アグナータの命運

あーす。

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133 シリルローレルの言葉

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 ファオンはその後、アランのテントも覗いた。

が、こちらも…。

デュランがアランに抱きついていた。

ただ、シーリーンと違ったのはデュランが、泣いていたこと。

アランは泣く子には逆らわない。
と諦めの表情で、取りすがって泣くデュランに逆らわず、黙って抱きしめられていて…覗いてるファオンに気づくと
『い・ま・は・む・り』
と、口の動きで告げていたので、ファオンは
『ま・た』
と口を動かし、アランが頷くのを見て、入り口の布を閉じた。

「(…あれ?
もしかして…。
シーリーンも…アリオンが生還して、嬉しくて抱きついてたのかな???)」

首を捻っていたら、シリルローレルとキースが話しながら偵察から戻って来て、ファオンはシリルローレルに寄って行く。

シリルローレルは…いつも道理、爽やかな笑顔で微笑む。

ファオンは父親、キルファースと同年代のシリルローレルなんだけど…どう見てもシリルローレルの方が若く見えるのは、この笑顔のせいだ。
と毎回思ってた。

まだ殆ど皺も無かったから、確か37才だと言うのに、20代の若者に見える。

「まだ背中は痛むんだろう?」

ファオンは微笑む。

「傷は多いけど、浅いから」

「二体に襲われたのか?
確か…7カ所だろう?」

「………一体です。
多分…両手で引っ掻かれた…?」

シリルローレルが俯くので、ファオンも俯く。

「岩にぶら下がってる時で、避けられなかったから」

「…まあ、いい。
良く杖付きを殺って、仲間を助けたな!」

シリルローレルの笑顔に、ファオンは嬉しそうに微笑み返した。

「さて。俺は一度降りる。
領地で色々することもあるしな」

キースは頷き、ファオンは躊躇った。
「泊まらないんですか?」

「…その手続きが要るんだ。
今夜は降りる。
明日か…明後日、また来る」

ファオンは嬉しそうに微笑んだ。

シリルローレルは笑い返し…けれど、俯く。
「お前の親父、キルファースにも…様子を知らせると約束してるが…。
お前が《皆を繋ぐ者》アグナータに選ばれて、落ち込んでいたしな…」

ファオンはシリルローレルを見上げる。
「…父様は…僕が家を出る時、いなかった…」

シリルローレルは頷く。
「多分、お前が不憫で顔が見られなかった。
無器用な男だから」

ファオンは項垂れる。
「…僕の事…軽蔑してない?」

シリルローレルは、ファオンの頭を手の平でぐりぐり撫でる。
「…お前を…男になんか触れさせたくないのに…。
選出決定に、従うしか無かったからな…。
あいつ、ここに上がってきたら、お前に触れた《勇敢なる者》レグウルナス全員斬り殺すかもな」

ファオンは、びっくりして顔を上げた。
シリルローレルは苦笑いする。

「…まあ…剣豪として鳴らしてるし強い男で一本気だ。
逆上するとやりかねないから、今回も声かけなかった。
他の奴らに会ったか?」

ファオンは頷く。
「全員が声を揃え『あいつは危ない』
と言うから…キルファースは呼ばなかった。
瀕死の怪我人レグウルナス、全員殺したらまずいだろう?」

ファオンは俯く。
「…でも僕…僕…。
アリオンやシーリーンは今でも…とても好きだし…。
触られても嫌じゃない………。
それに…みんな好きだから…。
以前程嫌じゃない」

シリルローレルは、ファオンの頭上で大きな吐息を吐く。

「…あの黒髪の男か。
お前が呼んだら、黄泉の国からも帰ってくるほどだしな。
お前が好きな男と、愛し合えば別にそれでいい。
ともかく…俺はお前を、男らしくしてくれとキルファースに頼まれたが…。
お前はお前だ。解るか?」

ファオンは頷く。

「確かな剣の腕がある。
仲間を救う事が出来る。
…それが、一番大事な事で、お前はそれが出来てる。
自分を、誇って良い。
…解るな?
で、好きな相手が男だろうが、お前はすべき事が出来てるんだから、胸張ってろ。
解ったか?」

ファオンはまた、頷く。

シリルローレルはまた、爽やかに笑う。

「お前のいい所はその、素直な所だ。
後は…怪我人らは当分、動けないから…。
襲撃に備え、第二部隊を動かす用意をしに俺は一時尾根を下るから、後は…キースに聞け。
また…来るから、暫くは休んでろ」

ファオンは心から安心して頷く。
シリルローレルが『大丈夫』な感じの事を言って、裏切られたことが無かったから。


キースと…そしてリチャードも横に来て、シリルローレルを見送る。

キースは溜息と共に、石の椅子に座り込む。
目の前のリチャードとファオンを見つめ、囁く。

「…当分皆動けないから、怪我が癒えるニ・三日は…。
第二部隊と呼ばれる、かつての《勇敢なる者》レグウルナスらが、補充を務めてくれる。
雑兵アルナに混じり、警護してくれるから…。
暫くは出なくていい。
俺とリチャードは偵察には出る。
だがお前は怪我人だから、大人しく養生しろ」

ファオンは頷く。
キースはまた、顔を上げる。

「今怪我人は集められてるから、開いてるテントもある。
適当に使って体を休めろ」

ファオンはまた、頷いた。

リチャードが、そっ…と言う。

「アリオンとシーリーンは一緒のテントにいるだろう?」

ファオンは顔を下げたまま、沈黙する。

キースとリチャードは顔を、見合わせた。

「…まあ…ヘタにお前がいても、二人は多分休まらない。
死にかけた怪我負った二人が、二人してお前と…したがって、無理すると絶対傷が開くから…。
暫くは見舞うだけにしとけ」

キースに言われ、ファオンは俯いたまま、囁く。

「…抱き合ってた」

「…そうか」

ファオンはキースを見上げる。

「…僕より、シーリーンはアリオンが好き?」

リチャードが直ぐ、言う。
「有り得ない」

キースも溜息を吐く。

「行って本人に聞いてこい」

ファオンは怖々尋ねた。
「…真っ最中だったら?」

リチャードが聞く。
「何の」

キースは、意味が解ったらしく、横を向いてくすくすと笑う。

「お前がそんな誤解してると解ったら…二人ともショックで怪我が悪化する」

「ホントに?」

キースは笑いながら言った。

「真っ最中かもしれないが、勇気出して二人がいるテント、覗いてみることだな!」

ファオンは俯ききって、溜息を吐いた。
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