アグナータの命運

あーす。

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夢の中の逃避行

204 夢の続き キースの別宅

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 南尾根に着くと、先頭のファーレーン、レオらが固まって話し合い始める。
アリオンとシーリーンがじっ…。
とその様子を見つめてる。
ファオンはその、アリオンとシーリーンを交互に盗み見た。

キリアンとロレンツも寄り固まり、頷いてる。

ファルコン、セルティス、アランがアリオンとシーリーンを取り囲む。
ファルコンが二人の真ん中にいるファオンに尋ねる。
「…で、どっちと逃げるか、決めたのか?」

アリオンとシーリーンに揃って見つめられ、ファオンは沈黙。
「…え、えーと………。
き…決めなきゃ駄目?」

ジェンスとエイモスが横を通り過ぎて叫ぶ。
「俺ら、戻ってるぞ!」

ファーレーンがやっと顔上げる。
「あんたらかつて南尾根の長だから。
証言してくれると信憑性が増す」

エイモスが途端、デレつく。
「で、見返りはお前と一晩?」

キースが突然エイモスの胸ぐら掴む。
「てめぇ…!」

レオは俯く。
「…見返り無いと、動かないのか?」

アランが気づいてやって来る。
「…女の子、紹介する。
じゃ、駄目?」

エイモスはキースに胸ぐら掴まれながら笑顔で
「それでもいい」
と言った。

アランがキースに顔を振ると、キースは笑うエイモス睨みながらも、掴む胸ぐらを外した。

リチャードとデュランが杖付きの死体を乗せたぼろ布の端掴み持ちながら、祈るような表情でファーレーンに訴えかける。

「…一番近くて足の付きにくい、キースの別宅で一時休む!」
「や…たっ…たぁぁぁぁ…」

デュランが、それはたいそう弱々しい雄叫びを上げ、皆が一斉に振り向いた。


キースの別宅はロレンツの別宅とは逆方向の、尾根を下り左の道を降りて直ぐにあった。
吹雪は止み、陽が曇天の隙間から差す。
が、寒さは半端無く厳しい。

「…近くて助かったぜ…」
セルティスが呻き、他の皆も寒さが限界に来ていたので、無言。

鉄の門を潜り、横に逸れると、キースは分厚い戸板を開ける。
入って直ぐの、だだっ広いその部屋には、レンガ敷きのデカい風呂があった。

「衣服はこっちの…」

ざっぷん!

キースはぞろぞろ入って来る皆に説明しながら、音のする湯殿を見る。

エイモスとジェンスはもう全部脱ぎ捨て、飛び込んでいた。

見るとキリアンももう、服を脱いで、飛び込む体勢。

「………………………………」

ざっぷん!

「あーーー…生き返る…」

ジェンスが両腕縁に乗せて、目を閉じて浸かりきってる。

アランが外に杖付きの死体を置かせ、リチャードとデュランを連れて入って来ると、呆然と見てる皆の横を通り過ぎ
「ここで脱ぐんだな?」
とキースに言って、さっさと衣服を脱ぎ始め、キースが案内する小さな浴槽に、マントやら衣服を放り込む。
直ぐ、リチャードとデュランがそれに習い、あれよあれよと言う間に、アラン、デュラン、リチャードらが全部衣服を脱いで、真四角のデカい湯殿に飛び込んでた。

ざっぷん!

「………」
キースが説明を続けられず沈黙する中、ファルコン、セルティスも脱ぎ始め、アリオンとシーリーンも、ファオンに脱ぐよう頷く中…。
レオだけが、固まるキースの肩に、ぽん。と手を乗せて慰めた。


ファオンが恥ずかしげに湯に入ろうとする時、既に湯に浸かる全員の視線が釘付け。
アリオンとシーリーンが横に並び立ち、ジロリ。と厳しい視線を向ける。

エイモスだけが
「やっぱ《皆を繋ぐ者》アグナータってだけで、男だろうがすんごく色っぽい!
けどナンだな。
兄貴らと違って末っ子のせいか、かっわいいな!」
と叫んで、湯に浸かってるファーレーンとキリアンに、思い切り睨まれた。

キリアンがエイモス指差し怒鳴る。
「アイツ、俺にも迫ったぜ!!!」

キースも怒って言う。
「きっとデキるんならお前ら三兄弟の、誰でもいいんだな!」

「………………………………………」

暫くは皆、寒さがほぐれるまでは無言だった。
がやがてファルコンが
《皆を繋ぐ者》アグナータって…尾根降りた後、男にめちゃめちゃモテてるよな」
と言い始め、皆が《皆を繋ぐ者》アグナータのその後について口々に言い合った。

アランが呟く。
「大抵、《勇敢なる者》レグウルナスの、すげぇいい男がその後を引き受けてる。
ヘタなオンナより性格もあっちもいいって」

エイモスがニヤついて言う。
「お墨付きだもんなーーー」
けどセルティスが眉間寄せる。
「オンナには睨まれまくってるだろう?
夜会とかに《皆を繋ぐ者》アグナータ来てると」

ジェンスが思い浮かべて呟く。
「元《皆を繋ぐ者》アグナータってだけで、男が全員見るもんなーーー」

ついにはエイモスがジェンスに
「オンナ五人と《皆を繋ぐ者》アグナータ
どっち取る?」
と聞いていて、ジェンスが悩みまくってた。

ファーレーンは全員《勇敢なる者》レグウルナスか、元《勇敢なる者》レグウルナスなので、アリオンとシーリーンにファオンをしっかり守れ。
と視線を送り、湯から上がる。

皆、大抵戦闘後は《皆を繋ぐ者》アグナータとまったり。
の習慣が抜けきらず、ダントツ色っぽくて可愛いファオンをチラチラと盗み見ていたから。

その都度、アリオンとシーリーンは男らの視線を睨んで遮る。

「…やれやれ…」
レオが言って湯から上がる。
「この後どっかの集いに駆け込むか?」
アランの問いに、キースが呟く。
「良家の女性じゃ寝技は無理だぞ?」

全員が湯から上がり扉を開けると、暖炉に火の燃える暖かな室内に、デカくて長いテーブルの上に大量のご馳走を見つけ、勝手にどんどん椅子を引いて座り、食べ始めていた。

すごくデカくてゴツい男の給仕が、まだどんどん食事を食卓に運ぶ。

ファーレーンだけが顔を上げて、管理塔に出向き、委員会と交渉するメンバーの名を呼ぶ。
「リチャードとデュランは現役だし当事者だし杖付きの運び手だから、ぜひ来てくれ」

リチャードもデュランもが、食べ物で喉詰まらせそうになりながら
「…どっちみち、杖付き運ぶから…行かなきゃ駄目なんだよな?
俺達…」
と二人同時に、暗く沈んだ。

結局、一人でも証人が多い方がいい。
と言う意見で、お尋ね者のアリオンとシーリーン。
そしてファオンだけが残り、他は出かける仕度を始める。

キースに、ゆっくり休めるベットのある別室に案内され
「首尾良く運ぶから。
で、ファオンはどっちを取るか、決めた?」
と言われ、ファオンは固まる。

やっぱり、アリオンとシーリーンに両側からじっ…。と見つめられ、顔を下げた。


夢見てるファオンはハラハラする。
「上手く杖付き倒せたのに…。
どっちか決める方が、杖付き殺すより絶対、難しいよね?」

聞かれて、夢見てるアリオンとシーリーンは無言を貫いた。
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