アグナータの命運

あーす。

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夢の中の逃避行

187 空腹のキーナン《化け物》と南尾根の雑兵《アルナ》

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 三人が南尾根の東寄りの岩場の洞を覗いた時…がらん。
としていて…ファオンが叫ぶ。
「やっと休憩!」

アリオンもシーリーンもほっ。として、岩の洞に入ると、肩に食い込む荷を下ろす。
洞は空洞で岩に囲まれた小さな空間。
薪が置かれ、端の岩の窪みには、火が炊ける場所がある。
シーリーンは直ぐ屈むと、薪をくべて火を起こした。

ファオンは岩の上に敷かれた毛皮の上に腰掛ける。
火を囲むようにして、椅子と寝台代わりの石が取り巻いていた。

「この火の煙ね。
ちゃんとうんと離れた場所へ、換気されるように穴が掘ってあるんだよ!」

『凄いでしょ!』と言わんばかりに、にこにこ笑う。
が、火の前で振り向くシーリーンも…。
水の瓶を手渡すアリオンもが、ファオンの生き生きとした綺麗で可愛らしい姿に、見惚れてる。
白っぽい金髪を軽やかに振って、シリルローレルとの旅を思い出すように、湖水の青の瞳をきらきらさせてるファオン。

「うんと離れた所から煙が出るから、火を炊いてもここの場所は分からないんだ!」
ファオンは二人に反応が無くて、でもじっと自分を見てるから、そう説明を続けた。

アリオンは火の前のシーリーンにも、水の瓶を手渡す。
シーリーンは受け取り、火を更に大きく燃やす。
直、少しは温かくなった。
が、外は雪。
冷気は半端無い。

「…今…って…昼過ぎか?」
アリオンの問いに、シーリーンも肩竦める。
「早朝出たからな…。
が、谷に降りずに抜けたから…距離的にはかなり早く進める。
この雪で南尾根の雑兵アルナがみんな、岩陰の休憩地の火の側にいてくれれば、簡単に南尾根も抜けられる」

アリオンも頷く。
そして、毛皮の上で可愛らしく座り休むファオンを…。
アリオンもシーリーンもが揃って、惜しそうに見つめた。

「…逃避行…ってもっと…楽しいかと思った」
アリオンの呟きに、シーリーンも頷く。
「暇さえあれば、ファオンに口付けられると思ってた」

アリオンがシーリーンを見る。
「口づけくらいなら、今でも出来るだろう?」
シーリーンが眉間を寄せる。
「…ファオンを一人占め出来ずずっといたから…。
お前なら、口づけだけで済ませられるのか?」
アリオンはシーリーンの美麗な睨み顔をじっ。と見る。
「…済ませられないから、ファオンに今迫らない」

シーリーンはやっぱり。と俯く。
二人は揃って、飢えた狼が兎を見るように、ファオンを惜しそうにじっ。
と見つめた。


夢見てるアリオンもシーリーンもが
『悲惨な俺達…』
と思った。

が、どっちも口には出さなかった。
ファオンだけは嬉しそうに
「僕ここ、良く知ってる!
夢にまで出て来るんだねぇ…!」
と、夢の中の自分同様、はしゃいでた。

が。
その時冷たい空気をつんざく叫び声。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「!」
「!」

アリオンも、シーリーンもが直ぐ、剣を握りマントを羽織り駆け出す。
二人共《勇敢なる者》レグウルナス時の習性で外へ出たものの…。
三人の雑兵アルナ《化け物》キーナン8匹の群れに襲われてるのを目撃する。

二人は一瞬、背後のファオンを見る。
助ければ見つかる。
が、一人の雑兵アルナはもう、襲いかかられ喰われようとしていた。
もう一匹の《化け物》キーナンが直ぐ、喰われかける雑兵アルナに襲いかかる。

ざっ!
アリオンは雪を蹴って駆け出し、喰われかける雑兵アルナに襲いかかる《化け物》キーナンの背に、剣を振り切る。

ざっっっ!
「ぎゃあっ!」

シーリーンは駆け込むとやっぱり、雑兵アルナの背に襲いかかろうとする《化け物》キーナンの背を、切りつける。
ずばっ!

ファオンは駆け込む。
喰われかけて必死で抗う、雑兵アルナの手から剣をもぎ取ると、喰らい付く《化け物》キーナンの腹へ、ぶすり。と突き刺す。
「ぅぎゃっ!」

肩を噛み千切られそうだった雑兵アルナは血塗れ。
アリオンとシーリーンは他の《化け物》キーナンを相手取って、残る二人の雑兵アルナらと戦い始めた。

ファオンは振り向く。
萎びた杖付きが、少し離れた岩の横に居る…!

ざっっっ!
舞い散る雪の中、降り積もる雪を蹴散らし、ファオンは駆ける。
そして…飛んだ。

ざっっっっ!

驚き、背を向けかけた杖付きの背を、斜め上から切り裂く。
「ぎゃっ!」

アリオンも…シーリーンもが見た。
真っ白な降り積もる雪の向こうから…駆けつけてくる南尾根の一群もが、同様に。

《化け物》キーナンが突然動きを止めて…彫像のように突っ立つ様を。

ざっっっ!
間髪入れず、突っ立つ《化け物》キーナンを駆け込み切り裂く南尾根の《勇敢なる者》レグウルナス
アリオンとシーリーンは、はっ!とする。

白っぽい…長い金髪。
『…キリアン…?!』

もう一人、駆けつけた金髪は…降りしきる雪で隠れてほぼ見えないが、多分ロレンツ。

二人は突っ立つ《化け物》キーナンを一気に二体殺し、動き出した《化け物》キーナンが自分らで無く、殺された仲間の腕を掴み、引き裂き持ち去るのを、咄嗟に剣を止めて見る。

「…どうして…襲うのを止めた?!」
キリアンの声に、雪の中からファオンが寄り来る。
「…多分僕…が…杖付きを殺したから…?」

けれど、降りしきる雪の中、やっと姿を確認出来る距離まで来ると、叫ぶ。
「キリアン!」

キリアンはファオンが駆け寄り、首に腕巻き付けて抱きつかれ、囁く。
「ファオン…?
なんでここに………」

そして、雪の中の…雑兵アルナに紛れた男二人の黒っぽい影を見る。

「もしかしててめぇら、アリオンとシーリーンか?!」

アリオンもシーリーンも、咄嗟キリアンに背を向けたが、遅かった。
ロレンツが二人の間に来て、左右に首を振り確認する。

「ああ。
その二人だぜ」
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