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リセット 7 オーガスタス

リセット 7 オーガスタス 12

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 けど、森を抜けて領境の丘に近づいた時。

丘の上に、一際デカい男が馬に乗って、現れた。
月を背景に、くっきり黒いシルエットが浮かび上がる。

ヒヒィィィィィン!
ザハンベクタが、大きくいなないて前足を跳ね上げ、止まる。
鼻息荒く、自分を止めたオーガスタスに、凄く不満そう。

オーガスタスが、その大柄な男を見上げる。
金の髪。
青の瞳。

「え…え゛?
アーシュラス…本人?!」
俺が聞くと、オーガスタスはアーシュラスを、見据えたまま頷く。
「…そうだ」

オーガスタスが咄嗟、首を右に振り向ける。
右側に、槍を構えた兵士達が、バラバラっ!て現れて、道を塞ぐ。
左。
そして…背後にも。

「(えっ?!もしかして…囲まれた?!)」
ザハンベクタは、不満そうに右足で地面を掻いてる。
「(…だから、止めるなって言ったのに!)」
みたいに、不満そうに。

アーシュラスは丘の上で、怒鳴ってる。
「例えここでお前を殺しても!
犯人は通りすがりの盗賊だ!」
「卑怯だ!」
俺が叫ぶと、オーガスタスがぎょっ!として、俺に振り向く。
「多勢に無勢なんて、王子のすることか!
それで王子名乗るなんて、みっともなさ過ぎ!」

ザハンベクタは、その通り。
と言うように、ブヒブヒ…と首を、上下に振る。

オーガスタスが、呆れたように俺とザハンベクタを、交互に見てる。
だってさ。
汚すぎるでしょ?!
やり方が。

けどアーシュラス、すんごい怖い顔して、青い瞳、月明かりの中ギラギラさせて。
憤怒の形相で。
「…さてはオーガスタスと、寝たな?!」
って怒鳴るから。
「…だって!
寝るでしょう!
あんたと第二?!王子なんかにされた日にゃ、最低の気分だし!
サイズは同じ位でも!
全っ然!
オーガスタスのが、最高なんだもんっ!!!」

怒鳴った後…なんか周囲が。
それにオーガスタスも…。
みんな、アーシュラスから顔を背けるみたいにして、沈黙してる。

見ると。
アーシュラス、もう肩をわなわな震わせて…怒り狂って…る?
あ、やっぱし周囲取り囲まれてて、言うセリフじゃなかった?
多分、虎の威を借るキツネ、って俺のコト。
なんか、オーガスタスと居るせいか…すんごく気が、大きくなってる…。

「悔しかったら大勢の部下引かせて!
正々堂々と、オーガスタスと一対一で戦ったら?
絶対、剣でもオーガスタスが勝つに決まってる!」

言ってから…はっ!として…オーガスタスを見る。
オーガスタス、真っ直ぐアーシュラスを睨んで吠える。
「どうする!
このまま、情事でも剣技でも俺が上と認め、部下に俺を攻撃させるか!!!」

もう、身震いする程の、ど迫力な咆吼!!!
格好良すぎて、俺完全に、目がハート型。

「…言ったな!」
アーシュラス、すんごい怒って、馬から降りる。
「…部下を引かせろ!
そしたら相手してやる!」

オーガスタスに怒鳴られて。
アーシュラス、俺達を取り囲む部下に、首を横に振る。
部下達が…後ずさって、引いて行く…。

オーガスタス、ザハンベクタから降りて、囁く。
「…頃合いを見て…逃げだせ」


「(だって!オーガスタスは?!
置いていけないよ!!!)」
って…言おうとしたのに。
オーガスタス、剣携えて、丘を降りて来るアーシュラスに、向かって行く……。

「…どうしよう…ザハンベクタ………」
ザハンベクタは首を低く構えたまま…主人のオーガスタスを心配する風無く、周囲を警戒してた。

2m越す長身の二人は、剣下げたまま一瞬睨み合って。
ほぼ同時に一気に剣を振り上げ、互いにぶつける。

ガッツン!
直ぐまた
ガツン!
ガッ!

あっちこっちで剣が、ぶつかり合ってる…。
「(…どっちも力業。
今の所、互角…)」

けど突然、ザハンベクタがヒヒン!と叫び、駆け出す!
俺、がっくん!って後ろに倒れそうになるのを踏み止まり、ザハンベクタの背にしがみつく。
振り向くと、黒装束の男!

止まってるザハンベクタに忍び寄って、俺を拉致しようとしてた…?!

ザハンベクタ、真っ直ぐ…剣をぶつけあってる、オーガスタスの元へ。
咄嗟、オーガスタスの左手が腰に。
脇差しを素早く抜いて、アーシュラスに向かって投げ、アーシュラスが避けてる隙に、飛び込んで来たザハンベクタの鞍に手を掛け地を蹴って、身を低くした俺の背の上を長い足を振って、跨がり乗る。

「…貴…様!」
アーシュラス、ケダモノの咆吼みたいなしゃがれ混じりの怒声を上げて、追いかけて剣を振るんだけど…。
当然ザハンベクタは早くって、掠りもしない。

ザハンベクタ、止められた鬱憤晴らすみたいに首を低く下げ、まるで矢のように突っ走る!
なぁぁぁぁんて、爽快っ!

けど、草むらに隠れてたらしい男が立ち上がって、何か棒のような物を振る。
どんっ!
って…俺の横腹に当たったかと思うと…俺、横腹に当たった半円形の金属の輪みたいなのに、横斜め上に思いっきり持ち上げられ…宙を飛んで…る…?!

「(え…えっ?!)」
背後でアーシュラスが、大声で怒鳴ってる。
「でかした!
褒美を取らす!!!」

持ち上げられた俺…そのままアーシュラスの方へ、ぶんっ!って、投げ飛ばされる!
落下地点のアーシュラスが、吹っ飛んで来る俺の胴を、腕をひっかけ強引に抱き寄せる。

どんっ!
アーシュラスの胸板にぶつかって…足が宙に浮いたまま、そのまま胸元に、抱き止められた。
「…ん…っぐぐぐっ!」

「そのまま消え去れオーガスタス!
が、次に会った時、礼はするぞ!!!」

俺、振り向いてオーガスタスを見る!
オーガスタス、止まったザハンベクタの首を回して、こっちに振り向いてる…!

槍持った部下達が、バラバラバラっ…て…オーガスタスへ、向かって行く。
アーシュラスは、戻って来るオーガスタスに吠えてる。
「取り戻せるか!
諦めて行けば、命だけは助けてやると言ってるんだ!」

もう、耳塞ぎたい程の大声。
胴をアーシュラスの腕で抱き込まれたまま…俺、振り向いて叫ぶ。
「ザハンベクタ!
行って!
オーガスタスを、助けて!!!」

けど、ザハンベクタは猛烈に睨んだかと思うと。
一気にこっちに向かって、駆け始める。
「違う!!!
逆!!!
こっち、ダメっ!!!」

槍持った兵士達と、激突する。
俺もう、ザハンベクタが槍に傷付けられないか思って、ハラハラして泣きそう…。
オーガスタスがザハンベクタに跨がったまま、剣を振り回して槍を薙ぎ払ってる!

ザハンベクタは横から槍を突き立てようとする兵士に、両前足、草地に踏み込んで踏ん張り、腰を横に大きく思い切り振ってぶつかり、跳ね飛ばしてる!
飛んだ兵士は、背後の二人に凄い勢いでぶつかり、三人が後ろに吹っ飛んでた。

オーガスタスは剣を立て続けに、大車輪のように振りきって…。
槍を斬り捨てながら…俺の方見るから。
俺…心が震えた。

オーガスタスもザハンベクタも、俺見捨てたら助かるのに!

俺、アーシュラスに胴抱きしめられたまま、アーシュラスのベルトを見る。
短剣の鞘が付いてた。

俺、手を伸ばして短剣の柄を掴むと、俺の胴掴んでるアーシュラスの腕を、背を捻って思い切り斬りつけた。
「っつっ!」
アーシュラスが、眉しかめて腕を放す。
俺、着地にヨロめいたけど、必死に走り出す。
背後に、アーシュラスの腕が伸びる気配。
俺、振り向いて…また、短剣を思いっきり、振り切った。

「こ…の!!!
性奴隷の分際で、俺に傷を付けるか!!!」

怒って吠えているのは、解ってる!
けどさ。
ザハンベクタ、槍が掠って胴体に擦り傷作りながら…。
それでも、俺の方へ向かって走って来るんだよ?!
オーガスタスも、必死でザハンベクタを庇って…ザハンベクタを刺そうとする槍、剣で切り飛ばして助けてるんだよ?!

俺、槍持った部下が俺の事、捕まえようと前から来るから!
思いっきり飛んで、跳び蹴りしてやった!

がっっっ!
何か意外に高く飛べて。
頬に当たって、兵士、吹っ飛んでた。
下に長い剣が落ちてたから、屈んで咄嗟に拾う。

「走れ!」
オーガスタスが叫ぶから振り向くと、背後からアーシュラスが。
地獄の鬼みたいに…整った顔歪めて、俺に迫って来てた。

剣を、思いっきり振る。
アーシュラス、首傾けて剣を避け、腰から大きな剣を…抜く。

ヒヒィィィィン!
ザハンベクタ、前足跳ね上げ、槍構える兵士の一人に前足を、振り下ろす。
「ぎゃっ!」

アーシュラスは剣を下げたまま、俺を睨み付けて、言う。
「…死ぬぞ。
剣を捨てろ!
俺は今、めちゃくちゃ怒ってる!
お前を斬り殺す事など、朝飯前だ!!!」

俺、剣横に思いっきり引いて、力の限り振った。
アーシュラスが目を見開く。

そう。剣を、アーシュラス目がけ、振り投げたから。
横に駆け込むザハンベクタに駆け寄ると、オーガスタスが手を差し伸べてくれる。
手を掴むとオーガスタス、握り込んで俺を一気に馬の上に、引っ張り上げてくれた。

「学習、しないな!!!」
オーガスタス、俺の投げた剣、避けて屈むアーシュラスに、一声叫ぶ。
ザハンベクタはオーガスタスの合図も待たず、勝手に首を、中央テールズキースの方角へ向けると。
まだ近寄って来るアーシュラスの部下を後ろ足で蹴り飛ばし、そのまま後ろ足、うんと前に着いて。
凄い速さで、駆け去って行く!

俺…後ろの、頭から湯気が出そうな程怒ってる、アーシュラスに振り向く。

がっっ!
オーガスタスが横から突いてくる槍を剣で切り捨て、俺に怒鳴ってる。
「しっかり胴に、しがみついてろ!」
俺、オーガスタスの胴に両腕回してしがみついて叫ぶ。
「もう絶対、あんなのに吹っ飛ばされない!」
「その意気だ!
一気に中央領地に、駆け込むぞ!」

オーガスタスが叫ぶとザハンベクタは、首を低く倒して、更に速度を上げて駆け出す。

もう一度振り向くと…背後の兵士達は小さくなり…。
アーシュラスが、部下に馬を持って来させ、乗り込む姿が見えた。

けどザハンベクタは、更にぐんっ!って、速度を上げる。
気づくとオーガスタスも、振り向いて…俺に言った。
「これだけ距離が開いて、ザハンベクタに追いつける馬はいない!」

ザハンベクタも
『その通り』
って言ってるみたいに…もっと首を低くし、もの凄い速さで突っ走る。

「…オーガスタスもザハンベクタも!
めちゃめちゃ、格好良かったよ!」

俺がそう叫ぶと、オーガスタス、振り向きながら言った。
「お前もな!」

そう言われて…俺、オーガスタスの腰に抱き付きながら、嬉しすぎて思いっきり、笑った。


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