アグナータの命運

あーす。

文字の大きさ
上 下
123 / 286
一掃

123 北尾根 岩場の“巣”

しおりを挟む
 一番北側の坂を、レオはずっと下って行く。
この辺りは岩がごつごつ突き出て、草地は少ない。

暫く北側の岩場を下って行くと、やがて行く手は岩に塞がれる。

その先に行くには二通りの方法があった。

岩の下にある空洞の、岩に囲まれた細い道か。

それとも岩の上に登って少し歩き、岩が途切れたその真下にある、岩に囲まれた細い道に、飛び降りるか。
だが道へ降りるには3m程高さがあって、真っ直ぐ飛び降りると、足を挫きかねない。

どのみち同じ道に出るなら、岩の下に下った方が楽に行ける。

ファオンはレオが、岩の下へ下って行くのを見た。

しゃらん…。

その時、鞘をベルトに繋いでいた、紐がほどけ、紐に付いていた金具が微かな音を立てて下に落ちる。

「…あ…」

背後に歩く、アリオンが落ちた鞘を取り上げ、ファオンは礼を言って鞘を再び、腰のベルトに紐でつるし始めた。

アランが岩下へと下りながら声かける。

「先に行く!」

アリオンはファオンが紐を結んでるのを見ていたが、アランに顔を上げて頷く。

…紐を結び、ファオンが顔を上げた時…。

もう岩下に下る場には《化け物》キーナンが、溢れていた。

「!」

アリオンがいち早く駆けつける。

ファオンは一瞬、呆然とした。

岩の上から次々と《化け物》キーナンらが降りて来て、岩下へと続く道を埋め尽くす。

挟まれたレオ達にどこにも…逃げ場が無い…!

アリオンはレオらの元に駆けつけようと、岩の上から続々来て、岩下の道を塞ぐ《化け物》キーナンらを、剣を抜いて斬りかかる。

ざしっっっ!

次々に剣を振り続け、道を塞ぐ《化け物》キーナンを斬り退けようと剣を左右に激しく振る。

が、岩の上から途切れもせず続々と襲いかかる《化け物》キーナン………。

アリオンは少し後ろに下がりながらも剣を振り、襲いかかる《化け物》キーナンをたった一人で斬り捨てながら、叫ぶ。

「援軍を呼べ!」

ファオンは一瞬、弾かれたように顔を揺らす。

取って…戻って…。

けど…!
岩に囲まれた細い道で、前からも後ろからも…《化け物》キーナンに囲まれ…。

そして…岩の途切れた所では上からも《化け物》キーナンは襲い来て…。

細い岩道で満足に剣も振れない!

レオ達に逃げ場はどこにも無い…!

不思議だったけど…ファオンには見えた。

狭い道の中、前からも上からも…背後からも《化け物》キーナンが襲い来るさ中。

レオが前に剣を振り、ファルコンは上から襲う《化け物》キーナンに剣を突き刺し…。
セルティスは前にいるファルコンとの間に飛び込んで来て、肩に噛みつく《化け物》キーナンに剣を突き通し、デュランは頭上から飛びかかる《化け物》キーナンを、身を屈めながら斜めに剣を振り……。

そしてアランは背後へと、必死に剣を振り続ける姿…。

アリオンですら…たった一人で三匹も四匹も相手に、腕に喰らい付く《化け物》キーナンを蹴りつけ…肩を振って外しながらも剣を振り続け…怯みもせずに戦っている…!


気づくと…駆け、飛んでいた。

横の岩に駆け上る。

アリオンが入り口近くで必死に剣を振る姿を上から眺め、無事を祈りながら岩の上を飛び走り続ける。

岩の上には今や無数の《化け物》キーナン

細い道へと続く、天井岩の途切れた道にも《化け物》キーナンの群れ。

ファオンは岩道より高い、岩の上を飛び、駆け続ける。

《化け物》キーナンの群れで覆い尽くされた天井岩の真下の細い道に、レオ達は閉じ込められ、群れに覆い尽くされやがて…息絶える。

必死だった。

群れの一番最後尾…。
最も安全な場所にいる杖付きはいる筈…!

その時、突然視界に飛び込んで来る。

いた!

レオらのいる道へと続く、くねる岩道の上!

群れの途切れた最後尾!

“みんな、無事で!”

ファオンは心の中で叫び、目前のごつごつとした岩を一気に飛び降りながら、“サーシャ”を抜く。

左右両壁を岩で囲まれた、道は細い。
真上からは斬れない!
前か後ろから飛び込まないと!

目前の、突き出た岩を思い切り蹴る。
飛び上がり、宙で体の向きを変える。

杖付きの、背後目指し、飛び降りる。

ざしっっっ!

後ろから、肩から背にかけて“サーシャ”を振り切り着地する。

はぁはぁはぁ…。

ファオンは断末魔に喘ぎながらも、右手に握る、杖を振ろうとする杖付きの手から、屈んで杖を取り上げると、高く、遠く放(ほお)った。

「!」

群れは一瞬の空白の後、凄い勢いで引き返して来る!

ファオンは岩道の横を駆け上がろうと手を伸ばす。

だが道の両横は真っ直ぐ上に伸び、とっかかりが少ない。

もっとでこぼこしていたら、足場にして蹴って登れるのに!

けれど群れに踏みつぶされると解っていたから、必死で少ない岩の窪みに手をかけ、登る。

背に肩に…腰に、戻り来る群れの《化け物》キーナンの、肘や腕が幾度も当たり、痛みに耐えながら、必死で…群れの通り道から上の岩へと、登り切った。

そこから…行きに来た、もっと高い岩へと逃れないと、引いて来る大量の《化け物》キーナンがいつここを通り、出くわすことか。

…が、あちこちぶつかられた背や肩、腰が痛み、思うように登れない…。

しゃっっ!

熱い…!
左手岩にかけたまま横を見ると、《化け物》キーナンがかぎ爪を振り回し、今まさに喰い付こうと飛び込んで来る。

「!」

ファオンは咄嗟、右手に握る“サーシャ”を突き出した。

ぐさっっっっ!

顔の、ほんの数㎝向こう…。
吐息のかかりそうに近く。
牙を突き出し口を開け、ヨダレを垂らす《化け物》キーナンのおぞましい口…。

けれど“サーシャ”を斜め下に下げると、突き刺された《化け物》キーナンの体は、下の岩道へと落ちて行く。

剣を振って血糊を落とし、鞘に戻すと、ファオンは再び必死に岩を登り始めた。

その時もう…背に受けたかぎ爪の痛みも、あちこち当たった打ち身もが、ただじんわりと熱いだけで、痛みは消し飛んでいた。


引いて行く群れをかなり下に見下ろす、高い岩の上に登り切った時…。

ファオンはぐったり…と、岩の上に身を倒し、荒い吐息を吐き続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...