アグナータの命運

あーす。

文字の大きさ
上 下
47 / 286
二人きりの時間

47 二人だけの時間 シーリーン

しおりを挟む
 ファオンはシーリーンの横に座る。

シーリーンが手を伸ばすから、ファオンは寝台代わりの毛皮の横に置かれた瓶を手渡す。
シーリーンはそれを煽って一気に飲み干す。

「…アランが…怪我を…」

シーリーンは手の甲で口を拭いながら呟く。
「ああ…突然横の岩陰から喰い付かれちゃ、俺だって避けられない」

シーリーンはファオンに振り向き、空の瓶を手渡す。

「だが直ぐアランは振り払って剣を振り、斬り殺した。
直ぐ群れが来ると警戒したが…はぐれ者だったらしく、それから少し行った先で、群れに出くわした」

「…多…かった…?」

シーリーンは頷く。
「デュケスが強いのは確かだ。
あの体格で結構素早い。
《化け物》キーナン共は怯えてた。
けど…」

シーリーンはふと思い浮かぶ表情を見せる。
ファオンが見つめていると、シーリーンがついさっき起こった事を頭の中で辿る。

「…デュケスのデカさに怯え…奴らは引くと…皆が思った。
だがその時…耳には…聞こえない…空気が震え…切り裂く様な。
何かか駆け巡り、次の瞬間、群れは気が狂ったように襲いかかって来た…」

ファオンは必死に尋ねる。
「そこに…いた?
杖を付いた…年取った《化け物》キーナン?!」

シーリーンは否定しようと顔を上げ、思い出したように顔を落とす。

「…そう言えば…群れから離れた後方に…一人…みすぼらしい《化け物》キーナンがいた。
杖を付いてた」

「そいつが群れを操ってる!
そいつを殺れば…!」

ファオンの言葉に、シーリーンが目を向ける。

「押し寄せて来る群れの後ろにいるんだぞ?!
どうやって殺る!
余程腕のいい射手を探さねば無理だ。
第一矢をつがえてる中途で素早い《化け物》キーナンに襲われる」

ファオンは俯いた。
素早く襲いかかる《化け物》キーナン相手に、武器として弓を使う発想が無い。

冬…既に《勇敢なる者》レグウルナスを引いた見回る者ら…自分の剣の師達は、常備しているのに。

一匹…二匹程度のウロつく《化け物》キーナンなら、弓で殺せる。
けれど押しかける群れに弓は使えないから。

俯くファオンに、シーリーンが囁く。
「顔を俺に寄せろ」

ファオンはシーリーンの言葉を聞いて、頬を染めて顔を上げ、そしてシーリーンにそっと顔を寄せる。
シーリーンの手が頭の後ろを覆い押して…ファオンはシーリーンに口付けられ、顎を晒す。

「んっ…」

シーリーンの唇はいつも甘い感触がする。
アリオンの男らしく熱の籠もる口づけとは違い、甘い…甘い気分になる。

いつもなら、押し倒されていた。
けれどシーリーンは動けなかったから…ファオンはシーリーンの頭の後ろを両手で覆い…再び顔を傾けて、口付けた。

顔を離すとシーリーンは微笑っていた。

「積極的だな」

ファオンは掠れた声で囁き返す。

「…解ったから…」

「?」

「シーリーンはとても上手で、それにとても優しいって…」

シーリーンは陰のある表情で苦く、笑った。
「他の男に抱かれたからか?
皮肉だな…。
アリオンですら…俺は嫌だった。
お前を抱かせるのは」

ファオンはシーリーンを見つめる。

「…いつも…口では意地悪を言った」

シーリーンは笑う。
「お前は自分が解ってなかった。
どんなに可愛らしい顔で男を誘うか。
ふとした仕草で。
俯く愛らしい表情で。
もう抱きしめて他の奴らから隠したいほどに」

ファオンは途惑って顔を上げる。

今ではもう…解ってた。
シーリーンを取り巻く女の子達。
アリオンを取り巻く女の子達。

彼女達は本能的に自分を恋仇と察し…自分達の機嫌を取りたい男の子達をけしかけた。
ファオンを虐めろと。

“でもあの時僕は幼くて、自分が女の子みたいに弱く、頼りないから皆虐めるのだと…思ってた"

ファオンは顔を上げてシーリーンを見つめる。

「でも僕はもう誰か一人の物になれない」

シーリーンはくしゃっ!と顔を悲しげに崩した。

腕をファオンの背に回す。
そして抱き寄せる。

ファオンは口付けて来るシーリーンに顔を傾ける。

触れた唇はやっぱり…甘い、甘い味がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...