189 / 286
夢の中の逃避行
189 隠れ家
しおりを挟む
皆が洞から出た時、既に足元には4センチ程の雪が積もり始め、まだ吹雪のような雪は止む様子が無い。
結局この雪で、南尾根に一番近いロレンツの別荘へ行く。
と話は決まってたから、一同は雪を踏みしめ、黙々とそこに向かう。
岩の点在する南尾根。
が、切り立つ岩もどんどん雪の冠を被り、行く手は真っ白な雪景色。
アリオン、シーリーン、ファオンはマントのフードを被り、更に顔も目だけ出して、布で覆った。
南尾根付近で雑兵も見かけた。
が、ロレンツが頷くと雑兵も頷き返し、向こうもこの雪の中、気の毒だと思ったのか、一行の歩を止めず行かせた。
南尾根の一番端の岩道を、南領地へと下る。
次第に平らな雪で覆われた草原が、段になって幾段も下に連なる見晴らしの良い場所へと出る。
尾根を抜けたせいか、雪の粒は小さく、景色も少しは見渡せる。
段の横の坂を下りていくと、やがて右手に広い道。
次第に両側に点々と大木が並び、少し行くとロレンツが左下の道へと降りて行く。
それから小一時間。
尾根よりも少しは温かい、けれど雪道を、皆が黙々とロレンツの後に続き、歩く。
周囲はどんどん暮れて行き、時間も分からず、それでも誰も口も聞かず、一行は歩き続ける。
幾度も曲がっては進み…入り組んだ小道を歩き続けると、やっとロレンツは門を潜って行く。
そして…窓辺から暖かな灯りの揺れる、オレンジと黄色のレンガの積まれたコテージへと辿り着く。
玄関扉は茶色の大木で、金飾りの装飾が手が込んでいたから…。
ロレンツはお坊ちゃんなんだな。
と皆が思った。
ロレンツは一向に振り向き、が玄関をノックする。
使用人が出て来ると
「客人を連れて来た」
と言って中に入る。
髪を後ろにひっつめた、田舎風のドレスを着た少し太めのおばちゃんは、室内に入って行くロレンツに振り向く。
「旦那様が、お帰りを待ってるのに!
ここで休んだら、ちゃんと邸宅にお戻りになるんか?!」
ロレンツはおばちゃん使用人に、毛皮のフードを下ろし、振り向く。
「…日も暮れたし雪も、降ってるだろ?
ここで数日、ゆっくり休む」
おばちゃんが溜息を吐く横を、キリアンが無言で入って行き、アリオン、ファオン、シーリーンもキリアンに続く。
ロレンツは暖炉の火の燃える、明るく暖かな室内を抜けて奥の扉に手をかけ、振り向いてキリアンを導く。
「奥の客間使うから。
メシ作ってくれると心底嬉しい。
腹ペコなんだ。
風呂って浸かれる?」
おばちゃんは玄関扉を閉めると、腰に手を当て、低い声で言った。
「客間の横の温泉は掃除済みですだ。
食事は…何人分?」
ロレンツはキリアンと共に後ろからやって来る、長身で逞しいアリオン、シーリーンを見る。
「うーん。
俺、三人分食える」
そしてキリアンに顎しゃくる。
キリアンが思案げに呟く。
「…俺も、それくらい?」
次にキリアンが、背後のアリオンに振り向く。
アリオンが困って言い淀んでいると、その後からシーリーンが尋ねる。
「…そもそも、一人前ってどんだけの量なんだ?」
聞かれてロレンツは面倒だったのか
「20人分くらい作っといてくれたら、多分朝までに全部平らげる」
と声を上げて言った。
おばちゃんは、溜息と共に
「んじゃ風呂から上がった頃に出来てるようにするだ。
でもでっかい人がぎょうさんいる。
運んでくれるか?」
と聞く。
ロレンツは頷く。
「ワゴンに乗せといてくれたら、後はやる」
「お飲み物は?」
「客間、水汲んである?」
「あるだ」
「んじゃ、果実酒とミルクたっぷり。
後はこっちで適当に…温めたり作ったりする」
おばちゃんは頷く。
「んだ。
ちゃんと旦那様に顔、見せないと旦那様、また泣くだよ!」
ロレンツは俯いて、扉を開けた。
扉の向こうはレンガ剥き出しの壁に囲まれた、短い廊下。
横の窓から日の暮れた、降りしきる雪景色が見える。
次の扉を開けると、かなり広い部屋に出る。
大きな暖炉。
その周囲に背もたれのある、座る場所がかなり幅の広い海老茶色のソファがぐるり。
と取り巻いてる。
ロレンツは横のコートかけに、雪塗れのコートをかけるから、後から来るキリアン、アリオン、ファオン、シーリーンも習ってそこにコートをかける。
床はレンガで、濡れたコートをかけても平気そう。
分厚い毛皮の敷物の前で、靴も脱いで横の箱に入ってる室内履きに変えて暖炉の前へ。
後の者もそれに習う。
ロレンツは暖炉の前に屈み、火を付け始める。
皆、床の敷物よりちょっと高いだけの、ソファに腰掛けた。
がふかふかで体が沈む。
直ぐ、部屋の中は温かくなる。
全員が、疲労が押し寄せてソファの上へと、へたり込んだ。
「…キリアンとロレンツと出会えた事で…最短で南尾根、抜けられたな…」
アリオンの呟きで、ソファに沈んでいたシーリーンも背もたれに腕を乗せて言い返す。
「夜にはこんな居心地のいい場所で、休める。
…なんて考えても無かった」
ファオンも頷く。
「尾根にこんな近いのに…あのおばちゃん、凄いね…。
南尾根が破られたら《化け物》の襲撃、真っ先に受けるのに」
ロレンツもソファにやって来ると立ったまま頷く。
「…いざとなったら調理道具で殴り飛ばすか…包丁や斧も使うから、ヘタな雑兵より強い」
皆、太めで体も大きなおばちゃんを思い浮かべ、顔下げる。
「…それより、《化け物》と戦って腐臭そのまんまだろ?
先に風呂に浸かって着替えしないと…。
雪の中は寒くて匂わなくても…ここだと直、臭くなる」
そう言う突っ立つロレンツに、皆が一斉に、億劫そうに顔を上げた。
結局この雪で、南尾根に一番近いロレンツの別荘へ行く。
と話は決まってたから、一同は雪を踏みしめ、黙々とそこに向かう。
岩の点在する南尾根。
が、切り立つ岩もどんどん雪の冠を被り、行く手は真っ白な雪景色。
アリオン、シーリーン、ファオンはマントのフードを被り、更に顔も目だけ出して、布で覆った。
南尾根付近で雑兵も見かけた。
が、ロレンツが頷くと雑兵も頷き返し、向こうもこの雪の中、気の毒だと思ったのか、一行の歩を止めず行かせた。
南尾根の一番端の岩道を、南領地へと下る。
次第に平らな雪で覆われた草原が、段になって幾段も下に連なる見晴らしの良い場所へと出る。
尾根を抜けたせいか、雪の粒は小さく、景色も少しは見渡せる。
段の横の坂を下りていくと、やがて右手に広い道。
次第に両側に点々と大木が並び、少し行くとロレンツが左下の道へと降りて行く。
それから小一時間。
尾根よりも少しは温かい、けれど雪道を、皆が黙々とロレンツの後に続き、歩く。
周囲はどんどん暮れて行き、時間も分からず、それでも誰も口も聞かず、一行は歩き続ける。
幾度も曲がっては進み…入り組んだ小道を歩き続けると、やっとロレンツは門を潜って行く。
そして…窓辺から暖かな灯りの揺れる、オレンジと黄色のレンガの積まれたコテージへと辿り着く。
玄関扉は茶色の大木で、金飾りの装飾が手が込んでいたから…。
ロレンツはお坊ちゃんなんだな。
と皆が思った。
ロレンツは一向に振り向き、が玄関をノックする。
使用人が出て来ると
「客人を連れて来た」
と言って中に入る。
髪を後ろにひっつめた、田舎風のドレスを着た少し太めのおばちゃんは、室内に入って行くロレンツに振り向く。
「旦那様が、お帰りを待ってるのに!
ここで休んだら、ちゃんと邸宅にお戻りになるんか?!」
ロレンツはおばちゃん使用人に、毛皮のフードを下ろし、振り向く。
「…日も暮れたし雪も、降ってるだろ?
ここで数日、ゆっくり休む」
おばちゃんが溜息を吐く横を、キリアンが無言で入って行き、アリオン、ファオン、シーリーンもキリアンに続く。
ロレンツは暖炉の火の燃える、明るく暖かな室内を抜けて奥の扉に手をかけ、振り向いてキリアンを導く。
「奥の客間使うから。
メシ作ってくれると心底嬉しい。
腹ペコなんだ。
風呂って浸かれる?」
おばちゃんは玄関扉を閉めると、腰に手を当て、低い声で言った。
「客間の横の温泉は掃除済みですだ。
食事は…何人分?」
ロレンツはキリアンと共に後ろからやって来る、長身で逞しいアリオン、シーリーンを見る。
「うーん。
俺、三人分食える」
そしてキリアンに顎しゃくる。
キリアンが思案げに呟く。
「…俺も、それくらい?」
次にキリアンが、背後のアリオンに振り向く。
アリオンが困って言い淀んでいると、その後からシーリーンが尋ねる。
「…そもそも、一人前ってどんだけの量なんだ?」
聞かれてロレンツは面倒だったのか
「20人分くらい作っといてくれたら、多分朝までに全部平らげる」
と声を上げて言った。
おばちゃんは、溜息と共に
「んじゃ風呂から上がった頃に出来てるようにするだ。
でもでっかい人がぎょうさんいる。
運んでくれるか?」
と聞く。
ロレンツは頷く。
「ワゴンに乗せといてくれたら、後はやる」
「お飲み物は?」
「客間、水汲んである?」
「あるだ」
「んじゃ、果実酒とミルクたっぷり。
後はこっちで適当に…温めたり作ったりする」
おばちゃんは頷く。
「んだ。
ちゃんと旦那様に顔、見せないと旦那様、また泣くだよ!」
ロレンツは俯いて、扉を開けた。
扉の向こうはレンガ剥き出しの壁に囲まれた、短い廊下。
横の窓から日の暮れた、降りしきる雪景色が見える。
次の扉を開けると、かなり広い部屋に出る。
大きな暖炉。
その周囲に背もたれのある、座る場所がかなり幅の広い海老茶色のソファがぐるり。
と取り巻いてる。
ロレンツは横のコートかけに、雪塗れのコートをかけるから、後から来るキリアン、アリオン、ファオン、シーリーンも習ってそこにコートをかける。
床はレンガで、濡れたコートをかけても平気そう。
分厚い毛皮の敷物の前で、靴も脱いで横の箱に入ってる室内履きに変えて暖炉の前へ。
後の者もそれに習う。
ロレンツは暖炉の前に屈み、火を付け始める。
皆、床の敷物よりちょっと高いだけの、ソファに腰掛けた。
がふかふかで体が沈む。
直ぐ、部屋の中は温かくなる。
全員が、疲労が押し寄せてソファの上へと、へたり込んだ。
「…キリアンとロレンツと出会えた事で…最短で南尾根、抜けられたな…」
アリオンの呟きで、ソファに沈んでいたシーリーンも背もたれに腕を乗せて言い返す。
「夜にはこんな居心地のいい場所で、休める。
…なんて考えても無かった」
ファオンも頷く。
「尾根にこんな近いのに…あのおばちゃん、凄いね…。
南尾根が破られたら《化け物》の襲撃、真っ先に受けるのに」
ロレンツもソファにやって来ると立ったまま頷く。
「…いざとなったら調理道具で殴り飛ばすか…包丁や斧も使うから、ヘタな雑兵より強い」
皆、太めで体も大きなおばちゃんを思い浮かべ、顔下げる。
「…それより、《化け物》と戦って腐臭そのまんまだろ?
先に風呂に浸かって着替えしないと…。
雪の中は寒くて匂わなくても…ここだと直、臭くなる」
そう言う突っ立つロレンツに、皆が一斉に、億劫そうに顔を上げた。
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる