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夢の中の逃避行
186 キーナン《化け物》の谷
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ヒュウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…!
扉を開けると下から吹き上げる風。
アリオンもシーリーンも、毛皮のマントの襟を立てる。
やはり毛皮のマントを纏うファオンが出ようとする手を、アリオンが引く。
「…谷を出るまで、泊まる所は無いんだろう?
最短で抜けるぞ」
シーリーンも横でファオンを見つめ、手早く言い諭(さと)す。
「行く手を塞ぐ《化け物》は全て殺る。
が、萎びた杖付き殺して回ってる暇は無い…。
ぐすぐすすると、雪が降り出す…!」
ファオンは二人を交互に首を回し、見つめる。
二人の“気”は戦闘時のように張り詰めていて…。
正直鋭い瞳で見つめられると、ぞくぞくした。
アリオンの、くっきりとした深い青の瞳。
そしてシーリーンの、明るく透けたブルー・グレーの瞳。
「…つまり僕が最短の距離を案内しないと…」
「凍えて体力削ぎ取られ…ヤバい」
シーリーンのしっかりとした声に、ファオンは頷く。
「分かった」
アリオンは水を汲んだ瓶を袋に詰め、シーリーンは瓶詰め食料を、防水した袋に詰め込み革袋に入れて背負う。
二人は頷き合うと、一気に小屋を出た。
小屋の後ろ。
直ぐ側の崖沿いの、下る岩道へと足を進める。
足場は悪く、岩の間を下って行く。
崖に沿った螺旋状の小道。
遙か眼下に、左手には谷を囲む尾根。
下は深い渓谷が見渡せた。
崖に手を付きながら、そろりと岩場の細い道を下り始める。
先頭はアリオン。
ファオンが続き、最後尾はシーリーン。
風は下から吹き上げ、マントと髪をはためかせる。
小一時間下ると、ファオンが背後からアリオンの腕を引く。
「そこ…左。
出来るだけ《化け物》を避けて、最短距離がいいんだよね?」
アリオンは頷く。
が、下ってきた道は、細く…なんとか道と呼べる足場の悪い岩道だったのに…。
その道から外れ左へ進むと、更に足場が悪い。
が、アリオンは重い革袋を肩に担ぎ直し、そのほぼ岩の上を、下る道筋を何とか見つけ、そろりと下って行く。
大岩の下へと飛び降り、更にその先の、かろうじて進めるごつごつとした岩を下る。
シーリーンは最後尾で、チラチラと先の岩陰に《化け物》の影が見えないか。
視線を送る。
が、はっきり言って空気は冷たく…。
空は暗いグレーの雲で、びっしり覆われ…。
直雪が降りそうな気配、ありまくり。
こんな時にウロつく《化け物》は余程腹を空かし、飢える直前のヤツだろう。
後から見てると、ファオンは少しずつ尾根寄りの道をアリオンに示し…谷には降りず、谷と尾根の中間を進む様子。
岩を下りきってようやく…。
良く慣れた道へと降り立った時…。
アリオンもシーリーンも、ほっ。とした。
けれどぐずぐずはしていられない。
装備は軽い。
雪が降れば…たちまち凍える。
アリオンは今度は、尾根から見渡せる岩場の陰を伝い行く。
「(…お尋ね者って…楽しくない)」
シーリーンは思った。
が、振り向くアリオンも同様の様子が、その表情から見て取れた。
岩の陰に、雑兵に見つからないよう、《化け物》みたいに隠れて進む。
北尾根の下は岩場が多かった。
が、問題は東尾根の下。
岩の無い草原の坂が暫く続く。
雑兵から隠れる為には、谷に下らなくてはならず…谷には《化け物》の住処だらけ。
「……………………………」
シーリーンはつい先頭の、アリオンの横顔を見やる。
が。
「ラッキー!」
ファオンが上を見て声を上げる。
雪…だった。
ちらちらと降っていたのが、一気に渦巻くように周囲を覆い尽くし始める。
アリオンが振り向く。
「一気に東尾根を抜けるぞ!」
シーリーンは頷く。
雪に紛れ、アリオンは駆け始める。
ファオンは身軽に後に続く。
シーリーンも肩に食い込む革袋の重さに歯を食い縛りながら…坂になってる草原を斜めに、駆け抜けた。
足元がすっかり白く被われた頃…アリオンはやっと、岩場に辿り着き、岩陰に背をもたせかけてはぁはぁ…。
と肩を波打たせた。
横にファオンが駆け込み、シーリーンも駆け込んで来る。
シーリーンが荒い息を吐いてると、アリオンが素早くファオンに問う。
「…どこか休める場所はあるか?」
ファオンがチラ…。
と岩場を見やる。
「…あるけど…。
雑兵も、見回りの緊急用休憩地点として使ってるから…。
鉢合わせると…マズイんだよね?」
「今も居そうか?」
「行ってみないと…」
ファオンの言葉に、アリオンはシーリーンを見る。
シーリーンは頷き、アリオンはファオンに頷く。
ファオンは身軽に毛皮のマントを翻し、岩の上へと登り始め、アリオンとシーリーンはファオンの後に続いた。
扉を開けると下から吹き上げる風。
アリオンもシーリーンも、毛皮のマントの襟を立てる。
やはり毛皮のマントを纏うファオンが出ようとする手を、アリオンが引く。
「…谷を出るまで、泊まる所は無いんだろう?
最短で抜けるぞ」
シーリーンも横でファオンを見つめ、手早く言い諭(さと)す。
「行く手を塞ぐ《化け物》は全て殺る。
が、萎びた杖付き殺して回ってる暇は無い…。
ぐすぐすすると、雪が降り出す…!」
ファオンは二人を交互に首を回し、見つめる。
二人の“気”は戦闘時のように張り詰めていて…。
正直鋭い瞳で見つめられると、ぞくぞくした。
アリオンの、くっきりとした深い青の瞳。
そしてシーリーンの、明るく透けたブルー・グレーの瞳。
「…つまり僕が最短の距離を案内しないと…」
「凍えて体力削ぎ取られ…ヤバい」
シーリーンのしっかりとした声に、ファオンは頷く。
「分かった」
アリオンは水を汲んだ瓶を袋に詰め、シーリーンは瓶詰め食料を、防水した袋に詰め込み革袋に入れて背負う。
二人は頷き合うと、一気に小屋を出た。
小屋の後ろ。
直ぐ側の崖沿いの、下る岩道へと足を進める。
足場は悪く、岩の間を下って行く。
崖に沿った螺旋状の小道。
遙か眼下に、左手には谷を囲む尾根。
下は深い渓谷が見渡せた。
崖に手を付きながら、そろりと岩場の細い道を下り始める。
先頭はアリオン。
ファオンが続き、最後尾はシーリーン。
風は下から吹き上げ、マントと髪をはためかせる。
小一時間下ると、ファオンが背後からアリオンの腕を引く。
「そこ…左。
出来るだけ《化け物》を避けて、最短距離がいいんだよね?」
アリオンは頷く。
が、下ってきた道は、細く…なんとか道と呼べる足場の悪い岩道だったのに…。
その道から外れ左へ進むと、更に足場が悪い。
が、アリオンは重い革袋を肩に担ぎ直し、そのほぼ岩の上を、下る道筋を何とか見つけ、そろりと下って行く。
大岩の下へと飛び降り、更にその先の、かろうじて進めるごつごつとした岩を下る。
シーリーンは最後尾で、チラチラと先の岩陰に《化け物》の影が見えないか。
視線を送る。
が、はっきり言って空気は冷たく…。
空は暗いグレーの雲で、びっしり覆われ…。
直雪が降りそうな気配、ありまくり。
こんな時にウロつく《化け物》は余程腹を空かし、飢える直前のヤツだろう。
後から見てると、ファオンは少しずつ尾根寄りの道をアリオンに示し…谷には降りず、谷と尾根の中間を進む様子。
岩を下りきってようやく…。
良く慣れた道へと降り立った時…。
アリオンもシーリーンも、ほっ。とした。
けれどぐずぐずはしていられない。
装備は軽い。
雪が降れば…たちまち凍える。
アリオンは今度は、尾根から見渡せる岩場の陰を伝い行く。
「(…お尋ね者って…楽しくない)」
シーリーンは思った。
が、振り向くアリオンも同様の様子が、その表情から見て取れた。
岩の陰に、雑兵に見つからないよう、《化け物》みたいに隠れて進む。
北尾根の下は岩場が多かった。
が、問題は東尾根の下。
岩の無い草原の坂が暫く続く。
雑兵から隠れる為には、谷に下らなくてはならず…谷には《化け物》の住処だらけ。
「……………………………」
シーリーンはつい先頭の、アリオンの横顔を見やる。
が。
「ラッキー!」
ファオンが上を見て声を上げる。
雪…だった。
ちらちらと降っていたのが、一気に渦巻くように周囲を覆い尽くし始める。
アリオンが振り向く。
「一気に東尾根を抜けるぞ!」
シーリーンは頷く。
雪に紛れ、アリオンは駆け始める。
ファオンは身軽に後に続く。
シーリーンも肩に食い込む革袋の重さに歯を食い縛りながら…坂になってる草原を斜めに、駆け抜けた。
足元がすっかり白く被われた頃…アリオンはやっと、岩場に辿り着き、岩陰に背をもたせかけてはぁはぁ…。
と肩を波打たせた。
横にファオンが駆け込み、シーリーンも駆け込んで来る。
シーリーンが荒い息を吐いてると、アリオンが素早くファオンに問う。
「…どこか休める場所はあるか?」
ファオンがチラ…。
と岩場を見やる。
「…あるけど…。
雑兵も、見回りの緊急用休憩地点として使ってるから…。
鉢合わせると…マズイんだよね?」
「今も居そうか?」
「行ってみないと…」
ファオンの言葉に、アリオンはシーリーンを見る。
シーリーンは頷き、アリオンはファオンに頷く。
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