彼みたいな子が彼女だったら、嬉しい?』
でもレイファスは、男の子だ。
時々ちゃんと、男の子に見えるし。
でも寝台に寝ころぶとつい、その笑顔が何度も何度も脳裏に蘇った。
…そう…まるで…ピンクの、花の妖精みたいだ。
可愛らしくって、どの仕草も何とも言えず愛らしくって、何だかとても、くすぐったい気がした。
目を閉じてもまだレイファスの、微笑や首を傾げる可憐な仕草や、ゆっくりと物を取り上げる時の白くて綺麗な小さな手の優雅な動きとか、輝くような笑顔とかがずっと、ずっと浮かび続けて眠りについた。
朝、目が覚めるとまるで花の香りに酔ったような自分に、どうしようかと、テテュスは困惑した。
足元が、ふわふわしてた。
しっかりしなきゃと下に降りると、朝日溢れる広間に騎士の姿を見つけ、テテュスは顔を、上げた。
「…ロー……」
言い終わらない内に彼に、飛んで行って抱きついた。
いつもみたいにローフィスはテテュスを抱き止めるなり、抱き上げてくれた。
「…元気か?」
彼の顔迄抱き上げられ、その顔が間近でテテュスは彼の首に腕を巻き付けた。
ローフィスは気遣う表情を、していた。
金に近いとても明るい艶やかな栗毛で、明るい青い瞳をしたその軽やかな笑顔の伊達男は、でも少し悲しそうな顔に見えた。
「…たった今着いたの?」
聞くとその横に、ディングレーが並んだ。
ローフィスより頭一つ、長身だった。
「…よぉ」
王族の血を継いでるのは、エルベス叔父さんも同じなのにこのディングレーは全然、威厳だとかが無い。
じっとしてるととても品良くて凄く男前に見えるけど、言葉も乱暴でぶっきら棒で、気取った所がまるで無かった。
真っ直ぐの腰まである黒髪や、濃い青い瞳のせいか、とても鋭い感じがして、近寄りがたい雰囲気がある。
そのディングレーの、とても男らしくて少し陽に焼けた引き締まった顔つきを目にし、テテュスの顔がほぐれる。
「ディングレー!」
叫ぶと彼は、苦笑した。
それでテテュスは小声でささやいた。
「…うんと、しょげてると思った?」
ディングレーはテテュスを抱き上げているローフィスを見た。
ローフィスがテテュスの顔を覗き込んで明るい声で言った。
「…いや。こんなに歓迎されて、感激だ!」
笑いながらテテュスを下に降ろすと三人は、広間の戸口の人の気配に振り向く。
そこには、レイファスとファントレイユが顔を見せていた。
朝日に照らされて彼らは本当に、人間離れして綺麗に、見えた。
「レイファス!ファントレイユ!
ローフィスとディングレーが来てくれた!」
テテュスが全開の笑顔を見せて二人に叫ぶと、二人は顔を見合わせる。
テテュスが二人の騎士に振り向くので、騎士達はテテュスの、後に続いた。
「…彼の、いとこ殿達だろう?」
ローフィスがそっとささやくと、ディングレーがぼそりと言った。
「…姫じゃなくて?」
ローフィスが口の悪いディングレーを、“知ってる癖に”と目で諭した。
が、ディングレーはやれやれと首を横に、振った。
ファントレイユはまるで彫像を見上げるように長身の、二人の立派な騎士を、見上げた。
「やあ!」
人好きのする笑顔でローフィスはその小さな子供に声をかけると、本当に大きな人形のように見えるそのとても綺麗な淡い色をした、綿飴みたいな髪を背迄垂らす、浮かぶようなブルー・グレーの瞳の子供は頬を、染めた。
もっと小柄で肩の上迄の短髪の、けれどとても鮮やかなウェーブのかかった栗毛がその顔立ちをとても明るく華やかに見せて、色白の小顔にとてもくっきりとした青紫の宝石のような瞳と、赤く小さな唇が映えるとても可愛らしい…どう見ても女の子にしか見えない子が、口を開いた。
「…テテュスが、来てくれたらいいのにって、待ってた二人の騎士ですか?」
姿の割にとてもしっかりした口調に、ローフィスも気づいたがディングレーも解ったようだった。
二人は瞬間、目を見交わした。
だがテテュスが、そのレイファスを見つめて頬を染めたりしたから、二人は少しため息を付くようにローフィスは顔を下げ、ディングレーは横を、向いた。
「着いたばかりで腹ぺこなんだ」
ディングレーが相変わらずぶっきら棒に言うと、テテュスは途端に微笑んだ。
「じゃあ一緒に食べられるね!」
二人はテテュスの笑顔に、釣られて微笑んだ。
ファントレイユとレイファスの瞳に、ローフィスとディングレーは、テテュスの笑顔をそれは嬉しく感じてる。
と映った。
二人はテテュスを挟んで座り、交互に気遣うように彼を見つめた。
「…アイリスが心配してね。
妹の秘蔵の息子が二人も居て、テテュス一人で何かあったら、君がまた落ち込むんじゃないかって」
ローフィスが言うと、ディングレーもぶっきら棒に告げる。
「…お前、何かあってもすぐ自分一人で抱え込むだろう?
餓鬼の癖に、生意気なんだよ!」
二人は狼みたいに近寄りがたい雰囲気の男が、笑ってテテュスの額をこずくのを、目を丸くして見た。
テテュスも、笑った。
「じゃ、面倒見てくれるの?」
ローフィスは思い切り肩でため息を、わざと付き
「仕方ないな」
と悪戯っぽく笑って言い、テテュスに、笑って叩かれた。
ローフィスが愉快な男で、ディングレーはそれは怖そうなのに実は子供に優しい男だと、二人が気づいたのは直だった。
食後に木の枝で騎士ごっこをして、はしゃぎ回った時だった。
ファントレイユがふらつくと、ディングレーはさっと手を出し、背を受け止めて転ぶのを防ぎ、ファントレイユはその素早い動作と気遣いに、それは感激していた。
ディングレーは低く横を這う太い木の枝にファントレイユと掛け、彼の質問を矢継ぎ早に、受けた。
「戦った事がある?」
「どんな風の戦い?」
「仲間と、はぐれたりした?」
ファントレイユの瞳がきらきらし、ディングレーは彼の中味は凄く男の子だと感じたものの、そのもの凄くお行儀のいい様子に、それで女の子っぽく見えるのか。と、合点がいった。
ローフィスはレイファスとテテュスに追いかけ回され、二人を交互に担ぎ上げては地面に転がし、彼らはその度に体をうんと高く掲げ上げられて、きゃっきゃと笑い声を、立てた。
「…ディングレー!代わってくれ!こいつらまだ元気だ!」
二人はそれでもかかってくるのでローフィスはとうとう、二人に倒されて降参した。
「…負けた!」
「まだだ!」
テテュスが言うと、ローフィスは勘弁してくれと、笑った。
襲いかかるテテュスを、ぱんと手で軽くはたき、言った。
「お前らで鬼ごっこでもしろ!」
レイファスは艶やかに笑い走ると、必死でディングレーから話を引き出すファントレイユの腕を、いきなり掴んで引き、
「テテュスが鬼だ!」
と叫んでファントレイユの腕を掴んだまま走り出す。
テテュスは転がったローフィスの上から体を起こし、途端に駆け出す二人を追いかけた。
レイファスは木の枝の下を潜って逃げ、テテュスはあっと言う間にファントレイユを捕まえ。
鬼にされたファントレイユは、逃げるテテュスとレイファスをムキになって追いかけ始めた。
ディングレーは木の枝に掛けたまま、息の切れたローフィスを隣に迎えると、感想を述べる。
「…ありゃ母親の躾けがきちんとし過ぎるだけで、本人は騎士が大好きな、普通の好奇心の塊な男の子のようだ」
ローフィスが笑ってそう言う王族を見つめた。
「ちゃんと中味は男の子か?」
ディングレーは頷いた。
が、ローフィスが言った。
「…問題はあっちだな」
レイファスを見ながら言うローフィスの言葉を聞くなり、ディングレーは唸った。
「問題は、テテュスだ」
二人は顔を見合わせて、頷き合った。
いつの間にかレイファスが鬼。
テテュスは彼に追いかけられ、とても嬉しそうに頬をピンクに染めていたから。
ローフィスが、レイファスを見た。
「…実はやんちゃで、気が強い」
ディングレーも唸った。
「頭の、回転も早い」
ディングレーは走り回る彼らを見ながらつぶやいた。
「俺達と暫く居たらちゃんと男の子に見えるようになると思うが………」
ローフィスは、肩をすくめる。
「母親が許さんだろう?女親を敵に回す根性が、あるか?」
「そんなのはアイリスの、仕事だろう?」
ローフィスはディングレーを、まじまじと見つめた。
「あいつにも、苦手な物くらいある」
ディングレーはすげなく『嘘だな』という顔をして言った。
「初耳だ」
だが、昼食を終えた午後だった。
テラスでおしゃべりに興じ、テテュスもレイファスも早くまたローフィスに放り上げて欲しいと、うずうずしていた。
がローフィスは、腰を上げる様子が無かった。
その時馬車が庭園を走り抜け、彼らの前に、止まる。
出て来た、アイリスに面差しの良く似たとても美人のご婦人その1は、アイリスの友人の騎士の姿を息子の側に見つけた途端、眉を潜め。
その2、背の高い方も同様だった。
ローフィスがディングレーを見、顔を寄せてささやいた。
「…どうする。援軍が居ない」
ディングレーは肩をすくめた。
「俺は口ベタだって知ってるだろう?」
ローフィスは自分に全部任せる気のディングレーを、じっと睨んだ。
「…ごきげんよう」
小柄で明らかにレイファスの母親だと解る、可愛らしい顔立ちの美人は、戦闘準備は整ってる。と言うように丁重に二人に、挨拶した。
セフィリアはファントレイユの側に付くと、息子を腕に抱いて聞いた。
「お熱は、出なかったの?」
ファントレイユは少し甘える顔をしたものの
「僕じき六歳なんだよ?
それにテテュスも強い騎士達も居るし、熱は逃げ出しちゃうよ!」
ファントレイユがそう言うとテテュスがそれは嬉しそうで、セフィリアは好感の持てるアイリスの息子の様子に、目を止めた。
「うんと仲良く、なったの?」
ファントレイユは、頷いた。
レイファスの母親、アリシャは蛇を相手にするように、少し様子見のように遠巻きから二人をじろじろ眺め、可愛らしい赤い唇を開く。
「いつ、いらっしゃったの?」
ローフィスは人間扱いされず、ため息混じりにささやいた。
「たった、今朝に」
アリシャは、頷く。
ずいぶん気取って、もったいぶって見えた。
負ける気は毛頭無いようだ。
ディングレーがぼそりと言った。
「ご子息が心配なのはアイリスだけじゃ、無いようだ」
アリシャは当たり前だ。と言うように顎を上げて相手を見下した。
「当然でしょう。で?お兄さまのお相手はどちら?
お二人とも、そうなの?」
ローフィスとディングレーが顔を、見合わせた。
それは美貌の、ローフィスの義弟シェイルとかがが間違われるならともかく。
自分らが彼と…なんて疑いを、今まで一度も持たれた事すら無かった…筈だ。
ディングレーは想像してぞっとし、思わず顔を手で被った。
ローフィスは果敢に言い返す。
「…ひどい誤解が、あるようだ」
だがアリシャは反撃した。
「…あら。私とセフィリアにしっかり情事を目撃された騎士も、お兄さまの寝室から出た後、私達にそう言われたわ。
あれをどう、誤解したら何も無いと思えるのか、聞きたい位」
セフィリアも言った。
「…私達を馬鹿だと思ってるのね」
ひどく冷たい言葉で、ディングレーはすっかり戦意を無くし、ローフィスは何とか勝機を探ろうと尋ねる。
「…それは君達が幾つの時の話か、聞いてもいいかい?」
アリシャがセフィリアを、見た。
「…私が13よ。アリシャは12」
ローフィスは頷く。
「その騎士は君達が子供だから言いくるめられると思ったんだ。
私はそう思わない。こんな大きな子供が居る立派なご婦人達だとちゃんと、解って言ってる」
アリシャがぴしゃり!と言い返す。
「…それが、何?
大抵殿方は自分の不正を、絶対面と向かって認めたりはなさらないものよ?」
ローフィスは顔を背けた。
どう話せば言葉が通じるのか、解らなくなったようだった。
ディングレーが俯いて背を、向けきった。
ローフィスは顔を上げて口を開こうとし、待ちかまえる二人の美女の戦意満々の顔につい、顔を下げ気味にした。
「…頼む。アイリスと寝室を共にしたように思われてるだなんて、今夜絶対、うなされる………」
そう、憔悴しきってぼやく。
本心だった。
が、セフィリアは呆けた表情で尋ねる。
「…じゃ、貴方はお兄さまと楽しんだりなさらないの?」
ローフィス迄想像してつい、真っ青に、成った。
「…それは楽しみとは言わない。拷問に近い」
ディングレーがそうつぶやくローフィスを思わず、振り向き見つめた。
が、アリシャとセフィリアの態度が更に、厳しく成った。
「…じゃもしかして、男好きじゃなくて、女がお好きなの?」
ローフィスはどう返答したものか、もの凄く困ったが、ともかく言ってみた。
「…アイリスを相手にする位なら、絶対女性がいい」
二人は更に、険悪なムードを醸し出した。
「…つまり、女好きね?」
セフィリアが毛虫を見つけたようにつぶやくと、アリシャも扇を口に当て、ささやく。
「…いかにも、遊び人風よね?」
ディングレーが背を向けたまま、どっちに転んでも鮫の口。の事態に、いかにもこの場を逃げ出したい風に、体をもじった。
ファントレイユが、二人はとても立派な騎士だと、言おうとしても口を挟む隙無く。
テテュスも二人の様子とご婦人の厳しい態度に、どうしていいのか困惑し。
レイファスは相変わらず冷静に、事態を見守っていた。
ローフィスが、ささやくように言った。
「…君達が思い描く女好きがどんな風か、大体の想像はつくが、そういう種類でも無い」
彼の言葉に二人は驚いたように顔を、見合わせた。
そして、ぎんぎんした視線で見つめられ、ローフィスはどうなったんだ?と顔を上げる。
「…つまり…お二人が、そうなのね?」
この言葉に、ディングレーも呆けて顔を上げた。
そして二人が、どっちが女役をしてるのか吟味してる様子で小声でささやくのを、聞いた。
セフィリアが言う。
「…だってどう見ても金髪のお方でしょう?」
アリシャが返した。
「あら?だって思ったより男らしいわ。意表をつくのかもよ?」
二人は顔を寄せてささやいたが、会話は筒抜けだった。
だん!
ディングレーがとうとう、怒りに歪んだ表情で立ち上がった。
「あんたたちはそれしか、頭に無いのか?!
どこをどう見たら……俺達が恋人に見える!
一度医者に、診てもらえ!」
だがこの、いかにも怖い風の騎士の怒鳴り声にも、二人はめげなかった。
「…真理を突かれると人は怒るそうね」
アリシャが言い、セフィリアもささやいた。
「怒るって事はやっぱりあの方が………」
女役ね。と二人は頷き合った。
ディングレーはもう、どう言っていいのか解らず、ローフィスの気の毒そうな視線を受けてつい、怒鳴った。
「…俺をコマしてると思われてんだぞ!お前は!
気の毒がってないで、なんとか、しろ!」
「事実、何も無いのにどうしてそこ迄誤解出来るのか理解出来ない。
恋人だろう?と聞かれたら証明出来るけど、そうじゃない証明はどうすればいいのか、聞きたいのは俺の方だ」
と手の上に顎を乗せ、問題を投げ出した。
テテュスは、両脇に立つローフィスとディングレーを、交互に切なげに見つめた。
ファントレイユはセフィリアに手を引かれ、彼女を見つめた。
レイファスはアリシャの横で、俯いて背を、向けていた。
ファントレイユがとうとう、セフィリアの手を振り払ってテテュスの横に、駆け込んだ。
レイファスも振り向いてそれを、見た。
「…ファントレイユ!駄目よ。戻ってらっしゃい!」
ファントレイユは怒鳴った。
「…だって…!
ゼイブンだってセフィリアが外で遊んで来いって言うから、ちっと戻らないで僕と遊んでなんかくれない!
どうしてディングレーとローフィスは駄目なの?
テテュスとだって…。離れたくない!
僕はテテュスともっと一緒に、居たい!」
ファントレイユのストレートな要請は、セフィリアの胸を打った。
「…だったらちゃんと…私が素姓のはっきりとした騎士を、遊び相手に探すから!
…そしたらテテュスに、家に来て、貰いましょう。
ね?お願い。そうして?ファントレイユ…」
ファントレイユは首を横に、振った。
「…ローフィスとディングレーがどうしていけないの?!
素姓がちゃんとはっきりしてるじゃないか!
アイリスの友達なのに!」
ローフィスとディングレーは、そこが、まずいんだよな。と顔を見合わせた。
「…ファントレイユ。
でも、何かあってからじゃ、遅いのよ?」
「…だって!ディングレーもローフィスも絶対護ってくれる!
ちゃんと立派な騎士だもの!
どうして解らないの?
二人共、凄く素晴らしい騎士だって!
セフィリアの瞳は、ふし穴なの?!」
ディングレーもローフィスも、この人形に見える男の子の賞賛に心が暖かくなった。
ローフィスは静かにつぶやいた。
「子供に、貴方方が考えているような悪影響は決して与えないと約束する」
ディングレーも怒鳴った。
「純粋培養じゃ余計に、危ないぞ!」
婦人達は二人の言葉に振り返り、ディングレーが更に唸った。
「…戦い方を、俺なら教えられる。
ちゃんと男の子としてやっていく方法も。
第一、テテュスを可哀想だとは思わないのか?やっと出来た友達だ。
俺達をアイリスが寄越したのは、大人の監督者が必要だからで、あいつは自分の息子に手を出し、悪影響を与える者を寄越したりはしない。
あいつの息子可愛さはあんたらより更に、上だ。
一緒に居る時間が取れないから、余計に!」
ディングレーの言葉には説得力が、あった。
大層、怒っていたので。
その怒りは自分の誇りが傷付けられた事よりも、テテュスの友達を取り上げられる悲しみを、この不器用な男が気遣った為だと。
御婦人達にも解った。
レイファスはアリシャを見つめた。
「…父さんはしてくれないけど、ローフィスは肩車をしてくれるんだ」
アリシャは俯いた。
「だって…カレアスは、貴方と遊ばないの?」
「…アリシャ。貴方が療養してる時彼は仕事から帰るとすぐに貴方の元へと、飛んで行く。
一緒に居る時は貴方の側に、べったりだ。
僕もファントレイユも父親に相手にして貰えなくて、凄く、寂しい。
生意気な口をきくけど、ローフィスやディングレー達の方がよっぽど、父さんみたいなんだ」
『父さん』が、きいたようだった。
ディングレーはレイファスを、やっぱりこいつは頭がいい。と感じ、ローフィスはさすがに母親の泣き所を知ってると、感心した。
「残りたいの?」
アリシャが言うと、レイファスは俯いた。
「だって家に帰っても、カレアスは遊んでくれやしない。
それに…。テテュスの事が凄く、心配だ」
レイファスに心からそう言われ、息子の優しさにアリシャは感激した。
ファントレイユは、レイファスがやった!と心の中で感じた。
セフィリアも、ため息を付いた。
「…熱が出たら…」
ファントレイユは言った。
「もう、出ない。レイファスと一緒になってから一度も。
セフィリアも、知ってる癖に」
きっぱり息子にそう言われ、セフィリアは俯いた。
確かに、ゼイブンはアイリスに任せろと言った。
もう息子を女の子と間違われて襲われたりしない為には。
二人はとうとう、引き下がった。
「お二人にはご迷惑でしょうけれど」
いい若者が、子供の相手を買って出るなんて。と思ったが、二人がテテュスを気遣うように両脇に寄り添い立つのを見て、納得した。
「ごめんなさいね。テテュス」
セフィリアが言い、アリシャは飛んで来て、テテュスを抱きしめてささやいた。
「貴方がどうだとか、言う事じゃ決して、無いから。ただ…」
アリシャは柔らかくて可憐でいい匂いがし、レイファスとやっぱり似ていると、テテュスはくすぐったかったが思った。
「…解ってます。レイファスがとても、大切なんですね?」
アリシャが顔を上げ、兄そっくりだけどとても誠実そうなその息子の顔を見て、また安心した。
「…そうなの。でも今度は是非、家に遊びに来てね?
いいわね?テテュス」
テテュスは微笑んで、頷いた。
ディングレーとローフィスが、やれやれと顔を、見交わした。
馬車が去って行き、ディングレーはローフィスが、アイリスでも苦手な物がある。と言った意味を、もの凄く実感した。
ディングレーとローフィスが、くたびれ切ったようにテラスの椅子に体を投げ出して掛け、テテュスとレイファスは、また放り上げてくれないかなと見つめたが、叶いそうに無い位、ローフィスは消耗してる様子だった。
ファントレイユが、レイファスに聞いた。
「二人は、恋人同士なの?」
あまりにも素朴な疑問で、レイファスははっきりと言い諭す。
「ファントレイユ。女って生き物は時々とんでも無い事を想像するんだけれども、それがどれだけ現実からかけ離れていても、自分が決して間違って無いと、信じ込んでるんだ」
ファントレイユは頷いた。
「それって二人が恋人じゃないのに、セフィリアとアリシャはそう思い込んでるって事?」
レイファスは呆れたように言った。
「だってどう見ても、恋人に見えないじゃない!」
「でもセフィリアはいつも言ってる。
殿方は何かやましい事がある時程、何にも無いって顔をするから、言う事は全然信用出来ないって」
レイファスは眉を、寄せて訊ねた。
「ゼイブンが、いつもそこら中の女性と浮気してるから?」
ファントレイユはまた、頷いた。
「…シャーレス侯爵婦人と、宿屋から朝出て来る所を見られてるのに彼女とは別に何もない、ってしゃあしゃあと嘘を付かれた、って。
浮気しても良い。って言ってあるから、正直に関係した。って、どうして言えないのかしらって。
凄く、怒ってた」
レイファスは、呆けた。皆がつい、聞き耳を立てた。
ファントレイユは続けた。
「…だからゼイブンに、どうして嘘を言うの?って聞いたら、条件反射だって。
やっぱりご婦人は、浮気していいと言いながら、自分が一番だと思いたいから。
つい、他の女性とは無かった事に、してしまうんだって。
レイファス。意味解る?
僕も正直に言った方がセフィリアは納得すると思う」
「でも正直に言ったらセフィリアは、不潔って思って、ゼイブンがセフィリアにキスしたくなっても、嫌だと拒絶すると思う」
「じゃあどうすればいいの?
ゼイブンは浮気していいって言われたのに」
「それはだって、駆け引きだろう?
いいと言われて本当にしたら、睨まれるんだ」
素直なファントレイユは、それは、混乱した。
「して、いいって言って…。
でも本当は、駄目なの?」
「相手を試したい時は女性は時々、やるみたいだ。
大抵の男は嘘を付くから」
「…どうして嘘を付くの?」
「もちろん、目の前の相手に一番良く、思われたいからさ。
たった一人だけ好きならいいけど。
でもゼイブンだってセフィリアの事凄く好きなのに、農家の女将さんととても仲がいいのを知ってるでしょう?」
ファントレイユは俯いてつぶやいた。
「どうして、たった一人に出来ないんだろう…」
「…年頃の男は相手が誰でも、いいらしいんだ。
体の構造が、そうなってる」
この言葉に、テテュスは飛び上がりそうにびっくりし、ローフィスはつい、吹き出しそうになり、ディングレーは呆れた。
ファントレイユはしょんぼりして、尋ねる。
「……じゃ、僕も大人になったらそうなる?」
「多分ね。でもほどほどにしないと、本当に大切な相手に、信じて貰えなくなるって」
ファントレイユは、頷いた。
「体の構造の、せいか」
レイファスも『そうだ』と頷いた。
テテュスはあんぐり口を開け、ローフィスは口を抑えて笑いをこらえ、ディングレーは目を、まん丸にしていた。
二人ははっ、と皆を、見た。
テテュスが、レイファスをまじまじと、見つめてた。
「ファントレイユ……」
レイファスがしょんぼり、彼を見た。
レイファスがしょげているので、ファントレイユはテテュスに振り向き、真っ直ぐ彼を見つめて言った。
「レイファスは本当は凄く、やんちゃなんだ。
でもそうすると、アリシャが心配するでしょう?アリシャは体が弱いし…。
でもレイファスは悪戯も暴れ回るのも大好きで、我慢出来ないから…。
アリシャの前ではもの凄く、いい子してるんだ。
とっても、大変だと思わない?」
ローフィスがついに、大口開けて笑い転げ、ディングレーに呆れて見つめられた。
テテュスはぼそりと、つぶやいた。
「そう…なんだ………………」
彼の中に咲き誇ったピンクの花が、枯れて落ちていくのが。
皆の目に、見えるようだった……………。
テテュスはそれはしょんぼりと足を抱え込んで座っていて、レイファスは自分の失態に落ち込み、ファントレイユはどうしていいのか、困った。
ローフィスがテテュスの横に、掛けた。
テテュスが彼を、見上げた。
ローフィスはテテュスを見ないままつぶやいた。
「レイファスは可愛いな。女の子みたいだ」
テテュスは、俯いた。
「でも中味はちゃんと君と同じ、活発な男の子だ」
テテュスは顔を揺らした。
「…でも最初は同じ人間にも、思えなかった。
誰かが僕をからかって、大きな人形を置いて…。
それを本当に僕がいとこ達だと信じ込んで話しかけたら、悪戯な本当のいとこが現れて、僕の事、笑うのかと思ってた」
ローフィスは呆れて彼を、見た。
「…確かにとても、綺麗だ」
そして俯くテテュスに更に、言った。
「レイファスは特にとても、可愛いし」
テテュスは、頷いた。
「でも君も、解るだろう?
ディングレーが俺と恋人だと勘違いされて凄く嫌だったみたいに。
レイファスだって本当は思い切り男の子したいのに、女の子のように思われたら、嬉しくない」
テテュスは、大きくため息を、付いた。
「本当に、そうだ」
「…あの母親達が相手だ。レイファスだって一生懸命、頑張ってるんだ。
応援、出来るな?」
テテュスはローフィスを、見上げた。
やっぱり、綺麗な青い瞳だなと感じた。
「出来る」
ローフィスは、いい子だ。と言うようにテテュスの頭に手を置いてぐりぐりとかき混ぜ、レイファスとファントレイユに振り向いて、ウィンクして見せた。
レイファスはローフィスに思い切り抱きつき、ファントレイユはディングレーに、にっこり笑って頷いた。
「テテュス!」
アイリスは馬から降りるなり叫んで、転がるようにテテュスの元へと駆け寄った。
テテュスはファントレイユとレイファスと、相変わらず鬼ごっこをしていて、アイリスが叫ぶなり振り向いたがいきなり彼に抱き上げられて、びっくりしたような顔の後、アイリスを見つめて微笑んだ。
「…会いたかった?」
テテュスに聞かれ、アイリスは言った。
「とても!」
アイリスに頬にキスされ、くすぐったいような表情を見せるテテュスを、ファントレイユとレイファスは羨ましそうに、二人並んでぼーっと立ちすくみ、見つめていて。
ディングレーもローフィスもそれに気づいて、やれやれと首を横に、振った。
アイリスは二人の子供に目を移すと、微笑んだ。
「…テテュスと遊んでくれて、ありがとう」
とても、チャーミングな笑顔で、ファントレイユは思わず押し黙り、頬を染めて首を横に、振った。
レイファスが、言った。
「でも、大変だったんだ。
母さん達が来て、もう少しで連れて帰らされる所だった」
「…セフィリアとアリシャが、来たのか?!」
アイリスが眉を寄せて椅子に座るローフィスとディングレーに振り向く。
ローフィスとディングレーは、忘れたい記憶を蘇らせて二人同時に、そっぽ向いた。
テラスの椅子でアイリスはマントを取らぬままお茶を口に運んだが、テテュスに聞かれた。
「エルベス叔父様は一緒じゃないの?」
「…私の代理で置いてきた」
ローフィスが呆れ、ディングレーが眉間を寄せる。
「…『神聖神殿隊』付き連隊本部にか?
だって彼は、部外者だろう?」
「ローフィスに頼もうと思ったのに、それを言い出す前にさっさと執務室を、出ていってしまうんだもの」
「連隊長のヘイムルは、お前を後釜に据える気でいるんだ。
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アイリスがささやいた。
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ディングレーが呆れた。
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アイリスが素っ気なく言った。
「コネがたくさんあるし、大公の彼には誰も、文句が言えないからいいんだ」
ディングレーとローフィスは顔を、見合わせた。
アイリスは言葉を続ける。
「だってローフィス。君なら身分がどうとか言ってる輩だって丸め込むのは得意じゃないか」
「…面倒だ」
また、そんな事を言って。とアイリスは眉をひそめた。
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ディングレーも役職に着くのは面倒だと、思ってるだろう?」
「だって面倒だろう。そう言うのは、面倒見のいい奴の仕事だ」
アイリスは肩をすくめた。
「…言ったろう?今までさんざんテテュスに世話をかけたから、私は辞退して、もう少し仕事を減らして彼の側に、居たいんだ」
途端、ローフィスはテテュスを見つめた。
「…それじゃがっかりだろう?テテュス。
お前、アイリスの事を敬愛してるもんな。
やっぱり父さんが仕事先で一番偉くて格好良く、いて欲しいだろう?」
アイリスがローフィスを睨む。
がテテュスは朗らかに
「うん!」
と頷き、ローフィスにそれ見た事かと見つめられ、アイリスは俯いて言った。
「私の息子に釜かけてないで。
自分の息子を、作ったらどうだ」
ディングレーが途端、笑った。
「焼き餅か?」
ローフィスも、言った。
「連隊の可愛げの無いロクデナシ共の世話焼くくらいなら、テテュスの方がうんと可愛い。
飲み込みは早いし、素質も文句無し。将来有望だ」
ファントレイユとレイファスが顔を、見交わした。
アイリスが二人の様子に気づき、隙を突く。
「彼らの母親が来たそうだな?」
ディングレーは言われた途端、そっぽ向いた。
「…ディングレーは何か、言われていたのかい?」
アイリスが二人の子供にそっと問うと、レイファスは横目でディングレーを気遣うように見つめ、ささやいた。
「アリシャが言うには、アイリスとそういう関係じゃないなら、二人が恋人同士だろうって」
ぶっ!
アイリスは吹き出した途端、俯き、肩を揺らして笑い出したものだから、騎士達二人の瞳は険悪になった。
「…お前と寝室を過ごしてないと解らせる迄も大変だったのに、その後はこれだ。
ディングレーは医者に診て貰えとまで、叫んだんだぞ!」
アイリスはまだくっくっくっくっ!と肩を揺らし続け、笑いが止まらなかった。
二人はいつ、アイリスの笑いが納まるのか、腕組みして待ったが、アイリスの笑いは終わりを見せなかった。
「…そんなに、可笑しい事?」
ファントレイユが素朴に、尋ねた。
アイリスは肩を揺らしながら言った。
「…だって…だってどう考えても、この二人でロマンチックな雰囲気に、なる筈も無いじゃないか………」
アイリスは目に涙を溜めて、それでもまだ、笑っていた。
「…ろまんちっく、が要るんだ」
ファントレイユがレイファスに言うが、ファントレイユがろまんちっくを解っている様子が、無かった。
それでテテュスが言った。
「…つまり、君とレイファスが恋人だろうと、言われたようなものだと思う」
テテュスの言葉にファントレイユはびっくりした。
「…僕とレイファスって、恋人だったの?」
レイファスが、そんな筈ないじゃないかと呆れて彼を、見た。
「…あっちの方がどう考えても、ありそうだ」
ディングレーが投げやりに言い、ローフィスは彼を軽蔑の眼差しで見つめ、怒鳴った。
「…六歳の餓鬼に恋人が解るか?!」
レイファスは解ってないファントレイユに、言い諭した。
「ファントレイユ。僕らが恋人だなんて、間違っても他人の前で言っちゃ駄目だ。
特にセフィリアの前では」
「どうして?」
「…僕ともう、遊べなくなってもいいの?」
ファントレイユはびっくりした。
「…どうして恋人だと、遊べなくなるの?」
アイリスは途端、ファントレイユを気の毒そうに見た。
「…セフィリアはとても多くの勘違いを平気でするからさ。
もしそうだとしても、恋心っていうのはとても大切なものなのにね」
ファントレイユはアイリスを見つめた。
「勘違いするから、言わない方が、いい?」
アイリスがにっこり微笑み、ファントレイユはぼっと頬を染め、レイファスは彼の素朴な質問から解放されて、ほっとした。
テテュスが優しく訊ねた。
「ファントレイユ。恋人って、解ってる?」
だが、ファントレイユのその、とても綺麗な顔は何の表情も無かった。
困惑すらも。
皆がつい、彼を注視した。
でもファントレイユは口を開いた。
「セフィリアとゼイブンはもう結婚してるから、恋人じゃ、ないよね?
じゃあ、ゼイブンが仲良くしている農家の女将さんとゼイブンは、恋人?」
「…それは、浮気だ」
ディングレーが身も蓋も無く、言い切った。
ファントレイユが素直に聞いた。
「…どう違うの?」
ローフィスはディングレーを睨んだ。
「ファントレイユ。ゼイブンが彼女に惚れて、相手もゼイブンに惚れてたらちゃんと、恋人だ」
ファントレイユはようやく解った気がした。
「お互いが惚れてると、恋人なの?」
アイリスは正解。と言うように微笑んだりしたから、ファントレイユはまた、ぼっと頬を染めた。
ディングレーとローフィスは、一見分かり難そうだが実はとても解りやすいファントレイユを、見た。
「お前、アイリスに惚れてないか?」
つい、ディングレーが覗き込んでファントレイユに聞く。
レイファスがつぶやいた。
「彼は僕みたいに本で騎士の話を読んだりしないし、父親に全然相手にされなくて、騎士欠乏症なんだ」
ローフィスとディングレー、そしてアイリスは、了解したと、頷いた。
テテュスが、尋ね返す。
「騎士欠乏症?」
レイファスが、テテュスを見る。
「だって君はアイリスや、ディングレーやローフィスみたいな立派な騎士に構って貰えるけど。
僕らが構ってもらえるのは、あれをしちゃ駄目の、駄目駄目だらけの母親と女中だけだ」
テテュスを含めた三人の大人は思い切り、頷いた。
ファントレイユが、少し顔を下げて真情を吐露する。
「…木登りも、木の枝を振り回す事どころか、持ってもばい菌が入るって五月蠅いし」
テテュスはびっくりして目を、丸くした。
「…そうなの?」
アイリスの、心から気の毒そうな眼差しについ、ディングレーが言った。
「…啖呵、切っちまった。俺達ならもっと男の子らしく出来るって」
アイリスは目をまん丸にする。
「…それをした後、二人から苦情の山だぞ!」
ローフィスとディングレーは顔を見合わせ、投げ出すように、声を揃えた。
「せいぜい、頑張ってくれ」
「おい…………!」
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