アグナータの命運

キーナンの来襲

70 奇襲

　先に突っ込むキリアンは、左右に飛び込む二体の黒い化け物を、一瞬で剣を左右に振り切り、あっという間に切り裂き進む。

アランは右から飛び来る《化け物》キーナン。
アリオンは左から襲い来る《化け物》キーナン。

それぞれ駆け込み間を詰め、一瞬で剣を横に振りきる。

ざっっ！
ばさっ！

はあ…はぁ…。
二人の肩が荒い息で上下する。

「ぎゃぅぅっ！」

アリオンとアランが揃って、呻く声が響く左横を向いた時、ファオンは既に地に崩れ落ちていく《化け物》キーナンを後ろに残し、向かい来る二体目の《化け物》キーナンに剣を入れて切り裂いていた。

ばっ！
血飛沫が散る。

がファオンは直ぐ剣を構え直すと、目前に突っ込んで来る赤く光る目をした《化け物》キーナン目がけて剣を横に振り切る。

ばっっっ！
「ぎゃっ！」

もうファオンは背を晒し、二人の目前を駆け抜けて行った。

アリオンとアランはその早さに一瞬、目を見交わし合う。

「！」

アリオンがアランの背後に視線振る。
アランはアリオンの背後に。

二人は同時に背後に振り向くと、ずばっ！と剣を素早く振り切った。

どさっ！
どっ！

倒れる《化け物》キーナンに視線を向けもせず、二人が揃って視線を前に戻した時、ファオンの姿は遙か前方。
キリアンの背に追い付く勢いで風のように突っ走って行った。


向かい来る《化け物》キーナンに、キリアンが剣を後ろに突っ込んで行く。

目前に迫る、黒い剛毛に覆われたデカい《化け物》キーナンに、一気に剣を浴びせて横を駆け抜け、背後に倒れ行く音に振り向きもせず、直ぐ次に襲い来る《化け物》キーナンに剣を思い切り後ろに引くと、裂けた赤い口に牙を突き出す真っ黒な化け物目がけ、思い切り剣を振りきって飛び散る血飛沫を浴びた。

ファオンがキリアンの横に駆け込む。
キリアンの横へと襲いかかる《化け物》キーナンの背に迫り、一瞬で剣を上から、黒い剛毛で覆われたデカい背中に振り下ろす。

ざっっっ！
「避けてキリアン！」

「！」
キリアンは剣を振り切った所に叫ばれ、振り向く間も無く前にすっ飛ぶ。

どっっっ！

背後に倒れた《化け物》キーナンのデカさに目を見開き、キリアンはほっ。と息を吐き出し、横に来るファオンに文句を垂れた。

「《化け物》キーナンの下敷きになる所だったぞ！」

ファオンは剣を下げて謝る。
「ごめん…」

襲い来るキーナン《化け物》が途絶え、二人が背後に振り向いた時、12体いた《化け物》キーナンは全て、草原に黒く点在しながら死体となって転がっていた。


はぁ…はぁ…。

アリオンは視線を草原の坂の下。
《化け物》キーナンの死体を確認するキリアンとファオンに向ける。

「………………………」

アランが剣を振り切った構えから腰を起こし、アリオンの横に並び二人を見る。

キリアンは早かった。
が、兄に追随するようなファオンの、目覚ましい戦い振り。

二人は驚愕を無言で隠す。

けれどその時、背後からリチャードが叫ぶ。

「…前！」

アランとアリオンが視線を、ファオンとキリアンのその先。
坂の下方に向けた時、そこには20ほどの《化け物》キーナンの黒い群が、こちらに向かって走り来ていた。

その俊敏さ。
群れは直ぐ、目前のファオンとキリアンを標的に、襲いかかる。

「！」

アリオンが剣を引いて駆け、アランも同時に走り出した。