アグナータの命運

あーす。

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戦闘

104 白の魔法使いの治癒

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「お…俺は…?!」

セルティスは腰を浮かしかけた時デュランに尋ねられ、振り向く。
「…ここに居ろ」

セルティスが突っ込んで行く背を見つめ、デュランも思わず腰を上げかける。


「糞!」

襲っては来ないが群れの数が多いだけに、ぶち当たった衝撃で、倒れ込んだら踏み殺される!
それに中には喰い付こうと、口開けて寄って来る《化け物》キーナンもいる!

アリオンとシーリーンは群れを掻き分け、体当たり来る《化け物》キーナンを肘を振って吹っ飛ばし、掴み退けながらファオンの姿を探す。

「!」

二人は同時に、必死に真正面からやって来る《化け物》キーナンに、剣を振り回し牽制するファオンを、少し先に見つける。

ファオンの振られる剣を避け、《化け物》キーナンの群れはファオンの両横を下って行く。

が…。

どっ…!
一匹の《化け物》キーナンに右横から乱暴にぶつかられ、ファオンが蹌踉めく。

アリオンとシーリーンが駆け込み、必死に腕を伸ばす。

二人同時にファオンを掴み、自分達の間に引き寄せた。


ファオンは、倒れる…!と思った瞬間腕を引かれ、気づいたら…アリオンとシーリーンの間に挟まれ、二人は群れの《化け物》キーナンの盾になり、護ってくれるているのに気づく。

《化け物》キーナンの群れは、幾度もアリオンとシーリーンのつっ立つ体にぶつかりながら、坂を下り降りて行く。

二人から少し離れた横で、キースとセルティスが剣を振り回し、《化け物》キーナンが下り来ないよう牽制する。
群れは左端の二人を避けて、中央へ迂回しながら坂を下って行く。

アランが、群れの真っ只中にいる、アリオンとシーリーンの腕を引く。

二人は体当たって来る《化け物》キーナンを、その身体でぶつかり返しながらも真ん中のファオンを庇いながら、アランの導く、群れの来ないキースとセルティスの背後へ駆け込む。

キースとセルティスは遮二無二剣を振って、向かい降りて来る群れが来ないよう牽制し続け、アリオンとシーリーンがファオンを連れて無事、元いた岩の影へと走り行くのを待つ。

アランが怒鳴る。

「確保した!」

二人は剣を振りながら少しずつ岩場へと、引き始める。

群れが来ない端まで来ると、一気に岩陰場へと飛び込んだ。

アランが背後に怒鳴る。
「凄く飢えた奴は、襲って来るかも!」

セルティスとキースは、怒濤の如く下る無数の《化け物》キーナンに振り向き、が、顔を見合わせた後、岩場の奥に駆け込む。

「…ファオン」

シーリーンが、俯くファオンに囁く。

「打ち身か?」

アリオンの優しい声。

ファオンは微かに頷く。

「思い切り…体当たられて…けど倒れたら下敷きに成ると思って、剣を…」

そう言って、肩を押さえる。

必死で踏み殺されないよう剣を振り、牽制して…。
剣を左に振り切った時、右横から思い切り、《化け物》キーナンの肘と共に大きな体が体当たって…。

《化け物》キーナンの肘が、肩にめり込んだ。
一瞬熱く、痛みが次にやって来て、息が出来ず蹌踉めき剣を振れなくて…。

もう…倒れて、踏みつぶされる…!
そう覚悟した時。

二本の頼れる腕に、強引に引き寄せられ…。
次の瞬間…二人の胸と腹の間に立っていた。

二人は、激しくぶつかり来る《化け物》キーナンから、体を張って護ってくれていた…。


ファオンは顔を上げて、感謝を告げようとしたけれど、ぶつかられた右肩が捻れ、激痛が走って咄嗟、祈る。

“痛みを消して…!”

ファオンの肩から、仄青い光が…立ち昇り、包むのが、取り囲むアリオンとシーリーン。
そして…見つめるアラン、キース、セルティスとデュランの目に見えた。

光はしばらくの間、揺らめきながらファオンの右肩を覆う。

痛みで俯き、油汗かいてたファオンが、光が消えると同時にすっ!と顔を上げる。
そして、アリオンとシーリーンの背後で見つめてる、キースを見る。

「…痛みが…1/10くらいに、突然なった」

キースが苦笑する。
「痛いところが、熱くなったか?」
「少し」

アランが呆れる。
「だって、お前がやったんだろう?」

ファオンはアランを見つめる。
「僕は、願っただけ」

セルティスが尋ねる。
「さっき喰った、桃の欠片の“力”か?」

ファオンが頷く。
「…多分。けど…」
「けど?」
キースが尋ねる。

ファオンは俯く。

「白の魔法使いは、尾根に“力”の欠片が散らばり残ってて…《勇敢なる者》レグウルナスは時にその“力”を使ってるって…。
でも、みんな意識して使ってないと思う。
もし…散らばった白の魔法使いの“力”が見つけられたら…自分に取り込んで、“力”として使えるかもしれない」

アランが呆けて尋ねる。
「桃を喰ったみたく?」

シーリーンが呟く。
「…そんな漠然とした、目に見えない物探せと言われてもな」

けどアリオンも囁く。
「が、たまに感じる事がある。
体が思うように動かない時。
もっと動けば。
そう思ってある場所を通った途端、びっくりする程軽くなって動けたことが」

キースも頷く。
「…それは俺もあるな。
激戦でもう、腕が疲れ切って、剣が重くて上がらなかった時。
目前に《化け物》キーナンが襲いかかり、“喰われる!”
そう思い、左に一歩ずれたら突然、腕が軽くなって襲いかかる《化け物》キーナンを叩き斬れた」

皆が見るのでキースは言葉を続けた。
「“凄い”と他の奴に言われたが…俺だって“凄い”と思った。

…俺が、凄かった訳じゃないからな」

皆が頷きかけた時。

「目の前!」

突然背後でデュランが叫ぶ。
皆一斉にデュランを見る。

デュランは皆が自分に振り向くので、怒鳴った。

「こっちじゃない!」

皆が反対。
《化け物》キーナン下る群れの方を見た時、もう岩の横から襲いかかる一匹の《化け物》キーナンは、目前。

ざっっ!
ずん!

シーリーンが剣を横に振り切る。
アリオンが同時に剣を突き立てる。

ずぅん!
《化け物》キーナンは仰向けて岩の向こう。
草地の上に転がり出、飢えた《化け物》キーナンがその体に喰らい付く。

「ぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

まだ息のあった《化け物》キーナンは、喰われ叫んだ。


「…流石」

二人息の合った素早い処置に、アランが呟く。

デュランは、ふう…。
と安堵の吐息を吐き出しながら、ぼやく。

「どうして注意してるのに、俺を見るかな!」

キースが肩竦め、セルティスが言った。

「お前が何か言う度、お前の顔見る癖が、ついちまったのかもな」

セルティスの言葉に、アランも頷いた。

「…大抵、ボケた面白いことを言うから、つい…」

デュランがとうとう、怒鳴った。

「俺だってこんな緊迫した時に、そうそうボケ言ってられませんからね!」

「はっは!」

アリオンが笑い出し、シーリーンも肩を揺らし、アランも笑い…。

デュランが横を見るとセルティスも笑っていて、キースだけが背を押して

「戻ろう」
と微笑んだ。


ファオンはアリオンとシーリーンが両側から背に手を添え、優しく両横に付いて、促すのに付いて歩き始める。

二人の気配は、気遣ってくれていて…。

まだ、ファオンは二人を意識すると…抱き合った時の事をつい、思い出して、二人とも服を着てるのに、裸の肩とか胸とか…密着した熱さだとか…蕾に挿入された彼らの…。

とかを思い出して頬が、赤くなった。

「(…どうして…。
レオとかキースとか…セルティスとかは…割とまだ、平気なのに。
それに…“サーシャ”を手にした途端、全部忘れちゃえるのに…。
アリオンとシーリーンだけ、こんなに意識するのかな…?)」

と頬を赤らめて俯く。

横に優しく誘導する二人を、交互に見上げて囁く。

「…助けてくれて…ありがとう…。
僕、アリオンにも以前助けて貰って、まだお礼言ってない…」

二人は真ん中の小柄なファオンに振り向く。

何かいいかけた時、前を歩くキースが、振り向かずに言う。

《勇敢なる者》レグウルナスの数は少ない。
だから出来るだけ仲間を失うまいと、助けられる限り助け合う」

斜め横を歩く、アランが振り向く。

「…お前は《勇敢なる者》レグウルナスとしての仲間だ」

アランに微笑んで言われた時、ファオンは目頭が、熱くなった。

アリオンとシーリーンが、ファオンが俯き、感激で泣く様子を、目を見開いて見つめる。

「…《勇敢なる者》レグウルナスの一員と言われて、泣いてるぞ?」

アリオンが言うと、セルティスも振り向く。

「いいから、泣かせてやれ。
本来の位置にやっと、戻ったんだから」

「…じゃもう、ファオンを《皆を繋ぐ者》アグナータ扱いはしない?」

デュランに聞かれ、セルティスもキースもデュランを見る。

キースが
「それは、別」
と言い、セルティスも
《皆を繋ぐ者》アグナータがいない《勇敢なる者》レグウルナスなんて、考えられない」
と、呟いた。

アランだけが溜息を吐く。
「アリオンとシーリーンが、互いとも一人占めしたくて、うずうずしてるのにな」
そう、二人に肩竦めて見せる。

シーリーンは俯くと、言った。
《皆を繋ぐ者》アグナータが必要だって…俺だって、解ってる」

アリオンも、吐息を吐く。
「正直言うと、年上のあんたらの迫力に、ファオンが抱かれて気を移さないか。
毎度ハラハラしてる」

キースが、笑って振り向く。

「まあ俺達年上の男らは、経験多い分、テク持ちだし?」

セルティスが振り向く。
「けど、ファオンは俺達が抱いても、その後たいして意識しないが、お前らだと異常に意識してるから…。
俺はそっちが心配だ」

アランも笑う。
「助けて抱き寄せた際、意識しちまって、剣とか取り落とさないか?」

キースも笑う。
「あるよな!」

セルティスが言う。
「レオの前の…長のレイデンの事だろ?
レオに抱き寄せられて…助けたってのに、真っ赤になって。
岩の下に、持ってた剣落として。

…あの剣、俺が取りに下った」

アランも頷く。
「あれは、呆れたな。
《皆を繋ぐ者》アグナータ、レオと一緒に抱いてた時も…《皆を繋ぐ者》アグナータ同様感じてないか?
ってぐらい、レオが突き上げる度に、なんか…睫とか震わせてたし」

シーリーンが、くすり…と笑う。
「背はファオンよりうんと高かったけど…割と華奢な美青年だったし…」

アリオンが無表情で囁く。
「レオも赤くなって、かなり、困ってたな」

キースも笑う。
「レイデンは、長なのにな!」

ファオンも…セルティスの背後から歩くデュランも…それを聞いて、目をぱちくりさせた。

デュランが、ひっくり返った声で尋ねる。

「…つまりその当時の長が、レオに惚れてたんですか?」

キースもセルティスも、アランもアリオン、シーリーンもが皆、互いの顔を見回す。

キースが、吐息混じりに言った。

「お前、“絶対惚れないぞ。こんな奴“って思ってた相手に、惚れたこと無いのか?」

デュランは途端、顔を下げる。

「…東尾根のあの美丈夫で大抵の男が“負ける”と思ってるレドナンドが、リッツィアを誘ったのに靡かなかった。
って聞いた時…。
俺、リッツィアを思い切るべきかな。
とは…思ったんだけど。

冷たくされると余計燃える体質らしくて、全然思い切れない」


ファオンは皆、一斉に俯いて溜息吐いてるのを、目を丸くして見回す。

セルティスが振り向き、とうとう怒鳴った。

「絶対!“リッツィアが俺に靡きますように”
って白の魔法使いの“力”、使うなよ!」

デュランの長い溜息がその場に響き渡り、皆背を向けて、歩く足を早めた。
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