アグナータの命運

あーす。

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二人きりの時間

54 二人だけの時間 アラン

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 湯から上がったファオンを、アランはテントの布を開けて出迎える。

ファオンの背に腕を回すとテントに連れ込む。

ランプはまだ消されてはいず、ファオンはアランを見上げる。

ファオンがアランに抱きつこうとすると、アランは素早く言った。

「いいから、何もするな!」

ファオンは目を、見開く。

アランは毛皮を目で指し、頷く。

ファオンは毛皮の上に座り、まだ立ち竦むアランを見上げる。
ゆっくり振り向くアランの瞳に情欲籠もる様子を思い描いた。

けれどアランは苦しげに眉を寄せて囁く。

「本当は、辛いんだろう?」

囁かれた途端、ファオンの瞳が潤む。
湯に浸かりながら、ぼうっとしながら。

…ぼんやりと思った。
シーリーンのテントの方角を見て。

…あの甘い時間は遠ざかったのだと。

自然に覚悟を決めていた。
シーリーンで無く別の男に抱かれる覚悟を。

だから…アランが“雄”では無く、昔の良く知ってる…“優しいお兄さん”でいてくれた事があんまり嬉しくて…ファオンはとうとう俯いて、涙を頬に滴らせた。

アランはゆっくり毛皮に乗り、ファオンの肩を抱き、毛皮に一緒に横になると囁く。

「話をしよう。
…そうだな。
村の花祭りの事を覚えてるか?
女の子達がお前に意地悪して、コンテストにお前を女装させて出させてた…。
どうしてあの時お前は大人しく、いいなりになってたんだ?
リチャードだったら怒鳴って女達に怒りまくってたぞ?」

ファオンはそっ…と昔話をする、アランを見上げた。

昔の良く…見知ってる…優しいアランだった。

ファオンは頷いて涙を拭うと、慌てて言った。

「…知…らなかったんだ…。
化粧をしてくれた女性は、コンテストに出る女の子がたくさんいて凄く忙しそうで…言い出す機会が無くて…」

ファオンはアランが優しく頷くのが嬉しくて、また口を開いてその時のお喋りを夢中でした。


早朝、ファオンが目を覚ますと、アランの姿は消えていた。
寒さに凍えながらファオンは、毛皮の毛布を引き上げた。

シーリーンは朝日射し込むテントに、アランが姿を現すのを驚いて見つめる。

半身起こしたままのシーリーンを、アランは苦笑して見る。

「やっぱり、眠れなかったんだな?」

シーリーンは俯く。

アランは溜息交じりにそっと言った。

「抱かなかった。
…抱けなかった。が正解かな。
ともかく今日一日お前は休める。
ゆっくり眠れ」

シーリーンは弾かれたようにアランを見上げる。

アランは頷いて、テントの入り口の布を払い、出て行った。

深く、長い吐息をシーリーンは吐き出すと、毛皮の上に横たわる。

やがてシーリーンは深い眠りに付いた。
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