アグナータの命運

あーす。

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二人きりの時間

42  夕食の時

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 夕飯の席。
皆が野外の風に吹かれながら、たき火を囲み石の椅子に座り、こちらにやって来るファオンとセルティスを見た。

セルティスは大切な者のようにファオンの背に腕を回し、ファオンもセルティスを、目に見えない…“気”で護るように包んでいた。

ファルコンがレオに振り向く。
レオは二人を見て微笑んでた。

シーリーンとアリオンは吐息と共に、同時に顔を下げ、気づき互いを見た。

リチャードは泣きそうな表情をした。
嬉しいとも悲しいともとれる表情。

キースはそっと視線を向けて頷き、デュランは呆けてファオンを見続ける。

アランだけは複雑な表情で顔を、俯けた。

その夕食は皆が口を聞いていた。
それぞれが互いに軽い話題で情報を交換しあってた。

ファオンは皆を、見回す。
そしてセルティスに振り向く。

「いつも…喋らなかったのに…?」
セルティスはファオンに振り向く。
「…お前が…悲壮だったから」

ファオンは顔を下げる。

ちゃんと…彼らは自分を見ていた。

“僕は僕しか見えてなかったのに…”

ファオンは顔を上げてキースを見つめる。
炎に照らされた横顔は…でもやっぱり青く見えた。

リチャードが二度、キースに視線を送り、俯く。

キースが好きで…嫌い。
そんな表情だった。

レオとファルコンはキースの両側に座り、彼を護ってるように見えた。

“失いたく無い大事な戦士”
そんな風に。

アランが顔を上げて、チラとファオンを見、ファオンは気づいてアランを見る。

アランの横顔はデュランの見せた顔に似ていた。

“出来れば抱きたくない。
だが仕方無い”

ファオンは顔を上げる。

アランはちゃんと気遣ってくれる。
だから…平気で抱けないんだ。

心が温かくなった。

父様に認められたくて《勇敢なる者》レグウルナスになりたかった。
愛してくれない、振り向いてくれない父様…。

だから自分には…長兄ファーレーンほど価値は無いのだと…思い込んでいた。

でも…。
ファオンは顔を上げる。

ここの皆には気持ちがある。
自分を見つめてくれる…。

ファオンは横のセルティスを見る。
セルティスはその向こうのデュランと話していた。

まだ尾根に上がったばかりのデュラン…。
セルティスは親しい人のことをデュランの口から聞いていた。

デュランも…出て来たばかりの領地の、馴染みの人々らの話が出来て、嬉しそうだった…。

和む…僅かな時間。
明日、命を落とすかも知れない戦士達の、大切な大切な時間。

ファオンは初めて食事を噛みしめた。

それは…少し苦く、けれどとても温かい…味がした。
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