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二つを兼ねる者 セグナ・アグナータ
87 レオの呼び出し
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シーリーンがファオンを自分のテントに運び、再び塗り薬を塗ると、ファオンは気持ちよさげに毛皮の上に身を横たえ…やがて寝息を立てる。
シーリーンは横にいるアリオンの顔を見ると、アリオンもシーリーンを見た。
がその時、テントの入り口の布を払い、アランが怒鳴った。
「二人共!
レオのテントに来い!」
二人は互いを見ると、同時に立ち上がる。
レオのテントに入ると、全員が揃ってた。
レオは腕組みして、じろり。と二人を見る。
アリオンとシーリーンは同時に、どさっ!と敷物の上に腰下ろす。
つい、アリオンは横のシーリーンを見る。
軽くて女受けの良い軟弱な奴…。
その第一印象は、見事に覆(くつがえ)された。
剣を振った時に。
子供達の集まりで良く男の子達は、剣を互いに振って腕を競ったが、自分と対等に戦える者はいなかった。
シーリーンが目前で剣を構えても…軽く、勝てると思った。
だが…どれだけ激しい突きを入れても、切っ先鋭く斬り込んでも…シーリーンの剣が剣に重なり、止められている。
淡いブルー・グレーの、鋭い瞳を見た時…軟弱な外面とは違い、自分と同じほど、負けん気が強くプライドが高いと解った。
正直、胸が高鳴った。
シーリーンを打ち崩そうと必死で…剣を振った。
だかいつも引き分け…。
いつの間にか、女の子に取り囲まれてるチャラチャラしてる奴…。
から、油断鳴らない男として、一目置いていた…。
《勇敢なる者》の選抜戦でも結果は引き分け。
二人同時選出。
ライバル意識は、在った。
が、人を喰う、凶暴な《化け物》相手に…たった二人で群れに襲撃された時…互いに背を庇いながら戦い、思った。
“こいつは頼りになる…!”
仲間としては…頼もしい男として…シーリーンを認めるしか無かった。
シーリーンは横に座る、憎らしいほど落ち着いて、男らしく肝の据わったアリオンを見る。
幼かった時は、住居を点々と移した。
父が領地監査の仕事をしていたから。
どの場でも女の子が寄って来て、男どもに“柔なツラ”とからかわれたから、きっちり殴ってお返しをして来た。
だから…祖父が亡くなり、父がその領地を受け継ぎ、この北領地に住み続ける事になって…どこの地でもある、子供達の集い(学校のようなもの)に来た時、顔こそは整い、綺麗なのに、やたら落ち着き払い、子供離れした度胸の据わる、アリオンを見た時、どきん。
とした。
“こいつ、本物だ”
どんな事でも怯まない。
焦る様子すら滅多に見せない。
男の子達は皆、アリオンに憧れ、慕い、ヒーローのように祭り上げる。
だから…思った。
ひけを取らないはずだと。
剣で斬り込んで行った時、アリオンの目が見開かれた。
“まだだ…!打ち勝つ!”
奴を倒して、頂点に…!
ずっと点々と移り住んだ場で、して来たこと。
女の子にモテると、いちゃもんつけて来る一番強い奴を打ち崩し、頂点に立って文句を塞ぐ…!
最もアリオンも女の子にいつも取り囲まれていたから…文句は言ってこなかったが。
けどどれだけ決めの剣を叩き込んでも、アリオンは防ぎ、崩れない…。
“好敵手…”
打ち合えば打ち合うほど、それを感じる。
それに…楽しかった。アリオンと打ち合うのは。
互いの力を出し切り戦うのは、この上も無いスリルだった…。
宣告してあったファオンに先に手を出したと怒鳴り付けた時ですら、アリオンは言い訳をしなかった。
どんな時でも自然体で男らしい奴に、腹を立てまくったし、剣で戦い続けた。
が、気づいた。
した事は元に戻せない。
それに…アリオンは戯(たわむ)れをしない。
つまり…本気だと言う事だ。
それに気づいた時、腹を立てるのを止めた。
ファオンが自分に惚れてくれて、アリオンを振るしか無い。
アリオンがファオンの自宅で家族に気づかれ…それが原因でファオンがこの地から姿を消した時も、アリオンを“お前のせいだ!”と殴り付けた。
が、アリオンは言い訳一つせず、殴られ続ける。
その時も…気づいた。
自分だったかもしれなかった。
家族に見つかったのは。
それほど…アリオン同様、自分もファオンに入れ込んでいた。
やがて…“宝物”が消えて、がっくり来た時…同様の胸の痛みを抱えるのは唯一、アリオンだと知った…。
《勇敢なる者》に、成る気は特に無かった。
が、アリオンに負けたくなかった。
結局同点首位で、アリオンと共に《勇敢なる者》に選ばれた。
…どんな場でも絶対負けたくなかったが、《化け物》はそれで済まない…。
喰い付かれない為、必死に戦い続け、自分を磨いた。
いつもぴったり…横にアリオンがいた。
いつの間にか…奴の姿を探す。
見かけると…ほっとした。
子供達の集まりで男の子らがこぞってアリオンを頼る気持ちが…理解出来た。
どんな時でも落ち着き払い…態度を崩したことの無いほど、男らしく頼もしい男…。
二人で《化け物》の群れから襲撃を受けた時も…なぜか、信じられた。
“この男と一緒なら、喰われずに生還出来る…!”と。
レオに顔を上げられ、二人同時に見つめられても、シーリーンは横の頼もしいアリオンの存在を感じ、怯まなかった。
「…さっきファオンが気絶寸前で、お前達が湯に運んだのを見た」
シーリーンは顔を下げず、アリオンも。
二人真っ直ぐレオを見る。
「…ファオンの様子に、俺達が気づかないと、思ってるのか?
ファオンはお前ら、どちらかを選べないほどお前達のどちらも好きだろう?」
「…それで?」
アリオンが落ち着き払った声で、尋ね返す。
キースが声を和らげて、囁く。
「…そのお前達二人で…ファオンを抱いたら、あいつの気持ちがふわふわし過ぎて、戦闘に集中出来ないと困る。
と…そう、レオは心配してる」
アリオンが溜息を吐き、シーリーンも顔を下げた。
レオが首を傾け、尋ねる。
「…一人ずつでも、ファオンは恋に浮かれたようになる。
二人いっぺんで、大丈夫なのか?」
アリオンが静かに言い返す。
「二人で抱け。と言ったのはあんただ」
「…火花散らしてたからな。
それで…ファオンはどちらに傾きそうだ?」
アリオンはシーリーンを見、シーリーンはアリオンを見た。
「本人に聞いてくれ」
アリオンが、シーリーンから顔を背け、俯いて言うと、シーリーンもアリオンから顔を背けて俯く。
「…ああ」
レオが頷く。
「…正直、ファオンの戦い振りは、俺の想像以上だ。
俺も群れに直感で飛びかかったが、群れに埋め尽くされた時思った。
“もしファオンが杖付きを殺らなかったら…!”
一瞬疑った。
が、次の瞬間、襲いかかる《化け物》は棒立ち。
一匹を斬った途端、逃げ出した。
ファオンが杖付きを殺り、《化け物》らは呪縛が解けたように…」
ファルコンも、セルティスも思い出したのか、同時に俯く。
「…杖付きを、見つける独自の嗅覚のようなものが、ファオンにはある。
しかも、見つけた途端つっ走り仕留める。
代理がいれば、《皆を繋ぐ者》の任を解いて《勇敢なる者》として配置したい程だ。
が、今は繁殖期の中期。
…今の時期、《皆を繋ぐ者》を廃せない。
ならば…彼を大事に扱うしか方法が無い」
レオは顔を上げて、アリオンとシーリーンを見る。
「お前達が無茶をしたとは、言ってない。
が、お前達二人には、ファオンはいつも反応が違う。
女のように…頬を染めてる。
が、今色っぽい事で気を乱されると、正直困る」
キースが顔を下げる。
「ファオンがお前達のどちらかを意識して赤く成れば…お前らは、嬉しいだろうがな」
アリオンはシーリーンをチラ見し、シーリーンはアリオンをチラと見た。
シーリーンが掠れた声で囁く。
「…ファオンを、出来るだけ抱くな。と?」
レオは吐息を吐く。
「いや。
お前達の言葉なら、聞くだろう?
戦う時は《勇敢なる者》として扱うと。
言い聞かせてやってくれ。
《化け物》の襲撃が少なければ…これからは出来るだけこちらから出かけて行って、巣を潰す」
皆が一斉に、レオの言葉に顔を上げる。
その場の全員が、一気に顔を引き締めた。
「勿論、前提として、ファオンが杖付きを見つけ、近くにいて殺れる奴が一刻も早く殺る事が必須だ」
キースが顔を上げる。
「一か八かだな」
「お前はまだ同行しなくて良いから、居留地で護っていてくれ」
レオの気遣う言葉に、キースは顔を上げる。
「もう、動いても傷は開かない」
「痛みは?」
ファルコンに聞かれ、キースは誤魔化すように首を振る。
ファルコンとレオが溜息を吐く。
「駄目だ。デュランとリチャードと居留地に残り、俺達が留守の時の襲撃に備えろ」
リチャードが顔を上げて激高する。
「俺も行く!」
が、レオが静かにリチャードを見つめ、言った。
「…ファオンに気持ちを掻き乱されているのに?
あいつに、張り合おうとするなよ。
出かける先は、奴らが無数に蠢く“巣”だ。
慣れた俺達ですら、見た瞬間怖気る」
アリオンがリチャードを見る。
「あいつにちゃんと“好きだ”と言ったのか?」
問われてリチャードが、真っ赤になる。
アランも振り向く。
「ファオンにきっぱり振られてから、キリアンに告れ。
キリアンは…玉砕で済めばめっけものの相手だが」
ファルコンも腕組んだまま、じろり。とリチャードを見る。
「…どうせ、言えないんだろう?
お前、本心ほど人に言えないからな!」
「…あんたは?
好きな相手に告(こく)ったこと、あるのか?!」
リチャードに怒鳴られ、ファルコンは目を見開いた。
「…………無い。
…そう言えば初恋は餓鬼の頃で、相手は大人過ぎて告れなくて、その後は相手の方から寄って来て、告った事は無いな…」
ファルコンの告白に、リチャードが悔しそうに歯噛みする。
キースがリチャードを斜に見つめる。
「…大体、アリオン一人でも恋仇にするにはしんどい相手になのに、シーリーンまでいる。
その時点で諦めようとか、普通思わないか?」
リチャードが、むかむかして言った。
「諦めようとか…思うと余計、どんな手を使っても欲しくなる!」
アランがキースに囁く。
「…リチャードは親に、愛情の代わりに、金貰って育ってるみたいだからな。
愛して振り向かせようとするより、金か権力使って何とかしようと考えるタイプだ」
キースもレオも、ファルコンもが、顔を下げる。
「…それじゃ、振られて当然ですよね…」
ぽそり…。とデュランが言った途端、全員がデュランに注視した。
デュランは何気に顔を上げると、全員の視線を浴び、更にリチャードにぎんぎんと睨まれて、焦りまくって皆を見回し、“リチャードから救ってくれ!”と助けを求めた。
男達全員に顔を背けられ、デュランはその時ようやく解った。
リチャードの恨みを買うから、誰も言わなかった言葉を言ってしまったと。
アランがぽそり…と囁く。
「お前、いい加減余分な一言を控えないと、《化け物》よりも《勇敢なる者》を敵に回すぜ」
デュランが顔を上げると、リチャード以外の男は全員、首を縦に振った。
シーリーンは横にいるアリオンの顔を見ると、アリオンもシーリーンを見た。
がその時、テントの入り口の布を払い、アランが怒鳴った。
「二人共!
レオのテントに来い!」
二人は互いを見ると、同時に立ち上がる。
レオのテントに入ると、全員が揃ってた。
レオは腕組みして、じろり。と二人を見る。
アリオンとシーリーンは同時に、どさっ!と敷物の上に腰下ろす。
つい、アリオンは横のシーリーンを見る。
軽くて女受けの良い軟弱な奴…。
その第一印象は、見事に覆(くつがえ)された。
剣を振った時に。
子供達の集まりで良く男の子達は、剣を互いに振って腕を競ったが、自分と対等に戦える者はいなかった。
シーリーンが目前で剣を構えても…軽く、勝てると思った。
だが…どれだけ激しい突きを入れても、切っ先鋭く斬り込んでも…シーリーンの剣が剣に重なり、止められている。
淡いブルー・グレーの、鋭い瞳を見た時…軟弱な外面とは違い、自分と同じほど、負けん気が強くプライドが高いと解った。
正直、胸が高鳴った。
シーリーンを打ち崩そうと必死で…剣を振った。
だかいつも引き分け…。
いつの間にか、女の子に取り囲まれてるチャラチャラしてる奴…。
から、油断鳴らない男として、一目置いていた…。
《勇敢なる者》の選抜戦でも結果は引き分け。
二人同時選出。
ライバル意識は、在った。
が、人を喰う、凶暴な《化け物》相手に…たった二人で群れに襲撃された時…互いに背を庇いながら戦い、思った。
“こいつは頼りになる…!”
仲間としては…頼もしい男として…シーリーンを認めるしか無かった。
シーリーンは横に座る、憎らしいほど落ち着いて、男らしく肝の据わったアリオンを見る。
幼かった時は、住居を点々と移した。
父が領地監査の仕事をしていたから。
どの場でも女の子が寄って来て、男どもに“柔なツラ”とからかわれたから、きっちり殴ってお返しをして来た。
だから…祖父が亡くなり、父がその領地を受け継ぎ、この北領地に住み続ける事になって…どこの地でもある、子供達の集い(学校のようなもの)に来た時、顔こそは整い、綺麗なのに、やたら落ち着き払い、子供離れした度胸の据わる、アリオンを見た時、どきん。
とした。
“こいつ、本物だ”
どんな事でも怯まない。
焦る様子すら滅多に見せない。
男の子達は皆、アリオンに憧れ、慕い、ヒーローのように祭り上げる。
だから…思った。
ひけを取らないはずだと。
剣で斬り込んで行った時、アリオンの目が見開かれた。
“まだだ…!打ち勝つ!”
奴を倒して、頂点に…!
ずっと点々と移り住んだ場で、して来たこと。
女の子にモテると、いちゃもんつけて来る一番強い奴を打ち崩し、頂点に立って文句を塞ぐ…!
最もアリオンも女の子にいつも取り囲まれていたから…文句は言ってこなかったが。
けどどれだけ決めの剣を叩き込んでも、アリオンは防ぎ、崩れない…。
“好敵手…”
打ち合えば打ち合うほど、それを感じる。
それに…楽しかった。アリオンと打ち合うのは。
互いの力を出し切り戦うのは、この上も無いスリルだった…。
宣告してあったファオンに先に手を出したと怒鳴り付けた時ですら、アリオンは言い訳をしなかった。
どんな時でも自然体で男らしい奴に、腹を立てまくったし、剣で戦い続けた。
が、気づいた。
した事は元に戻せない。
それに…アリオンは戯(たわむ)れをしない。
つまり…本気だと言う事だ。
それに気づいた時、腹を立てるのを止めた。
ファオンが自分に惚れてくれて、アリオンを振るしか無い。
アリオンがファオンの自宅で家族に気づかれ…それが原因でファオンがこの地から姿を消した時も、アリオンを“お前のせいだ!”と殴り付けた。
が、アリオンは言い訳一つせず、殴られ続ける。
その時も…気づいた。
自分だったかもしれなかった。
家族に見つかったのは。
それほど…アリオン同様、自分もファオンに入れ込んでいた。
やがて…“宝物”が消えて、がっくり来た時…同様の胸の痛みを抱えるのは唯一、アリオンだと知った…。
《勇敢なる者》に、成る気は特に無かった。
が、アリオンに負けたくなかった。
結局同点首位で、アリオンと共に《勇敢なる者》に選ばれた。
…どんな場でも絶対負けたくなかったが、《化け物》はそれで済まない…。
喰い付かれない為、必死に戦い続け、自分を磨いた。
いつもぴったり…横にアリオンがいた。
いつの間にか…奴の姿を探す。
見かけると…ほっとした。
子供達の集まりで男の子らがこぞってアリオンを頼る気持ちが…理解出来た。
どんな時でも落ち着き払い…態度を崩したことの無いほど、男らしく頼もしい男…。
二人で《化け物》の群れから襲撃を受けた時も…なぜか、信じられた。
“この男と一緒なら、喰われずに生還出来る…!”と。
レオに顔を上げられ、二人同時に見つめられても、シーリーンは横の頼もしいアリオンの存在を感じ、怯まなかった。
「…さっきファオンが気絶寸前で、お前達が湯に運んだのを見た」
シーリーンは顔を下げず、アリオンも。
二人真っ直ぐレオを見る。
「…ファオンの様子に、俺達が気づかないと、思ってるのか?
ファオンはお前ら、どちらかを選べないほどお前達のどちらも好きだろう?」
「…それで?」
アリオンが落ち着き払った声で、尋ね返す。
キースが声を和らげて、囁く。
「…そのお前達二人で…ファオンを抱いたら、あいつの気持ちがふわふわし過ぎて、戦闘に集中出来ないと困る。
と…そう、レオは心配してる」
アリオンが溜息を吐き、シーリーンも顔を下げた。
レオが首を傾け、尋ねる。
「…一人ずつでも、ファオンは恋に浮かれたようになる。
二人いっぺんで、大丈夫なのか?」
アリオンが静かに言い返す。
「二人で抱け。と言ったのはあんただ」
「…火花散らしてたからな。
それで…ファオンはどちらに傾きそうだ?」
アリオンはシーリーンを見、シーリーンはアリオンを見た。
「本人に聞いてくれ」
アリオンが、シーリーンから顔を背け、俯いて言うと、シーリーンもアリオンから顔を背けて俯く。
「…ああ」
レオが頷く。
「…正直、ファオンの戦い振りは、俺の想像以上だ。
俺も群れに直感で飛びかかったが、群れに埋め尽くされた時思った。
“もしファオンが杖付きを殺らなかったら…!”
一瞬疑った。
が、次の瞬間、襲いかかる《化け物》は棒立ち。
一匹を斬った途端、逃げ出した。
ファオンが杖付きを殺り、《化け物》らは呪縛が解けたように…」
ファルコンも、セルティスも思い出したのか、同時に俯く。
「…杖付きを、見つける独自の嗅覚のようなものが、ファオンにはある。
しかも、見つけた途端つっ走り仕留める。
代理がいれば、《皆を繋ぐ者》の任を解いて《勇敢なる者》として配置したい程だ。
が、今は繁殖期の中期。
…今の時期、《皆を繋ぐ者》を廃せない。
ならば…彼を大事に扱うしか方法が無い」
レオは顔を上げて、アリオンとシーリーンを見る。
「お前達が無茶をしたとは、言ってない。
が、お前達二人には、ファオンはいつも反応が違う。
女のように…頬を染めてる。
が、今色っぽい事で気を乱されると、正直困る」
キースが顔を下げる。
「ファオンがお前達のどちらかを意識して赤く成れば…お前らは、嬉しいだろうがな」
アリオンはシーリーンをチラ見し、シーリーンはアリオンをチラと見た。
シーリーンが掠れた声で囁く。
「…ファオンを、出来るだけ抱くな。と?」
レオは吐息を吐く。
「いや。
お前達の言葉なら、聞くだろう?
戦う時は《勇敢なる者》として扱うと。
言い聞かせてやってくれ。
《化け物》の襲撃が少なければ…これからは出来るだけこちらから出かけて行って、巣を潰す」
皆が一斉に、レオの言葉に顔を上げる。
その場の全員が、一気に顔を引き締めた。
「勿論、前提として、ファオンが杖付きを見つけ、近くにいて殺れる奴が一刻も早く殺る事が必須だ」
キースが顔を上げる。
「一か八かだな」
「お前はまだ同行しなくて良いから、居留地で護っていてくれ」
レオの気遣う言葉に、キースは顔を上げる。
「もう、動いても傷は開かない」
「痛みは?」
ファルコンに聞かれ、キースは誤魔化すように首を振る。
ファルコンとレオが溜息を吐く。
「駄目だ。デュランとリチャードと居留地に残り、俺達が留守の時の襲撃に備えろ」
リチャードが顔を上げて激高する。
「俺も行く!」
が、レオが静かにリチャードを見つめ、言った。
「…ファオンに気持ちを掻き乱されているのに?
あいつに、張り合おうとするなよ。
出かける先は、奴らが無数に蠢く“巣”だ。
慣れた俺達ですら、見た瞬間怖気る」
アリオンがリチャードを見る。
「あいつにちゃんと“好きだ”と言ったのか?」
問われてリチャードが、真っ赤になる。
アランも振り向く。
「ファオンにきっぱり振られてから、キリアンに告れ。
キリアンは…玉砕で済めばめっけものの相手だが」
ファルコンも腕組んだまま、じろり。とリチャードを見る。
「…どうせ、言えないんだろう?
お前、本心ほど人に言えないからな!」
「…あんたは?
好きな相手に告(こく)ったこと、あるのか?!」
リチャードに怒鳴られ、ファルコンは目を見開いた。
「…………無い。
…そう言えば初恋は餓鬼の頃で、相手は大人過ぎて告れなくて、その後は相手の方から寄って来て、告った事は無いな…」
ファルコンの告白に、リチャードが悔しそうに歯噛みする。
キースがリチャードを斜に見つめる。
「…大体、アリオン一人でも恋仇にするにはしんどい相手になのに、シーリーンまでいる。
その時点で諦めようとか、普通思わないか?」
リチャードが、むかむかして言った。
「諦めようとか…思うと余計、どんな手を使っても欲しくなる!」
アランがキースに囁く。
「…リチャードは親に、愛情の代わりに、金貰って育ってるみたいだからな。
愛して振り向かせようとするより、金か権力使って何とかしようと考えるタイプだ」
キースもレオも、ファルコンもが、顔を下げる。
「…それじゃ、振られて当然ですよね…」
ぽそり…。とデュランが言った途端、全員がデュランに注視した。
デュランは何気に顔を上げると、全員の視線を浴び、更にリチャードにぎんぎんと睨まれて、焦りまくって皆を見回し、“リチャードから救ってくれ!”と助けを求めた。
男達全員に顔を背けられ、デュランはその時ようやく解った。
リチャードの恨みを買うから、誰も言わなかった言葉を言ってしまったと。
アランがぽそり…と囁く。
「お前、いい加減余分な一言を控えないと、《化け物》よりも《勇敢なる者》を敵に回すぜ」
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