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二つを兼ねる者 セグナ・アグナータ
76 南の尾根のロレンツ
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テントが円形に点在する広場に来ると、セルティスが言った。
「キリアン。アランのテントで着替えろ。
ファオン。君の荷物は俺が受け取ってる。
俺のテントで着替えろ」
ファオンは頷く。
そしてテントに向かうセルティスの後に続く。
キリアンは離れて行く二人を見ながら、前を歩くアランに囁きかける。
「南に勧誘するとしたら、セルティスだな」
が、アランが自分のテントの入り口の布を払い、潜りながら言った。
「セルティスの方が、御免被るな」
キリアンはテントに消えて行くアランの背を睨み付けた。
ファオンが着替えを終えて、セルティスのテントを出た時。
もう既に外は夕暮れで暗く成り始めていた。
リチャードが運んだ、血を落とした杖付きの死体を囲み眺めるキリアンと、横に南のシェナン。
そして南のもう一人が、死体を見下ろしながら話していた。
キリアンと一緒にいるアラン。
着替える必要の無いファルコンやデュラン。
シーリーンやキースらも死体を見下ろしていた。
キリアンが横に立つ、南の若い青年に文句を言い始める。
「…どうしてお前がシェナンと一緒だ?」
南の若い青年はキリアンより少し長身。
アリオンやシーリーンほどの高さがあった。
けれど金髪で鳶色の瞳をし、アリオンやシーリーンよりはすんなりした体付きで、顔立ちも男らしいと言うよりは綺麗な青年に見えた。
但しキリアンと並ぶと、彼の方が明らかに男らしく見える。
若い青年はキリアンに突っかかられて、キリアンを伺いながら言い返す。
「どうせお前の事だ。
周囲を引っかき回して混乱を引き起こしてるんだろう?」
アランがくくっ。
と笑い、尋ねる。
「やっぱりこいつ、南でもそうか?」
若い青年がアランに頷くと、キリアンは気を悪くしてアランを睨む。
ファオンが皆の側に行く。
南の若い青年が顔を上げる。
「へぇ…。美形」
ファオンはさり気なく言われて、頬を染める。
「…まさか彼がお前の弟じゃないよな?」
若い青年はキリアンに尋ね、キリアンは歯を剥いた。
「俺の弟だ!
どうして疑う?」
若い青年は肩竦める。
「だって…お前はにかんで頬染めるなんて反応、絶対しない。
似た顔でされると衝撃だ」
周囲の男達はもう、くすくす笑い出す。
キリアンは横の青年を睨んで怒鳴った。
「どういう意味だ!」
若い青年は肩竦める。
「お前の弟。
って顔は綺麗でも、もっと生意気な糞餓鬼かと思った」
キリアンは歯を剥く。
「それ、俺の事生意気な糞餓鬼だと言ってるのか?!」
「…南に来た時、お前はそうだった」
ファルコンが若い青年の横に立ち、無言で杖付きの死体を観察してる、長のシェナンに呟く。
「…あんた良くこんな五月蠅い奴ら、束ねてられるな」
シェナンが顔を上げる。
「コツを教えようか?」
ファルコンのみならず、キースもシーリーンも、アランまでもが頷く。
「…聞かないことだ。
何を喋っていても、雑音だと思って気にしない」
皆が、なる程。
と、長の中で一番弱っちい風貌ながら、レオですら煙たがるキリアンを従わせてる、シェナンに一目置く。
ファルコンが口の中でブツブツと
「雑音。雑音」
と唱え始める。
キリアンが気づき、ぽつり。と言う。
「ファオンに無理矢理突っ込む人非人(にんぴにん)の“巨根”」
ファルコンが即座に目を剥く。
「なんだと!」
アランがぼそりとファルコンに告げる。
「修行が足りない」
ファルコンは悔しそうに歯を噛んで俯き、皆がくすくすと笑い出す。
「…事実、巨根なのか?」
若い青年がキリアンに尋ね、キリアンは振り向くと言う。
「実際見たが、バカでかかった。
あんなの入れたら滅茶苦茶痛いぜ」
若い青年は吐息混じりに呟く。
「…弟思いだな」
皆が顔を下げてこっそり笑い続け、ファルコンはますます気分を害す。
キリアンは顔を上げ、ようやくファオンに視線を送ると、若い青年を紹介する。
「南の、ロレンツ。
なぜかいつも俺と組んでる」
ロレンツは俯く。
「お前性格キツいから。
俺以外はみんな嫌がる」
「お前は平気なのか?」
「…平気じゃないが、対等に言い返すから押しつけられてる」
「それで黙ってるタマじゃないだろう?お前」
「嫌味を言い返すと
“だから適任なんだ”とシェナンに誤魔化される」
「狸(タヌキ)だからな」
「狸(タヌキ)だな」
〔※狸(タヌキ)=人を化かす〕
そう言って、二人して横のシェナンをこっそり盗み見る。
がシェナンは殆ど無視。
ファルコンだけが
「こんな餓鬼に毛が生えたような奴らに、良く狸(タヌキ)とか言われて腹が立たないな!」
と怒鳴る。
シェナンは顔を上げて、にっこり笑った。
「こいつらの狸(タヌキ)。
は、褒め言葉だ」
皆がシェナンの大物ぶりが解って、首を横に振って沈黙した。
ファーレーンが出入り口の岩の影から、デュケスを伴ってやって来る。
シーリーンは顔を背け
「またあいつか…!」
と呟いた。
シェナンが顔を上げる。
「東の長は多忙か?」
ファーレーンは頷く。
「見終わったら、死体を借りる。
東に運んで皆に見せる」
ファルコンが頷く。
ファーレーンは今度、次弟をジロリ。
と見る。
皆、“氷の男”と異名取る、ファーレーンの目の鋭さに内心ビビったが、キリアンは平気で見つめ返す。
「お前が騒ぎを引き起こしたと聞いた」
ファーレーンの脅し混じりの怖い言い様にも怯まず、キリアンは言い返す。
「…いつもの事だ。
今更目くじら立ててどうする?」
シーリーンがファオンの横に来ると、こっそり囁く。
「なんでお前が大人しいか。
あれ見て解る気がするぜ」
ファオンは俯く。
「二人が話してると、僕全然口挟めない」
その言葉を聞いて、ファルコンもアランも、キースも頷く。
キリアンが長兄に言い返す。
「それよりあんた、ファルコンに頭下げたって?
あんなやりたいばっかの巨根に、頭なんて下げ損なのに、良くそんなバカなマネ出来たな?」
「…どうして知っている」
「…誰に聞いたかな?
ともかくあんたが人に頭下げるなんて異常事態、直ぐに噂で広まるぜ」
とうとう、デュランがこっそり言った。
「…顔だけ見てると、二人共凄く綺麗なのに…」
…小声だったのに、その場の全員に揃って見つめられ、デュランは目を見開き、慌てて口を閉じて顔を下げ、発言していない“フリ”を決め込んだ。
「キリアン。アランのテントで着替えろ。
ファオン。君の荷物は俺が受け取ってる。
俺のテントで着替えろ」
ファオンは頷く。
そしてテントに向かうセルティスの後に続く。
キリアンは離れて行く二人を見ながら、前を歩くアランに囁きかける。
「南に勧誘するとしたら、セルティスだな」
が、アランが自分のテントの入り口の布を払い、潜りながら言った。
「セルティスの方が、御免被るな」
キリアンはテントに消えて行くアランの背を睨み付けた。
ファオンが着替えを終えて、セルティスのテントを出た時。
もう既に外は夕暮れで暗く成り始めていた。
リチャードが運んだ、血を落とした杖付きの死体を囲み眺めるキリアンと、横に南のシェナン。
そして南のもう一人が、死体を見下ろしながら話していた。
キリアンと一緒にいるアラン。
着替える必要の無いファルコンやデュラン。
シーリーンやキースらも死体を見下ろしていた。
キリアンが横に立つ、南の若い青年に文句を言い始める。
「…どうしてお前がシェナンと一緒だ?」
南の若い青年はキリアンより少し長身。
アリオンやシーリーンほどの高さがあった。
けれど金髪で鳶色の瞳をし、アリオンやシーリーンよりはすんなりした体付きで、顔立ちも男らしいと言うよりは綺麗な青年に見えた。
但しキリアンと並ぶと、彼の方が明らかに男らしく見える。
若い青年はキリアンに突っかかられて、キリアンを伺いながら言い返す。
「どうせお前の事だ。
周囲を引っかき回して混乱を引き起こしてるんだろう?」
アランがくくっ。
と笑い、尋ねる。
「やっぱりこいつ、南でもそうか?」
若い青年がアランに頷くと、キリアンは気を悪くしてアランを睨む。
ファオンが皆の側に行く。
南の若い青年が顔を上げる。
「へぇ…。美形」
ファオンはさり気なく言われて、頬を染める。
「…まさか彼がお前の弟じゃないよな?」
若い青年はキリアンに尋ね、キリアンは歯を剥いた。
「俺の弟だ!
どうして疑う?」
若い青年は肩竦める。
「だって…お前はにかんで頬染めるなんて反応、絶対しない。
似た顔でされると衝撃だ」
周囲の男達はもう、くすくす笑い出す。
キリアンは横の青年を睨んで怒鳴った。
「どういう意味だ!」
若い青年は肩竦める。
「お前の弟。
って顔は綺麗でも、もっと生意気な糞餓鬼かと思った」
キリアンは歯を剥く。
「それ、俺の事生意気な糞餓鬼だと言ってるのか?!」
「…南に来た時、お前はそうだった」
ファルコンが若い青年の横に立ち、無言で杖付きの死体を観察してる、長のシェナンに呟く。
「…あんた良くこんな五月蠅い奴ら、束ねてられるな」
シェナンが顔を上げる。
「コツを教えようか?」
ファルコンのみならず、キースもシーリーンも、アランまでもが頷く。
「…聞かないことだ。
何を喋っていても、雑音だと思って気にしない」
皆が、なる程。
と、長の中で一番弱っちい風貌ながら、レオですら煙たがるキリアンを従わせてる、シェナンに一目置く。
ファルコンが口の中でブツブツと
「雑音。雑音」
と唱え始める。
キリアンが気づき、ぽつり。と言う。
「ファオンに無理矢理突っ込む人非人(にんぴにん)の“巨根”」
ファルコンが即座に目を剥く。
「なんだと!」
アランがぼそりとファルコンに告げる。
「修行が足りない」
ファルコンは悔しそうに歯を噛んで俯き、皆がくすくすと笑い出す。
「…事実、巨根なのか?」
若い青年がキリアンに尋ね、キリアンは振り向くと言う。
「実際見たが、バカでかかった。
あんなの入れたら滅茶苦茶痛いぜ」
若い青年は吐息混じりに呟く。
「…弟思いだな」
皆が顔を下げてこっそり笑い続け、ファルコンはますます気分を害す。
キリアンは顔を上げ、ようやくファオンに視線を送ると、若い青年を紹介する。
「南の、ロレンツ。
なぜかいつも俺と組んでる」
ロレンツは俯く。
「お前性格キツいから。
俺以外はみんな嫌がる」
「お前は平気なのか?」
「…平気じゃないが、対等に言い返すから押しつけられてる」
「それで黙ってるタマじゃないだろう?お前」
「嫌味を言い返すと
“だから適任なんだ”とシェナンに誤魔化される」
「狸(タヌキ)だからな」
「狸(タヌキ)だな」
〔※狸(タヌキ)=人を化かす〕
そう言って、二人して横のシェナンをこっそり盗み見る。
がシェナンは殆ど無視。
ファルコンだけが
「こんな餓鬼に毛が生えたような奴らに、良く狸(タヌキ)とか言われて腹が立たないな!」
と怒鳴る。
シェナンは顔を上げて、にっこり笑った。
「こいつらの狸(タヌキ)。
は、褒め言葉だ」
皆がシェナンの大物ぶりが解って、首を横に振って沈黙した。
ファーレーンが出入り口の岩の影から、デュケスを伴ってやって来る。
シーリーンは顔を背け
「またあいつか…!」
と呟いた。
シェナンが顔を上げる。
「東の長は多忙か?」
ファーレーンは頷く。
「見終わったら、死体を借りる。
東に運んで皆に見せる」
ファルコンが頷く。
ファーレーンは今度、次弟をジロリ。
と見る。
皆、“氷の男”と異名取る、ファーレーンの目の鋭さに内心ビビったが、キリアンは平気で見つめ返す。
「お前が騒ぎを引き起こしたと聞いた」
ファーレーンの脅し混じりの怖い言い様にも怯まず、キリアンは言い返す。
「…いつもの事だ。
今更目くじら立ててどうする?」
シーリーンがファオンの横に来ると、こっそり囁く。
「なんでお前が大人しいか。
あれ見て解る気がするぜ」
ファオンは俯く。
「二人が話してると、僕全然口挟めない」
その言葉を聞いて、ファルコンもアランも、キースも頷く。
キリアンが長兄に言い返す。
「それよりあんた、ファルコンに頭下げたって?
あんなやりたいばっかの巨根に、頭なんて下げ損なのに、良くそんなバカなマネ出来たな?」
「…どうして知っている」
「…誰に聞いたかな?
ともかくあんたが人に頭下げるなんて異常事態、直ぐに噂で広まるぜ」
とうとう、デュランがこっそり言った。
「…顔だけ見てると、二人共凄く綺麗なのに…」
…小声だったのに、その場の全員に揃って見つめられ、デュランは目を見開き、慌てて口を閉じて顔を下げ、発言していない“フリ”を決め込んだ。
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