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プロローグ
ローフィスとオーガスタスの、初めての出会い オーガスタスの証言
しおりを挟むその時俺は教練に入学したての一年で、草むらに横になってた。
教練の訓練スケジュールがきつくて
『やってられっかよ』
ってサボってたんだ。
風の心地良い、青空が広がり晴れ渡る四月の午後で、大木が側に立つ、草丈の高い草原の小高い丘で、俺は草に隠れ、安眠を貪ってた。
茂みの向こうで人の気配がした。
高い草丈が、でも俺をすっぽり隠していたから、見つけられずに過ごせるだろう。そう思い、頭の後ろで腕組んだまま、仰向けに寝転がっていた。
やがて野太い声がした。
「俺の為に穴(けつ)貸せ。
そしたら…この先いい目見させてやる。
なぁ…?
減るもんじゃ無いだろう?」
どさっ!
「離せ!」
どすっ!
殴る音がし
「…ぅ………!」
呻き声がした。
…それで俺は、やれやれ。と思った。
さすがに、助け出さなきゃならない様子だ。
のそり。と体を起こし、声の方向に体を乗り出した時だった。
突然視界に、相手の野郎が顎を曝し吹っ飛ぶ様が、飛び込んで来た。
そいつは…ローフィスだ。同じ一年だと言う事は、一目で解った。
…腹を押さえ、身を起こした。
どうやら押し倒された時、暴れて腹を殴られたらしく…右腕回して腹を庇いながら、前傾したままゆらり…!と立ち上がり、倒れる上級生を、上から覗き込むように覗う。
ローフィスの顔は苦痛に歪んでいたし、倒れた野郎はガタイがそれは、良かった。
多分…三年だろう。
三年は、一・二年の監督生をしていて接点があった。
ともかく…そいつはなかなか起き上がって来ない。
成り(当時ローフィスはそれ程大きく無かった)の割に、なかなかのパンチを放つ奴だ。野郎にケツ狙われる一年としては。
俺は少し感心してローフィスを見つめた。
ようやく…野郎は頭を起こし、首を横に二・三度振り、正気を取り戻す。
がローフィスは、野郎が起き上がるその前に素早く…これにはびっくりした。あんなガタイのでかい男のパンチを腹に喰らっときながら、そりゃ軽やかに。
倒れてる野郎の横に回ると、横っ腹を思い切り蹴り上げた。
がっ!がっ!
二度、三度。
野郎は草の敷き詰められた坂を転がり、ローフィスは追いかけながらも四度、五度と野郎の腹を蹴る。
それが…腹立ちから来る、狂気のような怒りだったらさすがの俺も、止めに入ったろうが…。
その激しい蹴りに似合わず、奴の顔は冷静だった。
喧嘩慣れしてるな。こいつ…。
そう…俺は思った。
坂の下でとうとう、俯せに野郎は倒れ、身動きをしない。
ローフィスはやはり、腹を右腕で押さえたまま、様子を前屈みに伺う。
野郎が短く呻き、ローフィスは短い吐息を吐くと、屈む身を少し起こし、その場を後にしようとした。
野郎は痛みの為か、小声で呻くようにつぶやいた。
「…覚えてろ…!
俺はお前の、監督生なんだからな……!」
ローフィスは振り向くと、ささやく。
「ああ…。覚えといてやるぜ…!」
そして、草丈の高い草原の坂を登り始める。
途中、腹が痛むのか、くっ!と身を前に折り、足を滑らせそうになり…。
俺は思わず、駆け寄った。
黙って奴の肩下に肩を滑り込ませ…そして肩を担ぎ支える。
ローフィスは振り向いたが、俺は奴を見なかった。
奴もすぐ前を、向いた。
普通なら何か言うもんだが、ローフィスは何も、言わなかった。
「見てたのか?」とか「人が悪いな」…そんな事を。
黙って俺の肩を借りたまま、一緒に歩いた。
それで…俺は直感した。
こいつとは…一生付き合える友達になる。と。
俺達は黙って…丘を上がって行った。
心地良い風が頬を撫でた事を覚えているし…担ぐそいつの肩の温もりに親近感を覚えた。
奴の宿舎の部屋の扉の前まで…そうして付き合った。
戸を開ける奴を見てようやく…俺は奴の肩の下から自分の肩を、引き抜いた。
そうしてやっと、奴を見る。
痛みはかなり引いた様子で、奴は長身の俺を見上げ、長年の友に声を掛けるみたいに、言った。
「よぉ…」
俺は思わず苦笑した。
同じ一年だと知ってたのか?とか…俺の事を知ってるのか?とかを…聞きもせず。
そして奴に、言った。
「薬草は、持ってんのか?」
ローフィスは気づき、懐を叩いた。
それで俺は頷き、背を向けようとした。
ローフィスはさりげなく言った。
「今夜の夕食で会えるな」
…夕食の席で顔を合わせるのは、一年生だけだ。
それでやっぱり…質問は意味が無かったな。
と、質問を口にしなかった自分を褒めた。
ドアが閉まり…俺は階段を下りながら…
(奴の部屋は外階段に面し、風が吹きっ晒す二階にあった)
くすくすと、笑っていた。
奴のやり様が、心底気に入って。
それからだ。
奴と俺は、まるで幼馴染みのような口を利き合ったし、同学の奴らも
「お前ら、同郷の馴染みか?」
と聞いて来て…俺達は顔を見合わせ、笑ったもんだ。
聞いたらやっぱり奴も長旅をしていて…初対面で相手がどんなだか、直ぐ解るようだったし、付き合い方も知っていた。
俺は…餓鬼の頃奴隷宿舎でしょっ中新入りを迎え…他人だらけの中に居たから、似たようなもんで…。
俺の境遇をふとした事から話したが…奴にやっぱり同情の色は浮かばず、どっちが悲惨な体験をしたか。
を、競い合って話した。
ただ……奴は真顔で俯いたまま、つぶやいた。
「親父さんもお袋さんも居ないんじゃ、辛いだろう…」
ぽそり。と。
それで俺はいつもの決まり文句
『身軽でいいさ。五月蠅くも煩わしくも無い』
を使わず、本音を言った。
「まぁ…たまにな」
ローフィスは俯き…俺を見ないまま頷いた。
それで俺は…奴は間違い無く俺の親友と呼べる男になる。
そう…確信し…結局………その、通りになった。
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