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キーナンの来襲
64 話合い
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湯から上がると、キースとシーリーンが岩陰で待っていた。
キースが頭を屈め、ファオンに尋ねる。
「テスに薬を塗って貰ったか?」
ファオンは頬を染めて顔を上げ、囁く。
「…恥ずかしいから、自分で」
シーリーンが横に付く。
「ちゃんと塗れたのか?」
ファオンはもっと俯くと、小さな声で答える。
「…うん。ちゃんと奥まで…痛い場所を」
シーリーンが吐息を吐く。
手をそっとファオンの背に当てて言った。
「…行こう。レオのテントだ」
歩き出すと、リチャードが駆け込んで来る。
キースとシーリーンがファオンの両側で護るように付くのを見て、顔を下げる。
が、上げて言った。
「レオが呼んでる!」
ファオンはキースを見、そして首を回してシーリーンを見る。
「…先に行け」
シーリーンが言い、キースも頷く。
ファオンは躊躇った。
が、背を向けるリチャードの後に付いて行った。
リチャードがレオのテントの入り口の布を払う。
振り向くからファオンは無言で、横を通り過ぎた。
中に入ると、皆の中にファーレーンの座す姿を見つける。
デュケスとアントランもいた。
アリオンが頷き、横を開けてくれる。
ファオンはデュランやセルティスの背後を通り、アリオンの横に座った。
中央にいるレオは、治療士に布を巻かれていた。
あちこちに、傷口が見える。
どれも浅い掻き傷。
噛み傷も見えた…。
ファオンはじっ…とレオを見る。
レオは振り向き、ファオンを見た。
口を開く。
「…アントランに聞いた。
剣を、握ったそうだな?」
即座にアントランが言う。
「俺が許した。
罰なら俺が受ける。
俺の責任だ」
ファオンはそう言うアントランを見る。
怖じず。
はっきりと言い切った。
ファルコンとセルティスが俯き、吐息を吐く。
レオの横に座るアランは顔を上げて、レオの裁定を待っていた。
レオは一番深い腕の傷に、布が巻き終わるのを見て、顔を上げて治療士に頷く。
治療士は頷き返し、座る皆の背後を通り、テントを出て行った。
「…後にしよう。
ファルコン。
話してくれ」
レオの左側に座るファルコンは頷く。
「…ファオンに寝物語で聞いた」
そうファルコンが語り始った時、ファーレーンの顔が動揺で激しく揺れる。
そして痛みに溢れた瞳を、末弟ファオンに向ける。
“氷の男”のその様子を見て、アントランが目を見開く。
“ファーレーンが、動揺…?”
口は開かなかった。
がそこにいる全員に、アントランの驚愕が伝わった。
その時テントの入り口が開き、キースとシーリーンが、それぞれ傷を庇いながら入って来る。
シーリーンは一同の中にデュケスの姿を見ると、ジロリ…と白い眼を向けた。
デュケスはさっ!とシーリーンから顔を背ける。
「…続けてくれ」
レオが促し、ファルコンはやっと口を開く。
「群れを操るのは、杖付く年老いた《化け物》だと。
アリオンがレオの助けに走り、俺も付いて走ってた時、ふと反対側を見た。
…そいつがいた。
レオはアリオンに任せ俺は…本能的にそいつを斬り殺した」
その場に一斉に溜息が洩れる。
「それで…奴ら逃げてったのか?」
アランの問いに、ファルコンはほぼ真正面のアランに目を向け、頷く。
「多分な」
シーリーンは入り口近くにキースと並んで座っていた。
が、レオに近い場所に座る、ファオンに視線を向けて口を開く。
「…本当に、杖付いた《化け物》を殺ったら、群れは引いたのか?」
セルティスとデュランは俯いて溜息を吐き出す。
アントランが振り向く。
「…驚いたことに、一斉に」
レオがファオンに振り向く。
「…どうして解った?」
横のアリオンがファオンに振り向く。
ファオンはこの中で一番若く、そして愛らしい顔を上げる。
「…僕の剣の師、シリルローレルが…。
確証が持てずずっと…確かめようと、《化け物》住む谷をうろつきながら…。
けれど…僕も見た。
冬で、数は少なかった。
けれどシリルローレルが群れの若い雄でなく、年老いた杖付く《化け物》を殺した時…《化け物》の群れは逃げ出した…」
キースが囁く。
「シリルローレル…?
伝説の英雄か?」
ファオンは入り口近くのキースに振り向く。
「…伝説と言われた戦いの際、師は戦っている時偶然…杖を付いた《化け物》を殺したと。
それで…群れは逃げ、師は生還し、英雄と呼ばれたと。
…彼は僕に教えてくれた」
レオがファオンを見ないまま、独り言のように尋ねる。
「シリルローレルを師とし、剣を習ったのか?」
ファオンが口を開いた。
が、答えたのはファーレーンだった。
「父が末弟ファオンに付けた。
但し素質が無ければ面倒は見ないと条件を付けて。
末弟はシリルローレルが資質を認めた剣士だ。
六年もの間、師事していた」
レオがファーレーンに振り向く。
「…だから?」
獅子のような威圧在る北の尾根の長に、ファーレーンは俯き、言った。
「…せめて、セグナ・アグナータに、ファオンを…」
ファオンはレオにそう提言する長兄を見つめた。
無表情だったけれど…声は沈んでいた。
ファルコンがアントランに視線を向ける。
「…ファオンは…どんな戦い振りだ?」
ファーレーンの横に座るアントランは、ファルコンに振り向く。
「…十分《勇敢なる者》として通用する戦い振りだぜ?
アリオンに聞いてみろよ」
ファルコンがアリオンに視線を向けると、黒髪の整いきった男らしい美男は、大きく頷く。
デュランが掠れた声で囁く。
「ファオンがいなかったから俺が、《勇敢なる者》に選出された」
皆が一斉に、デュランを見つめる。
デュランは俯いたまま…微かに震えて小さな声で囁く。
「…俺は一度もファオンに勝てなかった………」
皆が無言で。
そう告白するデュランを見つめた。
キースが頭を屈め、ファオンに尋ねる。
「テスに薬を塗って貰ったか?」
ファオンは頬を染めて顔を上げ、囁く。
「…恥ずかしいから、自分で」
シーリーンが横に付く。
「ちゃんと塗れたのか?」
ファオンはもっと俯くと、小さな声で答える。
「…うん。ちゃんと奥まで…痛い場所を」
シーリーンが吐息を吐く。
手をそっとファオンの背に当てて言った。
「…行こう。レオのテントだ」
歩き出すと、リチャードが駆け込んで来る。
キースとシーリーンがファオンの両側で護るように付くのを見て、顔を下げる。
が、上げて言った。
「レオが呼んでる!」
ファオンはキースを見、そして首を回してシーリーンを見る。
「…先に行け」
シーリーンが言い、キースも頷く。
ファオンは躊躇った。
が、背を向けるリチャードの後に付いて行った。
リチャードがレオのテントの入り口の布を払う。
振り向くからファオンは無言で、横を通り過ぎた。
中に入ると、皆の中にファーレーンの座す姿を見つける。
デュケスとアントランもいた。
アリオンが頷き、横を開けてくれる。
ファオンはデュランやセルティスの背後を通り、アリオンの横に座った。
中央にいるレオは、治療士に布を巻かれていた。
あちこちに、傷口が見える。
どれも浅い掻き傷。
噛み傷も見えた…。
ファオンはじっ…とレオを見る。
レオは振り向き、ファオンを見た。
口を開く。
「…アントランに聞いた。
剣を、握ったそうだな?」
即座にアントランが言う。
「俺が許した。
罰なら俺が受ける。
俺の責任だ」
ファオンはそう言うアントランを見る。
怖じず。
はっきりと言い切った。
ファルコンとセルティスが俯き、吐息を吐く。
レオの横に座るアランは顔を上げて、レオの裁定を待っていた。
レオは一番深い腕の傷に、布が巻き終わるのを見て、顔を上げて治療士に頷く。
治療士は頷き返し、座る皆の背後を通り、テントを出て行った。
「…後にしよう。
ファルコン。
話してくれ」
レオの左側に座るファルコンは頷く。
「…ファオンに寝物語で聞いた」
そうファルコンが語り始った時、ファーレーンの顔が動揺で激しく揺れる。
そして痛みに溢れた瞳を、末弟ファオンに向ける。
“氷の男”のその様子を見て、アントランが目を見開く。
“ファーレーンが、動揺…?”
口は開かなかった。
がそこにいる全員に、アントランの驚愕が伝わった。
その時テントの入り口が開き、キースとシーリーンが、それぞれ傷を庇いながら入って来る。
シーリーンは一同の中にデュケスの姿を見ると、ジロリ…と白い眼を向けた。
デュケスはさっ!とシーリーンから顔を背ける。
「…続けてくれ」
レオが促し、ファルコンはやっと口を開く。
「群れを操るのは、杖付く年老いた《化け物》だと。
アリオンがレオの助けに走り、俺も付いて走ってた時、ふと反対側を見た。
…そいつがいた。
レオはアリオンに任せ俺は…本能的にそいつを斬り殺した」
その場に一斉に溜息が洩れる。
「それで…奴ら逃げてったのか?」
アランの問いに、ファルコンはほぼ真正面のアランに目を向け、頷く。
「多分な」
シーリーンは入り口近くにキースと並んで座っていた。
が、レオに近い場所に座る、ファオンに視線を向けて口を開く。
「…本当に、杖付いた《化け物》を殺ったら、群れは引いたのか?」
セルティスとデュランは俯いて溜息を吐き出す。
アントランが振り向く。
「…驚いたことに、一斉に」
レオがファオンに振り向く。
「…どうして解った?」
横のアリオンがファオンに振り向く。
ファオンはこの中で一番若く、そして愛らしい顔を上げる。
「…僕の剣の師、シリルローレルが…。
確証が持てずずっと…確かめようと、《化け物》住む谷をうろつきながら…。
けれど…僕も見た。
冬で、数は少なかった。
けれどシリルローレルが群れの若い雄でなく、年老いた杖付く《化け物》を殺した時…《化け物》の群れは逃げ出した…」
キースが囁く。
「シリルローレル…?
伝説の英雄か?」
ファオンは入り口近くのキースに振り向く。
「…伝説と言われた戦いの際、師は戦っている時偶然…杖を付いた《化け物》を殺したと。
それで…群れは逃げ、師は生還し、英雄と呼ばれたと。
…彼は僕に教えてくれた」
レオがファオンを見ないまま、独り言のように尋ねる。
「シリルローレルを師とし、剣を習ったのか?」
ファオンが口を開いた。
が、答えたのはファーレーンだった。
「父が末弟ファオンに付けた。
但し素質が無ければ面倒は見ないと条件を付けて。
末弟はシリルローレルが資質を認めた剣士だ。
六年もの間、師事していた」
レオがファーレーンに振り向く。
「…だから?」
獅子のような威圧在る北の尾根の長に、ファーレーンは俯き、言った。
「…せめて、セグナ・アグナータに、ファオンを…」
ファオンはレオにそう提言する長兄を見つめた。
無表情だったけれど…声は沈んでいた。
ファルコンがアントランに視線を向ける。
「…ファオンは…どんな戦い振りだ?」
ファーレーンの横に座るアントランは、ファルコンに振り向く。
「…十分《勇敢なる者》として通用する戦い振りだぜ?
アリオンに聞いてみろよ」
ファルコンがアリオンに視線を向けると、黒髪の整いきった男らしい美男は、大きく頷く。
デュランが掠れた声で囁く。
「ファオンがいなかったから俺が、《勇敢なる者》に選出された」
皆が一斉に、デュランを見つめる。
デュランは俯いたまま…微かに震えて小さな声で囁く。
「…俺は一度もファオンに勝てなかった………」
皆が無言で。
そう告白するデュランを見つめた。
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