アグナータの命運

あーす。

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戦うべき敵

18 突然の戦闘

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 朝、テントを払ってテスが食事の用意が出来たと告げる。

ファオンは回されたアリオンの腕の中から顔を、上げる。

開いた入り口の布から射す、眩しい朝日。

ファオンがのろのろと身を起こす。
熟睡していた。
疲れ切っていた。

心細かった。
前日は眠れなかった。

だから…。
けれどアリオンも身を起こす。

振り向くと、微笑をたたえる。
「運ばなくていい。
怪我をしたのは足じゃ無い」

テントから出ると、野外で皆が、朝の仕度をする為行き来してた。

ファオンの背に立つアリオン。
手前に彼に庇われるように立つファオン。

皆、一斉に手を止めて二人を見る。

まるで、恋人同士のような二人を。

ファオンはなよやかな艶を纏っていた。
昨日の剣士たるきつさが消え、まろやかとも言える雰囲気を纏って。

“幼くすら見える”
二人の噂を知っていたアランは心の中で呟く。

シーリーンは目を背け、リチャードは憎悪に燃える目を向けた。

セルティスは戸惑い、ファルコンは感心無いように横を向く。

デュランは俯く。
“ファオンは消える前、アリオンの恋人のようだった”

その噂が、事実だと知って。

レオだけが、言った。

「大事無さそうだな。
アリオン」

アリオンは長たるレオに、頷く。

今度、レオはファオンに視線を向ける。
燃えるような赤い髪。
射るような青い瞳。

「今夜は俺のテントに泊まれ」

ファオンの顔が動揺に揺れた。
そっと背に触れるアリオンの手。

“だがそれ迄、お前は俺のもの”

そう告げる手の温もりに、ファオンは縋り付くような気持ちを自覚する。

ファオンはそっと促すアリオンの手に押されながら、たき火を囲む石の椅子へと歩き出した。



 野外でまだ肌寒い中、皆でたき火を囲む食事の最中、見張りが駆けて来る。

「奴らが…!
多数西口に上がって来る…!」

《勇敢なる者》レグウルナスらは瞬時に立ち上がる。
セルティスは皿を置き、レオは放り投げて剣を取りに各々のテントへ走る。

ファオンは怪我を負ったアリオンまでもが、テントに戻り、剣を手に、入り口の布を払って姿を見せる様子に身が震える。

真っ直ぐに近い黒髪。
凍てつく青の瞳。
防具と言えば傷を庇う皮の覆いだけ。

《化け物》キーナン相手に鎧など、身のこなしを遮るだけ。
どれだけ早く動けるか。
どれだけ早く剣を振り殺せるか。

だから皆、被り衣服をベルトで止めただけ。
底の丈夫な皮のサンダルを履き、少しでも身軽な装い。

が、敵の牙を阻む防具無く、動きが遅ければたちまち怪我を負う。

ファオンはバタバタと駆ける勇者達を呆然と見つめる。

「左翼はファルコンとアラン!
中央は俺とセルティス!
右はアリオン!」

アリオンがレオの鋭い瞳を静かに見つめ返す。
「シーリーン!
アリオンを見てやれ!
リチャード!
二人の護衛だ!
デュラン!」

初めての戦闘。
剣の柄を握りしめてるデュラン。
が気持ちは、浮き足立ってるように見えた。

「セルティスの後に続け!!!」

デュランが頷く間にもう、勇者らは剣を携え、一斉に飛び出す。

居留地の、右手の岩を駆け上り、次々姿を消しその先の岩場を下って行く。

「護衛!周囲を固めろ!」

残った者が怒鳴り、護衛としてついていた者達が、バタバタと《勇敢なる者》レグウルナスらの駆け去った岩場に立ち、護る。

テスですら剣を握り、ファオンの腕を掴み叫んだ。

「アリオンのテントへ!」

ファオンはテントに飛び込んだ後、テスが入って来ないのを不審に思った。
テントに透けるテスの姿。

背を向け、剣を握り、護っていた。

ファオンは毛皮の上にへたり込む。

“この尾根に上がる、《皆を繋ぐ者》アグナータだけが…。
戦えない者だっけ…”

ファオンは自分の剣が欲しかった。
持って上がることを許されなかった…。

青い石飾りの付いた柄。
師に賜った、名うての鍛冶師の鍛え上げた鋼の剣…。

一番最初に賊から護った娘、サーシャの名を取って、その剣をいつも“サーシャ”と呼んでいた。

戦えず…!
護られる身…!

ファオンはその時心から与えられた運命に腹を立てた。

戦えぬ歯がゆさと憤りで毛皮の上に拳を、激しく打ち付けた。
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