アグナータの命運

あーす。

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キーナンの森

108 キースの独白

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 キースは上目指し、レオの後を付いて登り始め…途中で、気づいた。
下の東尾根の三馬鹿が、ファーレーンの尻をど・スケベな目で見上げてるのに。

「(…くそう…。今からあそこまで登って、ファーレーンの尻を奴らから隠そうと尻に抱きついたりしたら…。
俺がファーレーンに殴られて、木から落ちる…!)」

キースは枝を千切って奴らに投げようとまで、思った。

が、下から見上げるセルティスが、まるで考えてたことが、解ったように、じっ。と見て、首を横に振る。
セルティス横のアランまでもが、目が合うと、首を横に振る。

キースは歯噛みして腹を立てた。

『ファーレーンと一番仲が良かったのは、俺だ!』

何たって、北尾根で剣を交えて以来、好敵手と思われ、声をかけると話してくれ、だんだん親しく話すようになり…。
世間で言うところの、“親友”になった。

けど俺は初めてファーレーンを見た時。
こんな美人がこの世にいるのか!

そう思って一発で惚れ込み…。
が、ファーレーンは男で、しかも手強かった。
その上、剣も使える。

幾度が忘れようとしたけれど…。
剣を振り続けると、真っ赤に染まる初々しい唇に、口付けてみたい。
と熱望してる自分に気づく。

笑うと、つん!として綺麗な感じが一気に崩れ…時に愛らしくすら、目に映って、重傷だな。
と自分の事を、思い知った。

それでとうとう、告った。

…と言うより、成り行きで抱いてた時、つい…顎に手を伸ばし、振り向かせて口付けた。
次の瞬間平手で頬を張られ
「握り込んで殴らなかっただけ、まだ好意があると思っていい!
が、君がそんな男だとは、思わなかった!」
と怒鳴られた………。

もう“そういう男”と見られてたから開き直って、その後続け様に口説いた。
ファーレーンも呆れながら…でも時には、馬鹿な冗談に、笑ってくれもした…。

幾度か…迫った際、恥ずかしがったりしたから…“やっぱり俺に気がある!”と喜んだけれど…。

…彼が心酔してる、レドナンドそっくりの親父さんは厳格で偉そうで…。
末弟ファオンについて
「男に抱かれる男など!
我が家の生き恥だ!」

と怒鳴ってるのを聞き…ファーレーンは父親が大好きだったから、それ以来迫る俺に冷たくなった。

尾根に上がった時
“アントランくらい、開き直れないのか?”
と聞いたけれど………。

《勇敢なる者》レグウルナスには、硬派と軟派があって、硬派はファーレーンの親父さんのように、《皆を繋ぐ者》アグナータは慣例で男でも抱く。
が、尾根を降りれば女性を相手にするのが、当然。

と言う考え方と、《皆を繋ぐ者》アグナータに心酔し、尾根を降りた後、男相手に真剣に恋愛する男もいて…。

世間は《勇敢なる者》レグウルナスを褒め称えていたから、例え男と恋愛しようが、何も言わないものなのに…。

総じて、硬派はプライドの高い男が多く、軟派は柔軟思考の男が多かった。

「俺の事が、本当にそれ程嫌いなのか?」
と真剣にファーレーンに問い正した時、ファーレーンは俯いて言った。

「お前の事は好きだ。
友達として。
男と…するのは《皆を繋ぐ者》アグナータに限られる。
お前と抱き合う事など、汚らわしくて考えられない!」

けれど知っていた。
それは本心じゃないと。

“汚らわしい”と考えてるのは、親父さんだ。
でも親父さんは、妻亡き後、長男としてのファーレーンに目をかけ続けて来たから…。
ファーレーンは父親さんを、裏切れない……………。


キースはふと、上を見た。
皆、木の上で、遙か先に点在する、《化け物》キーナンの幾つもある“巣”を見ていた。

「(一気に、現実に戻るな)」

キースは無数の蠢く黒い点が、全てあのぞっとする化け物だと思い返して、溜息を吐いた。
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