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二つを兼ねる者 セグナ・アグナータ
89 レグウルナスらの習慣
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アリオンとシーリーンはファオンに振り向く。
ファオンはまだ、二人を見ると頬が染まったけれど、二人は《勇敢なる者》に戻っていて、ファオンの背に二人が手を添える。
アリオンが言う。
「…今日、見回りとレオは言ったけれど、“巣”の見回りはあまりしない」
シーリーンが吐息吐く。
「…ああ…。
襲撃を幾度か撃退し、かなりの数を減らした後だ」
アリオンが顔を傾けて説明し始める。
「…普段は、北尾根の周囲に雑兵が見張りとしていつも立ってるから、彼らに状況を聞く。
だが襲撃に遭えば戦い、数が多ければ援軍を呼ぶ。
雑兵らは数が多い。
が半数は見張りに常に出てる。
テントにいるのは、次の順番まで待ってる奴らだ」
ファオンが頷く。
シーリーンも顔を傾け、囁く。
「尾根の周囲の、北領地に続く道には全て、見張りが配置されてる。
破られても、二段階。三段階の見張りが待ち構えて防ぐ。
が、手薄な場所を狙われると、領地にまで到達することもある。
…ここ数年は無い。
だから…レオも名誉にかけて、それをさせない為に気を配ってる。
雑兵らも襲撃に遭いながら頑張って戦ってる。
が、《勇敢なる者》が一人加わるだけでも士気はぐんと上がる。
《勇敢なる者》らは…一撃で《化け物》を殺れる者のみ、厳選されて選出されているから」
ファオンは師と共に、毎回《勇敢なる者》選出の試合が行われた時、こっそり闘技場を訪れた時の事を思い返す…。
だから…レオが選出された時。
キースが、ファルコンが選出された時も、見ていた。
その時はまだ、修行も初めの頃。
剣も素振りばかり…。
岩山を駆け上り、体力を付けろと言われ…。
ひたすら岩山を駆け上り続ける毎日…。
だから…彼らの迫力在る戦いを見て、自分は本当に、《勇敢なる者》になれるんだろうか…?
と怯えていた。
セルティスの時は、《勇敢なる者》に欠員が出て、急遽の選抜試合で、師と共に旅先から駆けつけた。
周囲は皆、ファルコンと対戦し、敗れたグールスが選ばれると噂してた…。
ファオンは顔を下げる。
ファルコンがグールスと戦う場を見ていた。
グールスはファルコンよりは少し背が低かったけど、肩も胸も大きく逞しく、強さを周囲にいちいちアピールし、見せびらかすような戦い振りで…強かったけど、馬鹿なゴリラみたいであまり好きでは無かった。
ファルコンはグールスと比べると、背は高くても顔立ちが美しくて色白だったから、軟弱に目に映った。
けれどファルコンは、暴れまくるグールスの剣を全て激しく跳ね退け、その激しさそのままでグールスに切り込み、力自慢のグールスを力尽くで下した。
勝っても顔色も変えず、剣を落とし屈むグールスを見下すのみ。
身震いするほどの、圧倒的な強さだった…。
最終決戦でグールスの相手になったセルティスは、優しげに見えた。
グールスはもう…勝ったと思ったのだろう…。
剣を振り回し、がつん!がつん!
と力任せにセルティスに振る。
セルティスが…押されてるように見えた。
ファオンですら、グールスが勝つと思ってた。
けれどシリルローレルは言った。
「セルティスは覆すな」
振り向くと、シリルローレルは説明してくれた。
「…セルティスは相手に存分に、わざと剣を振らせている。
勿論グールスのような力自慢の男の剣を、受け止めるには体力と耐久力が要る。
が、セルティスにはそれがある。
そして…振り回すしか能が無いグールスと違い…セルティスには脳がある」
一瞬だった。
セルティスは降って来る剣を、屈んで避けた際、直ぐ身を屈め突っ込んで行って…グールスの腹に剣を突き付けた。
グールスは暫く…何が起こったか解らないみたいに固まっていた…。
ファオンはあの時…勝ったセルティスより、セルティスが勝つと予言した、シリルローレルが凄いと思った。
師はいつも、選抜戦を見せる。
次第に…《勇敢なる者》としての戦いを意識し…自分の弱さが解った。
必死で…剣を振った。
「体格でお前は絶対勝てない。
だから早さで勝負しろ。
どれだけの力自慢でも、相手に先に剣で貫かれれば…死ぬ」
…つまりそれだけ早く、斬り込めと師は言った………。
だから…早く。早く。
もっと早く…!
セルティスのように…欠員補充で《勇敢なる者》の座に座る者は滅多にいない。
選抜の行われる14才になった時…誰よりも強く無ければ《勇敢なる者》に成れない………。
ファオンはアリオン、そしてシーリーンを見る。
彼らの戦い振りも見た。
均衡し、どちらも本当に、強かった。
引き分けになった時、どちらかが選抜されると思ったけど…二人共が、選ばれた。
師は言った。
「《勇敢なる者》の戦いは、選ばれた時でなく、成った時に始まる。
強いだけでは駄目だ。
その強さで民を仲間を、護れなければ。
《勇敢なる者》とは、北領地の守護神なのだから」
「…つまり神になれと?」
「生身の人間にそれを強いる。
過酷だ。
肉体も、精神も」
…選抜戦でもし、勝って選ばれていたら…こんな説明は最初にきっと…されたんだろうな………。
ファオンは促すシーリーンとアリオンを見上げる。
強くて…優しい“神”になろうとしている二人を。
ファオンはまだ、二人を見ると頬が染まったけれど、二人は《勇敢なる者》に戻っていて、ファオンの背に二人が手を添える。
アリオンが言う。
「…今日、見回りとレオは言ったけれど、“巣”の見回りはあまりしない」
シーリーンが吐息吐く。
「…ああ…。
襲撃を幾度か撃退し、かなりの数を減らした後だ」
アリオンが顔を傾けて説明し始める。
「…普段は、北尾根の周囲に雑兵が見張りとしていつも立ってるから、彼らに状況を聞く。
だが襲撃に遭えば戦い、数が多ければ援軍を呼ぶ。
雑兵らは数が多い。
が半数は見張りに常に出てる。
テントにいるのは、次の順番まで待ってる奴らだ」
ファオンが頷く。
シーリーンも顔を傾け、囁く。
「尾根の周囲の、北領地に続く道には全て、見張りが配置されてる。
破られても、二段階。三段階の見張りが待ち構えて防ぐ。
が、手薄な場所を狙われると、領地にまで到達することもある。
…ここ数年は無い。
だから…レオも名誉にかけて、それをさせない為に気を配ってる。
雑兵らも襲撃に遭いながら頑張って戦ってる。
が、《勇敢なる者》が一人加わるだけでも士気はぐんと上がる。
《勇敢なる者》らは…一撃で《化け物》を殺れる者のみ、厳選されて選出されているから」
ファオンは師と共に、毎回《勇敢なる者》選出の試合が行われた時、こっそり闘技場を訪れた時の事を思い返す…。
だから…レオが選出された時。
キースが、ファルコンが選出された時も、見ていた。
その時はまだ、修行も初めの頃。
剣も素振りばかり…。
岩山を駆け上り、体力を付けろと言われ…。
ひたすら岩山を駆け上り続ける毎日…。
だから…彼らの迫力在る戦いを見て、自分は本当に、《勇敢なる者》になれるんだろうか…?
と怯えていた。
セルティスの時は、《勇敢なる者》に欠員が出て、急遽の選抜試合で、師と共に旅先から駆けつけた。
周囲は皆、ファルコンと対戦し、敗れたグールスが選ばれると噂してた…。
ファオンは顔を下げる。
ファルコンがグールスと戦う場を見ていた。
グールスはファルコンよりは少し背が低かったけど、肩も胸も大きく逞しく、強さを周囲にいちいちアピールし、見せびらかすような戦い振りで…強かったけど、馬鹿なゴリラみたいであまり好きでは無かった。
ファルコンはグールスと比べると、背は高くても顔立ちが美しくて色白だったから、軟弱に目に映った。
けれどファルコンは、暴れまくるグールスの剣を全て激しく跳ね退け、その激しさそのままでグールスに切り込み、力自慢のグールスを力尽くで下した。
勝っても顔色も変えず、剣を落とし屈むグールスを見下すのみ。
身震いするほどの、圧倒的な強さだった…。
最終決戦でグールスの相手になったセルティスは、優しげに見えた。
グールスはもう…勝ったと思ったのだろう…。
剣を振り回し、がつん!がつん!
と力任せにセルティスに振る。
セルティスが…押されてるように見えた。
ファオンですら、グールスが勝つと思ってた。
けれどシリルローレルは言った。
「セルティスは覆すな」
振り向くと、シリルローレルは説明してくれた。
「…セルティスは相手に存分に、わざと剣を振らせている。
勿論グールスのような力自慢の男の剣を、受け止めるには体力と耐久力が要る。
が、セルティスにはそれがある。
そして…振り回すしか能が無いグールスと違い…セルティスには脳がある」
一瞬だった。
セルティスは降って来る剣を、屈んで避けた際、直ぐ身を屈め突っ込んで行って…グールスの腹に剣を突き付けた。
グールスは暫く…何が起こったか解らないみたいに固まっていた…。
ファオンはあの時…勝ったセルティスより、セルティスが勝つと予言した、シリルローレルが凄いと思った。
師はいつも、選抜戦を見せる。
次第に…《勇敢なる者》としての戦いを意識し…自分の弱さが解った。
必死で…剣を振った。
「体格でお前は絶対勝てない。
だから早さで勝負しろ。
どれだけの力自慢でも、相手に先に剣で貫かれれば…死ぬ」
…つまりそれだけ早く、斬り込めと師は言った………。
だから…早く。早く。
もっと早く…!
セルティスのように…欠員補充で《勇敢なる者》の座に座る者は滅多にいない。
選抜の行われる14才になった時…誰よりも強く無ければ《勇敢なる者》に成れない………。
ファオンはアリオン、そしてシーリーンを見る。
彼らの戦い振りも見た。
均衡し、どちらも本当に、強かった。
引き分けになった時、どちらかが選抜されると思ったけど…二人共が、選ばれた。
師は言った。
「《勇敢なる者》の戦いは、選ばれた時でなく、成った時に始まる。
強いだけでは駄目だ。
その強さで民を仲間を、護れなければ。
《勇敢なる者》とは、北領地の守護神なのだから」
「…つまり神になれと?」
「生身の人間にそれを強いる。
過酷だ。
肉体も、精神も」
…選抜戦でもし、勝って選ばれていたら…こんな説明は最初にきっと…されたんだろうな………。
ファオンは促すシーリーンとアリオンを見上げる。
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