アグナータの命運

あーす。

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キーナンの森

121 ファオンの朝

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 テントの入り口の布が払われ、ファオンは顔を上げる。

アリオンが、顔を出して言った。

「リチャードと、先に戻ってる。
朝になったらシーリーンも元気になるだろうから、二人で戻って来い。
あ、キースも連れて」

「…リチャード…見つかったの?」
「ああ」

アリオンは行こうとして、また顔を出す。

「朝、多分キリアンもまだいるから、会える」

ファオンは一辺に嬉しそうに微笑った。


アリオンは、ロレンツと熱烈に絡んでたキリアンを思い返しながら、思った。

「(……朝にはマトモに戻ってる…よな。
……………多分)」


テントの布が落ちて、ファオンはシーリーンの横で、目を閉じた…。

立て続けの襲撃…。

思い切り…駆け回って、剣を振り切った…。

走ってると、羽根が生える。

剣を振ると、力が沸き上がる…。

少し前の…剣を取り上げられた自分に言った。

“待ってて…。
もう少し。
そしたらきっと…取り戻せる。

羽根も力も"


ファオンが目を覚ました時…。
テントに朝日が射し込んでいて…気づくと口付けられていた。

「…ん…っ」
シーリーンが唇を離すから、聞いた。

「背中は…?」
「殆ど痛まない…」

ファオンも気づく。
ぶつかられた肩も…動く時僅かな痛みが走る程度…。

無視できるくらいの…微かな痛み。

「アリオンは…?」

そう尋ねられてファオンは、直ぐ間近のシーリーンのプラチナの髪に囲まれた、美麗な微笑に見とれながら、言った。

「北尾根に…帰った」

シーリーンはそれを聞くと
「…そうか…」
そう言って、ファオンを見つめ…一度軽く唇にキスすると、ファオンの上からどいた。

「…………………あの…」

「レオの命令だ。
一人では抱くなと。
残念だが」

ファオンは…暖かで安心なシーリーンの胸元が…離れて行ったことを残念に感じた。

シーリーンは気づいたように…横を向いて胸に、抱き寄せてくれた。

「…キリアンがいると…安心?」

シーリーンの問いに…彼の暖かな胸元に顔を寄せて囁き返す。

「…いつも…キリアンだけが僕の側にいてくれた。
『鬱陶しい』とか『邪魔』…って言いながら…」

シーリーンは、くすり。と笑う。

「…だから…何かあるとキリアンの胸に飛び込むのか?」

「…凄く…安心するから…。

僕…家で父様やファーレーン兄様に避けられてたし…。
キリアンが南領地の子供達の集まりに出て…北領地の集まりに僕が行く頃、一緒じゃ無くて…。
…不安で…。
でもやっぱり…」

そう言っていっそう、胸に抱きつくから、シーリーンはファオンに屈む。

「…虐められた…。
でもアリオンが…遠かったけど、時々気に掛けてくれて…。
でもアリオンは人気者で…ファーレーン兄様みたいに近寄り難かった」

「…俺は?」

ファオンは顔を上げる。
「…少しキリアンに似てた。
意地悪言うのに…肝心の時は、凄く優しいから」

シーリーンは、ぷっ…と笑う。
が、突然真顔になる。

「…お前には…アリオンがファーレーンで、俺がキリアンに見えてたのか?」

「…っぽい。
くらい。

…顔とか雰囲気は全然違うから」

「…で。
お前、ファーレーンとキリアンとどっちが好き?」

ファオンはシーリーンを見つめる。

ブルー・グレーの瞳が朝日の輝きで、宝石みたいにキラキラ輝いてた。

「…近いのはキリアンで遠いのがファーレーンだけど…」
「ど?」
「どっちも好き。
違う風に好きで、比べられない」

「そうか…」

ファオンはその言葉ががっかりしてる風に聞こえて、囁く。

「…アリオンとシーリーンも…違っててどっちも好きで、比べられない」

シーリーンが、頷く。

「…でもどっちも…凄く好き」

そう言った時、シーリーンはとても綺麗に微笑んだ。

「そうか…」

ファオンはその時、そう言ったシーリーンの唇を意識した。

ピンク色の…けど一たん口付けるととても情熱的に感じる…シーリーンの唇。

シーリーンは少し悲しそうに眉を寄せた。
「…今キスしたら、歯止めが利かない」

「?」

シーリーンは困った様に腕にファオンを抱くと、髪に口付けて囁く。
「お前に挿入(い)れて、気持ちよくなっちまう」

ファオンは真っ赤に頬を染めると、シーリーンの腕の中で頷いた。



 朝、皆がテントから出て広場を行き来しながら、身仕度をしてる。

ファオンはシーリーンと一緒にテントを出ると、湯殿から戻ってくる濡れ髪のキリアンを見つけて、突っ走る。

どんっ!

「おぅっ!
…お前…腹一杯だったら、逆流するところだぞ?!」

「だって昨夜、お風呂の後姿見えないから!
黙って南尾根に帰ったのかと思った!」

「…昨夜…?
…昨夜…………」

ファオンにその置き去りにされた、シーリーンが呟く。
「…アリオン…帰ったんじゃないのか?」

ファオンが顔を上げる。
キリアンの離れた横に、アリオンとリチャードが立っていた。

アリオンがそっぽ向き、リチャードはキリアンをじっ…と見つめてた。

ファーレーンもキースもテントから出て来る。

更にロレンツもテントから出て来て、アントランの姿を見つけ、テントを指差す。


ファオンは皆が、抱きついてるキリアンを凝視してるのに気づき
「?」
と皆を見回した。

テントに入ったアントランの雄叫びがその場に響き渡る。

「何だこりゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「ん~~~」

キリアンは呻いた後、顔を上げる。
「…なんか…東尾根の三馬鹿に怒鳴った後、良く覚えてない…。
あ?
あ…。
裸にされて…縛られてた気もする…」

そして、ファーレーン、キース。

そしてその後、ロレンツをじっ。と見て言った。

「なんか俺、凄い夢見た」

それを聞いた途端、ロレンツが深く俯く。

アリオンが、口を開きそうなリチャードの腕に、肘をぶつけ
『黙ってろ!』
と目で睨む。

シーリーンは皆の空気がかなり…変で、ファオン同様それぞれの表情を目に止める。

アントランが、テントから出て叫んだ。

「強盗か?!
なんであいつら、縛られてる?!
…待てよ。《勇敢なる者》レグウルナスのテントに強盗?!
…取る物無いし…わざわざ《勇敢なる者》レグウルナスなんて…襲うか?!」

キースだけが、大きく頷いて言った。

「…そりゃ《勇敢なる者》レグウルナスを縛れる者は、身内だろう?」

「キリアンだろう?!」

アントランが叫ぶと、キリアンは額に指付けて呻く。
「二日酔いの酷いのくらい、頭くらくらしてる俺に、それ言うかな」

「…だから、お前だ!」

叫ぶアントランの横に来て、ロレンツが囁く。
「いや、俺だ。
ところで……………」


ファオンからは、ロレンツがアントランに、何て言ってるのか聞こえなかった。
それくらい小声だったから。

ファオンはキリアンを見上げて問う。
「…頭が、痛いの?」

キリアンはファオンを見下ろす。

餓鬼の頃…風邪引いたりした時、いつも…こんな表情で尋ね…。
治るまで必死で…小さな手で布を絞り額に当てて
『まだ熱がある…苦しい?
どこか痛い?』

そう、あどけない青の瞳を向けて、尋ねてた。

が、ふと我に帰ると、考える。

「…気分は…爽快なんだけど。
なぜか頭にどんより…雲がかかったみたいに…記憶がはっきりしない…。
えーーーーーーーと……………」

ファオンも…そしてシーリーンもが、感じた。
その場につっ立つファーレーン、リチャード、そしてロレンツが、キリアンの言葉に耳そばだててるのを。

ファオンはそっとキリアンを見上げ、尋ねる。

「…夕べのこと、覚えてないの?」

キリアンは頭を掻いて暫く考えてた。

「………………………………………」

長い沈黙に、全員がキリアンの、言葉を待つ。

キリアンはけど、突然顔を上げ、明るく言った。

「まっ、いつかは思い出すだろ?」

シーリーンはリチャードが、がくっ!と肩揺らし、ファーレーンもキースも俯いて顔背け、ロレンツが思い切り深く俯いた後、溜息吐くのを聞いて、アリオンに視線を送る。

アリオンは目で
『後で説明する』
と告げていたので、シーリーンは頷き、アリオンは横を向いて、頷き返した。

アントランがキリアンの言葉を聞いた後、横のロレンツにこっそり
「媚薬の中和薬…使うと、ああいあ事も間々ある」
と囁き、ロレンツが声殺し
「殆ど塗ってないぜ?」
と言い返してた。

アントランは肩竦め、またテントに戻り、直ぐ、ばっっっっ!
とテントの入り口を払って怒鳴った。

「三人共、おおおおおお犯されてるぞ!
絶対、キリアンだろう?!」

ロレンツは横で頷くと
「…それはヤツだ」
と言い、キリアンはまだ、腰にファオンを巻きつけたまま、ぼやく。

「記憶が無いんだから、チャラだろう?!」

その場にいたキースも腕組んで俯き、ファーレーンも背を向け、皆沈黙したままその場を離れて行く。

シーリーンはアリオンが、リチャードを拉致ってるように腕を掴み強引に引きずりながら、テントへ歩き出すその横に並ぶ。

リチャードは引きずられながら、背後のキリアンに怒鳴った。

「本当に何も、覚えてないのか?!」



シーリーンは、アリオンがリチャード連れて帰ろうとした時のいきさつを、リチャードを間に挟んでテントの中で聞く。

「……………………つまり…。
リチャードは助けずずっと隠れて覗いてて…。
ファーレーンとキリアンを、キースとロレンツが助け…。
その後、ロレンツはキリアンの壮絶な後始末に付き合わされたのに…」

アリオンが頷いて、後を継ぐ。
「…キリアンは覚えてない」

アリオンはシーリーンが深い溜息を吐き出すのを聞いた。

リチャードが憮然。
と口開く。
「俺の事、ただの覗きみたいに思ってるかもしれない。
が、言っとくがキリアンはタイミングが難しいんだ!
ちょっと躊躇してる間に、どんどん先の読めない事態になってる!」

シーリーンは呆れてリチャードを見る。
アリオンがぼそっと言う。

「…それでもただの、覗きだろう?」

リチャードは憤慨した。
「あの三馬鹿犯した時だって!
あっという間だったんだぞ?
こっちは必死で見たくない場面顔背けようとしてるのに!
…あいつ…間を外して
『もういいだろう』
と視線戻すともう、次を犯してた!」

「…見るに耐えないもの見せられようが…。
悪いのは覗いてたお前だろう?」

シーリーンに言われて、リチャードは顔を下げる。
「…悪夢のような光景だった………」

シーリーンがアリオンを見ると、アリオンも暗くなって呟く。
「…確かに、尻丸出しでみっともなく縛られてるのを見ると、凄く哀れだった。
最中を見たリチャードが気の毒な気にもなるくらい」

シーリーンはアリオンとリチャードの、暗い様子を目を見開いて見る。

「…更に…あれだけキリアンに、熱烈に色っぽく迫られ、すっかりソノ気にさせられ、キリアンとしまくったロレンツのコト…。
あいつ(キリアン)、全然覚えてないんだぜ?!
一番罪作りだ」

アリオンとシーリーンは、そう怒鳴るリチャードが真剣にショックを受けてるのを見る。

「…流石にキリアンへの恋心は消えたか」

リチャードが呟く。
「ファオンを忘れる為なら、キリアンにだって乗り換えてやる!
と前向きに決意したけど…」

二人は同時に溜息交じりに頷いた。

「今は、思いっきり後ろ向きなんだな?」

シーリーンに言われて、リチャードは思い切り、頷いた。
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