アグナータの命運

キーナンの来襲

57 襲いかかるキーナン《化け物》

　籠が桃でいっぱいになりかけた時、アリオンが瞬時に剣を構える。

ファオンがアントランを見るともう、はしごから飛んで着地し、アリオンの背後に駆けて行った。

テスが慌てて籠を下ろすか、腰に下げた剣を取るかで迷って、手を上げ下げしてる。

ばさっ！
アリオンが剣を横に振りきって、飛び出して来た一匹を斬り殺す。

ファオンはその剣捌きの鮮やかさに見とれた。
直ぐもう一匹が入り口から姿を見せる。
けれどその背後の一匹は、先の《化け物》キーナンの背に飛び乗り、アリオンを飛び越えてアントランへ襲いかかる。

アントランが飛ぶ。
《化け物》キーナンが着地する前に、宙でアントランは剣を振り切った。

ばさっ！
「(…早い！)」

ファオンはアントランの剣捌きを凝視する。

「ちっ！」

アントランと着地と同時に、アリオンが斬り捨て、崩れ落ちる《化け物》キーナンの背を蹴ってもう一匹の《化け物》キーナンが。
宙に飛び上がった《化け物》キーナンの背を蹴って更にもう一匹が。

次々と飛び降りて来るのを見て、アントランが駆け寄る。

アリオンの頭上を飛び越えた《化け物》キーナンが、振り向いてアリオンの背に襲いかかる前に、アントランは飛び込んで一瞬で剣を横に振りきり、斬り殺す。

ざっっっ！
「ぎゃっ！」

…けれどアントランの背後に着地した《化け物》キーナンが、アントランへと振り向く。

もうその間に再び、アリオンへと襲いかかる《化け物》キーナンの背を蹴って、別の《化け物》キーナンが、宙を飛んで襲い来る。

テスが慌てて剣を抜こうと手を下げる。

その時もう…ファオンははしごを飛び降り、駆け込んでテスの剣を横からもぎ取り、直ぐアントランの背に向かう、二匹目の《化け物》キーナンに駆け寄る。

「ファオン！」

テスの声が響いた時、アントランは直ぐ背の後ろに着地した《化け物》キーナンを斬っていた。

次々襲い来る《化け物》キーナンにアリオンは振り向けず、姿が見えると瞬時に剣を振り切る。

ばさっ！

一瞬でも遅れれば襲いかかられる。
アリオンは剣を直ぐ次の《化け物》キーナンに振り切った。


アントランが《化け物》キーナンを斬り捨て、ファオンを見た時、ファオンはアントランへと向かう一匹の《化け物》キーナンの背を、斬りつけていた。

「ぎゃあっ！」

アントランは嬉しそうに笑う。
「…やるな！
護ってやらないから、好きなだけ暴れろ！」

ファオンは頷く。

アントランは次々に前の《化け物》キーナンの背を蹴って飛んで来る《化け物》キーナンに駆け寄っては、剣を素早く振り切って斬り殺す。

ファオンもテスに襲いかかる《化け物》キーナンを、かぎ爪が振り下ろされる一瞬前に、剣を振り切って殺した。

アントランが叫ぶ。
「存分に斬れる！
いい憂さ晴らしだ！」

ファオンも気づく。
剣を握る手が、じっとりと濡れる。
久々の感触に、身が火照りぞくぞくした。

また、《化け物》キーナンがアリオンとアントランの頭上を飛び越え、こちらに突っ込んで来る。

真っ赤な目。
裂けた口から飛び出す牙。

黒い剛毛。
かぎ爪の鋭い手。

けれどファオンに恐怖は無かった。

《化け物》キーナンより一瞬先に剣を振り決る。
思い切り。

「ぎゃっ！」

上がる血飛沫が頬に飛び散る。
《化け物》キーナン特有の、腐臭混じりの血の匂い。

が、ファオンは怯まなかった。
体中の血が沸騰したように熱く滾ってる。

もう次のテスへと襲いかかる《化け物》キーナンに、剣を横に構え一瞬で詰め寄っていた。