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かっ飛びアレクサンドライト まぜまぜイエロー・ダイヤ オン コース 8 ファントレイユ
かっ飛びアレクサンドライト まぜまぜイエロー・ダイヤ オン コース 8 ファントレイユ 14
しおりを挟む近衛宿舎から出て…。
近衛兵舎と王宮の間にある、茶レンガの三階建てのデカい建物の前には、たくさんの馬が止まってて。
俺、ヤンフェスの馬から降りて、彼が馬丁に手綱を渡してる間、横に居る。
シャッセルも手綱を渡してて…直ぐ、横に駆けつけてくれる。
銀の刺繍飾りが入った、紺の近衛隊服を、長身でびしっ!と着こなしてて。
飾り帯も、剣の飾り緒も銀で。
凄く控えめなんだけど。
さり気なく付けた、銀の台座の、濃紺の宝石が…高級感溢れてる…。
シャッセル、横に来ても。
凄く背が高くて、逞しい感じはするのに。
秘やかで湖水が澄み渡ったみたいな雰囲気で。
ファントレイユと違って、あんまどきまぎは、しない。
二人に挟まれて…建物の幅広い階段を上がり、中へ。
入って直ぐ。
二階席のある、古びた焦げ茶の壁の。
天窓や高窓の、高い位置から光が方々から射し込む。
荘厳で広大な、講堂に入る。
二階席には、多くの…厳つい顔をした、どうやら歴代の近衛関係者らしき、お歴々が居て。
中央の高い壇上の、金ぴかの椅子に、王子、ソルジェニーの姿があった。
「…遠いね…」
そう言うと。
ヤンフェスとシャッセルは、どんどん端の通路の、奥へと進んで行って。
一番前の席に、ヤンフェスが腰を下ろしてるから、俺、びっくりした。
横にはマントレンが居て。
その向こうに、ファントレイユが座ってる。
一際(ひときわ)、麗しくて美貌の際だって見えるファントレイユ。
俺に振り向くと。
凄く、ほっとした顔をして。
少し泣きそうに、表情を崩し。
「無事で良かった」
って言うから。
…俺の方が、泣きそうに成った。
ファントレイユが中央通路の一番端で。
通路を挟んだ向こう側の椅子に、アドルフェスが得意満面で、座ってる。
その向こう横には、狐みたいな印象のレンフィールが、美形の顔を曇らせて、座っていた。
シャッセル、俺をヤンフェスとマントレンの間に座らせると。
「じゃ。
私は、あちらだから」
って。
マントレンとファントレイユの前を通って、通路の反対側に並べられた椅子の方へと、行こうとする。
ファントレイユ、前を通るシャッセルの腕を軽く掴んで。
「すまない」
って言ってて。
シャッセル、表情変えず、頷いてる。
玉座…なのかな?
中央の一際高い壇上の、黄金の椅子に座ってるソルジェニー王子。
俺の事見て、にこっ。
って…笑ってくれるから。
俺も笑い返して、頷いた。
ギデオン右将軍が、玉座より一段低い壇上に姿を現し。
玉座に向けて、王子に一礼すると。
そこら中で、がたがたっ!って、立ち上がる音がして。
横のヤンフェスもマントレンも立ち上がるから。
俺も慌てて立って、みんなに習って、一礼して…席に着いた。
ギデオン、玉座の斜め下の位置で、皆からも王子からも見える場所に立つと。
「これより左将軍、任命式を執り行う」
って…凄く響き渡る声で、高らかにそう告げる。
高窓から射す陽に、白い頬を照らされ、黄金のさざめく金髪を腰まで伸ばしたギデオンって、本当に美しくて。
大きな碧緑の瞳は、透けて宝石のよう。
真っ赤な、ぷるんとした唇も、どこかツン!として。
顔の美しさもさることながら、とても威厳に満ちて見えた。
男だらけの巨大な講堂の、あちこちから、溜息がもれてる。
きっと俺同様、みんな彼の姿に、見惚れてるんだ。
って、思う。
「候補者名を読み上げる。
隊長、アドルフェス。
それに…シャッセル」
最前席の二人が、がたん。
と。
真ん中のレンフィールを残して、ほぼ同時に椅子を立つ。
「…そして…最後の候補者、隊長、ファントレイユ」
先に席を立つ二人が…最後に呼ばれたファントレイユを、揃って見つめる。
ファントレイユ。
少し顔を俯けて。
けれど溜息と共に、立ち上がる。
三人は、ギデオンの向かいに並べられた椅子にかける。
手前から、ファントレイユ、シャッセル、一番玉座に近い方に、アドルフェスの順で。
王子からも、講堂の皆からも姿が見えるよう。
玉座よりは一段低いけど。
こちらかに見たら、50㎝は高い壇上で。
斜めに配置された椅子に。
ギデオンは講堂の皆に向くと、言葉を告げる。
「先代左将軍が退いてから既に二ヶ月。
吟味した結果。
次の者を左将軍に、正式に任命したいと思う」
俺、唯一人俯いてるファントレイユを、はらはらして見る。
顔を下げてはいるものの…。
横に座る、体格の立派なシャッセルやアドルフェスに負けないくらい、一番華やかで、存在感があるのに。
…顔を上げない。
「…次期、左将軍には、ファントレイユ!!!
君を任命する!」
ギデオンの声が一際大きく響き渡って。
講堂が、ざわっ!と波打つ。
アドルフェスが、シャッセルの向こうに座る、ファントレイユを。
凄い目付きで睨んでる。
ファントレイユ。
それ、感じてるみたいに歯ぎしりし。
俯いたまま、小刻みに震えてる。
さざめく拍手が、どっ!と湧き上がりかけた時。
ファントレイユ、下げた顔を上げて、ギデオンに叫ぶ。
「…私は辞退した!
後任に、アドルフェスをと!
そう申し上げた筈だ!!!」
一辺に。
講堂中が、水を打ったように静まり返り…。
次にあちこち、皆が一斉に
「どういう事だ?」
とか
「どうなってるんだ?」
と口々に問うて、ざわざわと騒がしくなる。
ギデオン、真っ直ぐファントレイユを見据えたまま。
静かに言い返す。
「君の辞退は聞いた。
が、決定権は私にある」
「だから私は…!」
俺。
その時、思わず叫んだ。
「ファントレイユ!!!」
…かなり、甲高い声だったけど。
マントレンも、直ぐ追従して、叫んでくれる。
小柄なのに。
凄く鋭い声で。
「ファントレイユ!!!」
ヤンフェスも叫んでる。
「ファントレイユ!!!」
背後でざわついてた者達も次第に。
「ファントレイユ!」
って叫び出して…。
だんだん声が揃い、一斉に
「ファントレイユ!!!」
の、大合唱に。
一番高い壇上の王子も、口を開きかけて…。
けど、横の侍従に、手で遮られてたしなめられ。
しゅん。として、口を閉じてる。
だから俺、ソルジェニーの分も、高らかに叫ぶ。
「ファントレイユ!!!」
って。
ギデオンは、今や講堂中が名前を呼ぶ、その声に振り向き。
その後、ファントレイユを見つめて、問う。
「…この声を聞いても、辞退すると?」
アドルフェス、もっと凄い目で、ファントレイユの事、睨んでる…!
汚い手、使ったのに!!!
ファントレイユはそれでも…顔を上げず。
これだけの大合唱の中でも響き渡る、ギデオンの声が…次第に静まりつつある講堂内に響く。
「君が辞退した場合。
私が後任に考えたのは…」
そう言って、顔をファントレイユからシャッセルに向け、呟く。
「…シャッセル、君だ」
小声にもかかわらず。
皆に、その名前ははっきり聞こえて。
皆、一斉に、シャッセルを見つめた。
隊長としても、家柄から考えても。
シャッセルは、申し分無い。
けど…。
シャッセルは口を開くと、響き渡る声で言った。
「私はファントレイユが、相応しいと思う!!!」
アドルフェスが直ぐ、怒鳴り返す。
「それは辞退と!!!
取って良いのか?!」
ギデオンが。
ぴしゃり!と、鋭く叫ぶ。
「左将軍は、ファントレイユしかいない!!!
私がそれ以外は、承認しないからな!!!」
ギデオンの声で。
講堂中は、静まり返った。
マントレンが、椅子から少し、乗り出して。
一段、高い壇上の。
椅子の上のファントレイユに、小声で囁きかける。
「受けると言え。
ギデオンをこれ以上、窮地に晒す気か?!
右将軍の地位を利用して。
我が儘を通す男だと。
彼を、批判に晒す気か?!!!!
ファントレイユ!!!」
マントレンの声は、小声で顰められてたけど…。
凄く、迫力があった。
俺。
青白い顔の小柄なマントレンの、その迫力に、身震った。
ファントレイユ。
ようやく…顔を上げ。
ギデオンを真っ直ぐ見つめて立ち上がる。
そして…胸に拳を当て、膝を曲げて、片足後ろに引いて。
ふんわりとした、淡い栗毛を揺らし、とても優雅に、一礼して。
その、綺羅綺羅しい美貌の面を上げ。
高窓から射す陽に照らされながら。
理知的なブルー・グレーの瞳を煌めかせ。
はっきり響き渡る声で、言い切った。
「謹んで、お受けする」
ギデオンが、やっと微笑んで手を差し伸べ。
やって来るファントレイユの背に手を回して、自分の前に立たせる。
ファントレイユは直ぐ、膝を折って跪(ひざまづ)き。
頭を垂れると。
ギデオンはファントレイユの肩に手を乗せて。
「これよりかの者を、左将軍として、正式任命する!!!」
と高らかに、宣言する。
立ち上がったファントレイユの胸に、大きな銀の竜のペンダントを、付け。
銀の…竜の刺繍の入った、とても豪華なマントを羽織らせ。
そして…ファントレイユはギデオンと共に、まず王子に振り向くと、二人揃って一礼する。
王子、侍従に促されて、頷いて立ち上がる。
少し、涙ぐんで…言ってる。
「あなたの他に、相応しい方は、私は思い当たりません。
ご不安が、おありのようですが。
どうかこれからは、右将軍ギデオンの助けとなって。
彼の右腕として。
あなたの能力を存分に、発揮してくれることを、期待しています」
少女のように…儚げで綺麗な美少年が…少し震える声で。
けれどしっかりした口調で。
そう言う言葉を、講堂中の、近衛騎士が聞いた。
ファントレイユ、頭(こうべ)を垂れたまま。
言葉を返す。
「お言葉、しかと承り。
私の出来うる、最上の努力をもって、職に当たります!」
きっぱりと響き渡る、ファントレイユの。
…腹の底に響き渡る確かな声音に。
二階席から、拍手が湧いた。
「歴代、最も華やかなる、右将軍、左将軍の、誕生だ!!!」
二階席から、そう声が飛び。
講堂内は、なごむように。
皆がどっ!!!と、一斉に笑った。
ソルジェニー、ファントレイユの事…凄く愛おしげに見つめて、頷いて。
その後、俺の方を見て。
微かに、頷いてくれた。
「(…うん。
良かったね!ソルジェニー!!!)」
俺、つい心の中で、王子の名前、呼び捨てにしちゃった。
二人は今度、講堂の方へと振り向く。
講堂中から、爆発的な拍手が沸き起こり。
俺に揃って振り向き、笑いながら席を立つ、両横に座ってたヤンフェスとマントレンと一緒に。
俺も立ち上がって、手が痛くなる程猛烈に、ファントレイユとギデオンに向けて、拍手を送り続けた。
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