アグナータの命運

あーす。

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キーナンの森

120 リチャード不在の理由

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 ファオンはアリオンに背を押され、シーリーンのいるテントへと戻って行く。

けれどアリオンが周囲を見回すのを見て、囁く。

「誰を探してるの?」

アリオンが振り向く。
「…リチャードの姿が消えてる」

ファオンも思わず…東尾根の皆が、レドナンドに酒を振る舞われて、焚き火を囲み陽気に騒ぐ場に振り向く。

「…まあ…ここならはぐれても平気か」

アリオンの声に、ファオンは頷く。

アリオンが優しく微笑む。
「もう…平気か?」

ファオンは俯く。
「…うん…。
だけど…僕…どうしていいのか…よく解らない…。
アリオンも好きだけどシーリーンも大切で…どちらにもちゃんとした返事なんて、出来ないのに…。
なのに…助けてくれて…護ってくれて………。
僕が…迂闊だか…ら…」

アリオンが、顔を間近に傾け、見つめて来る。
ファオンはどきん!と胸の鼓動が高鳴った。

「俺もシーリーンもお前が好きで、勝手にやってる事だ。
負担に思わなくていい」

ファオンは暫く…そう言ったアリオンの、男らしい顔に見惚れた。

意識した途端、アリオンの…逞しい肩だと胸とかを意識して、もっと…どきどきする。

昔も…どきどきしたけど、今はもっとアリオンは逞しくて立派な青年に成長していて…。

シーリーンもそうだけど、二人を意識すると、顔が真っ赤になって自分が保てない。


テントの布をアリオンが払ってくれて、中に入る。

シーリーンはもう、寝息を立てていた。

ファオンは、ほっ…とする。

「…休んでろ。
俺は湯に浸かってくる」

ファオンは頷き、シーリーンの横に体を横たえ、眠るシーリーンの顔を見る。

長い睫…。
まだ、少し青冷めた顔…。

真っ直ぐの…綺麗な鼻筋の形の良い鼻…。
ピンク色の唇。

ファオンはシーリーンの顔を見つめながら…心の中で祈った。

“シーリーンの痛みが全て消えて…支障なく、動けるようになりますように”

幾度も、幾度も心を込めて。


アリオンは湯殿に向かう。
その途中で、リチャードの姿に気づく。

声をかけようとする。
が、リチャードはあるテントへ入って行く。

「(東尾根に…テントを尋ねる知り合いがいたのか?)」

けれど直ぐ出て来ると…別のテントへと行き、出入り口で無く、別の…布の垂れた裾を、そっ…と上げて、中をこっそり覗いてる。

「…何してる?」

その時の、リチャードの驚きよう。

アリオンは驚いて振り向く、リチャードが覗いていたテントの裾を少し上げて、中を覗いた。

「あ…!そ…!」

…中ではキリアンが、艶っぽい様子でロレンツと…絡んでる。

「………………………」

アリオンは、横に立ち上がるリチャードの腕を拉致ると、言った。

「覗いた理由を聞こうか?」

リチャードの腕を掴んだまま、リチャードが出て来たテントに入る。
中は無人だった。

「…ここは誰のテントだ?」
「…多分…アンドレア?」

アリオンはふ…と、さっき見た光景を思い浮かべる。

確か手前に…縛られた男が三人…。

リチャードをジロリ…。
と見ると、リチャードは突然口を開く。

「…湯殿に向かったら、キリアンが東尾根の三人に…気絶して抱えられて、さっきのテントに連れ込まれてた。
その時は確信出来なかったけど…。
奴ら、キリアンを裸にして縛ってたし…」

「…助けなかったのか?」
「だってキリアンだぜ?」
「だから?」
「…完全に危ない場面なら…助けるけど。
気絶してても…もしかして、フリをして逃げ出す機会を伺ってるとか…」

アリオンは溜息を吐いた。

「…で?」
「見てたら…奴ら、ロスの根らしき媚薬、キリアンの…解るだろ?
挿入場所に塗り込んでて。
でその辺りで、助けに入ろうとか思ってたら…」

「てたら?」

「…キリアンの奴、凄く色っぽくドロイドに迫りだした…。
解るだろ?
それで…助ければいいかどうか、凄く…悩むじゃ無いか!」
「俺なら助ける」
「相手が三人でも?」

アリオンは、頷く。

リチャードは顔を下げる。
「…で?」
アリオンに聞かれ、リチャードは顔を上げる。

「ザスナッチが姿を消して、二人になったけど…もうキリアンの奴、壮絶に色っぽくドロイドに迫って…。
その…挿入(い)れてだとか…」

「薬で意識が飛んでたんじゃないのか?」
「……………………そうなのか?」

「それで?」
「…ファーレーンが来て。
奴ら本命はファーレーンらしくて。
けど暫くしたら…迫られてたドロイドが、キリアンに…男根を思い切り握り込まれて、悲鳴上げて泡吹いて気絶した」

「…正気に、戻ったんだな」

リチャードはまた、アリオンを見る。

「キースとロレンツが助けに入って。
けどキリアンはその後、自分を拉致した三人を…」
「三人を?」
「責任取れと、犯した」

「…………………………………で、薬が抜けず、安全なロレンツに迫ったんだな。
納得行った」

「納得?!あれで?!
ロレンツに絡みついてたキリアン、見たろう?!」

「…だってロスの根だろう?
ああなっても不思議じゃない」

「………………………………………。
俺も…」

「?」
「…ファオンの時、あれ使ってたら…泣かれたりずっと虐めたと恨まれずに、済んだかな」
「…大人でもキツイのに、餓鬼にそんな薬使ったら、完全に鬼畜だぞ」

「………………………………………」

リチャードが黙ったので、アリオンは言った。

「北尾根に帰るぞ!」

リチャードは項垂れて、頷いた。
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