アグナータの命運

あーす。

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聖なる名の下の性奴

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 ファオンが目を覚ました時…。
そこにはセルティスがいた。

「気づいたか?」

ファオンを身を起こす。

だが七人の男に犯された双丘の蕾の奥は、散々擦(す)られた痕跡がズキズキと軽い痛みを伴って残り…ファオンは少し、身を捩る。

セルティスの視線が注がれ、ファオンは脱力して憔悴しきった身を、何とか起こす。

《勇敢なる者》レグウルナスを目指してから、鍛え続けた。
だから…体力はあった。
なのに…。

手足が鉛のように重い。

何より…抉られた場所は擦られた軽い痛みで、感じる部分がずっと軽く疼き続け…容赦無く犯された事実を物語っていた。

ファオンは身を起こし、セルティスを見つめる。

「…今から…僕と…?」

セルティスは苦笑した。

少し明るい栗色の巻き毛。
彫りの深く、整った顔立ちのその表情に、優しい笑みを浮かべていた。

「いや…。

私は愛し合った娘を領地に残してここに来た。
君に私の欲望の全てを、任せようとは思ってない」

ファオンは吐息を吐き出す。
気づいたら緊張から解き放たれ、身が震えてた。

今直ぐまた、彼に抱かれる。
そう身構えた、後だったから。

6才の時、アリオンに抱かれたあの時…。

何も…感じてなかった。

恥だとも。

男を捨て、誇りを捨てる行為だとも。

ただ…アリオンが求めて来る事に途惑い…。

けど同時にとても…。

ファオンは俯く。

無邪気にただ…嬉しかった。

憧れていた。

黒髪のアリオンの、強さと頼もしさ。
そして男らしい美しさに。

けれど今は、その行為の意味が解る。

男に抱かれる男は男で無い者。
男に欲情される男は、戦士たりえない者。

男に抱かれ悦ぶ者は、汚れた男。

アリオンは最早少年ではない。

迫力すらあった。彼のあの体の逞しさ。

目前のセルティスですら…。

逞しい肩と胸を剥き出しにしてる。

ファオンは自身の細く頼りない体を思い、目を伏せる。

セルティスがそっと囁く。

「…セスは負傷したキースを愛してしまった。

キースが負傷し、治癒の為尾根を降りた為、皆に告げた。
キース以外の者にこの身を汚されるのはもう、嫌だと。

…たまにいる。
本気で一人の男に惚れる、《皆を繋ぐ者》アグナータが。

だが《皆を繋ぐ者》アグナータが誰か一人の者しか愛せなければ、《勇敢なる者》レグウルナスの和は乱れる。

皆が一人の《皆を繋ぐ者》アグナータを共有して抱く。
皆の物であり、誰か一人の物であってはならない」

ファオンはセルティスに見つめられ、顔を背けた。

アリオンを思ってる。
今でも。
あの幼かった時、アリオンに抱かれ、幸福だった。

行為の意味すら知らず…。

けれど幸福だったのだ………。


セルティスは少し気の毒そうにファオンを見つめながら囁く。

「レオ。そしてファルコンは、君の年齢でも少しは、接触があったろう?」

問われて、ファオンは顔を上げた。
うんと年長の二人は、たまに見かけるだけ。

いつも大きく逞しい彼らを見かけると、声もかけられず遠くから憧れの視線を送っていた。

けれどこれだけは知っていた。

レオとファルコン。
二人は圧倒的に強いと。

だから当然、《勇敢なる者》レグウルナスに選ばれるだろうと。
それを誰もが疑わなかった。

けど目の前のセルティス。
彼は違ってた。

同い年の猛々しいグールスが選ばれると、誰もが信じていた。
セルティスは、だが、選抜の競技でグールスを下し、《勇敢なる者》レグウルナスに選抜された。

セルティスは俯くファオンに顔を傾けて見つめる。

「最初は一日に一人ずつ。
年齢順に。
君が慣れるまで。
ただ…」

セルティスは腰に下げた革袋を、外すと、そっと差し出す。

「レオはまだいい。
だがファルコンの扱いはとても乱暴だ。
その上彼の男根は誰より太く、長い。
慣れない内は、痛みしか無いかもしれない」

だがファオンは顔を下げる。

女のように感じて喘ぐより…その方がまだ、父に兄達に、顔向け出来る。

だがセルティスが、下げたファオンの手を取り、手の平を上にしてその手に、革袋を握らせて微笑む。

「…必ず…される前にこれを塗れ。
でなければ…君は、ファルコンに壊される」

ファオンはそれを握りしめた。

それは救いなのか…。
それともファルコンのみでなく、もっと多くの男に辱められろと言う事なのか…。

「新しく選出された《勇敢なる者》レグウルナスはじき、この尾根に着く。
今夜君は、皆を差し置いて、彼への贈り物とされる」

セルティスは立ち上がると、テントの入り口の布を払う。

やがて…尾根に着いた時、世話をしてくれたひょろりと背の高い青年が姿を現した。

テントの入り口を、頭を屈め入って来る。

「彼はテス。
これからずっと、君の世話をする」

セルティスにそう紹介され、彼は少し笑う。
そばかすだらけの顔をくしゃっとして。

「行こう」

テスに言われて、ファオンは立ち上がる。
けれど膝が、かくん!と崩れる。

「!」

ヨロめき転びそうなファオンを、セルティスが抱き止める。

逞しい腕。
優しい…けれども、頼もしい。

ファオンはセルティスに抱き止められた時、彼を、彼の男らしさを意識して、かっ!と頬を赤らめた。
けれどファオンがセルティスを見上げた時。

セルティスは気の毒げに眉をひそめていた。

「……………」

ファオンは女のように男の逞しさを意識した、自分を恥じた。

変わりたくないのに、変わっている。

…彼を、意識する。

抱かれる者として。


けれどテスに手を引かれ、ファオンはセルティスのテントを出て行った。



 セルティスのテントを出、ファオンはテスの後を付いて歩く。

《勇敢なる者》レグウルナスらのテントの端。
岩の隅にあちこちと、護衛の男達がいた。

皆、鋭い目をこちらに向けている。

前を歩くテスが、気づいたように振り向く。

「中にはいる。
辛くて逃げ出し、ここより下の雑兵らのテントへ、わざと姿を現す。
雑兵らに身を汚される為に。

汚されてしまったら、《皆を繋ぐ者》アグナータを廃されるから…」

「…わざと…廃される為に…?」

ファオンが尋ねると、テスは俯く。

「セスが廃されたばかりだから。
あんたが逃げ出さないよう、みんな気を張って見張ってる。

…けど逃げて領地に戻っても、石を投げられるだけなのに。
大切な…役目を放り出した卑怯者として。
子供にまで…侮蔑の目で見られ、石を投げつけられる。
まるで罪人だ………」

「では、セスは…」

テスは寂しそうに言った。

「…キースは彼を受け入れない。
きっと傷が癒えたらここに戻って来る。
キースはそれだけ強い、根っからの戦士だ。

《化け物》キーナンの繁殖期が終わって、役目を一時的に解かれ、尾根をあんたが降りた時、きっと…。

…セスの姿は、もうどこにも見つけられない」

ファオンは顔を下げたままそれを聞いた。


まるで自分の未来を現す言葉のように。
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