アグナータの命運

あーす。

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聖なる名の下の性奴

13 シーリーンの優しさ

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 テントの中で、シーリーンが振り向く。
デュランは、《勇敢なる者》レグウルナスの中で、比較的年の近いその男を見つめた。

いつも隙が無い。
美麗な顔の上に表情を隠したポーカーフェイス。

色白ながら胸板も厚く肩は広く、そして腰は細く引き締まり、足はすらりと長い…。

男達は誰でも、シーリーンが通り過ぎると振り向いた。
もちろん、もう一人の子供達の集いでの英雄、アリオンにもだった。

が、シーリーンは誰も気に掛ける風情無く、いつも女の子に取り囲まれていた。

近づきがたいのに、話してみると存外話しやすい。

けれどシーリーンが真っ直ぐ見つめていたのは、横のファオンだった。


ファオンはテントに入るなり、シーリーンに見つめられて俯く。

“ずっと、意地悪してたのにどうして?!”
熱烈な時をアリオンと過ごした後。

アリオンが暫く家の事情で姿を消した後、まるでアリオンに取って代わるように、シーリーンに抱(いだ)かれた時、そう尋ねた。

シーリーンは“馬鹿”
と言って少し、笑う。

“好きな子に振り向いて貰う時、男はやるんだ。
わざと。
意地悪を。
お前がアリオンしか、見ないから。

…でもいつでもお前が危険な時、助けてやったろう?”

ファオンはシーリーンの腕の中に抱かれ、そう耳元で囁かれた、その言葉を思い出す。

「…座れ」

シーリーンの抑揚の無い声。

ファオンは言われた通り、すとん。と腰を床の毛皮の上に落とす。

シーリーンは屈み、ファオンの両足を開かせる。

開かされることは恥ずかしい事。

けれどシーリーンの…雰囲気は怖さを取り払う。

手で前布をどられると、何も遮ること無く男根が晒される。

シーリーンが屈み込む。

「…っあ!」

手でそっと触れられ、先端に舌の感触。

次に口に包み込まれると、快感が沸き上がって来る。

ファオンは昔シーリーンがした時同様…。

いやそれよりもっと、感じて頬を染めた。


デュランは二人の姿を見て、立ち尽くした。

聞いたことはある。

けれど、相手に使う時、役に立たない事等今迄無かった。

ファオンの仰け反る姿ですら、見慣れずつい、じっと見つめてしまう。

だがまさか、男の男根を咥えるシーリーンの姿を見ることになるなんて…!


「…ん…っ!っあ!」

舌で舐め上げられ、手で軽くしごかれると、もう甘い興奮に包まれて、ファオンの男根はゆっくり立ち上がる。

「…シー…リーン」

シーリーンは幾度も口に含み、吸い上げながら口の中でファオンの男根を抜き差しした。

ファオンは身を、かつてのようにシーリーンに預けきり、快感に浸りきる。

過去の…ふわっと包み込むようなシーリーンの、暖かい雰囲気が蘇る。

「…んっ!」

ファオンは解き放って慌てた。
シーリーンの顔に………。

が、シーリーンは手早く腰のベルトに挟んだ布で、ファオンの股の間を拭き、自分の口の周囲をも、拭き上げた。

そして、すっ…。

と顔を上げてファオンを見つめる。

「…相変わらず、早いな。
デュランはどうかは知らない。
が、反応が悪かったら、もう少し長く続けてやれ。
けれど射精させるな。
出すのは………」

そう言ったシーリーンは、とても、とても切なげな視線を向ける。

ファオンはそれがどこだか解った。

「塗り薬を持ってるか?」

シーリーンに聞かれて、ファオンはセルティスに握られされた小袋をそっと差し出す。

「…自分で塗れるか?」

ファオンはシーリーンを見つめた。


デュランはその時、どんな時でも冷静なシーリーンの、瞳が陰るのを見た。

シーリーンはまるで、愛し子を甘やかすように、膝を立てて座っているファオンに手を床について身を寄せる。

ファオンはまるで、愛しい人に迫られるように頬を赤らめ、顔をそっと背けた。

シーリーンはファオンを見つめたまま、開かれた股の間。

その奥。

双丘を割って蕾に触れると、そっ…と指を忍ばせた。

ファオンの腕が、床に手を付くシーリーンの腕にしがみつく。

「…んっ…!」

「…ここで感じないと、ただ地獄だぞ?
まだ、痛いか?
ファルコンは、セスですら痛がってた」

ファオンはふ…と顔を上げる。

シーリーンの手は革袋を開き、中の練り薬を指で掬っていた。

その指を再び、蕾へ……。

痛みも辛さも恥辱も無い。

ただ、労る感触がした。

七人の《勇敢なる者》レグウルナスに犯されてた時…周囲を見ている余裕なんて無かった。

“僕に…同情…していた?”

シーリーンはすっ。と立ち上がる。

「二人きりだ。優しくしてやれ。
…外にいる。
困ったら…呼べ」

デュランはそう真っ直ぐ見つめて来るシーリーンに、気後れした。

苦手だった。

シーリーンの、すました顔も、冷静な態度も、全て見透かすような瞳も。

シーリーンはそれを知っているように、テントの入り口の布を払って出て行った。

ファオンが、顔を上げる。

目が合うと、二人ともが気まずくて、顔を背けた。

けれどデュランは、決意したようにファオンを見つめて言った。

「今夜一晩は《皆を繋ぐ者》アグナータを、宛がわれた自分のテントに泊めろと言われた。
《皆を繋ぐ者》アグナータが君だと、知っていた。けれど。
知っているのと、目にするのはまた別だ」

ファオンは俯く。

デュランはテントの入り口の、直ぐ横に座り込む。

「君がいないから、俺が《勇敢なる者》レグウルナスになるのは簡単だった」

ふいに、ファオンが涙ぐむ。

デュランは見てはいけないものを見たように、顔を背けた。
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