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戦うべき敵
20 アグナータ《皆を繋ぐ者》の務め
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テスに促すような視線を向けられて、ファオンは顔を上げる。
自分のテントへ戻って行くデュランの、憔悴しきった背中。
が、ざわめきと共に、岩の向こうからシーリーン、リチャード、そしてアリオンが姿を見せる。
その背後からレオが、真っ赤な髪を靡かせた、威風ある逞しい姿を現す。
ファオンはデュランの背を追い彼のテントへと歩き出しながら、アリオンを見つめる。
腕の傷を覆った皮の防具の下から手首にかけて、大量の血を滴らせていた。
テスはファオンを尚もデュランのテントへと促す。
ファオンは途惑った。
それに気づき、セルティスはレオに指示を仰ぐかのように見上げる。
レオはファオンの瞳がアリオンの腕の滴る血に釘付けられ、見開かれ立ち竦む姿を見つめる。
少し吐息を吐くと、吠える。
「いいから駆け寄ってやれ!」
アランはそう吠えるレオに驚きの目を向ける。
シーリーンは顔を下げて短い吐息を吐き出し、レオの言葉に俯く。
リチャードは異論を唱えるように、非難を込めて最年長のレオに振り向き、睨んだ。
ファオンは自然とアランと目が合う。
アランが頷いた時、足は地を蹴り、アリオンに駆け寄っていた。
「…怪我を…!」
アリオンは目前に駆け寄る、縋り付くようなファオンの幼気(いたいけ)な青い瞳を、悲しそうに見つめた。
「俺は大丈夫。
動き回って傷が開いただけだ」
ファオンは見つめるアリオンが、自分を抱きしめて口づけしたいと願う気持ちを感じた。
けれどアリオンは周囲の男らを気遣い、ただ優しさを込めてファオンを見つめ、もう一度言った。
「簡単にはやられない。
大丈夫だ」
安心させるような。
包み込むような。
温かい微笑。
ファオンはその時ようやく、自分がアリオンを失ったら…。
それが怖くて縋り付くようにアリオンを見つめていたのだと、気づく。
まるで過酷な運命(さだめ)の、たった一つの希望のように。
けれど離れた背後に立つレオは、アリオンに視線を向ける。
「セスが廃されたばかりだ…」
アリオンはその言葉に視線を下に落とす。
が、顔を上げて真っ直ぐレオに振り向き、見つめ返す。
“解っている”
そう告げるアリオンの確かな、射るような青い瞳。
アリオンは正面で泣き出しそうなファオンに優しげな声で囁く。
「何をする気だった?」
ファオンは小声で呟く。
「デュランが…。
デュランの…」
アリオンは頷く。
「初陣は誰でも現実の過酷さにヘコむ」
そして、行ってやれ。
と言うように、デュランのテントに顎をしゃくる。
ファオンはそれでもアリオンを見つめ続けた。
「僕は女じゃ無い…!
どうやって…!」
アリオンはファオンに優しく顔を傾ける。
「女の気持ちなど分かる筈も無い。
お前でいい。
お前の言葉で声をかけてやれ」
レオがアリオンの背後を通り過ぎながら言った。
「だがデュランがお前を求めたら、拒むな」
ファオンの顔が一瞬で青ざめる。
アリオンは平静を崩すまい。と気持ちを立て直す。
「行為は行為でしかない。
だが特別な行為は、どの行為とも…違う」
ファオンは顔を上げる。
“俺はそのつもりでお前を抱いた”
表情でそう告げるアリオンに感謝の瞳を向けながら、ファオンはそれでも震える身を腕で抱えながら、デュランのテントへと向かった。
自分のテントへ戻って行くデュランの、憔悴しきった背中。
が、ざわめきと共に、岩の向こうからシーリーン、リチャード、そしてアリオンが姿を見せる。
その背後からレオが、真っ赤な髪を靡かせた、威風ある逞しい姿を現す。
ファオンはデュランの背を追い彼のテントへと歩き出しながら、アリオンを見つめる。
腕の傷を覆った皮の防具の下から手首にかけて、大量の血を滴らせていた。
テスはファオンを尚もデュランのテントへと促す。
ファオンは途惑った。
それに気づき、セルティスはレオに指示を仰ぐかのように見上げる。
レオはファオンの瞳がアリオンの腕の滴る血に釘付けられ、見開かれ立ち竦む姿を見つめる。
少し吐息を吐くと、吠える。
「いいから駆け寄ってやれ!」
アランはそう吠えるレオに驚きの目を向ける。
シーリーンは顔を下げて短い吐息を吐き出し、レオの言葉に俯く。
リチャードは異論を唱えるように、非難を込めて最年長のレオに振り向き、睨んだ。
ファオンは自然とアランと目が合う。
アランが頷いた時、足は地を蹴り、アリオンに駆け寄っていた。
「…怪我を…!」
アリオンは目前に駆け寄る、縋り付くようなファオンの幼気(いたいけ)な青い瞳を、悲しそうに見つめた。
「俺は大丈夫。
動き回って傷が開いただけだ」
ファオンは見つめるアリオンが、自分を抱きしめて口づけしたいと願う気持ちを感じた。
けれどアリオンは周囲の男らを気遣い、ただ優しさを込めてファオンを見つめ、もう一度言った。
「簡単にはやられない。
大丈夫だ」
安心させるような。
包み込むような。
温かい微笑。
ファオンはその時ようやく、自分がアリオンを失ったら…。
それが怖くて縋り付くようにアリオンを見つめていたのだと、気づく。
まるで過酷な運命(さだめ)の、たった一つの希望のように。
けれど離れた背後に立つレオは、アリオンに視線を向ける。
「セスが廃されたばかりだ…」
アリオンはその言葉に視線を下に落とす。
が、顔を上げて真っ直ぐレオに振り向き、見つめ返す。
“解っている”
そう告げるアリオンの確かな、射るような青い瞳。
アリオンは正面で泣き出しそうなファオンに優しげな声で囁く。
「何をする気だった?」
ファオンは小声で呟く。
「デュランが…。
デュランの…」
アリオンは頷く。
「初陣は誰でも現実の過酷さにヘコむ」
そして、行ってやれ。
と言うように、デュランのテントに顎をしゃくる。
ファオンはそれでもアリオンを見つめ続けた。
「僕は女じゃ無い…!
どうやって…!」
アリオンはファオンに優しく顔を傾ける。
「女の気持ちなど分かる筈も無い。
お前でいい。
お前の言葉で声をかけてやれ」
レオがアリオンの背後を通り過ぎながら言った。
「だがデュランがお前を求めたら、拒むな」
ファオンの顔が一瞬で青ざめる。
アリオンは平静を崩すまい。と気持ちを立て直す。
「行為は行為でしかない。
だが特別な行為は、どの行為とも…違う」
ファオンは顔を上げる。
“俺はそのつもりでお前を抱いた”
表情でそう告げるアリオンに感謝の瞳を向けながら、ファオンはそれでも震える身を腕で抱えながら、デュランのテントへと向かった。
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