アグナータの命運

あーす。

文字の大きさ
上 下
44 / 286
二人きりの時間

44 朝食の軽口

しおりを挟む
 ファオンはセルティスと朝食の席に着く。
昨夜同様、皆の和む顔を見られると…ファオンは思った。

けれどアランとシーリーンの姿が見えない。

リチャードが俯いている。
何があったのだろう…?
そう顔を向けると、横のセルティスが尋ねる。

「朝、急襲があったのか?」

レオが顔を上げる。
「東の尾根との境目で。
丁度アランとシーリーンがそれを聞いて、出て行った」

ファルコンがリチャードに顔を向ける。
けれどリチャードは、俯いたまま。

レオが気づいてファルコンに呟く。

「出られる心の準備が出来てない者が出ても、喰われて雑兵アルナらも同様の運命を辿るだけだ」

セルティスが説明を求めるようにファルコンを見つめる。
ファルコンはセルティスに振り向く。

「テントの中で…最初伝令は、リチャードに出撃を依頼してた。
俺は出たくても眠くて手も動かせなかったが、耳だけは聞こえていた。
リチャードがぐずり、代わりにキースが出ようとしてアランとシーリーンが押し止め、結果二人が出撃した」

レオはチラ…とキースを見る。

「俺は絶対お前に出撃許可は出さないぞ」

キースはレオに振り向く。
「あの可愛い顔した気の強い坊やを俺はなんでか…ほっとけない」

ファルコンは憮然。と呟く。
「お前の従姉妹が、リチャードの親父の後妻だからか?
全然お前に責任は無いだろう?!」

キースは自分を庇うファルコンを見て、くすり…と笑う。

「お前くらい何も怖い物が無い剣士に庇われると、俺の価値が上がって嬉しいな」

ファオンはキースのその言葉を聞いた途端、リチャードがキースの事を
“垂らし!”
と怒っていた事を思い浮かべた。

確かに“何も怖い物が無い剣士”なんてキースに持ち上げられたら、ファルコンだって嬉しいだろう。

だがファルコンは真剣に腹を立てた。

「俺が幾ら強くても敵の数は多い!
お前を失えば俺達はどれだけ打撃を受けるか!
ちっとは真剣に考えろ!!」

レオは、ファルコンの言う通りだ。
とジロリとキースを睨んだ。
が、リチャードにも視線を向ける。

「お前は気にするな。
無理に出てお前が喰われたら困る。
大事な、戦力だ」

そうレオに言われた時、リチャードは動揺して顔を激しく揺らし、そして瞳が潤みかけ、慌てて顔を下げて俯く。

ファルコンがキースを睨んで言う。

「…あんまり自尊心の強いリチャードを庇うな!
お嬢さん扱いされて腹を立て、逆に恨まれるだけだぞ!」

ファオンの横で、セルティスは笑う。
「キースにそれを言うか?
キースは“他人なんかどうでもいい”
って顔をしながら、いつも誰かを庇わずにいられないのに?」

ファルコンは憮然。と呟く。
「だからそれを続けたら命が亡くなる!
今だって大怪我負ってるのに!」

アリオンも笑う。
「ファルコンはキースが、大好きだからな!」

ファルコンが、真剣にアリオンを睨む。
が、アリオンは怯む様子を見せず、年上の男に言う。

「…違うなら否定してみろ」

ファルコンは歯噛みして、銀の真っ直ぐな髪を振り顔を背ける。

「…やっぱり、大好きなんだな」

セルティスに言われて、ファルコンはとうとう顔を下げた。

リチャードはレオに言われた“大事な戦力”に感激し、泣きかけた感情を立て直して、キースにつっかかる。

「あんた、ゴツい剣士まで垂らし込む、本当に天然の“垂らし”だな!」

キースは肩竦める。
「お前みたいな手強い坊やはオチてないから、それ程大した“垂らし”じゃない」

リチャードは頬を真っ赤にしてキースを睨んだ。

アリオンがぼそり。とリチャードに呟く。
「キースの方が、一枚も二枚も上手だ」

セルティスも肩を竦めた。
「言葉で突っかかるなんて。
くるめてゴミ箱に捨ててくれ。と言わんばかりの無謀な行いだ」

とうとうレオが笑い出し、デュランが《勇敢なる者》レグウルナスの長の体を揺らして笑う様子を、目を見開いて見つめた。

ファオンは…俯いた。
シュティッセンがいた時きっとみんなは…こんな風に互いに軽口を言い合ってたんだろう…。

けれど…。
皆自分に気遣って…食事の時口も…開かなかったんだ…。

俯くファオンに、アリオンがそっと言った。
「気にするな…。
セスの時も最初は誰も口をきかなかった」

キースが笑う。
「リチャードだけは、やたら突っかかってたよな!」

レオも口を開く。
「リチャードはシュティッセンに懐きまくってたからな!」

セルティスも言い出す。
「セスは悪くないのに、リチャードに気を遣いまくってた。
可哀想に」

リチャードがむくれて首を振る。
「だから…!
その後は優しくした!」

レオとセルティスは首を横に振る。

キースが言った。
「お前、優しさをどっかで学んだ方がいいぞ?
あれで優しい?」

そう言って、首を横に振りまくる。

リチャードはレオを見る。
レオはリチャードの言う“優しさ”を否定するように首を横に振り、次にリチャードはセルティスに視線を移すが、セルティスも横に振る。
アリオンも見るが、アリオンも横に振った。

ファルコンだけが、首を動かさず呟く。
「俺と扱いは変わらなかったぞ?」

リチャードはファルコンが怖いのか…一目置いているのか…。
言い返さず思い切りがっくりと、首を垂れた。

その後、皆の笑い声が響く。

温かく、リチャードを包むような笑い声が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

ダメですお義父さん! 妻が起きてしまいます……

周防
BL
居候は肩身が狭い

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

処理中です...