アグナータの命運

あーす。

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キーナンの来襲

65 レオの裁定

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 ファルコンが横のレオを見つめ、そっと囁く。

《勇敢なる者》レグウルナスとしてのファオンの資質は、問題ないようだな…」

けれどレオは暫く、押し黙る。

ファーレーンが不安そうにレオをじっと見つめる姿を、ファオンは感謝するように見入る。
横に座るアントランが振り向き、ファオンと目が合うと、アントランはファオンに笑って頷いた。

ファオンはアントランの目を見て、躊躇う。

“戦う事を許したのは自分で責任を取る”
彼はそうレオに言ってくれた…。

レオの言葉がその場に響く。

「が、ファオンはまだ《皆を繋ぐ者》アグナータとして皆に馴染んでいない」

「既にここの全員が、彼と二人きりで過ごしている…」

そう言ったのはシーリーンで、彼の言葉は掠れていた。

レオは顔を上げて、シーリーンを見つめる。
シーリーンは俯いていた。
横のキースが代わって顔を上げ、確信に満ちた顔で頷く。

二人から離れたところで俯くリチャードは顔を上げない。

レオはゆっくり視線を移す。
デュランと目が合うと、デュランは躊躇いながらもレオを見つめ返してはっきりと頷き、横のセルティスは微笑んで首を縦に振る。

ファオンの横のアリオンも、レオを強い青の瞳で見つめ返して頷き、アランは異論の無い目で真っ直ぐレオを見つめ返す。

だがレオはシーリーンとアリオンを視線を移して見つめた後、リチャードも見、掠れた声で言った。

「…《勇敢なる者》レグウルナスとは、戦場で自分自身の命が守れなくてはならない。
更に仲間をも、護れなくてはならない」

皆がレオを見つめる。

「リチャード。
お前の答えを聞こう。
ファオンが戦いの場にいて、自分を保てるか?」

皆が一斉にテントの入り口近く。
皆から離れて座り、俯くリチャードに振り向く。

リチャードは微かに頭を揺らした後、顔を上げてファオンを見る。

リチャードに裁定を任せるようなレオの発言に、その場の皆が押し黙る。

リチャードは躊躇って唇を開きかけ…けれど顔を深く下げた後(のち)、上げて掠れた声で言った。

「…デュランのように…慣れるまでは前線に出さなければいい…」

レオがリチャードを見る。
「新人扱いしろと言う事か?」

リチャードは頷く。

レオは尚も言う。
「新人が二人になる。
お前はその際、デュランかファオンの面倒が見られるか?」

途端にアランは溜息を吐き、ファルコンも顔を下げた。

が、アリオンがレオにはっきりと言った。

「リチャードは新人を上がったばかりだ。
新人の面倒は俺達が見る」

レオはアリオンを見た。シーリーンをも。

二人は尾根に上がったばかりの頃から既に、新人とは名ばかり。
面倒を見る必要の無い、頼もしい男達だった。

「…いいだろう」

レオは言い、顔を上げる。

「ファオンをセグナ・アグナータ戦う皆を繋ぐ者とする!
戦いにおいて彼は新人として扱い、《皆を繋ぐ者》アグナータの役目の為、隊務は控えられる。
が、《皆を繋ぐ者》アグナータとして役目の際、皆は彼の戦いにおいての体調を思いやり、決して無茶をさせてはならない」

ファーレーンが弾かれたように顔を上げて、レオを感謝の視線で包む。

皆の厳しい雰囲気が、雪解けのように一斉にほぐれ、それぞれが笑顔を見せた。

「桃摘みに際して、アントランの責任は問わない。
ファオン」

レオに名を呼ばれ、長としての視線を向けられて、ファオンはレオを見つめ返す。

「…長い歴史において、ほんの僅かしか産まれないセグナ・アグナータ戦う皆を繋ぐ者の誕生だ。
ここの誰も経験が無い。
だがセグナ・アグナータ戦う皆を繋ぐ者は発言権を持つ。
《皆を繋ぐ者》アグナータとして過ごす時、それは剥奪される。
が、戦士となった時、お前は発言を許される。
皆は…お前が戦士に戻る時、無理無く戦えるよう配慮しなくてはならない」

ファオンはまだレオを、じっ。と見つめ続けた。

レオはようやく、ほぐれたように微笑む。

《皆を繋ぐ者》アグナータでありながら《勇敢なる者》レグウルナスほど戦える者は、希だ」

ファオンは頷く。

「見回りの順にお前もこれから名を連ねる。
その役目で《皆を繋ぐ者》アグナータとしての役目を果たせないようなら俺にそう言え。
《皆を繋ぐ者》アグナータとしての役割を、暫く免除する」

が、ファルコンはそれを聞いて大きな吐息を吐き出した。

レオが気づき、振り向く。
「言いたい事があれば今の内に聞く」

ファルコンは俯ききって小声で呟いた。
「…いや。
これから俺は、ファオンにせいぜい手か口でして貰う程度だな」

が、ファルコンのぼやきに、その場の北の尾根の男達は一斉に、笑った。


レオは皆を見回し、言い渡す。

「暫く寛いでくれ。
シリルローレルに尾根に上がって説明を聞きたい所だが、放浪している英雄を捕まえてる間にも、《化け物》キーナンは更に数を増やす。
直、南、東尾根の代表の者がここに来る。
到着次第、杖を付く《化け物》キーナンの件で話合いを持つ」

皆は一斉に居ずまいを崩し、それぞれ横に座る相手と話を始める。

アリオンがファオンに振り向き、微笑んで言った。
「…見回りの間、お前は俺と同じ、《勇敢なる者》レグウルナスだ」

アリオンの青い瞳が輝いて自分を見つめている感激に、ファオンは瞳を潤ませて、微笑んだ。

ファオンはそして…長兄ファーレーンに振り向く。
彼は見つめ返し、しっかりと末弟に頷く。

ファオンはずっと…あまり接する事の無かった憧れの長兄に、瞳を無邪気に輝かせて、嬉しそうに頷き返した。
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