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一掃
129 生還者達の感想
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アランが目を覚ました時…。
そこにはデュランがいて、顔を見つめ、ぽろぽろと涙を滴らせていた。
「よぉ…」
声が掠れ、アランは喉に手をやる。
少し痛んだ。
が、なにか暖かい物で傷口が包まれ、護られてる感じがして、ほっとする。
デュランはまだ、何か言いたげに…。
でも言葉が見つからないみたいに、ぽろぽろと涙を零して、見つめ続けていた。
栗色の巻き毛。
空色の瞳。
いい男なのに、餓鬼みたいに泣いてやがる。
“ザマ無いぞ?”
言ってやりたかったけど、喋るとまだ喉が痛む気がして、元気になったら言ってやろう。
そう心に決めて、デュランの頬に伝う涙を…アランは見つめた。
ファオンが目を覚ました時…。
そこには治療士の他に、シリルローレルと彼と同年代の…男達がいて、皆は桃を食べては…。
シーリーンとアリオンに白の魔法使いの“力”を送っていた。
目が合うとシリルローレルは横に来る。
「もう少し眠っておいで。
当分は我々が“力”を使ってみんなを治すから」
ファオンは頷く。
シリルローレルからは、草原と風の香りがして、一緒に旅をした時ずっと感じていた…頼もしさと安心感が広がって、やがて目が霞んで来る。
…大人で唯一、自分をマトモに面倒みてくれていた人…。
強くて。
頼れて。
けれど厳しくて。
ふいに優しい人…。
弱くて泣いている時はずっと…厳しい表情。
けど頑張った時。
見せてくれる笑顔。
大好きな、笑顔…。
ファオンは瞼に浮かぶ、ずっと旅した頃見続けて来た輝く草原と…自分の力で戦い勝ち取る翼を与えてくれたその人の存在に、心から安心して眠りについた。
ファルコンはやっと起き上がれた時、周囲を見回し、溜息を吐く。
ファオンがセグナ・アグナータとなり…。
ローエングリンで代理で抱ける最初の一人は選考委員のツテの、色っぽい年増の美人だったけれど、その後希望者が多くて一時大混乱し…。
結果シュティッセンが、代理となってローエングリン横のテントに常駐待機する事になって…。
皆、以前の《皆を繋ぐ者》のシュティッセンを心から歓迎していたから、今特例でここにいても不思議では無かった。
けれどシュティッセンはファオンに気遣いして
“自分が代理をしてる事は、ファオンには伏せて”
と言われていて、秘密が苦手なファルコンは、つい表情がむっとしてしまう。
横にはセルティスもいて、レオも目を開けていた。
正直、狭い場所で次々頭上から《化け物》が現れ、どさくさで戦っていて傷だらけだったから、どこに深い傷を負ったとかの意識が無いほど…。
多数の傷を負った。
レオは本当に、頼りになった。
いつ、彼が倒れ自分が正面を守らなくてはならなくなるのかと…。
ずっと気を張っていた。
だから…。
多分、レオには一生頭が上がらない。
礼なんて言っても、レオはいつも
『当然の事をした』
で、礼なんて受け取らないだろう………。
年配の元《勇敢なる者》らが行き来し、桃を囓っては手から“力”を放出していく。
話しかけようにも、相手も歴戦の強者。
強面だわ、態度はどっしり感のある年上の男だから、つい自分が
“ひよっ子”
に感じて、ファルコンは黙り込む。
ああまた…。
手から白の魔法使いの“力”が、レオに向かって放出された。
仄青い光。
レオが気絶する。
今度は自分か…。
ファルコンは自分にその手の平が向けられるのを見た。
やがて全身の傷口が沸き立つように熱くなり…気づいたら意識を無くしていた。
シーリーンは時折、横のアリオンを見る。
正直、彼が逝ってしまうと感じた瞬間、自分でもびっくりする程…。
彼を亡くしたくないと思った………。
“俺がいなくなれば、望み道理ファオンはお前の物だ”
アリオンのくっきりと浮かび上がる青い瞳はそう言っていた。
だが…。
本当に、腹が立った。
“そんな理由で逝く気か?!”
いつの間にか…もう仲間になっていた。
共に戦う…常に互いの背を守りあう仲間に。
シーリーンは溜息を吐く。
飛び込んだ瞬間、背骨にまで達する傷を受け…。
自分でも馬鹿だと思った。
“俺は別れを言う間も無い…”
けれど倒れ込んだアリオンの体の温もりが…暖かかったから…。
“冷たい骸に縋り付いて泣く無様は、てめぇがするんだ”
そう思えて笑えたから…。
まあそれで良しとしよう。
だから…気持ち良く逝けると思った。
なのにその瞬間…白の魔法使いの“力”を感じた。
ありったけの…残る全ての命がアリオンから流れ込む。
致命的だった傷が包まれ…めちゃくちゃ熱くなって…。
そして治っていくのを感じた。
また腹が立った。
“どうしても俺を、お前の冷たい死体に縋りつかせ…泣かせたいのか?!”
生きてたら文句を言おうと思ったけど…。
全部の命をくれ…アリオンは今度こそ…帰って来ない予感に、心の震えが止まらなかった。
でも、今横で寝てる。
「…………………………………………………」
シーリーンはまだ、アリオンが目を覚ましたら文句を言おうか…。
二人共生還したんだから、チャラ。
にしようか…。
を、悩み続けた。
そこにはデュランがいて、顔を見つめ、ぽろぽろと涙を滴らせていた。
「よぉ…」
声が掠れ、アランは喉に手をやる。
少し痛んだ。
が、なにか暖かい物で傷口が包まれ、護られてる感じがして、ほっとする。
デュランはまだ、何か言いたげに…。
でも言葉が見つからないみたいに、ぽろぽろと涙を零して、見つめ続けていた。
栗色の巻き毛。
空色の瞳。
いい男なのに、餓鬼みたいに泣いてやがる。
“ザマ無いぞ?”
言ってやりたかったけど、喋るとまだ喉が痛む気がして、元気になったら言ってやろう。
そう心に決めて、デュランの頬に伝う涙を…アランは見つめた。
ファオンが目を覚ました時…。
そこには治療士の他に、シリルローレルと彼と同年代の…男達がいて、皆は桃を食べては…。
シーリーンとアリオンに白の魔法使いの“力”を送っていた。
目が合うとシリルローレルは横に来る。
「もう少し眠っておいで。
当分は我々が“力”を使ってみんなを治すから」
ファオンは頷く。
シリルローレルからは、草原と風の香りがして、一緒に旅をした時ずっと感じていた…頼もしさと安心感が広がって、やがて目が霞んで来る。
…大人で唯一、自分をマトモに面倒みてくれていた人…。
強くて。
頼れて。
けれど厳しくて。
ふいに優しい人…。
弱くて泣いている時はずっと…厳しい表情。
けど頑張った時。
見せてくれる笑顔。
大好きな、笑顔…。
ファオンは瞼に浮かぶ、ずっと旅した頃見続けて来た輝く草原と…自分の力で戦い勝ち取る翼を与えてくれたその人の存在に、心から安心して眠りについた。
ファルコンはやっと起き上がれた時、周囲を見回し、溜息を吐く。
ファオンがセグナ・アグナータとなり…。
ローエングリンで代理で抱ける最初の一人は選考委員のツテの、色っぽい年増の美人だったけれど、その後希望者が多くて一時大混乱し…。
結果シュティッセンが、代理となってローエングリン横のテントに常駐待機する事になって…。
皆、以前の《皆を繋ぐ者》のシュティッセンを心から歓迎していたから、今特例でここにいても不思議では無かった。
けれどシュティッセンはファオンに気遣いして
“自分が代理をしてる事は、ファオンには伏せて”
と言われていて、秘密が苦手なファルコンは、つい表情がむっとしてしまう。
横にはセルティスもいて、レオも目を開けていた。
正直、狭い場所で次々頭上から《化け物》が現れ、どさくさで戦っていて傷だらけだったから、どこに深い傷を負ったとかの意識が無いほど…。
多数の傷を負った。
レオは本当に、頼りになった。
いつ、彼が倒れ自分が正面を守らなくてはならなくなるのかと…。
ずっと気を張っていた。
だから…。
多分、レオには一生頭が上がらない。
礼なんて言っても、レオはいつも
『当然の事をした』
で、礼なんて受け取らないだろう………。
年配の元《勇敢なる者》らが行き来し、桃を囓っては手から“力”を放出していく。
話しかけようにも、相手も歴戦の強者。
強面だわ、態度はどっしり感のある年上の男だから、つい自分が
“ひよっ子”
に感じて、ファルコンは黙り込む。
ああまた…。
手から白の魔法使いの“力”が、レオに向かって放出された。
仄青い光。
レオが気絶する。
今度は自分か…。
ファルコンは自分にその手の平が向けられるのを見た。
やがて全身の傷口が沸き立つように熱くなり…気づいたら意識を無くしていた。
シーリーンは時折、横のアリオンを見る。
正直、彼が逝ってしまうと感じた瞬間、自分でもびっくりする程…。
彼を亡くしたくないと思った………。
“俺がいなくなれば、望み道理ファオンはお前の物だ”
アリオンのくっきりと浮かび上がる青い瞳はそう言っていた。
だが…。
本当に、腹が立った。
“そんな理由で逝く気か?!”
いつの間にか…もう仲間になっていた。
共に戦う…常に互いの背を守りあう仲間に。
シーリーンは溜息を吐く。
飛び込んだ瞬間、背骨にまで達する傷を受け…。
自分でも馬鹿だと思った。
“俺は別れを言う間も無い…”
けれど倒れ込んだアリオンの体の温もりが…暖かかったから…。
“冷たい骸に縋り付いて泣く無様は、てめぇがするんだ”
そう思えて笑えたから…。
まあそれで良しとしよう。
だから…気持ち良く逝けると思った。
なのにその瞬間…白の魔法使いの“力”を感じた。
ありったけの…残る全ての命がアリオンから流れ込む。
致命的だった傷が包まれ…めちゃくちゃ熱くなって…。
そして治っていくのを感じた。
また腹が立った。
“どうしても俺を、お前の冷たい死体に縋りつかせ…泣かせたいのか?!”
生きてたら文句を言おうと思ったけど…。
全部の命をくれ…アリオンは今度こそ…帰って来ない予感に、心の震えが止まらなかった。
でも、今横で寝てる。
「…………………………………………………」
シーリーンはまだ、アリオンが目を覚ましたら文句を言おうか…。
二人共生還したんだから、チャラ。
にしようか…。
を、悩み続けた。
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