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戦うレグウルナス
97 代々のレグウルナス(勇敢なる者)選出試合
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ファオンはレオのどこか爽やかな雄の香りと、甘い逞しい感じのキースの香りに包まれて、夢の中にいた。
…まだ、九つで剣の修行に出たばかり。
白い石柱に囲まれた円形の闘技場。
空は青く白い雲が流れ行く。
銀の、きらりと光る剣の刃の輝きに、ファオンは眩しくて目をしばたかせた。
円形の座席の、上の方に腰掛けていたから、戦う二人はかなり中央下に見える。
具体的な目標、《勇敢なる者》の選出の場。
皆、体の大きく迫力在る青年ばかり。
子供達の集い、では低年齢の部だったから、年上の青年らは微かに見知る程度。
…不安だった。
こんな青年達に勝って、いつか自分も《勇敢なる者》になれるかと。
太い腕から振り下ろされる、激しい剣。
がちっ!と幾度も火花散る。
赤い髪の青年が一際激しく。
そして素早く剣を振り切り勝ち上がる。
一際目立つ、迫力と強さ。
「(…レオだ…)」
名前も姿も見知ってた。
けど口を聞いたことも無い。
いつも堂々として男らしく、赤い髪を靡かせ逞しく強く…。
そして笑うと白い歯が…とても爽やかに見えた。
最終戦の相手は、レオよりもごつい肩と盛り上がる筋肉の腕をしてる。
がつん…!と剣を受けると、レオですら歯を食い縛る。
二度。三度。
その太い腕から剣が振り下ろされ、レオはがつん!がつんと剣を受ける。
が、一気に切り返すレオの、目の覚めるような激しい一刀!
まるで…受け身は我慢出来ない!
そんな素早く激しい、返す一撃!
それからレオは攻撃し続ける。
激しい剣をがつん!がつん!と入れ続け…最後、素早い剣を相手の胸元に…。
「それまで!」
声が飛ぶとレオは必死で、振り切る剣を止める。
敵の胸元触れるぎりぎりで、剣は止まる…!
レオの激しい表情。
散った赤い髪がふわり…と、肩に落ちて行く。
「…相手の方が、逞しかったのに…」
そう言うと、隣のシリルローレルは笑った。
「戦いはそれだけじゃない」
そうあの時…そう言ったシリルローレルの横顔を、いつまでも見つめ続けたっけ………。
黄金の髪。
王者のような、独特の雰囲気。
キース。
彼が現れると闘技場は湧く。
まるで…既に彼が、勝者のように。
ファーレーン兄様が伴って…たまに家に来ていた…。
けど話しかけることすら出来なかった…。
余裕の態度。
「キース!」
彼を讃えるたくさんの声援。
どうして…彼は平気なんだろう…?
あんな風に期待されて、萎縮しないんだろうか…。
けれどキースは余裕の態度を最後迄崩さない。
時に緩やかに、けれど突然激しい一撃で、相手を下す。
大抵の相手は、突如として牙を剥く、キースの激しさに一気に崩れ去る。
「…突然…激しく振るから、ついて行かれない…?」
尋ねると、シリルローレルは言う。
「それだけじゃない。
相手の嫌な場所に、その激しい剣を、狙って叩き込むから崩れるんだ」
嫌な…所…?
最初は緩やかで…さほど強く無く打ち合い…。
けれど相手の急所を見つけると、一気に激しい急襲!
それは…天高く舞う大鷲が、上空から飛来し、襲いかかるのに似ていた。
その後相手が崩れるまで、立て続けに激しい剣を入れ続ける。
「的確だ。
相手が受けきれないところを狙い続ける。
だから、崩れる。
急襲し、激しいだけでは相手は、崩れない」
呆然とした。
だってどうやって…。
そんな剣を立て続けに…的確に入れられる?
「キース!」
気づくと、闘技場は熱狂していた。
新たな《勇敢なる者》の誕生を讃えて。
キースはその中心で、どこから見ても目に飛び込む黄金の縮れ毛を振り、剣を高く掲げて声援に、応えていた………。
アラン…そう、アランの時…。
彼は大きな青年達の中、細身に見えた。
集いでたまに見かける彼は、みんなの人気者…。
特に女の子達は、気さくに話せて金髪で青い瞳の、素敵な美男アランがお気に入り…。
けれど僕にも、声をかけてくれた。
嬉しかった。
彼が一人の時…話しかけようとして、足が止まった。
“僕なんか…話しかけて相手にしてくれるんだろうか…?”
けれどアランは気づいて顔を上げ、微笑んて言った。
「どうした?」
話を、聞いてくれる雰囲気で。
だからアランだけは…見かけると、寄って行って話しかけた…。
対戦相手の大きな青年はじろり。とアランを見たけれど…アランは軽やかにふわっ!と飛ぶと、一気に斬りかかる。
早い…!
相手が剣を振り切った時、もうそこにはいない。
相手は気づく。
もう背に回られ、剣を振り下ろされていたことに。
「それまで!」
アランは剣を、ぴたりと止める。
それを見た時、体の大きな青年達はもう、アランをなまっちろい奴だなんて思わなかった。
集いで見かける彼はとても背が高いと思ってたけど…。
体格のいい青年に混じると、それ程高く見えない。
他の青年みたいに、筋肉も、もりもり付いてない。
けれど良く引き締まった体は俊敏で、素早い剣を振り入れて相手を揺さぶる。
身を翻し、ツバメのように飛びかかり、入れる一撃は、激しい…。
がっっっ!
アランが勝った時、場内は女の子の声援で埋め尽くされ、男達は項垂れた。
シーリーンとアリオンの時。
二人は目立って強かった。
昔見知っていた頃も、二人共背が高かったけれど…。
今、こうして彼らを見ると明らかに…二人共が筋肉で引き締まりきった体付をしていて、他の誰よりも、体格でも圧していた。
対戦相手が小さく見える。
二人共が、余裕の態度を崩さない。
ほんの幾つか、剣を振っただけで相手の急所に剣を突き付けて勝つ。
そう、二人共が。
黒髪のアリオンは昔と変わらず…ううん。
昔よりももっと逞しく、男っぽく感じ、胸が高鳴った。
男の子達の声援に女の子達の嬌声も混じる。
昔同様…彼は人気者…。
黒髪散らし剣を振り切る彼はやっぱり格好良くて…。
綺麗な顔立ちをしてるのに、ぞくぞくする程男っぽく見えた…。
そして…。
シーリーンの顔はやっぱり美麗に見えたけど、昔からの冷静さに迫力が加わって…。
誰も彼の事を“軟弱な奴”なんて思えない程、周囲を圧していた。
肩も腕にも筋肉が付き、重い剣も軽々と扱い…華麗に剣を振り切って決めると、アリオンとは違い、女の子の声援が勝る。
けれどちゃらちゃらした様子は微塵も見せず、淡々とした態度は余裕が溢れ…。
だから…最終戦に二人がそこに立つのは当然と、場内の誰もが思った。
力は均衡していた。
アリオンは落ち着き払い、強く激しい剣を叩き込むのに、シーリーンは全て受け止め、攻撃に転ずる。
華麗に見えるのに…アリオンを襲う剣は重く激しい。
なぜって…がつん!と音がしてアリオンの剣とぶつかると、アリオンは歯を食い縛ってた。
直ぐアリオンの一撃。
お返しとばかり振られたアリオンの剣はやっぱり重く鋭く…今度はシーリーンが歯を食い縛る。
もうそれからは延々と力の入った二人の剣は続け様に相手に叩き込まれ、どちらも相手の剣を咄嗟に防ぎ直ぐ次を入れてまるで…。
“これは受けられるか?!
これは…?!”
二人共が力だけで無く技を使い、相手を翻弄しようと剣を振り続ける。
凄まじい火花散る、迫力在る攻防。
観客達は次から次々とぶつかりあう剣の軌道を追って、首をあちこちに振りながら見つめてる。
黒髪を散激しくらすアリオンは、冷静に見えた。
けど深い青の瞳は射るよう。
プラチナの美麗な顔のシーリーンは、華麗な剣捌きを見せながらも闘志剥き出しでアリオンの剣を叩き落とし、アリオンに一歩も引けを取らない。
どちらも相手に繰り出す剣を惜しまず、どんな一刀でも叩き落として次の攻撃に繋げてる。
客達は息つく間もなく振られる剣に、固唾を呑んで見守ってる。
あんまり二人が凄くて、泣きそうに成る。
感激で。
終いに、どちらも手が痺れかけてる様子に見えたけど、どちらも勝負を諦めない。
とうとう…「引き分け!」
の声に、場内はどよめく。
そして《勇敢なる者》として、二人の名前が声高に呼び上げられた時。
二人はまだ、闘志剥き出しの激しい瞳で、互いを睨み付けていた……。
リチャードの時…。
来年はいよいよお前の番だとシリルローレルは言った。
その時はもう…旅にも慣れて剣にも慣れて…。
だから、闘技場にやって来ても、昔みたいに不安に襲われずに済んだ。
大勢の青年の中で、リチャードを見つけた。
綺麗な人形のような顔立ちとくっきりした蒼の瞳は、とても目立つ。
…けど正直、リチャードが勝ち上がるなんて思わなかった。
リチャードの武器は、突然剣の軌道を変えること。
相手は素直に振られると思った剣が、いきなり別の角度から違う場所へ振り入れられ、間に合わずに負けていた。
器用…。
小細工…。
けど強い奴らに通用するとは、思えなかった。
体格の良い男の剣を真っ向から受けた時、リチャードはそれを真正面から剣をぶつけ、止める。
正直、びっくりした。
確かに…背だって伸びてた。
けど、どちらかと言うと肌を隠した衣服だったから、あんまり逞しい感じはしなかった。
「…本物だな」
師の言葉に、眉を寄せた。
だって…だってリチャードは僕の時…。
あれ程卑怯な事で平気で出来る奴なのに…!
シリルローレルは僕の表情を、見て言った。
「それ程迄には、大きく無い。
顔だって…女の子のように綺麗だ。
相手はそこでまず、少し油断するから、最初は勝ち進んでた。
だが…今の対戦相手は強い。
その強い相手の、激しい剣を幾度も防ぐ。
あれはよほど真面目に剣の練習をし続けないと、出来ない」
栗毛の…少し緩やかなウェーブのかかる長い髪。
蒼の瞳は凍てつくよう…。
きつく相手を睨み付け…崩れるか。
と思った時、相手の一瞬の油断を見つけ、仕留める!
「(やっぱり、卑怯だ!)」
負けて悔しがる相手の青年の気持ちが、解った。
けど師は言う。
「あれだけ激しい戦いをしながらも、冷静だ。
相手の隙を決して見過ごさない。
敵に回すと、嫌な相手だ」
《勇敢なる者》の選出者に名を呼ばれても、リチャードは顔色も変えず、場内はその美麗な美少年を、驚きの瞳で見つめた。
…悔しかった。
リチャードが下される事を期待したのに…。
だから何としても《勇敢なる者》に、僕もなる。
その時固く、そう誓った………。
…まだ、九つで剣の修行に出たばかり。
白い石柱に囲まれた円形の闘技場。
空は青く白い雲が流れ行く。
銀の、きらりと光る剣の刃の輝きに、ファオンは眩しくて目をしばたかせた。
円形の座席の、上の方に腰掛けていたから、戦う二人はかなり中央下に見える。
具体的な目標、《勇敢なる者》の選出の場。
皆、体の大きく迫力在る青年ばかり。
子供達の集い、では低年齢の部だったから、年上の青年らは微かに見知る程度。
…不安だった。
こんな青年達に勝って、いつか自分も《勇敢なる者》になれるかと。
太い腕から振り下ろされる、激しい剣。
がちっ!と幾度も火花散る。
赤い髪の青年が一際激しく。
そして素早く剣を振り切り勝ち上がる。
一際目立つ、迫力と強さ。
「(…レオだ…)」
名前も姿も見知ってた。
けど口を聞いたことも無い。
いつも堂々として男らしく、赤い髪を靡かせ逞しく強く…。
そして笑うと白い歯が…とても爽やかに見えた。
最終戦の相手は、レオよりもごつい肩と盛り上がる筋肉の腕をしてる。
がつん…!と剣を受けると、レオですら歯を食い縛る。
二度。三度。
その太い腕から剣が振り下ろされ、レオはがつん!がつんと剣を受ける。
が、一気に切り返すレオの、目の覚めるような激しい一刀!
まるで…受け身は我慢出来ない!
そんな素早く激しい、返す一撃!
それからレオは攻撃し続ける。
激しい剣をがつん!がつん!と入れ続け…最後、素早い剣を相手の胸元に…。
「それまで!」
声が飛ぶとレオは必死で、振り切る剣を止める。
敵の胸元触れるぎりぎりで、剣は止まる…!
レオの激しい表情。
散った赤い髪がふわり…と、肩に落ちて行く。
「…相手の方が、逞しかったのに…」
そう言うと、隣のシリルローレルは笑った。
「戦いはそれだけじゃない」
そうあの時…そう言ったシリルローレルの横顔を、いつまでも見つめ続けたっけ………。
黄金の髪。
王者のような、独特の雰囲気。
キース。
彼が現れると闘技場は湧く。
まるで…既に彼が、勝者のように。
ファーレーン兄様が伴って…たまに家に来ていた…。
けど話しかけることすら出来なかった…。
余裕の態度。
「キース!」
彼を讃えるたくさんの声援。
どうして…彼は平気なんだろう…?
あんな風に期待されて、萎縮しないんだろうか…。
けれどキースは余裕の態度を最後迄崩さない。
時に緩やかに、けれど突然激しい一撃で、相手を下す。
大抵の相手は、突如として牙を剥く、キースの激しさに一気に崩れ去る。
「…突然…激しく振るから、ついて行かれない…?」
尋ねると、シリルローレルは言う。
「それだけじゃない。
相手の嫌な場所に、その激しい剣を、狙って叩き込むから崩れるんだ」
嫌な…所…?
最初は緩やかで…さほど強く無く打ち合い…。
けれど相手の急所を見つけると、一気に激しい急襲!
それは…天高く舞う大鷲が、上空から飛来し、襲いかかるのに似ていた。
その後相手が崩れるまで、立て続けに激しい剣を入れ続ける。
「的確だ。
相手が受けきれないところを狙い続ける。
だから、崩れる。
急襲し、激しいだけでは相手は、崩れない」
呆然とした。
だってどうやって…。
そんな剣を立て続けに…的確に入れられる?
「キース!」
気づくと、闘技場は熱狂していた。
新たな《勇敢なる者》の誕生を讃えて。
キースはその中心で、どこから見ても目に飛び込む黄金の縮れ毛を振り、剣を高く掲げて声援に、応えていた………。
アラン…そう、アランの時…。
彼は大きな青年達の中、細身に見えた。
集いでたまに見かける彼は、みんなの人気者…。
特に女の子達は、気さくに話せて金髪で青い瞳の、素敵な美男アランがお気に入り…。
けれど僕にも、声をかけてくれた。
嬉しかった。
彼が一人の時…話しかけようとして、足が止まった。
“僕なんか…話しかけて相手にしてくれるんだろうか…?”
けれどアランは気づいて顔を上げ、微笑んて言った。
「どうした?」
話を、聞いてくれる雰囲気で。
だからアランだけは…見かけると、寄って行って話しかけた…。
対戦相手の大きな青年はじろり。とアランを見たけれど…アランは軽やかにふわっ!と飛ぶと、一気に斬りかかる。
早い…!
相手が剣を振り切った時、もうそこにはいない。
相手は気づく。
もう背に回られ、剣を振り下ろされていたことに。
「それまで!」
アランは剣を、ぴたりと止める。
それを見た時、体の大きな青年達はもう、アランをなまっちろい奴だなんて思わなかった。
集いで見かける彼はとても背が高いと思ってたけど…。
体格のいい青年に混じると、それ程高く見えない。
他の青年みたいに、筋肉も、もりもり付いてない。
けれど良く引き締まった体は俊敏で、素早い剣を振り入れて相手を揺さぶる。
身を翻し、ツバメのように飛びかかり、入れる一撃は、激しい…。
がっっっ!
アランが勝った時、場内は女の子の声援で埋め尽くされ、男達は項垂れた。
シーリーンとアリオンの時。
二人は目立って強かった。
昔見知っていた頃も、二人共背が高かったけれど…。
今、こうして彼らを見ると明らかに…二人共が筋肉で引き締まりきった体付をしていて、他の誰よりも、体格でも圧していた。
対戦相手が小さく見える。
二人共が、余裕の態度を崩さない。
ほんの幾つか、剣を振っただけで相手の急所に剣を突き付けて勝つ。
そう、二人共が。
黒髪のアリオンは昔と変わらず…ううん。
昔よりももっと逞しく、男っぽく感じ、胸が高鳴った。
男の子達の声援に女の子達の嬌声も混じる。
昔同様…彼は人気者…。
黒髪散らし剣を振り切る彼はやっぱり格好良くて…。
綺麗な顔立ちをしてるのに、ぞくぞくする程男っぽく見えた…。
そして…。
シーリーンの顔はやっぱり美麗に見えたけど、昔からの冷静さに迫力が加わって…。
誰も彼の事を“軟弱な奴”なんて思えない程、周囲を圧していた。
肩も腕にも筋肉が付き、重い剣も軽々と扱い…華麗に剣を振り切って決めると、アリオンとは違い、女の子の声援が勝る。
けれどちゃらちゃらした様子は微塵も見せず、淡々とした態度は余裕が溢れ…。
だから…最終戦に二人がそこに立つのは当然と、場内の誰もが思った。
力は均衡していた。
アリオンは落ち着き払い、強く激しい剣を叩き込むのに、シーリーンは全て受け止め、攻撃に転ずる。
華麗に見えるのに…アリオンを襲う剣は重く激しい。
なぜって…がつん!と音がしてアリオンの剣とぶつかると、アリオンは歯を食い縛ってた。
直ぐアリオンの一撃。
お返しとばかり振られたアリオンの剣はやっぱり重く鋭く…今度はシーリーンが歯を食い縛る。
もうそれからは延々と力の入った二人の剣は続け様に相手に叩き込まれ、どちらも相手の剣を咄嗟に防ぎ直ぐ次を入れてまるで…。
“これは受けられるか?!
これは…?!”
二人共が力だけで無く技を使い、相手を翻弄しようと剣を振り続ける。
凄まじい火花散る、迫力在る攻防。
観客達は次から次々とぶつかりあう剣の軌道を追って、首をあちこちに振りながら見つめてる。
黒髪を散激しくらすアリオンは、冷静に見えた。
けど深い青の瞳は射るよう。
プラチナの美麗な顔のシーリーンは、華麗な剣捌きを見せながらも闘志剥き出しでアリオンの剣を叩き落とし、アリオンに一歩も引けを取らない。
どちらも相手に繰り出す剣を惜しまず、どんな一刀でも叩き落として次の攻撃に繋げてる。
客達は息つく間もなく振られる剣に、固唾を呑んで見守ってる。
あんまり二人が凄くて、泣きそうに成る。
感激で。
終いに、どちらも手が痺れかけてる様子に見えたけど、どちらも勝負を諦めない。
とうとう…「引き分け!」
の声に、場内はどよめく。
そして《勇敢なる者》として、二人の名前が声高に呼び上げられた時。
二人はまだ、闘志剥き出しの激しい瞳で、互いを睨み付けていた……。
リチャードの時…。
来年はいよいよお前の番だとシリルローレルは言った。
その時はもう…旅にも慣れて剣にも慣れて…。
だから、闘技場にやって来ても、昔みたいに不安に襲われずに済んだ。
大勢の青年の中で、リチャードを見つけた。
綺麗な人形のような顔立ちとくっきりした蒼の瞳は、とても目立つ。
…けど正直、リチャードが勝ち上がるなんて思わなかった。
リチャードの武器は、突然剣の軌道を変えること。
相手は素直に振られると思った剣が、いきなり別の角度から違う場所へ振り入れられ、間に合わずに負けていた。
器用…。
小細工…。
けど強い奴らに通用するとは、思えなかった。
体格の良い男の剣を真っ向から受けた時、リチャードはそれを真正面から剣をぶつけ、止める。
正直、びっくりした。
確かに…背だって伸びてた。
けど、どちらかと言うと肌を隠した衣服だったから、あんまり逞しい感じはしなかった。
「…本物だな」
師の言葉に、眉を寄せた。
だって…だってリチャードは僕の時…。
あれ程卑怯な事で平気で出来る奴なのに…!
シリルローレルは僕の表情を、見て言った。
「それ程迄には、大きく無い。
顔だって…女の子のように綺麗だ。
相手はそこでまず、少し油断するから、最初は勝ち進んでた。
だが…今の対戦相手は強い。
その強い相手の、激しい剣を幾度も防ぐ。
あれはよほど真面目に剣の練習をし続けないと、出来ない」
栗毛の…少し緩やかなウェーブのかかる長い髪。
蒼の瞳は凍てつくよう…。
きつく相手を睨み付け…崩れるか。
と思った時、相手の一瞬の油断を見つけ、仕留める!
「(やっぱり、卑怯だ!)」
負けて悔しがる相手の青年の気持ちが、解った。
けど師は言う。
「あれだけ激しい戦いをしながらも、冷静だ。
相手の隙を決して見過ごさない。
敵に回すと、嫌な相手だ」
《勇敢なる者》の選出者に名を呼ばれても、リチャードは顔色も変えず、場内はその美麗な美少年を、驚きの瞳で見つめた。
…悔しかった。
リチャードが下される事を期待したのに…。
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