アグナータの命運

あーす。

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キーナンの森

113 森からの脱出

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 皆、枝を伝い、森の出口へと向かう。

交差した、襲撃する《化け物》キーナンらが通る筈だった道へと出る。

がレドナンドは枝の上で、来い!と首を振る。

皆道へは降りず、道の横に並ぶ木の上を伝い行く。


ファルコンが後ろから来て、シーリーンの胴に腕を回し、抱き寄せて一緒に歩く。

シーリーンは俯き、けれど力強いファルコンの支えに、プラチナの髪を振って微かに頷き、礼を告げる。


皆、交差する太い枝を伝いながら、木の途切れる所まで移動する。

その先の、草地広がる森の出口まで来ると、少し先に雑兵アルナらと東尾根の三人が待つ。

雑兵アルナらを森の出口へと導いていたキースもそこにいて、枝の上のレオに頷く。

レオは『ご苦労』と頷き返し、背後に振り向く。
ファルコンの反対横に来ると、シーリーンを伺う。

「…大丈夫か?」
「深くない。止血も受けた」
「…無理するな」

シーリーンは、頷く。

ファーレーンはまだ、ぽろぽろと頬に涙を伝わせる、小柄なファオンに振り向く。

「…これだけの《化け物》キーナンがいる森をウロつき、あれだけの傷しか、負っていない。
それは…たいした事だ」

ファオンは顔を上げる。
ファーレーンは、幼子のようなファオンの様子に、途惑った。

が、ファオンの細い肩に腕を回すと、ファオンはまるで…擦り寄るようにして、ファーレーンに身を寄せた。


レオが、シーリーンを受け止めようと枝から飛び降りる。
が、既にレドナンドが、負傷したシーリーンを下から抱き止めていた。

ファルコンがシーリーンの腕を掴み、体をそっ…とレドナンドの上へ放す。

レドナンドは頷き、シーリーンの体を抱き寄せて、下へと下ろした。

次にレドナンドは屈み、シーリーンの両足の下に腕を入れて抱き上げようとするから、シーリーンは慌てて言う。
「歩ける…!」

がもうレドナンドはシーリーンの両足の下にいれた腕を引き上げ、抱え上げて笑う。
「だが暫く、この方が血は流れずに済む」

シーリーンは仕方なさげに、レドナンドの首に腕を回し、抱きつく。
「…俺は、重いぞ?」

アンドレアとザスナッチはその様子を見て、顔を見合わせる。

ドロイドが、言った。
「ウチの長は怪力だ」

アンドレアが言う。
「怪我人は大抵抱き上げられて、ザマは無い」

ザスナッチも、背を向けて言った。
「諦めろ」

レオがレドナンドの横に来ると、言った。
「後で代わる」
「腕が痺れたら頼む」

レオは、頷いた。


風吹き抜ける草原の坂を上がって行く。
レドナンドは横のレオに囁く。

「日が傾いてきた。
東尾根のテントが近い。
休んでいけ」

レオは、頷いた。

背後に振り向き、雑兵アルナらに先に戻るよう告げる。
「…テスに桃を持ってくるよう、伝えてくれ。
護衛を付けろ」

雑兵アルナの隊長は、頷いた。

アランがレオに耳打ちする。

「北尾根全員が東尾根にいちゃ、マズイだろう?」

レオが、頷く。
「まだ、元気なのは?」

「俺と…ファルコン?」
「…セルティスとデュランも、ファルコンに連れて戻らせろ。
本当はキースを戻らせたいが…」

キースはファーレーンの横を、歩いていた。

「…戻りそうに無い」

アランは苦笑し、頷いて背を向け、ファルコンに伝えに行った。


北尾根に戻る男らを見送り、残る一行は傾きかけた陽の中、東尾根居留地を目指す。

けれど途中、体中血塗れのキリアンとロレンツが背を向け、岩場の横の坂道を、上がって行く姿に出会う。

全員が、岩の横を俯き歩く、真っ赤な血に染まった衣服の二人の姿に、ぎょっ!と目を見開く。

キリアンは気づいて顔を、上げる。
横のロレンツが、くたびれきった様子で、言った。

「ウチの長、見なかった?」

レオが首を横に振る。

「…どうした?」

キリアンがロレンツを見上げ、ロレンツが肩竦める。

「最悪。
ウチの一人が、岩場の“巣”の杖付きを殺った。
俺とキリアンは岩に登って、背後からぞろぞろ《化け物》キーナンが来やがって、喰われる寸前」

キリアンが顔を上げる。
「一応その時、誰かが杖付きを殺ったらしく、引き返して行った。
で、俺とロレンツは岩から降りようとした」

ロレンツがキリアンを見る。
「こいつが足滑らして俺巻き添えにして…」

キリアンが俯く。
「落下地点が、喰われてバラバラに食いちぎられた、《化け物》キーナンの死体の上。
背中に肉の欠片とか、付いてない?」

振り向き、背を向けるキリアンの衣服に、確かに肉の欠片が付いていて、全員

「ヴっ!」

と、顔を背ける。

ファーレーンがキリアンを見つめる。

「それでどうして東尾根に来てる?」

キリアンがロレンツを見上げる。
ロレンツは金髪に血を貼り付けて俯く。

「…だってそりゃ…喰ってた途中の《化け物》キーナンと目が合った途端、、怒って追いかけて来るし」

キリアンも、言った。
「夢中で逃げてたから、今どこかなんて、解るか?」

言った途端、ファーレーンの横に居たファオンが、キリアンの姿を見て飛び出す。

どさっ…!

血塗れのキリアンの胸に飛び込み、抱きつく。

皆が、おえっ!と呻いて顔を、背けた。

キリアンはくたびれた様子でファオンの背を抱き止め、呻く。
「お前、今そりゃ…マズイ状態だぞ?
俺、《化け物》キーナンの血浴びて、とんでもなく臭いから」

ロレンツが、横でファオンを指差す。
「…泣いてる」

キリアンはロレンツを見、次にこちらを見てる、北尾根と東尾根の男らを睨む。
「誰が、虐めた!
兄貴か?!」

ファーレーンは俯き、抱きつくファオンは首を横に振る。

「じゃ、どうせまた、リチャードだろう?!」

皆一斉にリチャードを見る。
が、リチャードは必死で首を横に、ぶんぶん振っていた。

キリアンは首を回す。
「…するっ…てーと、東尾根の三馬鹿大将か?!」

突然、ドロイド、アンドレア、ザスナッチがぎっ!と目を剥く。

「てめぇ!南のじゃじゃ馬!」
「お前いつも俺らのこと、三馬鹿大将って呼んでたのか?!」

ロレンツが俯く。
キリアンがロレンツを、チラ。と見上げる。

「三馬鹿大将。で通じたぜ?」

ロレンツも、頷く。
「自分らの事言われてるって、解ってんだな」

キリアンが怒鳴る。
「東尾根に近いのか?!
風呂と着替え貸してくれ!
もう臭さが限界だ!」

ドロイドが怒鳴る。
「長に聞け!」

が、レドナンドはシーリーンを抱き上げたまま、レオはその横で、さっさと坂の上を歩き去る。

ファーレーンが頷く。
「ファオンを慰めてやれ」

キリアンはまだ、胸に顔埋める、ファオンに振り向く。
「お前。
顔、《化け物》キーナンの血だらけだろう?」

ファオンはキリアンの、胸に顔埋めたまま、頷く。

「…臭く、無いのか?」

ファオンは顔を埋めたまま、小声で言う。
「…少し、臭い」

キリアンは、そうだろう。と頷く。
「…一緒に風呂行きだな」
ファオンは
「キリアンと一緒なら、いい」
と、まだ胸に顔を伏せて言う。

「…お前幾つだよ?
…もう餓鬼じゃ、無いんだろう?」

けれどそう言いながら、キリアンはファオンの肩を抱いて促し、東尾根居留地に向かう、一同の方へ、ロレンツと一緒に歩き出した。

三馬鹿大将。
は後ろから付いて歩く、キリアンとロレンツに振り向くと、怒鳴った。

「離れて歩け!」
「臭いだろう?!」
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