アグナータの命運

あーす。

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一掃

123 北尾根 岩場の“巣”

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 一番北側の坂を、レオはずっと下って行く。
この辺りは岩がごつごつ突き出て、草地は少ない。

暫く北側の岩場を下って行くと、やがて行く手は岩に塞がれる。

その先に行くには二通りの方法があった。

岩の下にある空洞の、岩に囲まれた細い道か。

それとも岩の上に登って少し歩き、岩が途切れたその真下にある、岩に囲まれた細い道に、飛び降りるか。
だが道へ降りるには3m程高さがあって、真っ直ぐ飛び降りると、足を挫きかねない。

どのみち同じ道に出るなら、岩の下に下った方が楽に行ける。

ファオンはレオが、岩の下へ下って行くのを見た。

しゃらん…。

その時、鞘をベルトに繋いでいた、紐がほどけ、紐に付いていた金具が微かな音を立てて下に落ちる。

「…あ…」

背後に歩く、アリオンが落ちた鞘を取り上げ、ファオンは礼を言って鞘を再び、腰のベルトに紐でつるし始めた。

アランが岩下へと下りながら声かける。

「先に行く!」

アリオンはファオンが紐を結んでるのを見ていたが、アランに顔を上げて頷く。

…紐を結び、ファオンが顔を上げた時…。

もう岩下に下る場には《化け物》キーナンが、溢れていた。

「!」

アリオンがいち早く駆けつける。

ファオンは一瞬、呆然とした。

岩の上から次々と《化け物》キーナンらが降りて来て、岩下へと続く道を埋め尽くす。

挟まれたレオ達にどこにも…逃げ場が無い…!

アリオンはレオらの元に駆けつけようと、岩の上から続々来て、岩下の道を塞ぐ《化け物》キーナンらを、剣を抜いて斬りかかる。

ざしっっっ!

次々に剣を振り続け、道を塞ぐ《化け物》キーナンを斬り退けようと剣を左右に激しく振る。

が、岩の上から途切れもせず続々と襲いかかる《化け物》キーナン………。

アリオンは少し後ろに下がりながらも剣を振り、襲いかかる《化け物》キーナンをたった一人で斬り捨てながら、叫ぶ。

「援軍を呼べ!」

ファオンは一瞬、弾かれたように顔を揺らす。

取って…戻って…。

けど…!
岩に囲まれた細い道で、前からも後ろからも…《化け物》キーナンに囲まれ…。

そして…岩の途切れた所では上からも《化け物》キーナンは襲い来て…。

細い岩道で満足に剣も振れない!

レオ達に逃げ場はどこにも無い…!

不思議だったけど…ファオンには見えた。

狭い道の中、前からも上からも…背後からも《化け物》キーナンが襲い来るさ中。

レオが前に剣を振り、ファルコンは上から襲う《化け物》キーナンに剣を突き刺し…。
セルティスは前にいるファルコンとの間に飛び込んで来て、肩に噛みつく《化け物》キーナンに剣を突き通し、デュランは頭上から飛びかかる《化け物》キーナンを、身を屈めながら斜めに剣を振り……。

そしてアランは背後へと、必死に剣を振り続ける姿…。

アリオンですら…たった一人で三匹も四匹も相手に、腕に喰らい付く《化け物》キーナンを蹴りつけ…肩を振って外しながらも剣を振り続け…怯みもせずに戦っている…!


気づくと…駆け、飛んでいた。

横の岩に駆け上る。

アリオンが入り口近くで必死に剣を振る姿を上から眺め、無事を祈りながら岩の上を飛び走り続ける。

岩の上には今や無数の《化け物》キーナン

細い道へと続く、天井岩の途切れた道にも《化け物》キーナンの群れ。

ファオンは岩道より高い、岩の上を飛び、駆け続ける。

《化け物》キーナンの群れで覆い尽くされた天井岩の真下の細い道に、レオ達は閉じ込められ、群れに覆い尽くされやがて…息絶える。

必死だった。

群れの一番最後尾…。
最も安全な場所にいる杖付きはいる筈…!

その時、突然視界に飛び込んで来る。

いた!

レオらのいる道へと続く、くねる岩道の上!

群れの途切れた最後尾!

“みんな、無事で!”

ファオンは心の中で叫び、目前のごつごつとした岩を一気に飛び降りながら、“サーシャ”を抜く。

左右両壁を岩で囲まれた、道は細い。
真上からは斬れない!
前か後ろから飛び込まないと!

目前の、突き出た岩を思い切り蹴る。
飛び上がり、宙で体の向きを変える。

杖付きの、背後目指し、飛び降りる。

ざしっっっ!

後ろから、肩から背にかけて“サーシャ”を振り切り着地する。

はぁはぁはぁ…。

ファオンは断末魔に喘ぎながらも、右手に握る、杖を振ろうとする杖付きの手から、屈んで杖を取り上げると、高く、遠く放(ほお)った。

「!」

群れは一瞬の空白の後、凄い勢いで引き返して来る!

ファオンは岩道の横を駆け上がろうと手を伸ばす。

だが道の両横は真っ直ぐ上に伸び、とっかかりが少ない。

もっとでこぼこしていたら、足場にして蹴って登れるのに!

けれど群れに踏みつぶされると解っていたから、必死で少ない岩の窪みに手をかけ、登る。

背に肩に…腰に、戻り来る群れの《化け物》キーナンの、肘や腕が幾度も当たり、痛みに耐えながら、必死で…群れの通り道から上の岩へと、登り切った。

そこから…行きに来た、もっと高い岩へと逃れないと、引いて来る大量の《化け物》キーナンがいつここを通り、出くわすことか。

…が、あちこちぶつかられた背や肩、腰が痛み、思うように登れない…。

しゃっっ!

熱い…!
左手岩にかけたまま横を見ると、《化け物》キーナンがかぎ爪を振り回し、今まさに喰い付こうと飛び込んで来る。

「!」

ファオンは咄嗟、右手に握る“サーシャ”を突き出した。

ぐさっっっっ!

顔の、ほんの数㎝向こう…。
吐息のかかりそうに近く。
牙を突き出し口を開け、ヨダレを垂らす《化け物》キーナンのおぞましい口…。

けれど“サーシャ”を斜め下に下げると、突き刺された《化け物》キーナンの体は、下の岩道へと落ちて行く。

剣を振って血糊を落とし、鞘に戻すと、ファオンは再び必死に岩を登り始めた。

その時もう…背に受けたかぎ爪の痛みも、あちこち当たった打ち身もが、ただじんわりと熱いだけで、痛みは消し飛んでいた。


引いて行く群れをかなり下に見下ろす、高い岩の上に登り切った時…。

ファオンはぐったり…と、岩の上に身を倒し、荒い吐息を吐き続けた。
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