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一掃
128 瀕死のアリオン
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ファオンが目を開けた時…ファーレーンが悲しそうな表情で見下ろし、囁く。
「まだ…動くな」
背に、ずきり…!と痛みが走ったけれど、以前の息も止まりそうな程の痛みじゃなかった。
空気が重い…。
キースと…その向こう。
東尾根の長、レドナンドの厳しい表情。
そしてその向こうに…。
「シリルローレル…!」
彼は振り向かない。
幻なんだろうか…。
栗色の肩まである、緩やかなカーブを描く巻き毛…。
緑がかった青の瞳…。
でも彼が見下ろすその下に………。
「駄目だ寝てろ!」
ファーレーンに体を支えられ…それでも必死に起き上がる。
並んで横たわる、シーリーンとアリオン。
アリオンの顔色が最も青い。
まるで死人のよう。
胸元に深い傷…。
アリオンの声が聞こえる。
透けてアリオンの姿が見える。
“…もう…無理だった。
傷が深すぎて。
だから…覚悟を決めた。
シーリーンは余計な傷を負わずに済んだ。
…なのに庇い…背にこんな深い傷を負って………”
「アリオン…」
“…俺の傷は深いし、血を大量に失った。
解るだろう…?
体が…もう保たない”
「嫌だ、アリオン…」
そう呟いて、ファオンは必死に首を横に振る。
その時、アリオンに“力”を送っていた、シリルローレルが振り向く。
「…幾ら念じても滑り落ちて行く。
ファオン。
呼びかけろ。
魂を繋ぎ止めろ」
やっぱり…幻じゃない!
聞き慣れた…師の声!
ファオンは力強く頼れる、師に大きく頷く。
“諦めるの?
シリルローレルが横にいる以上、絶対に助かる…!”
“力がまるで…戻らない”
“お願いアリオン…逝かないで…!
逝かないで………”
“泣くな…。
シーリーンはお前の側を離れない。
奴が居る限り、お前は大丈夫だ”
ファオンはその時、気がつく。
アリオンが残るありったけの気力で…シーリーンを助けようと、白の魔法使いの“力”を使ったのだと。
なら僕は…。
“僕の全部の“力”が、アリオンに流れ込んで蘇生されますように”
そう願い、体から仄青い光がアリオンに流れ込み始めた頃…。
幻のアリオンが怒った。
“…それは脅迫だぞ?!
糞!”
透けたアリオンは大急ぎで体に戻る。
けど一度体を起こして、怒鳴った。
“今直ぐ止めろ!
お前を死なせたら例え生還しても、シーリーンにしこたま殴られる!”
ファオンは一瞬呆け…そして、くす…と笑った。
やがてアリオンの顔に生気が戻る。
テントの中は、安堵の溜息で満たされた。
「まだ…動くな」
背に、ずきり…!と痛みが走ったけれど、以前の息も止まりそうな程の痛みじゃなかった。
空気が重い…。
キースと…その向こう。
東尾根の長、レドナンドの厳しい表情。
そしてその向こうに…。
「シリルローレル…!」
彼は振り向かない。
幻なんだろうか…。
栗色の肩まである、緩やかなカーブを描く巻き毛…。
緑がかった青の瞳…。
でも彼が見下ろすその下に………。
「駄目だ寝てろ!」
ファーレーンに体を支えられ…それでも必死に起き上がる。
並んで横たわる、シーリーンとアリオン。
アリオンの顔色が最も青い。
まるで死人のよう。
胸元に深い傷…。
アリオンの声が聞こえる。
透けてアリオンの姿が見える。
“…もう…無理だった。
傷が深すぎて。
だから…覚悟を決めた。
シーリーンは余計な傷を負わずに済んだ。
…なのに庇い…背にこんな深い傷を負って………”
「アリオン…」
“…俺の傷は深いし、血を大量に失った。
解るだろう…?
体が…もう保たない”
「嫌だ、アリオン…」
そう呟いて、ファオンは必死に首を横に振る。
その時、アリオンに“力”を送っていた、シリルローレルが振り向く。
「…幾ら念じても滑り落ちて行く。
ファオン。
呼びかけろ。
魂を繋ぎ止めろ」
やっぱり…幻じゃない!
聞き慣れた…師の声!
ファオンは力強く頼れる、師に大きく頷く。
“諦めるの?
シリルローレルが横にいる以上、絶対に助かる…!”
“力がまるで…戻らない”
“お願いアリオン…逝かないで…!
逝かないで………”
“泣くな…。
シーリーンはお前の側を離れない。
奴が居る限り、お前は大丈夫だ”
ファオンはその時、気がつく。
アリオンが残るありったけの気力で…シーリーンを助けようと、白の魔法使いの“力”を使ったのだと。
なら僕は…。
“僕の全部の“力”が、アリオンに流れ込んで蘇生されますように”
そう願い、体から仄青い光がアリオンに流れ込み始めた頃…。
幻のアリオンが怒った。
“…それは脅迫だぞ?!
糞!”
透けたアリオンは大急ぎで体に戻る。
けど一度体を起こして、怒鳴った。
“今直ぐ止めろ!
お前を死なせたら例え生還しても、シーリーンにしこたま殴られる!”
ファオンは一瞬呆け…そして、くす…と笑った。
やがてアリオンの顔に生気が戻る。
テントの中は、安堵の溜息で満たされた。
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