アグナータの命運

あーす。

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屈辱の儀式

2 北の尾根

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 ファオンは導く者と共に、馬を進ませる。
岩場はどんどん険しくなる。

風は強く、緑の草原は遙か下。

切り立った尾根の頂上より少し低い場所に、《勇敢なる者》レグウルナスらが生活するテントがある。

ファオンは前を進む若者を見る。
彼は道案内をしながら、時折ファオンが逃げ出さないか。
と振り返る。

まるで見張りのよう。

《皆を繋ぐ者》アグナータに選ばれた者は…たまにその責務の過酷さに、栄誉を受けるどころか逃げ出す者もいたから…。

ファオンですら、出来るのなら逃げ出したかった。

けれど逃亡などすれば、もう屋敷にも領地にすら戻れない。
どこか遠い地で、父や兄達に別れを告げ、逃亡者として暮らすしかない。


尾根に囲まれた崖下には《化け物》キーナンが住んでいた。
厳しい冬を越し、春を迎えると、《化け物》キーナンらは繁殖期を迎え、爆発的に増えて尾根を超え、人々を襲う。

食料として。

だから春になると《勇敢なる者》レグウルナスが選出され、彼らの指揮で《化け物》キーナンを狩るのだ。
人を食う化け物。
勇気は人一倍必要。

《勇敢なる者》レグウルナスらの結束を担うのが、《皆を繋ぐ者》アグナータ
男だけで作られた《化け物》キーナン討伐隊。
若い彼らの欲を鎮め、慰める者。

《勇敢なる者》レグウルナスらは一人の青年を皆で抱く。
共有する事で、心を通わせ《化け物》キーナンに立ち向かう。

《皆を繋ぐ者》アグナータとは、《勇敢なる者》レグウルナスらを一つにまとめる大切な役目。

ファオンはまた、案内の青年の視線を感じ、顔を上げる。

じろじろと。
無遠慮な。

《皆を繋ぐ者》アグナータに選ばれるのは、最も美しい青年。

ファオンの、白金の髪。
青い湖水のような瞳。
ほっそりと伸びた手足。

その、美しさ。

《皆を繋ぐ者》アグナータに、選ばれるだけ在る。
そんな目つき。
そして…。

まだ性に慣れぬ、抱かれる者としての色香の無さ。
視線は馬に跨がる、衣服で隠れた双丘に注がれて、ファオンは真っ赤になって俯いた。

《勇敢なる者》レグウルナスらにこれから、思う様刺し貫かれる。
その蕾の奥を。

《勇敢なる者》レグウルナスらは望む時にいつでも、《皆を繋ぐ者》アグナータを抱くことが出来る。

時には一人。
けれど時には…望む人数全て。
男達の気の済むまで…彼らの好きなように体を、嬲られる。

ファオンは顔を俯けたまま、上げられなかった。

例え、屈辱的でも、大切な…大切な役割。

領民には皆、《化け物》キーナンに食われることを恐れていたから、《勇敢なる者》レグウルナスを熱狂的に讃える。

決して負けない勇者達。

その勇者を支える、大切な役目の《皆を繋ぐ者》アグナータ


岩の間を進むと、下の岩場に幾つものテントが見えて来る。
多くの兵士の佇むテントでは、大勢の若者が行き来していた。

けれど馬はその岩場を更に進み、少し高い場所に在る、《勇敢なる者》レグウルナスらのテントへと進む。

導く者は、馬を降りてファオンの腕を握る。
そして出迎える世話をする者に、ファオンを預けた。

ひょろりと細い、食事や水を運ぶ下働きの若者は、ファオンを岩の間にある、湯の湧き出る温泉へと導く。

「………あの…」

ファオンが言うと、下働きの若者は素っ気無く言う。

「入って、これで良く擦るんだ。
香りの良い花を浮かべてる。
その、《勇敢なる者》レグウルナスが触れる場所に香りをうんと、擦り込むんだ」

ファオンが見上げていると、ひょろり。と背の高い下働きの若者は、ファオンの手を引き、服を脱がす。

裸にすると、腕を引いて湯に導く。
横に置いた籠から白い花を手にすると、ファオンの前の股の間。
そして双丘の間に潜り込ませ、花を擦りつけた。

真っ赤になるファオンを見て、若者は言う。

「こんなんで恥ずかしがってちゃ、保たないよ」

ファオンは一瞬で身を、強ばらせた。

湯から腕を引かれて出ると、白い布を手渡される。
体を拭くと、衣服を渡された。

「あんたの服は…これからはこれだけだ。
寒い時は、《勇敢なる者》レグウルナスが温める。
着てきた服は捨てる」

「す…捨てる?どうして…?」

若者は気の毒そうに言った。

「大抵の《皆を繋ぐ者》アグナータは、二日もすれば耐えられなくて…服を着て逃げ出すから」

ファオンは渡された、衣服を見つめた。

それは衣服と言うより布。

長い布を、頭の部分だけくり抜いて、前後に垂らしたような。

けれど後ろは二つに、ぱっくり割れていたし、前の布は幅が狭く、腰骨が見える程。

腰の辺りに紐があって、それで前後の布を結ぶ。
けれど…横は全部開いていた。

暖を取るなんてとんでもない。

横は肌を晒していたからすーすーしたし、後ろの…尻は、歩く度真ん中に割れた布が揺れて…。
屈んだりしたら、尻が丸見えになりそうだった。

「…こんな服じゃ、どこにも行けないだろう?
酷く罰せられるから滅多に無いけど…。
逃げ出すには下の、雑兵のテントを抜けないと駄目だ。
雑兵達は《勇敢なる者》レグウルナスみたいに、抱く者がいないから、《皆を繋ぐ者》アグナータを見かけると襲って、犯す奴もいる」

ファオンは身を、震わせた。

こんな衣服は…まるでいつでも食べられる、果実のよう。

尻を犯すのに、衣服を脱がす必要すら無かった。
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