赤い獅子と淑女

あーす。

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出立 と番外編 ディアヴォロスとオーガスタス ギュンターとディンダーデンの出会い

出立

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 オーガスタスが左将軍補佐官邸に飛び込み、玄関広間から左将軍官邸に続く屋外通路へと一直線に、早足で歩を進める。
廊下にいた部下達が気づいて追いすがり、次々報告を叫ぶ。

「ヤングー隊、ロールゴン隊、レレッタ隊、ローネグンド隊が、既に出立しています!」
「ホーソーン、ベアルネス、ログベット隊が既に崖に到着!」
「東の崖は、既に敵側の半分の位置まで、登られて来ています!!!」
「現在確認で、報告では三箇所から上がってきてると!」

オーガスタスは歩を止めぬまま、素早く叫ぶ。
「一番頂上に近い位置は?!」
「東の崖です!」
「下には大軍がひしめき、道ができ次第、次々上がって来てる様子!」
「左将軍隊には、崖の上の見張りと、上がって来る道を塞げとの命が下されています!」
「ローフィス隊、先ほど出立しました!
ほんの半刻前です!」
オーガスタスが、鋭く怒鳴る。
「受け持ち地域はどこだ?!」
「ローフィス隊の受け持ちは…東の崖!」
「他の隊も、準備ができ次第、出立予定です!」
オーガスタスは、尚も歩を止めず怒鳴り返す。
「受け持ち地域は、ディアヴォロスが割り振っているか?!」
「既に割り振り済みです!」

オーガスタスは頷くと、背後に大声で怒鳴る。
「俺が直ぐ出られるよう、用意しろと!
従者に伝言を!」

部下らは頷き、歩を止めオーガスタスの去りゆく背を見送った。

オーガスタスが左将軍官邸に入った時。
既に人気は無く、オーガスタスは階段を駆け上がり、執務室へと進む。
執務室には執務官のカッツェが、ディアヴォロスの命を書状に書き留めていた。



ディアヴォロスはオーガスタスに振り向くと、彼の言葉を待った。
オーガスタスは納得済みで、自分の希望を口にする。
「崖上の見張りに俺を割り振ってくれ」

ディアヴォロスは暫く、オーガスタスを見つめる。
多分、彼の中の光竜ワーキュラスが。
それが正しい判断か。
を彼に説いている。
そう思ったから、オーガスタスはディアヴォロスの返答を、じっ…と待つ。

「…東の崖が、広範囲で大規模で大変そうだ。
中央と西の監督をリーラスに頼んである。
君には東を頼む。
ローフィスを助けてやってくれ。
伝令に、ギュンターを連れていけ。
一段落したら、報告に返してくれ」

オーガスタスは、素早く頷き、背を向ける。

その背に、ディアヴォロスが珍しく叫んだ。
「左将軍隊は全て崖を守る為に出立済み!
援軍が必要なら、いつでも送る。
できるだけ早めに、使者を送れ!!!」

オーガスタスは振り向かず、腕を上げて返答に代えた。

左将軍補佐官邸へと戻ると、従者が簡易寝袋や食糧、水の入った革袋を抱え、オーガスタスの剣を重そうに携えながら、飛んで来る。

オーガスタスは廊下を右往左往してる部下らに怒鳴る。
「誰か新兵宿舎に出向き、ギュンターに、俺に付いて来るよう、伝令してくれ!!!」

玄関近くに居た部下は、そのまま走って玄関を出て行った。

オーガスタスは革袋と剣を従者から受け取ると、玄関へと向かい、部下らに怒鳴る。
「内部隊は、伝令を頼む!」

オーガスタスの部下らは、全てが左将軍内部隊。
情報収集と、左将軍の内々の指示で動く部隊で、オーガスタスが隊長だった。

シェイルが革袋を抱え、廊下から真っ直ぐ、飛び込んで来る。



女と見まごう銀髪の美少年で、ローフィスの義弟。

その決死の表情で、自分に付いて、ローフィスの加勢に。
との思惑が見て取れた。
が、怒鳴る。

「ここに残って、右将軍や他の部隊のため、状況地図の作成だ!」
「!」
シェイルは思いっきりオーガスタスを睨み、異論を唱えようとする。

オーガスタスはシェイルに、まだ怒鳴る。
「お前はまだ、教練(王立騎士養成学校)の在校生だろう?!
休暇中の手伝いで、正式隊員じゃないから、戦地には送れない!
控えてろ!
付いてきたら、縛り上げてここに戻すからな!!!」

シェイルは思いっきりふくれっ面をするので、オーガスタスは通り過ぎた後、振り向いて怒鳴った。
「大事な兄貴は俺に任せとけ!!!
ちゃんと守ってやるから!!!」

が、シェイルは悔し紛れに怒鳴り返す。
「どーせ俺は、足手まといだよ!!!」

オーガスタスは一瞬歩を止め。
教練時代、王族ディングレーの取り巻きをし、今は内部隊に配属された、デルアンダーとテスアッソンの姿を見つけ、一歩寄ると、小声で告げた。
「…見張っとけ」

二人は一見美少年だが、短剣の達人で怒らせると怖いシェイルをチラ…と見た後。
揃って顔を下げたが、オーガスタスの命令に頷いた。

玄関を出た所で、馬丁が短時間で手入れと世話をした赤毛の大馬、ザハンベクタを引いて来る。
オーガスタスは革袋を鞍に括り付け、剣を腰に下げ、一気に跨がる。

「…門を出れば、走りずめだ。
頼むぞ」

体力的には、バケモノ級。
と噂されるザハンベクタは、軽くブヒヒ…と唸っただけで。
臆する様子は見られない。

拍車掛けると一気に最速に近いほど速度を上げてかっ飛び。
近衛官舎の中央道路を一気に駆けて行くと。
新兵宿舎から、ギュンターが馬に乗って駆け寄って来る。
オーガスタスは馬を止めず、ギュンターが背後に続くのを見て。
そのまま東領地ギルムダーゼン目指し、一気に近衛宿舎の大門を、ギュンターを引き連れ、潜って行った。

ギュンターが、怒鳴る。
「オーガスタス!!!」

オーガスタスがその声に振り向く。
シェイルが愛馬ミュスに騎乗し、駆けて来る。
その斜め後ろを、デルアンダーとテスアッソンがやはり騎乗して、追いすがる。

オーガスタスが、きつい一瞥をシェイルにくべる。

シェイルは愛馬ミュスの手綱を引き、門の手前で馬を止めて、駆け去って行くオーガスタスとギュンターを見送った。

「…さっさと教練宿舎に返さないからだ!!!」
ギュンターが怒鳴ると、オーガスタスも怒鳴り返す。
「今更遅い!!!」

ギュンターは、確かにそうだ。
と思い当たると、ギリ…!
と唇を噛んだ。

「そんなに大軍なのか?!
シェイルがローフィスの側に、駆けつけたいと願う程?!」

オーガスタスは暫く、無言。

「そうだ!!!」
と大声で怒鳴り返した。

暫く後。
凄まじい速さで、後を付いて来る激しい駒音に、オーガスタスもギュンターも気づき、振り向く。

「…ディンダーデン!」



ギュンターが叫ぶと、ディンダーデンは黒光りする大きな愛馬、ノートスに跨がり、馳せ参じる。

「付き合うぜ!」
「女は?!返したのか?!」
ギュンターの問いに、ディンダーデンは笑う。
「こっちのが、楽しそうだ!!!」

先頭のオーガスタスは、振り向かぬまま怒鳴る。
「光栄だが、奴らは崖を登って来てる途中!
まだ、ぶった斬れないと思うぞ!!!」

ギュンターがディンダーデンに振り向くと。
ディンダーデンはノートスの上で、肩を竦めた。
「ギュンターも、出ずっぱりか?!」
オーガスタスは相変わらず振り返らぬまま、怒鳴り返した。

「ギュンターはある程度見回ったら、報告に返す!!!」
「じゃ、俺もその時、返してくれ」

オーガスタスは返事をせず。
ザハンベクタは凄まじい速さでかっ飛び。
ディンダーデンのノートスは、ギュンターと併走する。

ギュンターは大きく馬力のある、ザハンベクタとノートスに少し遅れた愛馬、ロレンツォに囁く。
「無理は、しなくていいぞ!
あいつら、バケモノだからな!」

が、二頭よりは少し体の小さい、ロレンツォは機敏で俊敏。
ノートスより半馬身遅れながらも、それ以上遅れることは無かった。

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