アグナータの命運

あーす。

文字の大きさ
上 下
77 / 286
二つを兼ねる者 セグナ・アグナータ

77 再招集

しおりを挟む
「揃ったのか?」
レオが現れ、皆が振り向く。

アリオンとセルティスが、湯で完全に《化け物》キーナンの血の臭いを落とした、リチャードを伴いその後に続く。

シェナンが即座に口開く。
「状況を聞こう」

レオはキリアンとアランを交互に見る。

キリアンはアランに発言を譲る。

アランは場の男らに一斉に見つめられ、困惑しながらも話し出す。

「…リチャードが『襲撃してくれれば全滅させてやる』といきまいたら、キリアンが短剣投げて《化け物》キーナンを挑発し、襲撃を受けた。
最初は10体程度。
次に20体。

それで終いかと思ったら、とうとう…100近くの群れが押し寄せて来て、手に負えず雑兵アルナに援軍を頼んだ」

レオが目を見開く。
「…わざわざ、襲撃されるよう挑発したのか?!」

その呆れきる言葉に、アランが振り向く。
「…知ってたんじゃ無いのか?」
「戯れ言だと思ってた」

シェナンが冷静に言い返す。
「キリアンがいる時、良く起こる事態だ。
お陰でこっちは、いつ襲われるかハラハラせずに先手が打てる」

キリアンがおもむろに頷く。

ファルコンが不満げに呟く。
「そう言って奴を甘やかすから、いつまで経っても口を閉じないんだな」

ロレンツは顔を上げる。
「口だけで無く、手も足も出て直ぐ殴る蹴るをする。
南で最も要注意人物だ」

シーリーンがぼそり。
と呟く。
「人害って点では、東のデュケスと張るな」

途端、デュケスは眉下げて囁く。
「まだ…足が痛いのか?」

シーリーンはきっぱり言った。
「痛い!」

レオは皆に『抑えろ』と視線を送り、口を開く。

「…最後尾にいたのか?
ファオンが仕留めたと聞いた」

アランがレオの背後のアリオンに顎をしゃくる。
「奴に聞け」

アリオンは皆の視線を受け、俯く。
「俺は必死で後を追ったが…。
たった一人で岩の上を飛び、群れの最後尾近くまで来ると《化け物》キーナンひしめく群れの中に飛び降りる。
一瞬…あんまり無茶で“殺られる”
と思って、心臓が止まりかけた」

ファオンが弾かれたように顔を上げて、アリオンを切なげに見た。

ロレンツだけが
「何だ。
やっぱりお前の弟なんだな」
とキリアンを見て、言った。

「だが結局、殺ったんだろう?」
キースがそう言い、足元の死体を目で指し示す。

皆に見つめられて、ファオンは俯く。
「…アリオンが必死に付いて来てくれて、背を護ってくれていたから…」

ファルコンは尋ねる。
「急襲したのか?
杖は振らず邪魔は入らなかったのか?」

ファオンは首を横に振る。
「目がけて走ったら、杖を振り、前へ進んでた《化け物》キーナンが五体くらい振り向いて、杖付きとの間に傾れ込んで来た」

キースが尋ねる。
「五体も、斬り捨てて杖付きを殺ったのか?」

ファオンは首を横に振る。
「杖付きを先に殺れば、五体も相手にする必要無いから。
横の岩に駆け上って、五体の頭上を飛び越え、杖付きを殺った」

皆、一斉に押し黙り、感心したようにファオンを見る。

シェナンだけが、笑って言った。
「なる程。
他は囮で群れと戦わせ、杖付きを一刻も早く見つけて殺れば…」
「怪我人はほぼ出ない」
ロレンツが最後の言葉をかっさらい、横のキリアンと頷き合う。

ファーレーンが囁く。
「…だが今まで誰もその事に気づかなくても無理は無い…。
こんなしなびた…到底敵で無い《化け物》キーナンなど、誰も好んで斬らない」

皆が死体を見下ろし、頷く。

《化け物》キーナンらの大きさは、2mを越す奴から1m60そこそこの奴まで、まちまちだった。
がどの《化け物》キーナンも盛り上がる筋肉を持ち、肉付き良く体格も良い。

だがこの死体は、明らかにか細く、よぼよぼ。

更に杖を付いている《化け物》キーナンなど、戦場にいても誰も斬らない。


シェナンは頷きながら、ファーレーンに囁く。
「そっちに全員見せたら、こっちに死体を貰って良いか?」

ファーレーンは頷く。
雑兵アルナに届けさせる」

シェナンは頷く。

ファーレーンが最後に、ぼそり、と言った。

「気づかれたら杖を振られ、群れは杖付きを護るから、気づかれないよう殺らねばならないんだな?」

キリアンがぼそっと言い返した。
「ファオンみたいに頭上を飛び越えられなくちゃ、邪魔をがんがん斬るしか無くなるな」

ロレンツが呟く。
「杖付きに次々に護衛を呼ばれ、戦ってる内に逃げられたら、最悪だな」

皆が一様に黙り込む。

ファーレーンが吐息混じりに囁く。
レドナンドに伝えよう」

言うと背を向け、デュケスに顎をしゃくる。
デュケスは持っていたボロ布に、杖付きの死体を乗せてくるみ、肩に担いだ。

ファーレーンはふ。と気づき、振り向く。
「戦場から、どうやって運んだ?」

皆が一斉にリチャードに振り向く。

アリオンが返答した。
「斬られ血塗れの死体を肩に担ぎ、本人も《化け物》キーナンの血塗れで」

ファーレーンは背を向ける。
「…それはさぞかし、臭かったろうな」

セルティスがそっと言った。
「ああ…。周囲の者が」

リチャードが、軽くセルティスを睨んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ペット彼氏のエチエチ調教劇場🖤

天災
BL
 とにかくエロいです。

見せしめ王子監禁調教日誌

ミツミチ
BL
敵国につかまった王子様がなぶられる話。 徐々に王×王子に成る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

鬼騎士団長のお仕置き

天災
BL
 鬼騎士団長のえっちなお仕置きの話です。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

処理中です...