アグナータの命運

あーす。

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戦闘

101 しぶとい杖付き

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 ファオンが登り来る《化け物》キーナンとその下を見つめる。

アリオンとシーリーンがようやく手前の岩に飛び来て、もう直ぐ上のファオンに手が届きそうな、二体の《化け物》キーナンの登り行く姿を目にする。

が、ファオンは見つめるアリオンとシーリーンに視線を向ける。

真っ直ぐ向けられた、湖水の青。

二人共が、飛ぼうとした姿勢から一瞬で動き止め、ファオンを見つめ返す。

ファオンはもう、登り来る《化け物》キーナンを避け、飛んでいた。

二人は宙飛ぶファオンの、落下地点を見つめる。

杖付きが、気づいて宙を見上げる。

もう、ファオンは頭上の剣握る手に左手添え、両手で握り込んで…。


ざしっ!

振り切り着地した時、杖付きは血飛沫上げて、草地に倒れ込む。

「……………」

ファオンは立ち上がり剣を下げ、肩を息で小刻みに上下させ、そして、振り向く。

倒れ伏した杖付きは…それでも震いながら、身を起こす。

そして…這いつくばりながら、杖持つ右手を振り上げ、杖を、振ろうとした。


ざんっ!

ファオンは剣を振ろうと思い切り引いた所に、杖付きの上にアランが落下し、踏みつけてる姿に目を、見開く。

金の髪を靡かせ立つアランは、青の瞳をファオンに向けて言う。

「俺は、斬るな」

ファオンは、咄嗟に頷く。

アランは剣を持ち上げ、足の下に踏みつけた杖付きの背に、一気に突き刺す。

「ぎゃっっっ!」

そして、事切れたかを確かめもせず、顔を上げて仲間目指して進撃して行く、《化け物》キーナンの群れを見る。

「…戻ってこないな」

そして足元を見、杖付きが背を踏みつけられたまま背から血を流し、必死で右手に握る杖を持ち上げ、振ろうと、あがく姿を見下ろす。


リチャードが一つ手前の岩の上から、自分の岩に登り始める《化け物》キーナン三体を見、首を振って、遙か坂の上。

迎え撃つレオらが、黒い群れの塊に埋め尽くされそうな様子も見て、引き吊った声で怒鳴る。

「早く!」


アランは直ぐ屈み、杖付きの髪を掴むと、首の下に剣を入れて喉をかっ切る。

ざっっっ!
「ぐぶっ…!」

手を放し俯せた杖付きの首の辺りから血が、草地に広がり染みこむ。

そして、顔を上げて群れを見る。


アリオンとシーリーンが怒鳴る。

「引き返してくるぞ!」

アリオンの吠える様な声に、アランとファオンは顔を見合わせ、一気にアリオンやシーリーンのいる、岩の上へと駆け上る。


リチャードが、群れが慌てて逃げ出す様子を見て吐息吐く。
自分の岩に登ってきていた《化け物》キーナンが、降りて行く様子を頷いて見つめ、剣を鞘に、終おうと振り上げた時。

下って行く一体の《化け物》キーナンが突如振り向き、岩を蹴って飛び上がるのを見て、目を丸くする。

「斬れ!リチャード!」

反対側の岩からシーリーンに怒鳴られ、リチャードは慌てて剣を引き上げる。

「横だ横!
横から斬ってついでに振り落とせ!」

アリオンの声に、リチャードは慌てて剣を横に構えようとしたが、もう《化け物》キーナンは目前に被さるように飛んで来ていて、リチャードは咄嗟、足で思い切り蹴りつけ、吹っ飛ばした。

ほっ。として、シーリーンとアリオンに怒鳴る。
「無事だ!」

「…………………」
アリオンは無言。
シーリーンが見かねて怒鳴る。

「吹っ飛んだ先の岩にへばりついて、またお前の所に登って行くぞ!」

アランとファオンも岩をよじ登りながら、背後、リチャード立つ岩に振り向く。

アランが凄い早さでリチャードの足元へ這い登って行く、《化け物》キーナンを見つめ、怒鳴る。

「余程腹減ってんだ!
腹が減りきってる《化け物》キーナンは、杖付き殺った後もしぶとく喰おうとするぞ!」

リチャードは慌てて剣を構える。

岩を、下ろうか。
とも思ったが、足元の岩が邪魔して下が見えず、ヘタに顔を出すと襲いかかられる。

やがて…足元の岩に、捕まる毛むくじゃらの大きな指。
次の瞬間、飛び上がる大きな体の《化け物》キーナン

今度こそ、リチャードは剣を横に、思い切り振りきった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

《化け物》キーナンは斬られ、吹っ飛びながら、岩の下に落下して行った。

リチャードはほっ。として、肩を下げきった。

「(姿が見えない分、どきどきモンだったぜ…)」



群れがどんどん引いて行き、群れの最後尾を雑兵アルナらが、追うように走って来る。

ファオンとアランは気づいて上を見る。

岩の頂上に、アリオンとシーリーンの姿。

けれど岩の下は、既に群れが、通り過ぎた後。

アランが横のファオンに言う。
「お前は、登ったって良いんだぞ?」

そして自分は、降り始める。

ファオンはどうしていいか解らず、暫く岩に捕まり、固まった。


反対側の岩から、リチャードが軽快に降りて来る。

「斬ったのは、たったの一体だ!」

嬉しそうに、やって来るアランを出迎えながら、坂を転がるように駆け下りて行く、《化け物》キーナンの群れを見つめる。

横を雑兵アルナの精鋭ら、数人が、事後の様子を確かめる為に、走って行った。

「…行くぞ!」

唐突にアランは言うと、雑兵アルナらの後を追う。

「……………………」

リチャードは、俯いて言った。

「斬って体力を使うんじゃ無く、駆けて体力を使うのか………」

そしてしぶしぶ、アランの背を追った。


アリオンとシーリーンが、ファオンが岩に捕まる場所まで、降りて来る。

二人に微笑まれて向きを変え、ファオンは岩を飛びながら下る。

ざしっ!

草地に着地すると、ほぼ同時にアリオンとシーリーンも両横に着地してた。

二人はファオンの華奢な背を押して、レオ達の方向へと歩き出す。

シーリーンが少し顔傾け、ファオンを見つめて言った。

「…突風みたいに、駆け出すな」
「毎度だ」

アリオンの言葉に、思わずシーリーンはオウム返す。

「毎度?!」


レオは剣を下げ、激しく息で肩を上下させて、戻って来るキースに言う。

「暴れ足り無いなんて、言うなよ!」

セルティスもやって来ると、うんざりして言った。

「…目標を果たすのは、これからだし」

ファルコンも、剣を担ぎ、戻って来る。

「…休憩、取るよな?」

キースが並んで笑う。
「要るのか?」

ファルコンが歯を剥いて、キースに怒鳴った。

「要る!」
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