アグナータの命運

あーす。

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一掃

127 襲撃の回想

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 デュランはアランの運び込まれたテントの前で…傷を押さえ、屈み込んでいた。

あちこちの傷が熱く…動くと痛むし…息をしても痛むから…出来るだけ、じっ…として。

ファルコンとレオの歩く背を…必死で目で追いながら、坂を上がったな…。

二人の背はいつも…とても頼もしく感じたから。

けれど、尾根直前で一度…もう、駄目だ…。
そう感じて意識が遠くなった時…二人から…光がやって来て、支えてくれた。

目に見えない…実体の無い二人が、両脇から支えてくれていた。

目を開けると、雑兵アルナらだったけど。


居留地に戻った途端、意識を無くしかけたけど、横たえられ止血をされ始めた頃、一気に意識は戻った。

傷にアルコールで飛び上がる程の痛みをあちこちに感じ…血は止まったが痛みで暫く…動けなかった。

でもやっと痛みが引いたから、聞いた。

「アランは?」

キースのテントを目で指され…ふらつきながらも歩き出す。

「…まだ…!」

治療士の声。

確かに…キースのテント前で、力尽きて屈み込んだ。


瞼に浮かぶ…。
たった数分前の出来事。

地下道のような、暗い穴。

前はセルティスで背後にアランが。

暫くすると天井の岩が無くなり、両横は岩の壁。

下は地下水がしみ出て、滑る。

けれど突然…突然その、開いた上から、《化け物》キーナンの襲撃!

真っ赤な目をし、牙の突き出た口を開け、次々に飛び降りて来る…!

体を捻り避けながら、剣を思い切り突き刺す!

剣を引くと同時。
《化け物》キーナンは崩れ落ちる。

前を見る。

レオが前から続々詰めかける《化け物》キーナンと戦い、ファルコンもセルティスも、上から飛びかかる《化け物》キーナンと戦い…背後、アランの方からも…!

総毛立った。
退路がどこにも無い…!

アランに並ぼうとしても…並んだら、剣が振れない…!

「余所見するな!
斬って斬って斬りまくれ!」

セルティスに気合い込めて怒鳴られ、はっ!と剣を振り上げる。

ファルコンが、たった一人前からの襲撃を食い止めるレオの背後から、助けるように《化け物》キーナンを剣を突き刺し、また上から来る《化け物》キーナンへと剣を振る。

デュランはまた一匹斬って、背後に振り向く。

アランの助っ人は俺が…!

けどまた、かぎ爪で傷付けられ、上から襲い来る《化け物》キーナンから必死で頭を庇い、目前に降り立つ化け物の腹を剣を突き刺す!

けどその間に二カ所、かぎ爪で斬りつけられて傷付く。

このまま戦い続けても…いずれ…傷だらけになって戦えず…死ぬ…!

セルティスを見る。

果敢に剣を振り切り、今また背に覆い被さる《化け物》キーナンを背負い投げして地に倒し、止めの剣を突き刺して再び上から襲いかかる《化け物》キーナンに剣を横に振りきる!

《化け物》キーナンは横の壁に激突し、ぼきっ!と折れた骨の音を響かせ、岩道へ落下する。

アランは剣を振り続け、飛び込む《化け物》キーナンを蹴り、剣を突いては引き抜き、忙しく突きまくってた。

まだ…アランの頭上には岩の天井があったから…レオよりはマシ…。

けどレオが倒れたら…!
ファルコンも倒れ、セルティスも…。

いやそれより、アランが殺られたら、俺が前から来る《化け物》キーナンと上から来る《化け物》キーナンを…同時に…殺れる筈も無い…。

“全滅…!”

膝が震えだしたけど、必死に剣を振り続ける。
恐怖を斬りつけるようにして…!

あちこちが熱い…!
また、傷を負う。
復讐のように斬り殺す。
また傷を受ける。
もう…目前に化け物の顔を見ても、怯まなかった。

剣を振り切る!

また背に…腕に…肩に…腰に。

傷から血が流れ出す。
傷を負わされた《化け物》キーナンを切り裂く。
斬って、斬って…!

力の限り斬ってやる!

けれど…絶望を通り越して気が狂い、《化け物》キーナンを切り裂きまくった頃…突然。

本当に突然。
襲撃は止む。

セルティスが足元で呻く、《化け物》キーナンに剣を突き刺し、我に帰る。

「…アリオンかファオンが…杖付きを殺った…」

声に振り向くと、そう呟くアランも血塗れ。

胸の前に幾つも切り傷を負いながら、たった一人で後方を護り切った…。

体中から、力が抜ける。
その時。

倒したはずの《化け物》キーナンが、突然立ち上がる。

どうして…!

竦んでた。
怖く無かったはずなのに…!

ざっっっ!

かぎ爪を避けられないと思った。

けど…目を開けてみると、《化け物》キーナンは背後のアランに振り向き、アランの喉から血が吹き出し…………。


アランの剣は、《化け物》キーナンの腹を貫いて…。

「アラン!」

ファルコンの叫び。
気づくと剣を、振り切っていた。

アランの喉を裂いた《化け物》キーナンの、体を切り裂き…振って、振って、振って………。

はぁはぁはぁ…。

どんっ!
セルティスとファルコンに押し退けられる。

アランの喉から血が、どくどくと流れ…見るとセルティスの腕に支えられた、アランの弱々しい瞳が自分を見…微笑んで……………。

全身で大声で、叫びそうになった。

セルティスとファルコンが必死で…白の魔法使いの“力”を使う。

レオが背後で囁く。

「…ここでは十分な“力”は出ないだろう?」

振り向くと…レオも血塗れ…。

泣き出すのを、必死で堪える。

レオはぽん。と肩を叩いてくれる。

必死で泣くのを我慢する。

「…運び出せ…」

セルティスが頷き…ファルコンが、抱き上げる…。

そのファルコンの背にも肩にも、無数の傷…。

助かった実感が、無い…。

アランはもう、ぐったりと体をファルコンの腕に委ね…………。

後はただ、涙を堪え…次にキースや雑兵アルナらが駆けつけた時、痛みと戦っていたから…。


祈る…間も…無かった。

アランが、死なないように。と。
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