65 / 286
キーナンの来襲
65 レオの裁定
しおりを挟む
ファルコンが横のレオを見つめ、そっと囁く。
「《勇敢なる者》としてのファオンの資質は、問題ないようだな…」
けれどレオは暫く、押し黙る。
ファーレーンが不安そうにレオをじっと見つめる姿を、ファオンは感謝するように見入る。
横に座るアントランが振り向き、ファオンと目が合うと、アントランはファオンに笑って頷いた。
ファオンはアントランの目を見て、躊躇う。
“戦う事を許したのは自分で責任を取る”
彼はそうレオに言ってくれた…。
レオの言葉がその場に響く。
「が、ファオンはまだ《皆を繋ぐ者》として皆に馴染んでいない」
「既にここの全員が、彼と二人きりで過ごしている…」
そう言ったのはシーリーンで、彼の言葉は掠れていた。
レオは顔を上げて、シーリーンを見つめる。
シーリーンは俯いていた。
横のキースが代わって顔を上げ、確信に満ちた顔で頷く。
二人から離れたところで俯くリチャードは顔を上げない。
レオはゆっくり視線を移す。
デュランと目が合うと、デュランは躊躇いながらもレオを見つめ返してはっきりと頷き、横のセルティスは微笑んで首を縦に振る。
ファオンの横のアリオンも、レオを強い青の瞳で見つめ返して頷き、アランは異論の無い目で真っ直ぐレオを見つめ返す。
だがレオはシーリーンとアリオンを視線を移して見つめた後、リチャードも見、掠れた声で言った。
「…《勇敢なる者》とは、戦場で自分自身の命が守れなくてはならない。
更に仲間をも、護れなくてはならない」
皆がレオを見つめる。
「リチャード。
お前の答えを聞こう。
ファオンが戦いの場にいて、自分を保てるか?」
皆が一斉にテントの入り口近く。
皆から離れて座り、俯くリチャードに振り向く。
リチャードは微かに頭を揺らした後、顔を上げてファオンを見る。
リチャードに裁定を任せるようなレオの発言に、その場の皆が押し黙る。
リチャードは躊躇って唇を開きかけ…けれど顔を深く下げた後(のち)、上げて掠れた声で言った。
「…デュランのように…慣れるまでは前線に出さなければいい…」
レオがリチャードを見る。
「新人扱いしろと言う事か?」
リチャードは頷く。
レオは尚も言う。
「新人が二人になる。
お前はその際、デュランかファオンの面倒が見られるか?」
途端にアランは溜息を吐き、ファルコンも顔を下げた。
が、アリオンがレオにはっきりと言った。
「リチャードは新人を上がったばかりだ。
新人の面倒は俺達が見る」
レオはアリオンを見た。シーリーンをも。
二人は尾根に上がったばかりの頃から既に、新人とは名ばかり。
面倒を見る必要の無い、頼もしい男達だった。
「…いいだろう」
レオは言い、顔を上げる。
「ファオンをセグナ・アグナータとする!
戦いにおいて彼は新人として扱い、《皆を繋ぐ者》の役目の為、隊務は控えられる。
が、《皆を繋ぐ者》として役目の際、皆は彼の戦いにおいての体調を思いやり、決して無茶をさせてはならない」
ファーレーンが弾かれたように顔を上げて、レオを感謝の視線で包む。
皆の厳しい雰囲気が、雪解けのように一斉にほぐれ、それぞれが笑顔を見せた。
「桃摘みに際して、アントランの責任は問わない。
ファオン」
レオに名を呼ばれ、長としての視線を向けられて、ファオンはレオを見つめ返す。
「…長い歴史において、ほんの僅かしか産まれないセグナ・アグナータの誕生だ。
ここの誰も経験が無い。
だがセグナ・アグナータは発言権を持つ。
《皆を繋ぐ者》として過ごす時、それは剥奪される。
が、戦士となった時、お前は発言を許される。
皆は…お前が戦士に戻る時、無理無く戦えるよう配慮しなくてはならない」
ファオンはまだレオを、じっ。と見つめ続けた。
レオはようやく、ほぐれたように微笑む。
「《皆を繋ぐ者》でありながら《勇敢なる者》ほど戦える者は、希だ」
ファオンは頷く。
「見回りの順にお前もこれから名を連ねる。
その役目で《皆を繋ぐ者》としての役目を果たせないようなら俺にそう言え。
《皆を繋ぐ者》としての役割を、暫く免除する」
が、ファルコンはそれを聞いて大きな吐息を吐き出した。
レオが気づき、振り向く。
「言いたい事があれば今の内に聞く」
ファルコンは俯ききって小声で呟いた。
「…いや。
これから俺は、ファオンにせいぜい手か口でして貰う程度だな」
が、ファルコンのぼやきに、その場の北の尾根の男達は一斉に、笑った。
レオは皆を見回し、言い渡す。
「暫く寛いでくれ。
シリルローレルに尾根に上がって説明を聞きたい所だが、放浪している英雄を捕まえてる間にも、《化け物》は更に数を増やす。
直、南、東尾根の代表の者がここに来る。
到着次第、杖を付く《化け物》の件で話合いを持つ」
皆は一斉に居ずまいを崩し、それぞれ横に座る相手と話を始める。
アリオンがファオンに振り向き、微笑んで言った。
「…見回りの間、お前は俺と同じ、《勇敢なる者》だ」
アリオンの青い瞳が輝いて自分を見つめている感激に、ファオンは瞳を潤ませて、微笑んだ。
ファオンはそして…長兄ファーレーンに振り向く。
彼は見つめ返し、しっかりと末弟に頷く。
ファオンはずっと…あまり接する事の無かった憧れの長兄に、瞳を無邪気に輝かせて、嬉しそうに頷き返した。
「《勇敢なる者》としてのファオンの資質は、問題ないようだな…」
けれどレオは暫く、押し黙る。
ファーレーンが不安そうにレオをじっと見つめる姿を、ファオンは感謝するように見入る。
横に座るアントランが振り向き、ファオンと目が合うと、アントランはファオンに笑って頷いた。
ファオンはアントランの目を見て、躊躇う。
“戦う事を許したのは自分で責任を取る”
彼はそうレオに言ってくれた…。
レオの言葉がその場に響く。
「が、ファオンはまだ《皆を繋ぐ者》として皆に馴染んでいない」
「既にここの全員が、彼と二人きりで過ごしている…」
そう言ったのはシーリーンで、彼の言葉は掠れていた。
レオは顔を上げて、シーリーンを見つめる。
シーリーンは俯いていた。
横のキースが代わって顔を上げ、確信に満ちた顔で頷く。
二人から離れたところで俯くリチャードは顔を上げない。
レオはゆっくり視線を移す。
デュランと目が合うと、デュランは躊躇いながらもレオを見つめ返してはっきりと頷き、横のセルティスは微笑んで首を縦に振る。
ファオンの横のアリオンも、レオを強い青の瞳で見つめ返して頷き、アランは異論の無い目で真っ直ぐレオを見つめ返す。
だがレオはシーリーンとアリオンを視線を移して見つめた後、リチャードも見、掠れた声で言った。
「…《勇敢なる者》とは、戦場で自分自身の命が守れなくてはならない。
更に仲間をも、護れなくてはならない」
皆がレオを見つめる。
「リチャード。
お前の答えを聞こう。
ファオンが戦いの場にいて、自分を保てるか?」
皆が一斉にテントの入り口近く。
皆から離れて座り、俯くリチャードに振り向く。
リチャードは微かに頭を揺らした後、顔を上げてファオンを見る。
リチャードに裁定を任せるようなレオの発言に、その場の皆が押し黙る。
リチャードは躊躇って唇を開きかけ…けれど顔を深く下げた後(のち)、上げて掠れた声で言った。
「…デュランのように…慣れるまでは前線に出さなければいい…」
レオがリチャードを見る。
「新人扱いしろと言う事か?」
リチャードは頷く。
レオは尚も言う。
「新人が二人になる。
お前はその際、デュランかファオンの面倒が見られるか?」
途端にアランは溜息を吐き、ファルコンも顔を下げた。
が、アリオンがレオにはっきりと言った。
「リチャードは新人を上がったばかりだ。
新人の面倒は俺達が見る」
レオはアリオンを見た。シーリーンをも。
二人は尾根に上がったばかりの頃から既に、新人とは名ばかり。
面倒を見る必要の無い、頼もしい男達だった。
「…いいだろう」
レオは言い、顔を上げる。
「ファオンをセグナ・アグナータとする!
戦いにおいて彼は新人として扱い、《皆を繋ぐ者》の役目の為、隊務は控えられる。
が、《皆を繋ぐ者》として役目の際、皆は彼の戦いにおいての体調を思いやり、決して無茶をさせてはならない」
ファーレーンが弾かれたように顔を上げて、レオを感謝の視線で包む。
皆の厳しい雰囲気が、雪解けのように一斉にほぐれ、それぞれが笑顔を見せた。
「桃摘みに際して、アントランの責任は問わない。
ファオン」
レオに名を呼ばれ、長としての視線を向けられて、ファオンはレオを見つめ返す。
「…長い歴史において、ほんの僅かしか産まれないセグナ・アグナータの誕生だ。
ここの誰も経験が無い。
だがセグナ・アグナータは発言権を持つ。
《皆を繋ぐ者》として過ごす時、それは剥奪される。
が、戦士となった時、お前は発言を許される。
皆は…お前が戦士に戻る時、無理無く戦えるよう配慮しなくてはならない」
ファオンはまだレオを、じっ。と見つめ続けた。
レオはようやく、ほぐれたように微笑む。
「《皆を繋ぐ者》でありながら《勇敢なる者》ほど戦える者は、希だ」
ファオンは頷く。
「見回りの順にお前もこれから名を連ねる。
その役目で《皆を繋ぐ者》としての役目を果たせないようなら俺にそう言え。
《皆を繋ぐ者》としての役割を、暫く免除する」
が、ファルコンはそれを聞いて大きな吐息を吐き出した。
レオが気づき、振り向く。
「言いたい事があれば今の内に聞く」
ファルコンは俯ききって小声で呟いた。
「…いや。
これから俺は、ファオンにせいぜい手か口でして貰う程度だな」
が、ファルコンのぼやきに、その場の北の尾根の男達は一斉に、笑った。
レオは皆を見回し、言い渡す。
「暫く寛いでくれ。
シリルローレルに尾根に上がって説明を聞きたい所だが、放浪している英雄を捕まえてる間にも、《化け物》は更に数を増やす。
直、南、東尾根の代表の者がここに来る。
到着次第、杖を付く《化け物》の件で話合いを持つ」
皆は一斉に居ずまいを崩し、それぞれ横に座る相手と話を始める。
アリオンがファオンに振り向き、微笑んで言った。
「…見回りの間、お前は俺と同じ、《勇敢なる者》だ」
アリオンの青い瞳が輝いて自分を見つめている感激に、ファオンは瞳を潤ませて、微笑んだ。
ファオンはそして…長兄ファーレーンに振り向く。
彼は見つめ返し、しっかりと末弟に頷く。
ファオンはずっと…あまり接する事の無かった憧れの長兄に、瞳を無邪気に輝かせて、嬉しそうに頷き返した。
0
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる