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夢の中の逃避行
180 キーナンの襲撃
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ファオンが夢の中の自分を見て、囁く。
「…僕…17の筈なのに、今とあんま変わってない…」
「俺もだ」
「俺も」
アリオンとシーリーンの声が聞こえて、ファオンは尋ねる。
「…もしかして、二人共同じ夢見てる?」
「………………………」
二人は沈黙した後に言った。
「…そうかもな」
「そうみたいだな」
ファオンはでっかい寝台に、嬉々として転がる。
「気持ちいい!」
バタン!
水汲みから帰って来たアリオンが、ゼーハー言って肩を落とす。
「…《化け物》に会った…」
ファオンが振り向く。
「ちゃんと、殺した?」
シーリーンが暖炉につり下がる鍋に、瓶詰めの食べ物を適当に入れ、振り向いて目を見開く。
「ここにも出るのか?!」
ファオンは何て無い表情で言う。
「たまに。
すんごくお腹減らして群れからはぐれたのが、迷い込んでくる」
アリオンはぜーぜー言いながら返答する。
「突然飛び出して来たから、条件反射で思い切り蹴った」
「その後は?」
アリオンは尋ねるシーリーンを睨む。
「水を汲みに、剣持って出ない。
…けど…崖下に落下する音がしたから…」
シーリーンはそれを聞いて、ファオンの乗る寝台横の剣を取り上げる。
「生きてたら、怪我負おうが、また登って来るぞ」
ファオンはシーリーンに振り向く。
「じゃ、登って来るまで待ったら?」
シーリーンはファオンを見る。
「…襲って来るまで、待てって?」
アリオンも俯く。
「外、もう真っ暗だぞ?」
「………………………………………」
シーリーンは無言で、剣を置いた。
「扉、かんぬきかけた?」
ファオンの問いに、アリオンが頷く。
「なら外に出なけりゃ大丈夫だよ。
煙突からは、流石に熱いと思うし」
確かにこの小屋の窓は、換気の為に幾つかあるものの、どれもとても小さい。
子供ですら出入り出来るかと言う程だった。
シーリーンが少し俯く。
「けどもし…群れで来られて囲まれてたら…?!
外に出た途端、殺しまくるのか?」
ファオンがシーリーンを見る。
「地下に道がある。
《化け物》の谷の方向じゃないし…。
一旦地下道に入って蓋締めたら…《化け物》は入って来れないから、大丈夫だよ」
アリオンとシーリーンに見つめられ、ファオンは付け足した。
「けどもう、ここには戻って来られない」
それを聞いて、アリオンとシーリーンは項垂れた。
「でも用心の為、暖炉の火は炊き続けた方が良いね。
唯一入れるの、煙突だから」
アリオンもシーリーンも仕方無く…持っていたコインを放り投げた。
「…俺が先だ」
シーリーンが言うと、アリオンは頷く。
「明け方起こせ」
けれどアリオンは食後ファオンと寝台に横になると、甘い気持ちに襲われて、つい顔を寄せる。
流石…ずっと《皆を繋ぐ者》だったせいか、ファオンは直ぐ気づいて顔を上げ…アリオンの唇を唇で受け止める。
暖炉の前で、シーリーンが歯を剥いて振り向く。
アリオンはそちらを見もせずに、再びファオンの唇に倒れ込みながら、囁く。
「明け方からはお前の番だ」
シーリーンは一っ言も文句を言わせないアリオンを、もっと睨んだ。
アリオンがファオンを下にして抱きしめ…手を腿に伝わせ…男根を、握り込もうとした時…。
がんっ!がんっがんっ!
かんぬきをかけた筈の扉が激しい音を立てる。
シーリーンが直ぐ、剣を持ち振り向く。
「…来やがったか…!」
ファオンが直ぐ、小窓へと張り付く。
「…群れが…来ちゃってる…。
ええと…五・六匹?
もっといるかな………」
アリオンも、咄嗟寝台の上で身を返し、横の机の上に置かれた剣の柄を握り込む。
「…逃げよっか」
「…こんな、夜中に?」
ファオンの言葉にシーリーンが尋ね、アリオンもまだがんがん体当たりされてる扉の方を睨む。
「外の扉が破られても…ここの内扉まで、破られるとは限らないだろう?」
「…………………」
ファオンは横の、鉄製のはしごに飛び付く、そしてするすると登り、天井の扉の押さえを横に引いて外し、屋根に出て行く。
「……………!」
アリオンとシーリーンは呆(ほう)けて見上げる。
二人は顔を見合わせ、近くにいたアリオンが先にはしごに飛び付き、シーリーンも剣を持ったまま続く。
ファオンは薄衣のまま、少し斜めの石造りの屋根から下を見下ろしていた。
びゅっ!と風が吹き、髪が斜めに靡いたまま。
やたら寒い。
が、屋根の下は《化け物》だらけ…。
「…20匹くらい居るか?!」
天井に出たばかりのシーリーンに尋ねられ、アリオンは頷く。
ファオンはじっ。と、冷たい風に吹かれながら月明かりの下。
三メートル程下で蠢く《化け物》を見、手を差し出す。
「剣、貸して」
アリオンが、手にした剣を見る。
が、手渡す。
ファオンはアリオンの剣を持つと、突然…飛ぶ。
「ファオン!」
叫んだのは、やっと屋根へ出たばかりのシーリーン。
アリオンは声も出ず、目をまん丸に見開く。
ファオンは身軽に飛ぶと、壁を取り巻く《化け物》ではなく…その少し後ろで杖を付く、小柄な《化け物》の真ん前へと着地し、直ぐ剣を横に、振り切った。
シーリーンとアリオンは、ファオンがその、《化け物》の中では一番小さく、萎びてヨボヨボの《化け物》を切り裂いた途端、壁に張り付く《化け物》らが一斉に、ファオンへと振り向くのを見た。
「!」
「!」
アリオンが飛び降りる。
シーリーンは怒鳴りながら続いて飛んだ。
「お前、剣持ってないだろう?!」
《化け物》がファオンへと飛びかかり始め…けれどファオンは倒れる杖付きに、真上から止めを刺す。
ざしっ!
剣で胸を一突き。
杖付きは息絶えてごろん。と転がった時…。
飛びかかる《化け物》は突然…動きを止める。
「シーリーン!
何体か斬って!」
ファオンの叫びに、シーリーンは呆気に取られながらも、横で突っ立つ《化け物》を斬った。
「離れて!」
一瞬棒立ちになった《化け物》らは、シーリーンに斬られた仲間が血を吹き出し、胸を押さえた途端、一斉にその傷付いた《化け物》に襲いかかる。
シーリーンは仲間に襲いかかる《化け物》の横から、素早く剣を振り切る。
そしてもう一体。
斬ったばかりの《化け物》に襲いかかる《化け物》も、斬った。
ファオンはシーリーンとアリオンの元に突っ走って、戻り来る。
アリオンの手に、借りてた剣を押しつけると、壁の横の藁の下の、木のハシゴを屋根に立てかける。
アリオンは背後に振り向く。
襲いかかってくる《化け物》を振り被って斬り殺した。
「早く上って!
巻き添え食うよ!」
ファオンはもう、壁の半分くらいの高さまで上ってる。
シーリーンが直ぐ続き、アリオンは背後を振り向きながら上った。
…不思議な事に、《化け物》はアリオンが斬った、傷付いた《化け物》に喰らい付き…はしごを上る自分らには、襲って来ない。
むしろ…我先に、仲間の死体を奪い合い、肉の切れ端を掴むと、慌てて崖を下って行く。
アリオンとシーリーンはその風の吹き抜ける屋根の上で、最後に残る《化け物》が、ファオンの殺した杖付きの肉を屈んで貪り…そして、少し腹が膨れたのか、肉を掴んで崖を下って行くのを見た。
ファオンが寝台の上から屋根に叫ぶ。
「はしご、外して倒しといて!」
アリオンは屋根に繋がるハシゴを、シーリーンと一緒に屋根から倒した。
二人が天井から降りて来る。
アリオンは天井を戻すと、横の鉄の棒を引いて戻し、出口を固定した。
部屋に戻ると、ファオンが顔をしかめる。
「…《化け物》…離れて斬った?」
ファオンに言われ…シーリーンは返り血が服に付いてるのを見る。
アリオンも。
「…臭い………」
アリオンとシーリーンは暖炉の燃える暖かな室内に、《化け物》の血の腐臭が充満するのを感じ、同時に、溜息を吐いて顔を下げた。
「…僕…17の筈なのに、今とあんま変わってない…」
「俺もだ」
「俺も」
アリオンとシーリーンの声が聞こえて、ファオンは尋ねる。
「…もしかして、二人共同じ夢見てる?」
「………………………」
二人は沈黙した後に言った。
「…そうかもな」
「そうみたいだな」
ファオンはでっかい寝台に、嬉々として転がる。
「気持ちいい!」
バタン!
水汲みから帰って来たアリオンが、ゼーハー言って肩を落とす。
「…《化け物》に会った…」
ファオンが振り向く。
「ちゃんと、殺した?」
シーリーンが暖炉につり下がる鍋に、瓶詰めの食べ物を適当に入れ、振り向いて目を見開く。
「ここにも出るのか?!」
ファオンは何て無い表情で言う。
「たまに。
すんごくお腹減らして群れからはぐれたのが、迷い込んでくる」
アリオンはぜーぜー言いながら返答する。
「突然飛び出して来たから、条件反射で思い切り蹴った」
「その後は?」
アリオンは尋ねるシーリーンを睨む。
「水を汲みに、剣持って出ない。
…けど…崖下に落下する音がしたから…」
シーリーンはそれを聞いて、ファオンの乗る寝台横の剣を取り上げる。
「生きてたら、怪我負おうが、また登って来るぞ」
ファオンはシーリーンに振り向く。
「じゃ、登って来るまで待ったら?」
シーリーンはファオンを見る。
「…襲って来るまで、待てって?」
アリオンも俯く。
「外、もう真っ暗だぞ?」
「………………………………………」
シーリーンは無言で、剣を置いた。
「扉、かんぬきかけた?」
ファオンの問いに、アリオンが頷く。
「なら外に出なけりゃ大丈夫だよ。
煙突からは、流石に熱いと思うし」
確かにこの小屋の窓は、換気の為に幾つかあるものの、どれもとても小さい。
子供ですら出入り出来るかと言う程だった。
シーリーンが少し俯く。
「けどもし…群れで来られて囲まれてたら…?!
外に出た途端、殺しまくるのか?」
ファオンがシーリーンを見る。
「地下に道がある。
《化け物》の谷の方向じゃないし…。
一旦地下道に入って蓋締めたら…《化け物》は入って来れないから、大丈夫だよ」
アリオンとシーリーンに見つめられ、ファオンは付け足した。
「けどもう、ここには戻って来られない」
それを聞いて、アリオンとシーリーンは項垂れた。
「でも用心の為、暖炉の火は炊き続けた方が良いね。
唯一入れるの、煙突だから」
アリオンもシーリーンも仕方無く…持っていたコインを放り投げた。
「…俺が先だ」
シーリーンが言うと、アリオンは頷く。
「明け方起こせ」
けれどアリオンは食後ファオンと寝台に横になると、甘い気持ちに襲われて、つい顔を寄せる。
流石…ずっと《皆を繋ぐ者》だったせいか、ファオンは直ぐ気づいて顔を上げ…アリオンの唇を唇で受け止める。
暖炉の前で、シーリーンが歯を剥いて振り向く。
アリオンはそちらを見もせずに、再びファオンの唇に倒れ込みながら、囁く。
「明け方からはお前の番だ」
シーリーンは一っ言も文句を言わせないアリオンを、もっと睨んだ。
アリオンがファオンを下にして抱きしめ…手を腿に伝わせ…男根を、握り込もうとした時…。
がんっ!がんっがんっ!
かんぬきをかけた筈の扉が激しい音を立てる。
シーリーンが直ぐ、剣を持ち振り向く。
「…来やがったか…!」
ファオンが直ぐ、小窓へと張り付く。
「…群れが…来ちゃってる…。
ええと…五・六匹?
もっといるかな………」
アリオンも、咄嗟寝台の上で身を返し、横の机の上に置かれた剣の柄を握り込む。
「…逃げよっか」
「…こんな、夜中に?」
ファオンの言葉にシーリーンが尋ね、アリオンもまだがんがん体当たりされてる扉の方を睨む。
「外の扉が破られても…ここの内扉まで、破られるとは限らないだろう?」
「…………………」
ファオンは横の、鉄製のはしごに飛び付く、そしてするすると登り、天井の扉の押さえを横に引いて外し、屋根に出て行く。
「……………!」
アリオンとシーリーンは呆(ほう)けて見上げる。
二人は顔を見合わせ、近くにいたアリオンが先にはしごに飛び付き、シーリーンも剣を持ったまま続く。
ファオンは薄衣のまま、少し斜めの石造りの屋根から下を見下ろしていた。
びゅっ!と風が吹き、髪が斜めに靡いたまま。
やたら寒い。
が、屋根の下は《化け物》だらけ…。
「…20匹くらい居るか?!」
天井に出たばかりのシーリーンに尋ねられ、アリオンは頷く。
ファオンはじっ。と、冷たい風に吹かれながら月明かりの下。
三メートル程下で蠢く《化け物》を見、手を差し出す。
「剣、貸して」
アリオンが、手にした剣を見る。
が、手渡す。
ファオンはアリオンの剣を持つと、突然…飛ぶ。
「ファオン!」
叫んだのは、やっと屋根へ出たばかりのシーリーン。
アリオンは声も出ず、目をまん丸に見開く。
ファオンは身軽に飛ぶと、壁を取り巻く《化け物》ではなく…その少し後ろで杖を付く、小柄な《化け物》の真ん前へと着地し、直ぐ剣を横に、振り切った。
シーリーンとアリオンは、ファオンがその、《化け物》の中では一番小さく、萎びてヨボヨボの《化け物》を切り裂いた途端、壁に張り付く《化け物》らが一斉に、ファオンへと振り向くのを見た。
「!」
「!」
アリオンが飛び降りる。
シーリーンは怒鳴りながら続いて飛んだ。
「お前、剣持ってないだろう?!」
《化け物》がファオンへと飛びかかり始め…けれどファオンは倒れる杖付きに、真上から止めを刺す。
ざしっ!
剣で胸を一突き。
杖付きは息絶えてごろん。と転がった時…。
飛びかかる《化け物》は突然…動きを止める。
「シーリーン!
何体か斬って!」
ファオンの叫びに、シーリーンは呆気に取られながらも、横で突っ立つ《化け物》を斬った。
「離れて!」
一瞬棒立ちになった《化け物》らは、シーリーンに斬られた仲間が血を吹き出し、胸を押さえた途端、一斉にその傷付いた《化け物》に襲いかかる。
シーリーンは仲間に襲いかかる《化け物》の横から、素早く剣を振り切る。
そしてもう一体。
斬ったばかりの《化け物》に襲いかかる《化け物》も、斬った。
ファオンはシーリーンとアリオンの元に突っ走って、戻り来る。
アリオンの手に、借りてた剣を押しつけると、壁の横の藁の下の、木のハシゴを屋根に立てかける。
アリオンは背後に振り向く。
襲いかかってくる《化け物》を振り被って斬り殺した。
「早く上って!
巻き添え食うよ!」
ファオンはもう、壁の半分くらいの高さまで上ってる。
シーリーンが直ぐ続き、アリオンは背後を振り向きながら上った。
…不思議な事に、《化け物》はアリオンが斬った、傷付いた《化け物》に喰らい付き…はしごを上る自分らには、襲って来ない。
むしろ…我先に、仲間の死体を奪い合い、肉の切れ端を掴むと、慌てて崖を下って行く。
アリオンとシーリーンはその風の吹き抜ける屋根の上で、最後に残る《化け物》が、ファオンの殺した杖付きの肉を屈んで貪り…そして、少し腹が膨れたのか、肉を掴んで崖を下って行くのを見た。
ファオンが寝台の上から屋根に叫ぶ。
「はしご、外して倒しといて!」
アリオンは屋根に繋がるハシゴを、シーリーンと一緒に屋根から倒した。
二人が天井から降りて来る。
アリオンは天井を戻すと、横の鉄の棒を引いて戻し、出口を固定した。
部屋に戻ると、ファオンが顔をしかめる。
「…《化け物》…離れて斬った?」
ファオンに言われ…シーリーンは返り血が服に付いてるのを見る。
アリオンも。
「…臭い………」
アリオンとシーリーンは暖炉の燃える暖かな室内に、《化け物》の血の腐臭が充満するのを感じ、同時に、溜息を吐いて顔を下げた。
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