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キーナンの来襲
67 リチャードを脅すキリアン
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テントを出るファオンの横に、レオが並ぶ。
「剣を用意しないとな…」
ファオンはレオを、感激して見つめた。
「衣服と剣を用意させる。
暫く…話してろ」
レオが顎をしゃくる。
テント中央の広い場所に佇み、こちらを見ているキリアンの姿。
シェナンは既にそこにはいなかった。
ファオンはキリアンに駆け寄る。
シーリーンは皆より先にテントを出ていた。
アリオンが入り口に顔を見せ、シーリーンの横に並び、キリアンに嬉しそうに駆け寄るファオンの姿を二人一緒に眺める。
シーリーンが横に並ぶアリオンの顔を見ず、ファオンとキリアンに視線を注いだまま、ぼそりと言う。
「お前も、キリアンが苦手か?」
アリオンも尋ねるシーリーンに振り向かず、ファオンを見たまま言い返す。
「お前もか」
二人は話しかけたかったファオンの横にキリアンがいるのを見て、その場を動かず嬉しそうなファオンを、黙ってじっと見守った。
キリアンははしゃいで駆け寄るファオンに、また優しく屈む。
まるで美しい姉妹のような美麗な二人の姿を、皆がチラ見しながら散って行く。
「…まだいられるの?!」
「シェナンに許可を貰った。
シーリーンが捻挫してるそうだし、お前の初めての見回りの付き添いの許可を、シェナンとレオ双方から貰った」
ファオンはいっそう瞳を輝かせる。
「《勇敢なる者》として…戦える!」
キリアンはファオンを優しく見つめ、が相変わらずきつい口調で囁く。
「物好きだな、お前。
《化け物》よりは、ここの巨根の方がマシだぞ?」
ファルコンが近くを通り過ぎようとして、歯を剥いて振り向く。
「俺と《化け物》を比べるな!」
アランが、ぷっ!と吹き出しながら、自分のテントの入り口の布を払い、入って行く。
デュランとセルティスも肩を揺らしながら、自分のテントに歩き出す。
ファルコンがとうとうキリアンの前に、長身で逞しい体躯で威圧しながら、偉そうに見下して立つ。
キリアンはその威圧に怖じるどころか、気にする様子すら無い。
ファオンは無理無いと思ってキリアンを見上げた。
すっかり背が伸びて青年らしくなってたけれど、もっと小さかった時ですら、レドナンドみたいな迫力在る容貌の厳格な父を相手にしても、キリアンは怯まなかった。
「巨根と言われて直ぐ自分の事だって…解ってるみたいだな」
そう言って、ファオンに屈んでこっそり尋ねる。
「マジでそんなにデカかったか?」
ファオンがこっくり。と頷くと、キリアンはファルコンに振り向く。
「弟に無理して突っ込んで無いだろうな!」
ファルコンが途端、怒って拳を握り、怒鳴る。
「普通《皆を繋ぐ者》には突っ込む!
お前だって南尾根のグビィスには、突っ込みまくってるんだろう!」
「グビィスは手も口も巧い。
大体南は皆、《皆を繋ぐ者》に無理をさせない、紳士的な男ばかりだ!」
ファルコンはとうとうかっか来た。
「北の男は皆、野獣並みだと?!」
キリアンは表情も変えず、言い返す。
「…北は代々荒っぽい。
南の《皆を繋ぐ者》も東のも。
皆北の《皆を繋ぐ者》に同情してる」
セルティスが言い争う二人の間に、割って入る。
「…ファオン。衣服と剣が届いた。
お前のテントについては…レオが今、検討中だ。
で、今夜の男は誰だ?」
ファオンは躊躇って…そっと言った。
「…リチャード………」
セルティスは衣服と剣をファオンに手渡す。
「着替えて来い」
ファオンは畳まれた衣服の上に乗る、剣を、瞳を潤ませて見つめる。
「…どのテントだ?」
キリアンに言われて、ファオンが顔を上げる。
歩を、ゆっくりリチャードのテントへと進め始め、キリアンはその横で、並んで弟の肩に腕を回して付いて行った。
テントの入り口の布を払うと、リチャードが振り向く。
衣服と剣を両手の上に乗せ、ファオンが入って来る。
その背後に立つキリアンが、じろり。とリチャードを睨んだ。
「てめぇ…。
またファオンを虐めやがったら、ただじゃおかないぞ!」
キリアンに怒鳴られ、リチャードは俯く。
「手を出すなと…レオに言われてる」
中に入り、着替え始めるファオンと、遮るように立つキリアンを、リチャードはこっそり盗み見る。
背を向けていたキリアンが直ぐ、振り向く。
が、リチャードが小声で尋ねる。
「…痛みは…?」
尋ねた途端、キリアンが詰め寄りリチャードの襟首掴む。
「《皆を繋ぐ者》は《勇敢なる者》らの共有財産!
傷付けるなどもっての他と!
お前らの長は教えてないのか?!」
今にも殴りかかりそうなキリアンの、きつい怒気含む表情を見つめながら、それでもリチャードはファオンの返答を待った。
ファオンは躊躇いながら、そっと口を開く。
「…塗り薬が効いているから…」
そして、《皆を繋ぐ者》の衣服を脱いで振り向く。
「…ファルコンの後じゃ、絶対無理だったけど」
リチャードを、庇うようにそう小声で囁く。
キリアンはそれでも歯を剥いてリチャードの襟首掴む腕を引き上げ、もっとリチャードの首を絞めながら脅す。
「…二度と!
昔のような汚いマネはするな!
…もししやがったら俺が…!
お前がファオンにした事を全部、仕返してやるからな!」
ファオンは脅すキリアンに、そっ…と振り向く。
キリアンはどこまで…知ってるんだろう?
リチャードの元からアリオンとシーリーンに助け出され…殆ど食べてなかったから倒れて寝込み…。
アリオンの別荘で少し回復するまで匿われて、キリアンやアリオン。
シーリーン達が…見舞の合間に話合いをして…それから…。
自宅に帰った。
あの時、いつもあまり近づかなかったファーレーンが出迎え、初めてしっかりと腕に、抱きしめてくれた。
「心配した…」
そう言って。
けど父様は忙しかったからファーレーンに一任して…。
結局、誘拐事件は犯人が分からず終いにされ、うやむやになったけれど、リチャードはその後姿を見せず…。
アリオンとシーリーンとキリアンが交互に元気づけてくれてそれで…お終いになった。
「…どうした?
いつもの小憎らしい皮肉とタチの悪い開き直りは…?!
俺に大人しく殴られる気か?!」
キリアンの挑発にも、リチャードは顔を背け小声で気弱に言葉を返すだけ…。
「《化け物》がわんさか押し寄せ来る前だ…。
俺を殴りもし俺が動けなくなったら…他の男が苦労する。
頼むから…今は自重してくれ」
キリアンはリチャードの襟首を、掴む価値が無いと、振り払う。
そしてきつい瞳で、睨め付けた。
「俺の言ったことを忘れるな!
絶対実行するからな!」
ファオンが、振り向く。
リチャードはそう怒鳴られても、キリアンから顔を背け、俯いて無言だった…。
「剣を用意しないとな…」
ファオンはレオを、感激して見つめた。
「衣服と剣を用意させる。
暫く…話してろ」
レオが顎をしゃくる。
テント中央の広い場所に佇み、こちらを見ているキリアンの姿。
シェナンは既にそこにはいなかった。
ファオンはキリアンに駆け寄る。
シーリーンは皆より先にテントを出ていた。
アリオンが入り口に顔を見せ、シーリーンの横に並び、キリアンに嬉しそうに駆け寄るファオンの姿を二人一緒に眺める。
シーリーンが横に並ぶアリオンの顔を見ず、ファオンとキリアンに視線を注いだまま、ぼそりと言う。
「お前も、キリアンが苦手か?」
アリオンも尋ねるシーリーンに振り向かず、ファオンを見たまま言い返す。
「お前もか」
二人は話しかけたかったファオンの横にキリアンがいるのを見て、その場を動かず嬉しそうなファオンを、黙ってじっと見守った。
キリアンははしゃいで駆け寄るファオンに、また優しく屈む。
まるで美しい姉妹のような美麗な二人の姿を、皆がチラ見しながら散って行く。
「…まだいられるの?!」
「シェナンに許可を貰った。
シーリーンが捻挫してるそうだし、お前の初めての見回りの付き添いの許可を、シェナンとレオ双方から貰った」
ファオンはいっそう瞳を輝かせる。
「《勇敢なる者》として…戦える!」
キリアンはファオンを優しく見つめ、が相変わらずきつい口調で囁く。
「物好きだな、お前。
《化け物》よりは、ここの巨根の方がマシだぞ?」
ファルコンが近くを通り過ぎようとして、歯を剥いて振り向く。
「俺と《化け物》を比べるな!」
アランが、ぷっ!と吹き出しながら、自分のテントの入り口の布を払い、入って行く。
デュランとセルティスも肩を揺らしながら、自分のテントに歩き出す。
ファルコンがとうとうキリアンの前に、長身で逞しい体躯で威圧しながら、偉そうに見下して立つ。
キリアンはその威圧に怖じるどころか、気にする様子すら無い。
ファオンは無理無いと思ってキリアンを見上げた。
すっかり背が伸びて青年らしくなってたけれど、もっと小さかった時ですら、レドナンドみたいな迫力在る容貌の厳格な父を相手にしても、キリアンは怯まなかった。
「巨根と言われて直ぐ自分の事だって…解ってるみたいだな」
そう言って、ファオンに屈んでこっそり尋ねる。
「マジでそんなにデカかったか?」
ファオンがこっくり。と頷くと、キリアンはファルコンに振り向く。
「弟に無理して突っ込んで無いだろうな!」
ファルコンが途端、怒って拳を握り、怒鳴る。
「普通《皆を繋ぐ者》には突っ込む!
お前だって南尾根のグビィスには、突っ込みまくってるんだろう!」
「グビィスは手も口も巧い。
大体南は皆、《皆を繋ぐ者》に無理をさせない、紳士的な男ばかりだ!」
ファルコンはとうとうかっか来た。
「北の男は皆、野獣並みだと?!」
キリアンは表情も変えず、言い返す。
「…北は代々荒っぽい。
南の《皆を繋ぐ者》も東のも。
皆北の《皆を繋ぐ者》に同情してる」
セルティスが言い争う二人の間に、割って入る。
「…ファオン。衣服と剣が届いた。
お前のテントについては…レオが今、検討中だ。
で、今夜の男は誰だ?」
ファオンは躊躇って…そっと言った。
「…リチャード………」
セルティスは衣服と剣をファオンに手渡す。
「着替えて来い」
ファオンは畳まれた衣服の上に乗る、剣を、瞳を潤ませて見つめる。
「…どのテントだ?」
キリアンに言われて、ファオンが顔を上げる。
歩を、ゆっくりリチャードのテントへと進め始め、キリアンはその横で、並んで弟の肩に腕を回して付いて行った。
テントの入り口の布を払うと、リチャードが振り向く。
衣服と剣を両手の上に乗せ、ファオンが入って来る。
その背後に立つキリアンが、じろり。とリチャードを睨んだ。
「てめぇ…。
またファオンを虐めやがったら、ただじゃおかないぞ!」
キリアンに怒鳴られ、リチャードは俯く。
「手を出すなと…レオに言われてる」
中に入り、着替え始めるファオンと、遮るように立つキリアンを、リチャードはこっそり盗み見る。
背を向けていたキリアンが直ぐ、振り向く。
が、リチャードが小声で尋ねる。
「…痛みは…?」
尋ねた途端、キリアンが詰め寄りリチャードの襟首掴む。
「《皆を繋ぐ者》は《勇敢なる者》らの共有財産!
傷付けるなどもっての他と!
お前らの長は教えてないのか?!」
今にも殴りかかりそうなキリアンの、きつい怒気含む表情を見つめながら、それでもリチャードはファオンの返答を待った。
ファオンは躊躇いながら、そっと口を開く。
「…塗り薬が効いているから…」
そして、《皆を繋ぐ者》の衣服を脱いで振り向く。
「…ファルコンの後じゃ、絶対無理だったけど」
リチャードを、庇うようにそう小声で囁く。
キリアンはそれでも歯を剥いてリチャードの襟首掴む腕を引き上げ、もっとリチャードの首を絞めながら脅す。
「…二度と!
昔のような汚いマネはするな!
…もししやがったら俺が…!
お前がファオンにした事を全部、仕返してやるからな!」
ファオンは脅すキリアンに、そっ…と振り向く。
キリアンはどこまで…知ってるんだろう?
リチャードの元からアリオンとシーリーンに助け出され…殆ど食べてなかったから倒れて寝込み…。
アリオンの別荘で少し回復するまで匿われて、キリアンやアリオン。
シーリーン達が…見舞の合間に話合いをして…それから…。
自宅に帰った。
あの時、いつもあまり近づかなかったファーレーンが出迎え、初めてしっかりと腕に、抱きしめてくれた。
「心配した…」
そう言って。
けど父様は忙しかったからファーレーンに一任して…。
結局、誘拐事件は犯人が分からず終いにされ、うやむやになったけれど、リチャードはその後姿を見せず…。
アリオンとシーリーンとキリアンが交互に元気づけてくれてそれで…お終いになった。
「…どうした?
いつもの小憎らしい皮肉とタチの悪い開き直りは…?!
俺に大人しく殴られる気か?!」
キリアンの挑発にも、リチャードは顔を背け小声で気弱に言葉を返すだけ…。
「《化け物》がわんさか押し寄せ来る前だ…。
俺を殴りもし俺が動けなくなったら…他の男が苦労する。
頼むから…今は自重してくれ」
キリアンはリチャードの襟首を、掴む価値が無いと、振り払う。
そしてきつい瞳で、睨め付けた。
「俺の言ったことを忘れるな!
絶対実行するからな!」
ファオンが、振り向く。
リチャードはそう怒鳴られても、キリアンから顔を背け、俯いて無言だった…。
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