アグナータの命運

あーす。

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二つを兼ねる者 セグナ・アグナータ

82 精鋭レグウルナス(勇敢なる者)らとの見回り

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 朝食の場で、ファオンはレオの言葉を聞く。
「今日の見回りにファオン。
お前、出られるか?」

ファオンは頷く。
レオはアランに微笑みかける。

「良く休めたようだな?」
「俺もな」

アランの返答に、ファオンは反射的に顔を下げた。

六人とどういう関係かなんて、聞ける訳も無くて。

アリオンとシーリーンはとても不機嫌。
ファルコンも不機嫌だった。

「(見回りから)帰って元気なら、頂くぜ」

レオは頷く。が口を開く。
ファルコンはレオが言葉を発する前に、言いきった。
「口でして貰う」

レオが頷く。
「だがお前も一緒だ。
他にセルティス。
アリオン。
俺とファオンに同行しろ」

名を呼ばれた者は頷く。



ファオンは“サーシャ”を持ち、レオの逞しい背に続く。

レオは残るアランに頷く。
「怪我人の具合を確かめてくれ。
デュランの方も頼む」

アランは了解したと頷く。

ファオンは一緒に進む、長身で逞しい、ファルコン、セルティスの年長らの迫力に、気圧されたように足を進めた。

いつもの出入り口では無く、《化け物》キーナンらの巣が多くある谷に続く方角の、岩を飛び越え、一斉にその下の岩場を下って行く。

延々と岩を下り降り、途中清水で濡れた岩で足を滑らせそうに成った時、後ろからアリオンが腕を掴んで助けてくれた。

ファオンはアリオンの優しい青の瞳を見て、ほっとする。
けれどその瞳の奥に情欲を見つけ、頬を赤らめて俯く。

気づくとファルコン、セルティスが振り向き、見つめていた。
その瞳は厳しい戦士の瞳。

ファオンは“サーシャ”を握り直すと、気を引き締め付いて行った。

その後、両側が切り立った断崖のような細い岩道を歩き続ける。
蛇行してくねりまくり、ファオンは足場を確かめながら、前を歩くセルティスの背に続く。

やがて、岩の下に草地が見える。
皆その高い岩上から、飛び降りていた。

ファオンも飛び降りる。

やっぱりレオ、ファルコン、セルティスが見つめていて、まるで…自分の動きを確かめるような三人の値踏みする視線に、ファオンはますます気を引き締める。

彼らに萎縮するデュランの気持ちが、解った。

岩に挟まれた草地を歩く。
もう…谷底近くだと知った。

それに…シリルローレルと旅した時に訪れた。
この横の谷底の道からここに来た。

この先には…《化け物》キーナンの巣が点在する…。

もうこの辺りは、いつ《化け物》キーナンに襲いかかられても不思議じゃない場所だった。

皆が警戒してぴりぴりとした緊張に包まれる。

けれど最後尾から来るアリオンは落ち着いていて、ファオンは振り向きアリオンを見ると、いっぺんに心が軽くなった。

レオが岩に囲まれた道を左に折れるのを見て、ほっとする。

左にある《化け物》キーナンの巣は、以前見た時は二つ程度だった。

右に折れると幾つもの《化け物》キーナンの巣が、入り組んだ地形のあちこちに在ったから…。

けどそれだって、見回ったのは奴らの眠る冬。
繁殖期の今は、危険極まりない場所。

けれどレオは横の岩に登り始める。

足場のあまり無い、ごつごつとした岩を、手も使いながら登る。
少し高い場所へ登り、端から下を見ると…《化け物》キーナンの巣の、真上だった。

「…増えたな」
ファルコンの言葉に、セルティスも頷く。

登った岩の手前には、澄んだ清水溜まる、底が見えるほど浅い池。
その向こうに少しある砂地。
砂地の向こうは平らな岩だらけで、岩の上に無数の《化け物》キーナンが蠢いていた。

その数、100体近く…。

ファオンは暫く絶句する。
が、直ぐだった。

今立つ場所から真正面。
《化け物》キーナン蠢く平らな岩の最奥!

群れから少し離れ、岩を背に立つ、しなびた杖付きの姿が視界に飛び込んで来たのは…!

ファオンは辿り着く方法を探し、周囲を見回す。

ぐるりと高い岩で囲まれた巣。
横の岩を伝い行けばなんとか、杖付きの真上へ辿り付ける!

「!」

レオが、横を風のように過ぎるファオンを見る。

ファオンはもう、巣を取り囲む岩の足場を探しながら、飛んで駆け去って行った。

「…どこに行く気だ?」
ファルコンがレオに詰め寄る。

アリオンも、見ている岩の上からほぼ真正面の最奥。
今立ってる岩の横をぐるりと回り、岩の真下にいる杖付きの姿を見つける。

ファオンに視線を送る。
岩を横に伝い行き、杖付きのいる場の真上目指し、風のように岩の足場を飛び走る姿。

次第にセルティスが。
そしてファルコンとレオが。

杖付きの居場所に気づく。

「…ここから一番離れてるぞ?」
セルティスの言葉に、ファルコンがファオンの岩を伝い走る姿に視線を送る。

「あんな頼りなく細い、岩の横道なんて、俺には無理だ」

レオが、頷く。

「ファオンが位置に付いたら、ここから飛び降りて群れの視線を引きつける」

セルティスもファルコンも、レオの言葉に目を見開く。

100体の敵に、たった四人で斬り込むと彼は言っていた。

ファオンはもう半分近く迄来る。

杖付きが立つ岩場の横の崖に、岩に捕まりながらも足場の確かな岩に飛んで、更に杖付きの背後の岩の上。
杖付きの頭上目指し進む。

「!」

アリオンが、高い岩の上を移動するファオンを見上げ、気づき叫ぼうとする《化け物》キーナンを見つける。
レオも気づくと、素早く視線を皆に送る。

ファルコンはレオの合図に下を見る。
「飛ぶのか。ここから」

が、もうレオは迫り出す岩から横の岩へと飛ぶ。
更に下の岩へと飛び降り、澄んだ池の中へと水しぶきを上げて飛び込んだ。


「!」

ファオンは群れが一斉に、池の中の侵入者に注目するのを見た。

杖付きを見る。
杖を、振り始めた。

襲われる!

けれどレオ、ファルコン、セルティス…そしてアリオンが、水を蹴立て群れに突っ込む。

ファオンは必死で岩を伝った。

もう既に皆は、砂地に足を付け、レオ、ファルコンは剣を振り切り、血飛沫上げて向かい来る《化け物》キーナンを切り裂き、セルティスは上に振り上げ、アリオンは突っ込みながら剣を横に構え走る。

群れは凄まじい勢いで、襲い来る四人に飛びかかる。

真っ黒な化け物の群れに、埋もれる…!

気づいてた。
彼らの様子が分かる…!
目で見てるのは杖付きなのに!

ファオンは真っ直ぐ杖付きの頭上へ飛び降りる。

「ぎっ!きぎいっ!ぎぃーーーーーっ!」

ずっとファオンに気づいてた《化け物》キーナンが叫び続け、杖付きがようやく、頭上から降ってくるファオンに気づき、杖を振る。

ファオンは飛び降りた瞬間、剣を振り切った。

その一瞬、横から襲う《化け物》キーナンが腕に喰い付く。

が。
噛み千切られる!
と思った時。
その動きが止まる。

ファオンは下を見た。
杖付きは倒れ、絶命していた。

横の《化け物》キーナンは一瞬、呆けたように、呆然と立ち尽くし…けれど気づいたように、腕から血を滴らせるファオンに再び襲いかかる。

ばっっっ!

剣を横に振り切って腹を切り裂き、背後に振り向き岩の上へと飛び上がる。

下を見ると、切り裂き殺した《化け物》キーナンに、周囲の飢えた《化け物》キーナンが一斉に襲いかかる。

「ぎっ!ぎぃぃぃぃっ!」

ファオンの斬った《化け物》キーナンはまだ息のあったのか、仲間に襲いかかられて叫ぶ。

ファオンは必死で岩を登った。

振り向くと、レオ、ファルコン、セルティス、アリオンらは池の中へ引きながら、近くに居る《化け物》キーナンを数匹、斬り殺していた。

《化け物》キーナンらは傷付き倒れる仲間に襲いかかる。

ファルコンもセルティスもが、自分の斬った《化け物》キーナンに群がる黒い群れに振り向きながら、岩を駆け上って行く。


レオが、元いた岩の上に駆け上り、振り向く。

「登って来るか?」

一番遅れて岩に辿り着いた、アリオンが首を横に振る。

ファオンが岩を伝い、再びこちらに戻って来る。

ファルコンは肩や背にかみ傷を喰らい、怒って言う。
「あいつ、滅茶苦茶だな!」

セルティスも呟く。
「群れに埋め尽くされ、自決しようにも剣も引けない状態だった」

ファルコンが呆れて言った。
「その割に、かみ傷が少ないな」

セルティスが血が伝う二の腕を見せる。
「がっつり喰い付かれてるぜ」

ファルコンはアリオンに視線を送る。
「お前も傷だらけだな」

アリオンは溜息交じりに呟いた。
「深く噛まれてないのが幸いだ」

だが、戻って来たファオンが息を切らし、腕から血を滴らせる姿を見て、レオは言った。

「良くやった」

三人はレオの褒め言葉に溜息を吐き出す。

そして…下の巣を見下ろした時、《化け物》キーナンらは手当たり次第に仲間に喰らい付いていた。

弱い者から下に埋もれ、やがてあちこち喰われて姿を見せ、再び残りの肉に喰らい付く《化け物》キーナンに覆われ…やがて…肉が微かに残る、骨となる…。

「…どれだけ残る?」

セルティスの問いに、皆無言で見つめる。

共に死んだ仲間の肉を喰らっていた二匹は、喰い終わると互いに齧り付く。

壮絶な死闘の末、喉を噛まれふらふらになり、ついに他の《化け物》キーナンらに襲い尽くされ、絶命の雄叫びを上げていた。

だが雄叫びはそこら中で上がってる。

「どれだけしたら止む?」

ファルコンの問いに、セルティスも、レオもが言った。

「満腹になったらだろう?」

けれど満腹になり群れから離れた《化け物》キーナンに、腹の空いた《化け物》キーナンが襲いかかる。

「………………………………………」

皆、絶句して見つめる中、レオが言った。

「帰るぞ」

皆、溜息と共に、頷いた。
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