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夢の中の逃避行
209 夢の中の冒険 呼び出し
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ベットで、アリオン、ファオン、シーリーンがまどろんでいると。
ロレンツが横に立って言った。
「管理塔で交渉は進んでる。
が、お前らも出頭しないとこれ以上話すのは無理だと。
あっちが言ってる。
直ぐ服着ろ」
アリオンもシーリーンも、ロレンツを見上げる。
が、ロレンツは言うだけ言って、さっさと背を向ける。
「…服着ろ…って言った?」
シーリーンが聞くと、アリオンも。
「…管理塔まで出向けって…?」
けれど二人がベットから出て、キースの召使いがチェストの上に畳んで用意してくれていた服を取り上げ、着始めると、戸口にいたロレンツが、まだ寝てるファオンに言う。
「ファオン。お前も」
そして、突っ立ち服を着始めるアリオンとシーリーンに
「服着せて」
と言う。
二人は腰迄ある分厚い冬用の上着を頭から被ると、ベットに向かう。
両端から
「ファオン」
「起きろ」
と呼んだ。
衣服を着て部屋を出ると、ロレンツの案内で廊下を抜け、正面玄関の扉を開けて外へと出る。
ファオンはまだ、ぼんやりしながら外気を浴び、その冷たさに身震った。
周囲が一面雪で覆われ、真っ白な雪景色の中。
屋根付きの六頭立ての馬車が、雪道に止まってる。
乗り込むと、座席の下に石炭が入れられてるようで、座ってみると暖かい。
アリオンはロレンツの横にかけ、その正面にシーリーンとファオンが座る。
アリオンは直ぐ、ロレンツに尋ねる。
「…ファオン、連れて行って大丈夫なのか?」
ロレンツがアリオンを見る。
「俺もちょっと心配なんだが。
でも連れて来いって、キリアンが」
アリオンがシーリーンを見る。
シーリーンは俯いて、横のファオンに顔を傾けた。
アリオンも顔を下げると呟く。
「もし弾劾されたら…俺が無理矢理連れ出した。
と証言する」
シーリーンが直ぐ、顔を上げる。
アリオンはシーリーンに言った。
「お前は連れ戻そうとした事にしとけ」
シーリーンはアリオンをじっ、と見る。
「その場の状況だが。
俺だって、お前から奪回してファオン連れて逃げる気だった。
とちゃんと言うさ!」
ファオンは男らしく自分を庇おうとする二人を、交互に見た。
管理塔は雪の中を暫く走った、街中に聳え立っていた。
大きな塔のある立派な建物で、門を潜り正面階段の前で馬車を降りる。
横に長い階段を五段ほど上ると、でっかい扉。
鉄の輪を握ってノックすると、暫くして扉が開く。
見張りはロレンツを見ると、頷いて一行を中へと入れた。
ロレンツが先頭で、皆が無言でマントを羽織ったまま後に続く。
だだっ広い玄関ホールを左に折れ、直ぐの部屋に入る。
中央が長いテーブルで、両側の椅子に、みんな腰掛けていた。
正面には銀髪で髭面の、偉そうな委員長が座ってる。
ロレンツは部屋に入り
「連れてきたぜ」
と言って、アリオン、シーリーン…そして、ファオンを通す。
けれどファオンが入ろうとした時…突然、両横から腕を掴まれる。
屈強な兵士が二人、ファオンを両側から、挟み込んでいた。
アリオンとシーリーンは直ぐ振り向いて詰め寄る。
「放せ!」
「ファオンは罪人じゃ無い!」
中から委員長の声が響く。
「それをこれから審議する」
アリオンとシーリーンは仕方無く、ファオンの両側の兵士を睨みながら室内へと入る。
ファーレーンとキリアンはもう、椅子から立ち上がっていて…。
けれど、アリオンとシーリーンの背後から、両側に兵士に挟まれ、罪人のような末弟が室内に姿を見せるのに、ほっと胸を撫で下ろす。
屈強な兵士は、ファルコンとレオに鋭い目で睨まれ、一瞬竦んで横の扉に振り向く。
やがてそこに、5人程の兵士が姿を見せる。
が、更にエイモスとジェンス。
そしてセルティス、当然アリオンとシーリーンらもが睨み付けるので、兵士は更に背後に視線を向けて、仲間を呼ぶ。
結果、14・5人の兵士が、部屋の背後。
ファオンの近くで待機する。
末席にいたデュランが、横のリチャードにこそっ、と呟く。
「火花散ってますね…。
乱闘になりそう…?」
リチャードも室内の緊迫感を見回し、囁き返す。
「…かもな」
委員長は、そのリチャードに叫ぶ。
「北尾根の新たな長!
大切な《皆を繋ぐ者》に逃げられた不満を口にしろ!」
全員がリチャードを見る。
リチャードはびびり倒した。
が、仕方無く立ち上がる。
正面奥に座る委員長。
そして周囲ぐるりと座るかつての《勇敢なる者》ら。
「(…どっちを敵に回すか、俺に選べって?)」
内心、大量の汗をかく。
が、言った。
「後で彼に聞いた話だが」
デュランはリチャードに“彼”と顎で差され、顔下げた。
が、リチャードは構わず言葉を続ける。
「ファオンは体調が優れなくて薬草も効かない。
だから…尾根を降りる際、アリオンとシーリーンに領地の医師に見せるよう言って、一緒に下ろしたそうだ。
それを俺が聞きそびれ、逃げたと勘違いした」
「ほう!
体調が優れないのに、杖を付いた《化け物》を斬ったのか!」
委員長のデカい声に、キースもレオもうんざり気味。
セルティスが心配げにリチャードを見、横のアランは腕組んで
『大丈夫だろ?』
とセルティスを安心させていた。
が、リチャードはギン!!!と睨み増す、ファルコン、ファーレーン…そしてキリアンにびびり倒して、言い返す。
「…杖付きを斬った時は回復していたから。
アリオンとシーリーンが良く効く薬草を飲ませた後だろう。
…多分」
アリオンも。
そしてシーリーンもが
『自分が連れて逃げた』
と言えず、ぐっ!と詰まる。
「…つまり逃亡では無かった。
長の許可があったと?」
委員長が笑う。
がそのいけすかない笑いに、エイモスもジェンスも不満げに顔を下げる。
「つまり君達兄二人が計り、ファオンを連れて逃げたのでは無く…合流した後、杖を付いた《化け物》を斬った。と」
キリアンがキレた。
「…だから杖付きを殺ったら《化け物》の群れが引いた!
俺がこの目で見てる!
それをファオンは知っていた!
なのにせめてセグナ・アグナータにすらせず、ずっと《皆を繋ぐ者》で居続けさせるのは…あんたが俺らの母親にフラれた腹いせだろう?!!
三人も子供産んでもうとっくの昔に死んだおふくろを、親父に取られたと、いつまで恨む気だ?!
いい加減、大人げないぜ!!」
委員長は、ジロリ…とそれをバラす、キリアンを見る。
茶色がかったグレーの瞳は、殺気すら漲っていた。
ロレンツが横に立って言った。
「管理塔で交渉は進んでる。
が、お前らも出頭しないとこれ以上話すのは無理だと。
あっちが言ってる。
直ぐ服着ろ」
アリオンもシーリーンも、ロレンツを見上げる。
が、ロレンツは言うだけ言って、さっさと背を向ける。
「…服着ろ…って言った?」
シーリーンが聞くと、アリオンも。
「…管理塔まで出向けって…?」
けれど二人がベットから出て、キースの召使いがチェストの上に畳んで用意してくれていた服を取り上げ、着始めると、戸口にいたロレンツが、まだ寝てるファオンに言う。
「ファオン。お前も」
そして、突っ立ち服を着始めるアリオンとシーリーンに
「服着せて」
と言う。
二人は腰迄ある分厚い冬用の上着を頭から被ると、ベットに向かう。
両端から
「ファオン」
「起きろ」
と呼んだ。
衣服を着て部屋を出ると、ロレンツの案内で廊下を抜け、正面玄関の扉を開けて外へと出る。
ファオンはまだ、ぼんやりしながら外気を浴び、その冷たさに身震った。
周囲が一面雪で覆われ、真っ白な雪景色の中。
屋根付きの六頭立ての馬車が、雪道に止まってる。
乗り込むと、座席の下に石炭が入れられてるようで、座ってみると暖かい。
アリオンはロレンツの横にかけ、その正面にシーリーンとファオンが座る。
アリオンは直ぐ、ロレンツに尋ねる。
「…ファオン、連れて行って大丈夫なのか?」
ロレンツがアリオンを見る。
「俺もちょっと心配なんだが。
でも連れて来いって、キリアンが」
アリオンがシーリーンを見る。
シーリーンは俯いて、横のファオンに顔を傾けた。
アリオンも顔を下げると呟く。
「もし弾劾されたら…俺が無理矢理連れ出した。
と証言する」
シーリーンが直ぐ、顔を上げる。
アリオンはシーリーンに言った。
「お前は連れ戻そうとした事にしとけ」
シーリーンはアリオンをじっ、と見る。
「その場の状況だが。
俺だって、お前から奪回してファオン連れて逃げる気だった。
とちゃんと言うさ!」
ファオンは男らしく自分を庇おうとする二人を、交互に見た。
管理塔は雪の中を暫く走った、街中に聳え立っていた。
大きな塔のある立派な建物で、門を潜り正面階段の前で馬車を降りる。
横に長い階段を五段ほど上ると、でっかい扉。
鉄の輪を握ってノックすると、暫くして扉が開く。
見張りはロレンツを見ると、頷いて一行を中へと入れた。
ロレンツが先頭で、皆が無言でマントを羽織ったまま後に続く。
だだっ広い玄関ホールを左に折れ、直ぐの部屋に入る。
中央が長いテーブルで、両側の椅子に、みんな腰掛けていた。
正面には銀髪で髭面の、偉そうな委員長が座ってる。
ロレンツは部屋に入り
「連れてきたぜ」
と言って、アリオン、シーリーン…そして、ファオンを通す。
けれどファオンが入ろうとした時…突然、両横から腕を掴まれる。
屈強な兵士が二人、ファオンを両側から、挟み込んでいた。
アリオンとシーリーンは直ぐ振り向いて詰め寄る。
「放せ!」
「ファオンは罪人じゃ無い!」
中から委員長の声が響く。
「それをこれから審議する」
アリオンとシーリーンは仕方無く、ファオンの両側の兵士を睨みながら室内へと入る。
ファーレーンとキリアンはもう、椅子から立ち上がっていて…。
けれど、アリオンとシーリーンの背後から、両側に兵士に挟まれ、罪人のような末弟が室内に姿を見せるのに、ほっと胸を撫で下ろす。
屈強な兵士は、ファルコンとレオに鋭い目で睨まれ、一瞬竦んで横の扉に振り向く。
やがてそこに、5人程の兵士が姿を見せる。
が、更にエイモスとジェンス。
そしてセルティス、当然アリオンとシーリーンらもが睨み付けるので、兵士は更に背後に視線を向けて、仲間を呼ぶ。
結果、14・5人の兵士が、部屋の背後。
ファオンの近くで待機する。
末席にいたデュランが、横のリチャードにこそっ、と呟く。
「火花散ってますね…。
乱闘になりそう…?」
リチャードも室内の緊迫感を見回し、囁き返す。
「…かもな」
委員長は、そのリチャードに叫ぶ。
「北尾根の新たな長!
大切な《皆を繋ぐ者》に逃げられた不満を口にしろ!」
全員がリチャードを見る。
リチャードはびびり倒した。
が、仕方無く立ち上がる。
正面奥に座る委員長。
そして周囲ぐるりと座るかつての《勇敢なる者》ら。
「(…どっちを敵に回すか、俺に選べって?)」
内心、大量の汗をかく。
が、言った。
「後で彼に聞いた話だが」
デュランはリチャードに“彼”と顎で差され、顔下げた。
が、リチャードは構わず言葉を続ける。
「ファオンは体調が優れなくて薬草も効かない。
だから…尾根を降りる際、アリオンとシーリーンに領地の医師に見せるよう言って、一緒に下ろしたそうだ。
それを俺が聞きそびれ、逃げたと勘違いした」
「ほう!
体調が優れないのに、杖を付いた《化け物》を斬ったのか!」
委員長のデカい声に、キースもレオもうんざり気味。
セルティスが心配げにリチャードを見、横のアランは腕組んで
『大丈夫だろ?』
とセルティスを安心させていた。
が、リチャードはギン!!!と睨み増す、ファルコン、ファーレーン…そしてキリアンにびびり倒して、言い返す。
「…杖付きを斬った時は回復していたから。
アリオンとシーリーンが良く効く薬草を飲ませた後だろう。
…多分」
アリオンも。
そしてシーリーンもが
『自分が連れて逃げた』
と言えず、ぐっ!と詰まる。
「…つまり逃亡では無かった。
長の許可があったと?」
委員長が笑う。
がそのいけすかない笑いに、エイモスもジェンスも不満げに顔を下げる。
「つまり君達兄二人が計り、ファオンを連れて逃げたのでは無く…合流した後、杖を付いた《化け物》を斬った。と」
キリアンがキレた。
「…だから杖付きを殺ったら《化け物》の群れが引いた!
俺がこの目で見てる!
それをファオンは知っていた!
なのにせめてセグナ・アグナータにすらせず、ずっと《皆を繋ぐ者》で居続けさせるのは…あんたが俺らの母親にフラれた腹いせだろう?!!
三人も子供産んでもうとっくの昔に死んだおふくろを、親父に取られたと、いつまで恨む気だ?!
いい加減、大人げないぜ!!」
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