アグナータの命運

あーす。

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戦うレグウルナス

94 レオとキース

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 だがその時、伝令が叫ぶ。
「東尾根の南寄り地域に襲撃が!」

「!」
レドナンドと東尾根の《勇敢なる者》レグウルナスらが、直ぐ立ち上がり、南尾根シェナンが直ぐレドナンドに怒鳴る。

「手助けする!」

シェナンの言葉で、南尾根の男らも立ち上がる。

ファオンはキリアンを見る。
キリアンは苦笑する。

「一暴れしてくる。
またな!」

ファオンは頷く。

レドナンドは駆け去りながらレオに怒鳴る。

「馳走になった!」

シェナンも駆け始めて、レオに叫ぶ。

「また!」

ファオンは走り去る男達の中、振り向くファーレーンの姿を見た。

「ご無事で!」

思わず叫ぶとファーレーンは頷き、髪を華麗に翻して去って行った。


男達が消えた後、北尾根の広場はがらん…とし、ファオンはその時初めて、アラン達の姿が無い事に気づく。

振り向いて、レオに問うた。

「アラン…それに…ファルコンや…デュラン。
リチャードは…?」

レオはファオンの横を通り過ぎ、振り向いて囁く。

「…いいから、気にするな」


ファオンはテントに戻って行くレオの背を見送る。

セルティスが背後に立つと、囁く。

「…《皆を繋ぐ者》アグナータに何かあって抱けない時…男達は雑兵アルナの居留地の左下にある、小屋へ女性を呼んで出かけて行く」

ファオンがセルティスに振り向く。

セルティスは優しく言った。

「非常時用の対応で…長の許可が要るが…。
レオが当分、君に負担をかけない為、出かける許可を出した」

ファオンはテントの中へ姿を消す、レオの姿に振り返る。

「あの…僕…僕…詳しく解らないんですけど…。
どれ位の頻度でみんな…今まで《皆を繋ぐ者》アグナータを求めていたんですか?」

セルティスは途惑いながら…掠れた小声で囁いた。

「…大抵、一日一人一回。
激戦が続くと…戦いに出た後には、汚れを祓うように帰って来た者らが、必ず毎回」

ファオンは俯く。

「…シュティッセンですら…あまり続く時は、…ファルコンが持っている、強い塗り薬を常用した。
求められるのに…受け側が辛そうでは、男達に申し訳無いと」

「僕…あの………」

顔を下げるファオンに、セルティスが囁く。
「けれどセグナ・アグナータ戦う皆を繋ぐ者の場合、非常時用の処置を頻繁に執る事は、以前にもあったそうだ。
セグナ・アグナータ戦う皆を繋ぐ者は精を受けて皆を繋ぐだけで無く、共に戦うことで皆を繋いでいる者だったから。
…君は、気にしなくていい」

セルティスはそう言って、優しく微笑んで背を向ける。

気づくと、いつの間にか背後に、アリオンとシーリーンが立っていた。

アリオンは横を向いて俯き、シーリーンが囁く。

「…キースの様子を…見てやってくれ。
俺の足はもう治ったから」

ファオンが二人に振り向くと、二人は各自のテントに向かって行く。
アリオンが背後のシーリーンに、振り返らないまま囁く。
「酒を、付き合ってくれ」

シーリーンは前を歩くアリオンを見ないまま、頷いた。


ファオンはたくさんの男が消えたがらん。とした広場で、風に髪を嬲られながら…立ち竦んだ。



「…あの…」

キースのテントの、入り口の布を払い、そっと囁く。

ランプの仄暗い灯りの中、キースが顔を上げる。

「…どうした?」

「背の…傷は?」

毛皮の上に座るキースは、ファオンに裸の背を向ける。

あれ程抉るようにあった傷が…殆ど埋まって小さくなっていた。

キースは顔だけ振り向く。

「治療士が言うには…もうあまり激しく動かなければ、傷は開かないと。
だから、付き添いはいい。
…どうせ…アリオンもシーリーンもお前を抱いたし…アランらがお前を抱けない男らを連れて、ローエングリン一時 慰める者を抱きに行ったから…あいつら、俺の所に寄越したんだろう?」

ファオンは俯く。

「…レオ…は…」

「長だから、滅多にここを離れない。
俺に任せて後で行けと言ったんだが…。
俺が完治したらそうすると言ってたから…今夜は出かけないだろうな」

ファオンは俯く。

《勇敢なる者》レグウルナスに…なりたかったか?」

キースに問われ…ファオンは顔を上げる。

「…その…《勇敢なる者》レグウルナスが皆着る衣服が、似合ってる。
…最も《皆を繋ぐ者》アグナータの衣服も、可愛らしかったが…。
“可愛くて綺麗”と言われるより、“勇猛”と言われたいんだろう…?」

ファオンは顔を上げて…柔らかな表情を見せるキースの、整った顔を見つめた。

金の髪…。
南尾根の者は金髪が多かったけれど…キースの髪の色は誰とも違い、まさにくっきりと濃い、黄金色だった。

「…次代の…《勇敢なる者》レグウルナスの長は…貴方?」

キースはまだ入り口に立ったまま問うファオンに、笑いかける。
「…この時期生きていたらそうなる。
…ファルコンは同い年だがあいつ、早生まれだから本当は一つ下だ」

ファオンは頷く。

そして…囁いた。

「…レオに…恩があるから、彼のテントに先に行きます…。
あの…僕…その後湯に浸かって…ここに戻って来ます」

キースが笑う。
「言ってる意味、解ってるのか?
抱かれに来る。
そう言ってるんだぞ?」

キースの緑がかった碧の瞳は、キリアンよりずっと濃い色で…。
ファオンは見つめられて、どきっ!とし、身が火照った。

「…お前、ウブだし…、アリオンとシーリーンはお前として嬉しいから、そりゃ気持ち半端無く入って抱くんだろう…?」

ファオンは頬染めて俯く。

「…レオは、《皆を繋ぐ者》アグナータとしてのお前より…《勇敢なる者》レグウルナスとしてのお前に、期待してる。
現に…選抜する北尾根の長老らに、お前を何とか《勇敢なる者》レグウルナスに出来ないかと、伝言送ったくらいだしな」

ファオンが、目を見開いてキースを見つめる。

「…今日の昼間。
戦闘後に直ぐ。
俺は『そこ迄の戦い振りだったのか?』と聞いたら、レオは頷いた」

ファオンは一瞬、感激で瞳を潤ませた。

「…だから…お前を無理に、抱かないだろうな…」

ファオンは頷くと、瞳を潤ませたまま、テントの入り口の布を落とし、キースのテントを後にしかけ…けど言った。

「後で…また来ます」

テントの外でそう告げると、レオのテントへ向かった。


レオのテントの入り口の布を払う。

赤い髪のレオがランプの灯りの中、振り向く。
やはり…長としての威風と迫力が彼を、圧倒的な存在に見せている…。

「…どうした…?」

毛皮の上に座る、彼の前には、酒の瓶と…コップ。

ファオンは俯く。
本当は…抱かれる相手として、レオは怖かった。

男として…あまりにも迫力があったし…それに…。
彼が“雄”になった時…あまりの彼の迫力に、自分の中の僅かに残る“男”の部分が消し飛びそうな気がした。

けど…良く考えると、今まで自分が“雄”になった事が、無かったと気づく。

関係を持ち、付き合ったと呼べる幼馴染みのネグリッタは…じゃれ合いの延長のような形で…よく考えてみると、どちらかと言えば彼女にリードされていて…。

“抱いた”と他の男らが言ってるみたいに、胸張って言えない気がしてきた。

彼女を抱きしめて朝を迎えた時…自分が一人前の“男”になった気持ちはした。

けれど…“雄”になる。
と言う事がどういう事か…尾根に上がり、この身で思い知らされたから…。

自分がそうじゃない事も、痛感した。

入り口で佇むファオンに、レオが溜息吐く。

「…いいから、アランのテントで休んでろ。
二人きりだと、あいつはお前に手を出さない。
但し戦闘後で他の男と一緒の時は…相手してやってくれ」

ファオンは俯く。
「僕…あの…僕…を見て…もう…その気には、なりませんか…?」

恥ずかしげに囁き、顔を上げる。

レオは“雄”の顔を一瞬、見せた。
けれど直ぐ引っ込めて、俯く。

「直…完全にそうなる。
お前が幾度か、戦闘に同行した時に」

それを聞いた時…ファオンは自分でも不思議だったけれど…レオのテントの中へと、足を進めた。
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