アグナータの命運

あーす。

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終焉の儀式

140 和解

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 翌朝、朝食の場に、ファーレーンが。
そしてキリアンもがやって来る。

シリルローレルも仲間達と姿を見せ…その人物を連れて来た。

白っぽい金髪。
年よりも若々しい、レドナンドをもっと厳しくしたような美丈夫。

「…と…う様………」

ファオンが立ち上がり、皿を手から取り落としそうになって…。
デュランが慌ててキャッチした。

シリルローレルに背を押され…ファオンの父親。
背の高く、厳しい表情の威厳の塊のような…美丈夫は、ファオンを見る。

ファオンは背後のファーレーンに振り向く。

ファーレーンは頷く。

斜め横のキリアンも見る。

キリアンは呟く。
「親父。
今度はちゃんと認めてやってくれ!

アリオンといちゃつこうが!
シーリーンとベタつこうが!
ファオンは、やる時はやる!

ちゃんとあんたの血を引いた、立派な息子だ!」

だがその場にいた皆はその言葉に、一斉に顔を下げる。

ロレンツが後ろから、キリアンの腕を引く。

「…この場合…ちょっとそれは…」

けれどキリアンは、ロレンツの腕を振り払う。
「大事な事だ!
ファオンはあんたに軽蔑されたくなくて!
本心封じ込めてた!
兄貴だって本当はキースにぐらぐら揺れてんだぜ!
俺もういっそ、キースと付き合って、どうしても嫌いだったらその時吹っ切れる!
とまで言ったんだぜ!
別に良いじゃ無いか!相手が男でそんなに…マズイのかよ!」


ファーレーンは思い切り顔を下げ…。
キースはいっぺんに、瞳を輝かせた。

「兄貴が親父の言いつけなんてぶっ千切ってキースと付き合ってたら!
ファオンだってあれ程自分を恥じなくて済んだんだ!

親父!
あんたの戒厳令で兄貴はがんじがらめだったんだから、いい加減解放してやってくれよ!
兄貴だって俺だって…ファオンだってちゃんと、《勇敢なる者》レグウルナスになったろう?!」

けれど…キリアンが父親を睨み付けた時…。

厳しい表情のその父親は、顔をくしゃっ。と歪めたかと思うと…泣き出した。

手を目で覆い、頬に涙を伝わせて。

「…キリアン………」

ファオンに振り向き、言われ…。
ファーレーンまでもが。

「…お前が…泣かせた…んだぞ?」

キリアンは兄に言われ、目を見開く。

「…そ…んな柔な…親父…じゃ、無い…は…ず…」
「でも、泣いてる」
こそっ。とロレンツに言われ、珍しくキリアンが、動揺しまくった。


キルファースは小声で…囁きかける。

「………………ファオン。
俺は《勇敢なる者》レグウルナスにすら…お前をさせたくなかった。
本当は…大切に守ってどこにも…出したくなかった……………」

ファーレーンとキリアンが、びっくりして父親を見る。

「溺愛して…駄目にしそうだった…。
キリアン。
ずっとお前に押しつけて、すまない…。
俺…は…………。

シリルローレルに、立派な剣士にしたと…言われて安心したところに《皆を繋ぐ者》アグナータに選ばれ…どれだけ決定を覆そうと奔走してもムダで…。

もう…ファオンを見られなかった。
傷付く様を見られなかった。

どんな事から…ものからも本当は…守りたかった…。
お前が傷付くとミファリアル(妻)が傷付くようで…。

…耐えられ…なか…った。

…けれどお前は、俺が思ったより…ずっと強かった……………」

「父様…………」

キルファースはそのまま、背を向けて…その場から去りそうだった。

シリルローレルが腕を掴む。

「せめて腕に抱きしめてやれ」

「無理だ…あんまり…ミファリアルに似ていて…。
俺はファオンを息子だと、思った例しがない。
息子だと言い聞かせて…。
お前に託すのが、精一杯…」

「いい加減、ちゃんとファオンを見てやれ!」

「どんな不利な立場でも戦い抜いてきた男だろう?!」

「息子相手に、歴戦の強者ともあろうお前が、逃げる気か?!」

かつての仲間達に怒鳴られ…キルファースは躊躇う。

「…ファオン…」

キルファースの両手が広げられた時、ファオンはその胸に、飛び込んでいた。

「と…う…様…」

固い筋肉…。
鍛えきった体付…。
厳しく…そして強く大きく………。

ファオンは夢中で、しがみついた。

キルファースは腕に抱く、一番小さかった息子に語りかける。

「ずっと…愛してた。
愛しすぎて…お前を壊しそうで…怖かった。
俺は俺が怖くて…お前に近づけなかった」

ファオンは必死で…ずっと遠かった…父親に縋り付いた。

シリルローレルが横で囁く。
「ちゃんと、息子だろう?」

キルファースは細いけれど…もう頼りない小さな子供じゃない…少年のファオンの体を抱きしめ、頷く。

「そうだな…。
俺が見たのは三歳の頃…。
愛らしくて…。
可愛くて…。
ミファリアルそっくりの……………」

キルファースはようやく…ファオンの髪に顔を寄せて目を瞑る。

そして、泣いた。
「辛かった…。
お前を心から抱きしめた時…。
ミファリアルが死んだ事を思い知らされる。

忘れていたかった…。
お前はミファリアルだと…変だな。
俺はずっと思い続けてた………」

そして、顔をファオンに向けて、囁いた。

「良く…やった」

ファオンはもう、涙が止まらない様子で泣き続けた。

その時のキルファース…父親は、自分の上に重なる幻の…亡くなった母、ミファリアルで無く、ちゃんと…。
自分を見つめてそう言ってくれていたから。


「僕…はずっと…ここに…いて…。
父様に愛されたかった」

キルファースは目を閉じ、涙を零し頷く。

「…でも僕が産まれて…代わりに母様を奪って…ごめんなさい…」

キルファースは涙を頬に滴らせて、首を横に振る。

そして、ファオンを抱きしめて、言った。

「お前は俺の…誇れる、三番目の息子だ」





キルファースは、シリルローレルと仲間達に囲まれ、背を向けて振り向く。

長兄、ファーレーンの背後にキースを見ても…睨み付けなかった。
だが気づいたファーレーンが、背後に立つキースを睨み付ける。

アリオンにもシーリーンにも視線を送る。
ファオンは二人の間で少し不安そうに…キルファースを見つめていた。

けれどキルファースは、微笑った。
そして…キリアンが憮然として腕組む姿に視線を送る。

キルファースは頼れる次男に、微かに頷く。

キリアンはその父の様子に、目を見開き、ファオンを見…。

けれど仕方無い。と腕組み
“まだまだ、ファオンは俺が面倒みてやるよ”
と偉そうに頷き返した。


朝食に乱入され…逐一を、目を見開き見ていた皆に、キースは溜息を吐き、告げる。

「…良かったぜ…。
実はファオンを溺愛していたキルファースは、ファオンを《皆を繋ぐ者》アグナータにしたくなくてあちこちに掛け合ったらしいが…。
叶わなくて思い詰めて、ファオンを抱いた《勇敢なる者》レグウルナス全員の、暗殺計画練っていたらしいから」

レオだけで無く、ファルコンもセルティスも…そしてアランもが、顔を下げきった。

デュランだけが

「いやあ…。
あれだけ格好いい美丈夫が、無様に人前構わず泣いたりすると、流石につっ込めませんね!」

と言って、やっぱりその場、全員の、白い視線を浴びた。



ファオンは背後に立つ、アリオンとシーリーンを交互に見る。

「僕…二人共好きで選べない。
って言ったら…二人に振られる…?」

アリオンは溜息を吐き、シーリーンも俯く。

二人は返事をせず…二人共がファオンの背を抱き、朝食の席に促す。

ファオンは二人の間に腰下ろして聞く。

「ねえ、それってどっち?
振る?
振らない?」

アリオンは無言でファオンにスプーンを手渡し、シーリーンはデュランから、ファオンの食べかけの皿をぶん取ると、ファオンの膝の上に置いて、頷いた。

ファオンは二人があんまり見つめるので、仕方無くスプーンで、皿の料理を掬って口に、運んだ。

二人は黙って微笑んで両側から見てるから…ファオンは疑問符だらけの、朝食を続けた。
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