アグナータの命運

あーす。

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二つを兼ねる者 セグナ・アグナータ

83 ぼやくファルコン

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 皆が居留地に戻ると、アランが駆け寄って来る。
「襲われたのか?!」

だがファルコンが、憮然として言った。
「襲った」

「?!」

テントから顔を出す、キースとシーリーンもが、互いを見交わし首を捻った。


皆が傷を負っていたので、全員が広場の石の椅子にかけ、治療士の手当てを受ける。

ファルコンがジロリとファオンを見る。
「どういう了見で一人、突っ走ったんだ?!」

ファオンはまだ、体が沸騰したように熱く、ぼーっとしていた。
が、振り向く。

「…杖付きを見つけたから…つい」

アリオンが静かに尋ねる。

「あれだけの群れに、襲いかかられず殺れると思ったのか?」

セルティスも怒鳴る。
「たった一人で…?!」

ファオンは皆が怒ってる様子に、俯く。

「…シリルローレルといた時…たった二人だったし、杖付きを見つけたらとにかく直ぐ殺せと言われていて…。
その…つい、習慣で」

そこまで聞いた時、椅子の端で立って聞いていたアランが溜息をつき、キースとシーリーンは顔を見合わせた。

ファルコンがとうとう、怒鳴る。
「手前にいた100もいる《化け物》キーナンは目に、入ってなかったのか?!」

「…ええと…」

ファオンが顔を上げると、アリオンも、セルティスもが俯いて溜息を吐き出した。

レオが背と胸の傷を、治療士に布を巻かれながら言った。

「ファオンを同行させる時、防具を着けないと駄目かもな」

セルティスが顔を上げる。
「…だがそれだと、剣を振り遅れる」

アリオンも頷く。
「一瞬でも早く…剣を振り切るから今まで怪我しなかった」

ファオンが顔を上げ、怪我だらけの同行者を見つめ、再び項垂れる。

「…ごめんなさい…」

だがレオはそれには答えず、アリオンに振り向く。
「キリアンがいた時も、こんな具合か?」

アリオンはレオに見つめられて頷く。
「今日はまだマシな位だ。
群れの後ろにいた杖付きを殺る為、横の高い岩の上から、群れのまっただ中へ飛び降りたんだから」

ファルコンが怒って言った。
「今日、群れに突っ込んだのは俺達って訳だ!」

レオがファルコンに振り向く。
「だが巣を一つ、潰したのは確かだ。
今日の戦いは、数日分を一気に片づけた」

「…しかも午前中。
戦ったのはほんの数分間」
セルティスの呟きに、ファルコンが怒鳴る。

「だが死にに飛び込んだのと変わらないぜ!」

レオが溜息交じりに呟く。
「良く…付いてきてくれた。感謝する。
これからあれをやる時は、もう少し人を増やす」

ファルコンが大きく頷き、セルティスもアリオンもほっとして肩を下げた。

レオだけが、治療を終え立ち上がり、項垂れるファオンの肩をぽん。と叩いて言った。

「素晴らしい働きだ」

ファオンは顔を上げた。

けれどテントに戻って行くレオの、背に巻かれた布を見て、喜びの表情は浮かばなかった。


キースが、治療を終えテントに戻って行くファルコンの背に尋ねる。

「…巣を潰したのか?!」

けれとセルティスもが、立ち上がりながら言った。
「…ああ。
ファオンは杖付きを見た途端突っ走って行き、レオはファオンが《化け物》キーナンらに見つからないよう、俺達に襲撃命令を出し、俺達は突っ込んで行った」

そして振り向き、顔を引き締め低い声で言う。

「100匹あまりの《化け物》キーナン相手に、たった四人で真正面から」

ファルコンが、足を止めて振り向いて怒鳴る。

「アリオンにじっくり、話を聞け!
俺は今、話す気分じゃ無い!」

セルティスもファルコンの言葉に頷くと、自分のテントに戻って行く。

アランは俯くファオンにそっと囁く。
「俺のテントで休んでろ」

ファオンは顔を下げたまま頷き、立ち上がった。

アリオンが、去ろうとするファオンの背に叫ぶ。

「気にするな!
お前の活躍は快挙だ!」

ファオンは項垂れたまま、そう言ってくれるアリオンに振り向き、感謝の籠もる瞳で見つめて頷く。

けれどアランのテントに、背をまるめ、項垂れたまま歩いて行った。

アランが治療を終えたアリオンに尋ねる。

「事情を聞けるか?」

キースも、シーリーンもが、アリオンの両横の椅子に座り、腕組みしてアリオンを見つめる。

その時、離れた場所でこっそり伺っていたリチャードとデュランもがやって来ると、アリオンから少し離れた椅子に座る。

アリオンは皆に無言で促され、溜息と共にさっきの顛末てんまつを話し始めた。
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