アグナータの命運

あーす。

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二つを兼ねる者 セグナ・アグナータ

74  清め湯

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 全員がぞろぞろと居留地に戻ってくる。

アリオンがファオンを見つめ、囁く。
「大抵戦闘後は湯に浸かる。
《化け物》キーナンの血は臭いから」

キリアンは横でそれを聞いて尋ねる。
「こっちか?」

アリオンは頷くが、ファオンの背を押す手は、レグウルナス(勇敢なる者)ではなく《皆を繋ぐ者》アグナータの湯の方向。

キリアンは気づいて振り向く。
「ああ…。
ファオンも一緒だと男共がギンギンになるからか?」

「……………………………………」
前を歩くレオもファルコンも無言で俯く。
セルティスですらキリアンから顔を背け、俯いていた。

デュランがキリアンの横で、目を見開く。

「何だよ!」
キリアンに凄まれて、直ぐ目を背ける。

キースが独り言のように呟く。
ファーレーンは堅物。
次兄は砕けすぎか」

キリアンがじろりとキースを見てうそぶく。
「俺は普通だ」

皆、凄く何か言いたげに。
けれど無言を貫いて、黙々と湯の方向へ歩く。


「…………普通、って絶対あんなんじゃ無い」

最後尾でぼそりと言うデュランに、全員が一斉に振り向いた。




だが皆が湯船のある入り口の岩に上がりかけた時。
一際凄まじい匂いに、全員が一斉に振り向く。

リチャードが《化け物》キーナンの血に塗れ、杖付きの死体を肩に担いで広場に入って来ていた。

「……………………………………………」

全員が絶句する中、リチャードは広場の端に、どさっ!と杖付きの死体を下ろし、ぼそり。
と呟く。

「…目で見た方が標的にし易いと思って」

レオが振り向く。
風呂が後回しになりそうな雰囲気に、皆一様(いちよう)に項垂れる。

レオは居留地の出入り口の、岩の側にいたアランに叫ぶ。

「東と南の代表者を呼べ!」

アランは頷いて、雑兵アルナに伝えに行った。

シーリーンが口を開くが、キース先に言った。

「死体が必要なんであって、血は洗い落としても構わないんだよな?」

レオは頷く。
横のファルコンがリチャードに怒鳴る。

「自分の血と杖付きの血を、下の滝で落として来い!
ここの温泉横の滝は、絶対駄目だぞ!」

リチャードは項垂れて頷き、再び杖付きの死体を肩に担いで、居留地の出口の岩を下って行った。




 横一列に全員が流し場に並び、横に伸びた溝に溜まる湯を桶で汲んでは、血を洗い流す。

皆無言で黙々と、洗浄効果のある薬草を籠から摘みむと体に擦りつけながら、《化け物》キーナンの血の腐臭を消していた。

「…あの…。
《化け物》キーナンの血は不浄だから…《皆を繋ぐ者》アグナータの湯では、流しちゃ駄目…って、テスが」

一斉に皆が振り向く。

ファオンが衣服を《化け物》キーナンの血で染め、その場に可憐な姿を現す。

白っぽい金髪。
湖水のような青い瞳。
愛らしい赤い唇…。

細い体はなよやかに見えた。

直ぐ、アリオンが列から離れ、ファオンに寄って行くのをシーリーンは横目で眺め、自分の足を挫かせたデュケスを、心の中で呪った。

「…衣服はこの籠へ」
「…全部?」
「血が付いてたら」

ファオンはあどけない顔でアリオンを見上げる。
「…着替えは?」

アリオンは少し動揺しながら、小声で返答する。
「…皆すっ裸でテントに戻る」

「マジかよ」

皆が声の主に振り向く。
キリアンだった。

キリアンは気づくと顔を上げる。
「着替えなんて持って来てない。
誰が貸してくれる?」

途端、全員が顔を背け、キリアンを怒らせた。
「名乗りを上げる奴はいないのか?!
たかが着替えだぞ?!」

キースが俯いたまま、ぼそりと言う。
「…だって俺のは、大きすぎるだろう?」

レオもファルコンも、キースの発言に嬉しそうに同意して頷く。

シーリーンは背に視線を感じたが、振り向かない。
その時デュランが振り向いてしまい、キリアンと目が合い、慌てて背ける。

キリアンはデュランの背後に立つ。
肩に手を乗せる。

がその時、遅れてやって来たアランが言った。
「俺のなら、サイズ合うか?」
「…だな」

デュランはほっ。として、胸を撫で下ろした。
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