アグナータの命運

あーす。

文字の大きさ
上 下
71 / 286
キーナンの来襲

71 多勢に無勢

しおりを挟む
 キリアンとファオンはリチャードの響く声に、同時坂の下方に振り返る。

ファオンは横のキリアンが、また短剣を投げるのを見た。

どさっ!

どさっ!どさっ!

先頭三体の《化け物》キーナンが地に崩れ落ちる。
が、背後から駆ける《化け物》キーナンの群れに踏みつけられ、その姿を黒い群れの中に消す。

「後はただ、数を減らすのみ!」

剣を構えるキリアンに、ファオンも頷き剣を下げて向かい来る牙剥く化け物に突っ込んで行く。


アリオンは併走し、駆ける横でアランが
「とんだじゃじゃ馬兄弟だぜ!」
と叫び、左へ離れ行くのを見た。

突っ込んで来る《化け物》キーナンに一瞬で足を止めて、すばっ!と斬りつける。

アリオンは必死で更に遠ざかるファオンの背を追う。

キリアンとファオンは周囲を《化け物》キーナンに埋め尽くされながら、果敢に剣を振り続ける。

群れはやって来るアラン、アリオン、リチャードに標的を向け、散会して突き進み始める。

アリオンは背後、リチャードが駆け込んで来る気配に怒鳴る。

「来るぞ!」

リチャードの背後から、今や雑兵アルナらも駆け込んで来る。

ざっっ!
ばさっ!

ただ、来る《化け物》キーナンを、相手の鋭いかぎ爪が身に届くより先に殺すのみ!

皆突っ込んで来る《化け物》キーナンにひたすら剣を振る。


ファオンは突っ込みながら右に剣を振り一匹を斬り殺し、左に振り切り更に一匹を。
正面から向かい来る《化け物》キーナンに頭を下げて突っ込んで、真っ黒な腹に剣を突き立てる。

ずぶっ!
「ぎゃっ!」

剣を引くが敵の気配が消えて、振り向く。

キリアンも周囲囲む三匹目を斬り、振り向いてた。

背後でアリオンが素早く激しい剣を振り下ろして一匹を切り裂く。

その斜め後ろでリチャードが腹を深く抉って一匹を殺し、アランが向かって来る《化け物》キーナンに飛び上がり様真上から、剣を振り下ろしてた。

その背後で一匹の《化け物》キーナンに二人の雑兵アルナが前後から剣を突き立て、三人で《化け物》キーナンを取り囲む雑兵アルナらは、中央の《化け物》キーナンに次々傷を負わせながら必死でその動きを止めようと更に剣を振り入れてた。

「…もう片付くな」

ファオンは血が沸騰するような気持ちが一気に落ち着き、そう言う横のキリアンを見る。
子供の頃見たまま。

どんどん草原を駆けていくその早さ。
一生懸命後を追っても…追っても追っても、追い付かなかった…。

たいてい転んで、膝から血を流し泣く最後。
遠く駆け去ったと思ったキリアンは、いつの間にか横にいて、溜息つきながら傷を覗き込んでた。

傷の痛みより…キリアンの姿が消えて不安だったから、屈み込んで見つめてくれるのが凄く嬉しくて…。
傷の痛みを忘れて抱きついた。

思い出が脳裏をよぎり、その時同様横にいる背の伸びたキリアンの姿が嬉しくて、微笑いかけようとしたら…。

キリアンは剣を引き抜き、倒れる《化け物》キーナンの死体に、左に下げていた予備の剣を、突き立てる。

ぐさっ!

そして背後、やって来るアリオンやリチャードの元へ歩き出す。

「…剣を…抜かないの?」

キリアンは振り向く。

「…刺しとくと、暫くはその辺りを奴ら、避けるんだ」

ファオンがキリアンの背を見つめる。

「南尾根のおまじないみたいなもんだが…割と効く」

ファオンは笑い返そうとした。
けどキリアンは上からやって来るアリオンとリチャードを見ている。

ファオンが視線を向けた時、アリオンとリチャードは、はっ!と目を見開いて、坂の下方を見つめていた。


ファオンが振り向き、キリアンも振り向いた時、そこには…100体もいそうな《化け物》キーナンの群れが、こちらに向かって来ていた。


アランは雑兵アルナに振り向き、叫ぶ。
「援軍を呼べ!」

雑兵アルナの一人は頷いて、慌てて岩場の道へと駆け去って行く。

ファオンはキリアンを見る。

その数の多さを見つめ、唇を噛んだと思うと、剣を持ち上げる。
そして、ファオンに振り向く。

「俺の短剣は尽きてる」

ファオンは頷く。
そしてこちらに押し寄せて来る群れを見つめる。

真っ黒く蠢き押し寄せる《化け物》キーナン

だが群れ後方。
そこに見つける。
杖付いた《化け物》キーナンの姿。

杖を振り、群れをけしかけるようにこちらに扇動していた。

気づいたらもう、その時地を蹴っていた。

「ファオン!」

背後からアリオンの叫ぶ声が聞こえた。
けれどファオンは、群れが避けて通る横の大岩に、駆け上って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

処理中です...