アグナータの命運

あーす。

文字の大きさ
上 下
113 / 286
キーナンの森

113 森からの脱出

しおりを挟む
 皆、枝を伝い、森の出口へと向かう。

交差した、襲撃する《化け物》キーナンらが通る筈だった道へと出る。

がレドナンドは枝の上で、来い!と首を振る。

皆道へは降りず、道の横に並ぶ木の上を伝い行く。


ファルコンが後ろから来て、シーリーンの胴に腕を回し、抱き寄せて一緒に歩く。

シーリーンは俯き、けれど力強いファルコンの支えに、プラチナの髪を振って微かに頷き、礼を告げる。


皆、交差する太い枝を伝いながら、木の途切れる所まで移動する。

その先の、草地広がる森の出口まで来ると、少し先に雑兵アルナらと東尾根の三人が待つ。

雑兵アルナらを森の出口へと導いていたキースもそこにいて、枝の上のレオに頷く。

レオは『ご苦労』と頷き返し、背後に振り向く。
ファルコンの反対横に来ると、シーリーンを伺う。

「…大丈夫か?」
「深くない。止血も受けた」
「…無理するな」

シーリーンは、頷く。

ファーレーンはまだ、ぽろぽろと頬に涙を伝わせる、小柄なファオンに振り向く。

「…これだけの《化け物》キーナンがいる森をウロつき、あれだけの傷しか、負っていない。
それは…たいした事だ」

ファオンは顔を上げる。
ファーレーンは、幼子のようなファオンの様子に、途惑った。

が、ファオンの細い肩に腕を回すと、ファオンはまるで…擦り寄るようにして、ファーレーンに身を寄せた。


レオが、シーリーンを受け止めようと枝から飛び降りる。
が、既にレドナンドが、負傷したシーリーンを下から抱き止めていた。

ファルコンがシーリーンの腕を掴み、体をそっ…とレドナンドの上へ放す。

レドナンドは頷き、シーリーンの体を抱き寄せて、下へと下ろした。

次にレドナンドは屈み、シーリーンの両足の下に腕を入れて抱き上げようとするから、シーリーンは慌てて言う。
「歩ける…!」

がもうレドナンドはシーリーンの両足の下にいれた腕を引き上げ、抱え上げて笑う。
「だが暫く、この方が血は流れずに済む」

シーリーンは仕方なさげに、レドナンドの首に腕を回し、抱きつく。
「…俺は、重いぞ?」

アンドレアとザスナッチはその様子を見て、顔を見合わせる。

ドロイドが、言った。
「ウチの長は怪力だ」

アンドレアが言う。
「怪我人は大抵抱き上げられて、ザマは無い」

ザスナッチも、背を向けて言った。
「諦めろ」

レオがレドナンドの横に来ると、言った。
「後で代わる」
「腕が痺れたら頼む」

レオは、頷いた。


風吹き抜ける草原の坂を上がって行く。
レドナンドは横のレオに囁く。

「日が傾いてきた。
東尾根のテントが近い。
休んでいけ」

レオは、頷いた。

背後に振り向き、雑兵アルナらに先に戻るよう告げる。
「…テスに桃を持ってくるよう、伝えてくれ。
護衛を付けろ」

雑兵アルナの隊長は、頷いた。

アランがレオに耳打ちする。

「北尾根全員が東尾根にいちゃ、マズイだろう?」

レオが、頷く。
「まだ、元気なのは?」

「俺と…ファルコン?」
「…セルティスとデュランも、ファルコンに連れて戻らせろ。
本当はキースを戻らせたいが…」

キースはファーレーンの横を、歩いていた。

「…戻りそうに無い」

アランは苦笑し、頷いて背を向け、ファルコンに伝えに行った。


北尾根に戻る男らを見送り、残る一行は傾きかけた陽の中、東尾根居留地を目指す。

けれど途中、体中血塗れのキリアンとロレンツが背を向け、岩場の横の坂道を、上がって行く姿に出会う。

全員が、岩の横を俯き歩く、真っ赤な血に染まった衣服の二人の姿に、ぎょっ!と目を見開く。

キリアンは気づいて顔を、上げる。
横のロレンツが、くたびれきった様子で、言った。

「ウチの長、見なかった?」

レオが首を横に振る。

「…どうした?」

キリアンがロレンツを見上げ、ロレンツが肩竦める。

「最悪。
ウチの一人が、岩場の“巣”の杖付きを殺った。
俺とキリアンは岩に登って、背後からぞろぞろ《化け物》キーナンが来やがって、喰われる寸前」

キリアンが顔を上げる。
「一応その時、誰かが杖付きを殺ったらしく、引き返して行った。
で、俺とロレンツは岩から降りようとした」

ロレンツがキリアンを見る。
「こいつが足滑らして俺巻き添えにして…」

キリアンが俯く。
「落下地点が、喰われてバラバラに食いちぎられた、《化け物》キーナンの死体の上。
背中に肉の欠片とか、付いてない?」

振り向き、背を向けるキリアンの衣服に、確かに肉の欠片が付いていて、全員

「ヴっ!」

と、顔を背ける。

ファーレーンがキリアンを見つめる。

「それでどうして東尾根に来てる?」

キリアンがロレンツを見上げる。
ロレンツは金髪に血を貼り付けて俯く。

「…だってそりゃ…喰ってた途中の《化け物》キーナンと目が合った途端、、怒って追いかけて来るし」

キリアンも、言った。
「夢中で逃げてたから、今どこかなんて、解るか?」

言った途端、ファーレーンの横に居たファオンが、キリアンの姿を見て飛び出す。

どさっ…!

血塗れのキリアンの胸に飛び込み、抱きつく。

皆が、おえっ!と呻いて顔を、背けた。

キリアンはくたびれた様子でファオンの背を抱き止め、呻く。
「お前、今そりゃ…マズイ状態だぞ?
俺、《化け物》キーナンの血浴びて、とんでもなく臭いから」

ロレンツが、横でファオンを指差す。
「…泣いてる」

キリアンはロレンツを見、次にこちらを見てる、北尾根と東尾根の男らを睨む。
「誰が、虐めた!
兄貴か?!」

ファーレーンは俯き、抱きつくファオンは首を横に振る。

「じゃ、どうせまた、リチャードだろう?!」

皆一斉にリチャードを見る。
が、リチャードは必死で首を横に、ぶんぶん振っていた。

キリアンは首を回す。
「…するっ…てーと、東尾根の三馬鹿大将か?!」

突然、ドロイド、アンドレア、ザスナッチがぎっ!と目を剥く。

「てめぇ!南のじゃじゃ馬!」
「お前いつも俺らのこと、三馬鹿大将って呼んでたのか?!」

ロレンツが俯く。
キリアンがロレンツを、チラ。と見上げる。

「三馬鹿大将。で通じたぜ?」

ロレンツも、頷く。
「自分らの事言われてるって、解ってんだな」

キリアンが怒鳴る。
「東尾根に近いのか?!
風呂と着替え貸してくれ!
もう臭さが限界だ!」

ドロイドが怒鳴る。
「長に聞け!」

が、レドナンドはシーリーンを抱き上げたまま、レオはその横で、さっさと坂の上を歩き去る。

ファーレーンが頷く。
「ファオンを慰めてやれ」

キリアンはまだ、胸に顔埋める、ファオンに振り向く。
「お前。
顔、《化け物》キーナンの血だらけだろう?」

ファオンはキリアンの、胸に顔埋めたまま、頷く。

「…臭く、無いのか?」

ファオンは顔を埋めたまま、小声で言う。
「…少し、臭い」

キリアンは、そうだろう。と頷く。
「…一緒に風呂行きだな」
ファオンは
「キリアンと一緒なら、いい」
と、まだ胸に顔を伏せて言う。

「…お前幾つだよ?
…もう餓鬼じゃ、無いんだろう?」

けれどそう言いながら、キリアンはファオンの肩を抱いて促し、東尾根居留地に向かう、一同の方へ、ロレンツと一緒に歩き出した。

三馬鹿大将。
は後ろから付いて歩く、キリアンとロレンツに振り向くと、怒鳴った。

「離れて歩け!」
「臭いだろう?!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

興味本位で幼なじみ二人としたら開発されたんだけど

BL / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:96

悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

BL / 連載中 24h.ポイント:2,577pt お気に入り:10,415

灰かぶりの王子様

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:41

個人授業は放課後に

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:222

平穏なβ人生の終わりの始まりについて(完結)

BL / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:1,330

貴方は俺を愛せない

BL / 連載中 24h.ポイント:305pt お気に入り:234

騎士調教~淫獄に堕ちた無垢の成れ果て~

BL / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:1,793

人間アルコールサーバー ~barエマへようこそ~

BL / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:49

メイストーム

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:13

処理中です...