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キーナンの来襲
59 リチャードの主張
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アントランが先頭で、テス、その後にファオン。
そしてアリオンが最後尾で居留地に戻って来る。
アリオンの前を歩くファオンはずっと俯き、アリオンは幾度も声をかけようとして、出来ずにいた。
テスが桃の入った籠を下ろすと、下働きの者らが籠を受け取り、調理する為に運んでいった。
テスは放心してそれを見送る。
アントランがアリオンに振り向く。
「レオはまだ帰ってないな」
アリオンも気づく。
「…大群を相手にしてるかもしれない」
ファオンは俯いたまま。
アリオンはまた、声をかけようとした。
がその時、岩陰にいたらしいリチャードが突然姿を見せて、ずかずかとこちらにやって来る。
「レオはどうした?」
そう尋ねるアントランの声なんか聞こえないみたいに、横を通り過ぎて俯くファオンの手を握り、引く。
が、ファオンの付けている《皆を繋ぐ者》の白い衣服が血に染まり、《化け物》の血の腐臭が漂い、眉間を寄せる。
「テス!
ファオンを清めて俺のテントに入れろ!」
リチャードの叫びに、テスは顔を上げ、慌ててファオンに駆け寄り腕を引く。
ファオンはテスに引かれて、温泉へ向かう。
「…リチャード!
どうしてお前だけここにいる!」
アリオンに低い声で怒鳴られ、リチャードは顔を上げる。
「…数が、多い…。
東との境目だ。
アランが東尾根の《勇敢なる者》に助っ人を要請に行き、俺は…」
アントランが囁く。
「残れと?」
「…いざと言う時、怪我人を護れと言われた」
アントランの眉間が寄る。
「…護らずファオンを抱く気か?」
リチャードが叫ぶ。
「悪いか!
ここには見張りがいる!
化け物が出れば、切り上げて剣を握る!」
アリオンが溜息を吐く。
が、背を向け駆け去るアントランに気づき、叫ぶ。
「どこへ行く!」
「アランが東に向かったなら、俺だって助っ人に入れる!
いいからお前は、腕の傷の手当てしろ!」
アリオンは腕から僅かに滴る血を見つめる。
どうやら以前の傷口が開いたようだ。
が、アントランに怒鳴る。
「一人での行動は厳禁だぞ!」
アントランは振り向くと、怒鳴った。
「なら付いて来い!」
アリオンはリチャードに振り向く。
「…キースとシーリーン、それにファオンを護りきれるな?!」
リチャードは暫くアリオンを睨む。
が、こっくりと頷いた。
アリオンは僅かにリチャードに不信の視線を残しながら、既に岩の向こうに姿を消した、アントランの背を追って駆けた。
ファオンが湯に入った時、テスが湯船にいつもの花を入れようと花籠を手に取り、けれど手を滑り籠を取り落とした。
まだ取り乱した様子のテスに、ファオンは振り向く。
「…怖かった?」
テスは屈んで花籠を拾いながら…震える声で言う。
「…あんたが俺から剣を取り上げるから…」
ファオンは落ちた白い花を取ると、気づいて言葉を返す。
「ごめん」
テスは躊躇い、籠の花を湯船にあけると、俯く。
「俺…両親が目の前で奴らに喰われた…。
《勇敢なる者》が来てくれなかったら、俺も喰われてた。
…剣持ってないと…思い出すんだ。
逃げたって…直ぐ襲われる。
防ぐ何の手立ても無く武器も無く…。
もう最期で…駄目だ…って気持ち」
ファオンが震えてるテスに声をかけようとした時、リチャードが突然やって来る。
テスが慌てて叫んだ。
「まだ清めてない!
それに…ここに《勇敢なる者》は、入っちゃ駄目だ!」
けれどリチャードは土足で湯に入ると、ファオンの腕を掴み、引く。
「五月蠅い!
とっとと来い!」
ファオンはリチャードの剣幕を見ても、恐れなかった。
さっきの剣を握り肉を斬る感触。
風を切り、敵を切り裂いた興奮がまだ体に残り…乱暴に腕を引くリチャードに引っ張られながら、ぼんやりとその感触を頭の中で反芻していた。
そしてアリオンが最後尾で居留地に戻って来る。
アリオンの前を歩くファオンはずっと俯き、アリオンは幾度も声をかけようとして、出来ずにいた。
テスが桃の入った籠を下ろすと、下働きの者らが籠を受け取り、調理する為に運んでいった。
テスは放心してそれを見送る。
アントランがアリオンに振り向く。
「レオはまだ帰ってないな」
アリオンも気づく。
「…大群を相手にしてるかもしれない」
ファオンは俯いたまま。
アリオンはまた、声をかけようとした。
がその時、岩陰にいたらしいリチャードが突然姿を見せて、ずかずかとこちらにやって来る。
「レオはどうした?」
そう尋ねるアントランの声なんか聞こえないみたいに、横を通り過ぎて俯くファオンの手を握り、引く。
が、ファオンの付けている《皆を繋ぐ者》の白い衣服が血に染まり、《化け物》の血の腐臭が漂い、眉間を寄せる。
「テス!
ファオンを清めて俺のテントに入れろ!」
リチャードの叫びに、テスは顔を上げ、慌ててファオンに駆け寄り腕を引く。
ファオンはテスに引かれて、温泉へ向かう。
「…リチャード!
どうしてお前だけここにいる!」
アリオンに低い声で怒鳴られ、リチャードは顔を上げる。
「…数が、多い…。
東との境目だ。
アランが東尾根の《勇敢なる者》に助っ人を要請に行き、俺は…」
アントランが囁く。
「残れと?」
「…いざと言う時、怪我人を護れと言われた」
アントランの眉間が寄る。
「…護らずファオンを抱く気か?」
リチャードが叫ぶ。
「悪いか!
ここには見張りがいる!
化け物が出れば、切り上げて剣を握る!」
アリオンが溜息を吐く。
が、背を向け駆け去るアントランに気づき、叫ぶ。
「どこへ行く!」
「アランが東に向かったなら、俺だって助っ人に入れる!
いいからお前は、腕の傷の手当てしろ!」
アリオンは腕から僅かに滴る血を見つめる。
どうやら以前の傷口が開いたようだ。
が、アントランに怒鳴る。
「一人での行動は厳禁だぞ!」
アントランは振り向くと、怒鳴った。
「なら付いて来い!」
アリオンはリチャードに振り向く。
「…キースとシーリーン、それにファオンを護りきれるな?!」
リチャードは暫くアリオンを睨む。
が、こっくりと頷いた。
アリオンは僅かにリチャードに不信の視線を残しながら、既に岩の向こうに姿を消した、アントランの背を追って駆けた。
ファオンが湯に入った時、テスが湯船にいつもの花を入れようと花籠を手に取り、けれど手を滑り籠を取り落とした。
まだ取り乱した様子のテスに、ファオンは振り向く。
「…怖かった?」
テスは屈んで花籠を拾いながら…震える声で言う。
「…あんたが俺から剣を取り上げるから…」
ファオンは落ちた白い花を取ると、気づいて言葉を返す。
「ごめん」
テスは躊躇い、籠の花を湯船にあけると、俯く。
「俺…両親が目の前で奴らに喰われた…。
《勇敢なる者》が来てくれなかったら、俺も喰われてた。
…剣持ってないと…思い出すんだ。
逃げたって…直ぐ襲われる。
防ぐ何の手立ても無く武器も無く…。
もう最期で…駄目だ…って気持ち」
ファオンが震えてるテスに声をかけようとした時、リチャードが突然やって来る。
テスが慌てて叫んだ。
「まだ清めてない!
それに…ここに《勇敢なる者》は、入っちゃ駄目だ!」
けれどリチャードは土足で湯に入ると、ファオンの腕を掴み、引く。
「五月蠅い!
とっとと来い!」
ファオンはリチャードの剣幕を見ても、恐れなかった。
さっきの剣を握り肉を斬る感触。
風を切り、敵を切り裂いた興奮がまだ体に残り…乱暴に腕を引くリチャードに引っ張られながら、ぼんやりとその感触を頭の中で反芻していた。
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