29 / 286
二人きりの時間
29 二人だけの時 ファルコン 2
しおりを挟む
ファルコンはファオンの横に、どさっ!と身を下ろす。
ごろん。と横になって呟く。
「…今日は疲れた」
「…………」
ファオンは背を向けるファルコンに顔を向けて横になる。
白い筋肉の盛り上がったその背には幾つもの古傷。
全て《化け物》の付けた爪の跡…。
「たくさん…殺した?」
「…だが、キリが無い…。
奴らは冬眠る前…卵をどこかに大量に産み付ける。
かつて《勇敢なる者》だった者らが見回り、見つければ潰す。
それでも…春になるとキチガイのような数が生まれ出て、腹を空かして押し寄せる…」
ファルコンは振り向く。
真っ直ぐなとても綺麗な鼻筋をしていて、彼の顔立ちがとても美男だと、こんなに間近で見ると思い知る。
グレーの瞳がきらり…と光る。
けれどファオンを見つめながら、ファルコンは真顔で囁く。
「雪解けと共に生まれ落ちて。
なのに一気に大人に成長する。
産まれたばかりの子供は、大人の《化け物》ですら近寄るのを避ける。
喰われるからだそうだ。
奴らに人間の死体を放り投げ、人間の味を覚えた頃に大人の《化け物》達は“狩れ”と命じ、群れは崖を登り来る。
幾度も。
幾度も」
ファオンはかつて《勇敢なる者》だった師の言葉を思い出す。
「…でも大人も産まれたばかりの《化け物》をも、操る者がいると聞いた」
ファルコンはごろり。と身を返す。
「…伝説だな。
誰も見た事が無い」
「多くの群れに一人ずつ。
その操る者が死ねば、その群れは全滅すると」
ファルコンは振り向く。
「…杖を付いた…長老のような《化け物》を殺った時、一群が全て撤退したことはあった」
ファオンは必死にファルコンに訴える。
「…操る者は《化け物》の力の源だから、そいつさえ殺れば…。
全ての群れの操る者を全部殺せば、《化け物》は滅ぼせると」
ファルコンはその綺麗な顔をファオンに向け、じっ…と見つめた。
「…一つの群れの数を知ってるか?
少なくても60。
それが100にも200にも増える。
卵から子供は産まれ続けるから」
ファオンはファルコンを見つめた。
が、ファルコンは変わらぬ表情で言う。
「…そんな中からどうやってたった一人のボロを纏った杖付く“操る者”を見つける?
来たらただ殺すしかない。
どれだけ数がいようと」
ファオンは囁いた。
「…狩れと命ずるのは大人でも、群れを扇動するのは操る者だ…。
そいつが群れに力を与えてる…」
ファルコンはジロリ…とファオンを見つめ、けれどぶっきらぼうに言う。
「そいつをもし見かけたら、出来るだけ殺すよう努力しよう」
ファオンは背を向けるファルコンに、そっと呟く。
「《勇敢なる者》でも…喰われた者はいる?」
ファルコンは背を向けたまま言った。
「《勇敢なる者》は喰われるぎりぎりまで戦い、喰われると解った時自決する。
自決出来ず生きたまま喰われる《勇敢なる者》は《勇敢なる者》じゃない」
ファオンは吐息を吐いた。
シュティッセンはきっと…自分が《皆を繋ぐ者》の代では決して、一人の《勇敢なる者》をも死なせないと…護ってきたんだろうな…。
ファルコンの背にそっと、顔を寄せる。
ファルコンはじっとして…やがてファオンはその温もりに浸りながら目を閉じ、眠りについた。
ごろん。と横になって呟く。
「…今日は疲れた」
「…………」
ファオンは背を向けるファルコンに顔を向けて横になる。
白い筋肉の盛り上がったその背には幾つもの古傷。
全て《化け物》の付けた爪の跡…。
「たくさん…殺した?」
「…だが、キリが無い…。
奴らは冬眠る前…卵をどこかに大量に産み付ける。
かつて《勇敢なる者》だった者らが見回り、見つければ潰す。
それでも…春になるとキチガイのような数が生まれ出て、腹を空かして押し寄せる…」
ファルコンは振り向く。
真っ直ぐなとても綺麗な鼻筋をしていて、彼の顔立ちがとても美男だと、こんなに間近で見ると思い知る。
グレーの瞳がきらり…と光る。
けれどファオンを見つめながら、ファルコンは真顔で囁く。
「雪解けと共に生まれ落ちて。
なのに一気に大人に成長する。
産まれたばかりの子供は、大人の《化け物》ですら近寄るのを避ける。
喰われるからだそうだ。
奴らに人間の死体を放り投げ、人間の味を覚えた頃に大人の《化け物》達は“狩れ”と命じ、群れは崖を登り来る。
幾度も。
幾度も」
ファオンはかつて《勇敢なる者》だった師の言葉を思い出す。
「…でも大人も産まれたばかりの《化け物》をも、操る者がいると聞いた」
ファルコンはごろり。と身を返す。
「…伝説だな。
誰も見た事が無い」
「多くの群れに一人ずつ。
その操る者が死ねば、その群れは全滅すると」
ファルコンは振り向く。
「…杖を付いた…長老のような《化け物》を殺った時、一群が全て撤退したことはあった」
ファオンは必死にファルコンに訴える。
「…操る者は《化け物》の力の源だから、そいつさえ殺れば…。
全ての群れの操る者を全部殺せば、《化け物》は滅ぼせると」
ファルコンはその綺麗な顔をファオンに向け、じっ…と見つめた。
「…一つの群れの数を知ってるか?
少なくても60。
それが100にも200にも増える。
卵から子供は産まれ続けるから」
ファオンはファルコンを見つめた。
が、ファルコンは変わらぬ表情で言う。
「…そんな中からどうやってたった一人のボロを纏った杖付く“操る者”を見つける?
来たらただ殺すしかない。
どれだけ数がいようと」
ファオンは囁いた。
「…狩れと命ずるのは大人でも、群れを扇動するのは操る者だ…。
そいつが群れに力を与えてる…」
ファルコンはジロリ…とファオンを見つめ、けれどぶっきらぼうに言う。
「そいつをもし見かけたら、出来るだけ殺すよう努力しよう」
ファオンは背を向けるファルコンに、そっと呟く。
「《勇敢なる者》でも…喰われた者はいる?」
ファルコンは背を向けたまま言った。
「《勇敢なる者》は喰われるぎりぎりまで戦い、喰われると解った時自決する。
自決出来ず生きたまま喰われる《勇敢なる者》は《勇敢なる者》じゃない」
ファオンは吐息を吐いた。
シュティッセンはきっと…自分が《皆を繋ぐ者》の代では決して、一人の《勇敢なる者》をも死なせないと…護ってきたんだろうな…。
ファルコンの背にそっと、顔を寄せる。
ファルコンはじっとして…やがてファオンはその温もりに浸りながら目を閉じ、眠りについた。
1
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる