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豪華な店での食事風景
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その店はファントレイユの記憶通り、二股を左に入った、先に有った。
さっきのうらぶれた玄関とは全く違い、豪華。
門には美しい飾り模様満載。
庭には噴水と彫刻が配され、植木は美しく整えられ。
厩には、飾りの付いた屋根があり。
玄関扉と来たら、豪華な彫刻が施され、金で出来た繊細な飾りが美しく、大変豪奢で。
この店の玄関と、あの酒場の玄関を。
どうやったら見間違える事が出来るのか、ファントレイユには謎だった。
…が、ギデオンの様子を目にした時。
彼がソルジェニーに話しかけるのに夢中で、扉を開いてくれた侍従にすら気づかぬ様子に、合点が行く。
ギデオンは周囲なんて、全然見てはいないのだった。
三人はいかにも品の良い調度品類に囲まれた、落ち着いた雰囲気の。
座り心地満点のふかふかの椅子にくつろぐと、注文を取った。
「…それと…この店で一番高い食事と、一番高い酒を頼む」
ファントレイユの注文を耳にし、ギデオンはテーブルに肘を付け、手の上に顎を乗せ、暫し沈黙し。
そして口を開く。
「…私に、奢られたいのは解る。
が、どういう注文の仕方なんだ?」
ファントレイユはすました顔で口を開く。
「…滅多に来られない店なんだから、それくらいしたっていいだろう?」
ギデオンの眉が、密やかに寄った。
「…さっきの事を、根に持って無いか?」
ファントレイユは即座に言い返す。
「持って無いと言えば、嘘になる」
ギデオンは、そうだろうよ。とふてくされて俯く。
その様子を見、ソルジェニーがくすくすと笑った。
ソルジェニーは、ファントレイユの横の椅子に腰掛け、向かいに座るギデオンを。
ランプの灯りの中で見ても、その綺麗な顔に傷一つ作ってないのを改めて確認し、心からほっとした。
が、直ぐに隣のファントレイユをチラリと見る。
彼の、隙の無いスマートで引き締まったしなやかな胸元や腕を思い出し、つい頬を赤らめた。
ギデオンは珍しい物を見るように、そんなソルジェニーの様子を見つめ、ファントレイユの方に顔を思い切り傾け、告げる。
「ヤンフェスとマントレンが、言っていたが…」
ファントレイユは素で、尋ねた。
「何を…?」
「ソルジェニーに君は、刺激が強すぎると………」
「………………」
二人して思わず王子を見る。
が、さっきのどさくさでさんざん、ファントレイユと密着していたソルジェニーは。
思い出すたび、顔が赤らむ。
その王子の様子に、ギデオンは短い吐息を吐く。
ファントレイユは表情を変えずその視線を、自分から顔を隠すように俯く王子に向けたまま、ぼそりとつぶやいた。
「…確かに、ヤンフェスは免疫が無いとは、言っていたな…」
それを聞いてギデオンが、思い切りぼやく。
「君の弊害は、女性だけじゃ無いんだな」
今度はファントレイユの、眉が寄った。
「…そんな筈は無い…!
王子。ギデオンの時だって、どきどきしませんか?」
ソルジェニーはファントレイユに覗き込まれてそう聞かれ、必死で思い出してはみた。
が、ギデオンの時には親しみと安堵しか感じなかった。
ギデオンが、ソルジェニーの様子を見て笑う。
「返事が無くとも、明白だな」
ファントレイユはギデオンを睨むと、グラスの水を取る。
「…まあそりゃ、君と一緒じゃ色事はさぞ、縁遠いだろうしな…!」
ギデオンは途端、むっとする。
「…それが悪いか…?
君と違って、私は女性と遊ぶよりも殴り合いが好きなだけだ…!
…ほらまただ…!
何人、女性の知り合いがいるんだ?」
横を通り過ぎるご婦人が、ギデオンにはほんの軽く頭を下げただけなのに。
ファントレイユにはそれは丁寧に、にこやかに会釈して行く。
ファントレイユもそれに気づくと、とても優雅に微笑み返し、軽く頭を下げる。
ギデオンが、周囲のテーブルに顔を振って視線を向け、ファントレイユの視線を促して言った。
「…みんな、君に来て欲しそうだ」
あちこちのテーブルのご婦人達が、自分の所へファントレイユが、挨拶に出向いて来ないかと待ちわび、そわそわとファントレイユに、しきりに視線を送る様子が。
ソルジェニーにも解って、呆然と店内を見渡す。
20もある座席の、あちらからもこちらからも。
全てのご婦人の視線がファントレイユに集まっている光景は、なかなか壮観だった。
ファントレイユはギデオンに振り向くと、笑う。
「君が盾代わりになって、どのご婦人もこのテーブルには、来られないようだな…。
君の様な大物と一緒じゃ、気軽に声はかけて来られないだろうし。
…日頃色事を閉め出す君の堅物ぶりが、功を奏しているようだ」
ファントレイユの、その輝くような美貌の笑顔に。
ギデオンの眉間が寄る。
不快そうに俯くと、ぼそりとささやいた。
「…君にとってその大物の盾は、さぞかし邪魔なんだろうな」
ギデオンの皮肉に、ファントレイユはすました顔をして届いた料理を前に、ナイフとフォークを振り上げる。
切り分けた肉を口に運び様、口開く。
「いや…?
お付き合いしたいような女性が、今夜は来ていないから。
大変助かってる」
そして肉を、頬張る。
ギデオンは思い切り肩を、すくめた。
そして足を組むと、尚も周囲を見回す。
「…あっちの女性は結構、美人だぞ…?
さっきから食事も取らず、君に視線が釘付けだ」
濃い赤毛を結い上げ、口元にほくろのある美人が。
しなを作って仕切りにファントレイユの関心を引こうと努力する様に、ギデオンは目を止め、そう尋ねる。
が、ファントレイユはチラリと相手に気づかれない様、視線をくべて確認すると、素っ気なく言った。
「…残念だが私を寝取って、自分の株を上げたいだけだ。
連れ歩いて自慢の種に、したいんだろうな。
…そういうのが、君のタイプなのか?」
ギデオンは途端気を悪くし、すまして食事するファントレイユの美貌を睨んだ。
が更に別のテーブルにその豪奢な金髪を振り、綺麗な面を向けてつぶやく。
「…じゃあ、あっちはどうだ?
それは豊満な、胸をしている。
色白で小柄で顔も可愛い。
それはうっとりと君を、見つめている様子だが」
ファントレイユはチラリと見る。
「…駄目だ…。情が深すぎる。
彼女と付き合ったりしたら、もう他と付き合えない」
ギデオンは途端、憤慨した。
「贅沢な奴だな…!」
ファントレイユは肩をすくめ、すました表情を向けて告げる。
「君も、人の世話を焼いてないでとっとと食べたらどうだ?
…それとも誰か私に、紹介して欲しいご婦人が居るのか?」
ソルジェニーが途端、くすくすくす笑い出す。
王子に笑われて、ギデオンは仕方無くナイフとフォークを手に取った。
「…君にぞっこんの女性を、誰が紹介してくれだなんて頼むんだ!」
ギデオンは慣れた手つきで肉を切り分けると、フォークで刺してそれは優雅な仕草で口へと運ぶ。
ファントレイユはその、とても育ち良さげな。
それは品良く食事する、綺麗な容姿のギデオンを見つめ。
本音を覗かせ、吐息混じりに言葉を吐いた。
「………そうしていると、本当に本当に、上品なのにな………」
ギデオンは切った肉を口へと運び、眉根を寄せて睨みながら、ファントレイユに尋ねた。
「で、その後なんて続くんだ?」
ギデオンの疑問に、ファントレイユは慌てて本音を後ろに押しやると、言った。
「いや…?
君位身分が最高に高くて、腕っぷしも申し分無くて。
容姿にも恵まれているというのに、どうして女性と遊ぶ気にならないのか、とても不思議だ…」
ギデオンは不遜な顔で、言い放つ。
「私は逆だ。
これだけ選びたい放題で、どうして全うに一人に絞れないのか解らない!」
ファントレイユは肩を、思い切りすくめる。
「どうして一人に絞れるのか、解らない」
それを聞いたギデオンは、もうこの男とは話せない。
と言うように、軽くファントレイユを睨む。
ソルジェニーがもうずっと二人の会話聞いて、くすくす笑い続けてた。
が、ギデオンはムキになってソルジェニーに告げる。
「…ソルジェニー。
ファントレイユの事を、とっても気に入ってる様子だが。
この男の、この趣味だけはマネしないようにしなさい…!
どう考えても不道徳だし、うんと評判を落とすから…!」
ソルジェニーはその言葉に、思わず尋ねる。
「…軍の中でも、ファントレイユはみんなにそう、思われているの?」
ギデオンは肩をすくめた。
「男ばかりだからな…。
羨ましがられてると思うが」
「…そう…なんだ」
「だが一般の場所で、ファントレイユは。
ヘタをすれば、鼻摘み者だ」
ファントレイユはギデオンの言葉に、まるで同調するように頷く。
「そう…。
大抵男達は自分に振り向かず、女性が私に振り向くと。
こぞって嫉妬するものだ。
…その男の、身分が高ければ高いほど」
ギデオンはてっきりファントレイユが、自分の事を指して皮肉っている思い込んで、目を剥く。
「…私は別に、君に嫉妬していないぞ…!」
ファントレイユが首をすくめ、情けない表情を作り、すかさずつぶやく。
「君の事だなんて、誰も、言ってやしない…。
大体、君は嫉妬される側だろう?」
この、自分の怒りを見事にかわす返答に。
ギデオンは思わず素で問い返した。
「………どうして?」
ファントレイユはギデオンこそ、自分の言った事を、まるで心に留めていやしない様子にがっかりし、呻く。
「さっき、言ったじゃないか……。
身分も容姿も何もかもが、もの凄く、恵まれてるって……」
ギデオンはそんなファントレイユの表情を見て『そうか』と軽く頷いた。
が、ファントレイユは思い返し、尋ねる。
「…ああ、だからこれ以上の嫉妬を買わない為に。
わざと女性と遊ぶのを、控えているのか?」
ファントレイユはほぼ、本音で訊ねた。
が、ギデオンはその見解を聞き、思わず怒鳴った。
「…そんな思惑は無い…!」
怒るギデオンを見、ファントレイユはふと思い出す。
「…そう言えば君も、君の取り巻き達も。
どちらかと言えば、あまり女性に対しての、武勇伝は聞かないな…」
ファントレイユの方は素朴な疑問を口にしただけだった。
が、口先で弄ぶかのようなファントレイユのその言動に、ギデオンは降参するように下を向いた。
「………ファントレイユ。頼むから自分を基準にしないでくれ。
大抵の男は、君ほど女性とは、遊ばないものだ」
ソルジェニーはそれを聞くと、また大いにくすくす笑った。
が、ソルジェニーは、いつものように余裕いっぱいでそれは優雅な隣のファントレイユを見た途端。
ふと先ほど、ギデオンがあの酒場から無事出てくるかを。
それは心配そうな、喰い入るような真剣な瞳で見つめていたのを思い出し、ギデオンに向かってそっと囁く。
「…さっき……待っている時間が長かった…」
ギデオンがフォークを止めると、尋ねる。
「いつ…?」
「…店から出た後…。
ギデオン、なかなか来なかったでしょう?」
ギデオンは途端、すまなそうな表情をする。
ファントレイユの視線がまた、見慣れぬギデオンのその気弱な表情に、思いっきり釘付く。
ギデオンが声を落とし、ソルジェニーに労るように告げる。
「心配かけて、悪かったな……」
素直に謝るギデオンのその様子に、ますますファントレイユはギデオンから目が離せなかった。
が、王子は首を横に振る。
「でも、私よりファントレイユが…」
言ってソルジェニーは、ファントレイユを見る。
が、ファントレイユの方はギデオンを凝視していたのを気づかれない様、視線をそっと下に移し、素知らぬ顔をした。
ギデオンは王子を見つめたまま、つぶやく。
「…ファントレイユ?
彼は心配したりはしないさ。
私の事を良く、知ってる。
…そうだろう?」
ギデオンの視線が、ようやくファントレイユに移る。
視線を感じたものの、ファントレイユは相変わらず素知らぬ表情を作り続けた。
ソルジェニーはファントレイユの横顔を伺った。
が、ファントレイユはとりすました表情を崩さず、素っ気なくつぶやき返す。
「君の心配なんて、無駄な事をして、何になる?」
ギデオンが、そうだろうと笑う。
が、ソルジェニーは、ファントレイユが真剣な表情であの道から。
いつギデオンが姿を見せるかと、じりじり居てもたってもいられない様子で伺うのを、思い返す。
「(だって、でも、…それは心配していた)」
だがファントレイユがギデオンにそれを言わない理由も、なんとなく解った。
…心配する必要が。
確かに、ギデオンには無かったからだ。
さっきのうらぶれた玄関とは全く違い、豪華。
門には美しい飾り模様満載。
庭には噴水と彫刻が配され、植木は美しく整えられ。
厩には、飾りの付いた屋根があり。
玄関扉と来たら、豪華な彫刻が施され、金で出来た繊細な飾りが美しく、大変豪奢で。
この店の玄関と、あの酒場の玄関を。
どうやったら見間違える事が出来るのか、ファントレイユには謎だった。
…が、ギデオンの様子を目にした時。
彼がソルジェニーに話しかけるのに夢中で、扉を開いてくれた侍従にすら気づかぬ様子に、合点が行く。
ギデオンは周囲なんて、全然見てはいないのだった。
三人はいかにも品の良い調度品類に囲まれた、落ち着いた雰囲気の。
座り心地満点のふかふかの椅子にくつろぐと、注文を取った。
「…それと…この店で一番高い食事と、一番高い酒を頼む」
ファントレイユの注文を耳にし、ギデオンはテーブルに肘を付け、手の上に顎を乗せ、暫し沈黙し。
そして口を開く。
「…私に、奢られたいのは解る。
が、どういう注文の仕方なんだ?」
ファントレイユはすました顔で口を開く。
「…滅多に来られない店なんだから、それくらいしたっていいだろう?」
ギデオンの眉が、密やかに寄った。
「…さっきの事を、根に持って無いか?」
ファントレイユは即座に言い返す。
「持って無いと言えば、嘘になる」
ギデオンは、そうだろうよ。とふてくされて俯く。
その様子を見、ソルジェニーがくすくすと笑った。
ソルジェニーは、ファントレイユの横の椅子に腰掛け、向かいに座るギデオンを。
ランプの灯りの中で見ても、その綺麗な顔に傷一つ作ってないのを改めて確認し、心からほっとした。
が、直ぐに隣のファントレイユをチラリと見る。
彼の、隙の無いスマートで引き締まったしなやかな胸元や腕を思い出し、つい頬を赤らめた。
ギデオンは珍しい物を見るように、そんなソルジェニーの様子を見つめ、ファントレイユの方に顔を思い切り傾け、告げる。
「ヤンフェスとマントレンが、言っていたが…」
ファントレイユは素で、尋ねた。
「何を…?」
「ソルジェニーに君は、刺激が強すぎると………」
「………………」
二人して思わず王子を見る。
が、さっきのどさくさでさんざん、ファントレイユと密着していたソルジェニーは。
思い出すたび、顔が赤らむ。
その王子の様子に、ギデオンは短い吐息を吐く。
ファントレイユは表情を変えずその視線を、自分から顔を隠すように俯く王子に向けたまま、ぼそりとつぶやいた。
「…確かに、ヤンフェスは免疫が無いとは、言っていたな…」
それを聞いてギデオンが、思い切りぼやく。
「君の弊害は、女性だけじゃ無いんだな」
今度はファントレイユの、眉が寄った。
「…そんな筈は無い…!
王子。ギデオンの時だって、どきどきしませんか?」
ソルジェニーはファントレイユに覗き込まれてそう聞かれ、必死で思い出してはみた。
が、ギデオンの時には親しみと安堵しか感じなかった。
ギデオンが、ソルジェニーの様子を見て笑う。
「返事が無くとも、明白だな」
ファントレイユはギデオンを睨むと、グラスの水を取る。
「…まあそりゃ、君と一緒じゃ色事はさぞ、縁遠いだろうしな…!」
ギデオンは途端、むっとする。
「…それが悪いか…?
君と違って、私は女性と遊ぶよりも殴り合いが好きなだけだ…!
…ほらまただ…!
何人、女性の知り合いがいるんだ?」
横を通り過ぎるご婦人が、ギデオンにはほんの軽く頭を下げただけなのに。
ファントレイユにはそれは丁寧に、にこやかに会釈して行く。
ファントレイユもそれに気づくと、とても優雅に微笑み返し、軽く頭を下げる。
ギデオンが、周囲のテーブルに顔を振って視線を向け、ファントレイユの視線を促して言った。
「…みんな、君に来て欲しそうだ」
あちこちのテーブルのご婦人達が、自分の所へファントレイユが、挨拶に出向いて来ないかと待ちわび、そわそわとファントレイユに、しきりに視線を送る様子が。
ソルジェニーにも解って、呆然と店内を見渡す。
20もある座席の、あちらからもこちらからも。
全てのご婦人の視線がファントレイユに集まっている光景は、なかなか壮観だった。
ファントレイユはギデオンに振り向くと、笑う。
「君が盾代わりになって、どのご婦人もこのテーブルには、来られないようだな…。
君の様な大物と一緒じゃ、気軽に声はかけて来られないだろうし。
…日頃色事を閉め出す君の堅物ぶりが、功を奏しているようだ」
ファントレイユの、その輝くような美貌の笑顔に。
ギデオンの眉間が寄る。
不快そうに俯くと、ぼそりとささやいた。
「…君にとってその大物の盾は、さぞかし邪魔なんだろうな」
ギデオンの皮肉に、ファントレイユはすました顔をして届いた料理を前に、ナイフとフォークを振り上げる。
切り分けた肉を口に運び様、口開く。
「いや…?
お付き合いしたいような女性が、今夜は来ていないから。
大変助かってる」
そして肉を、頬張る。
ギデオンは思い切り肩を、すくめた。
そして足を組むと、尚も周囲を見回す。
「…あっちの女性は結構、美人だぞ…?
さっきから食事も取らず、君に視線が釘付けだ」
濃い赤毛を結い上げ、口元にほくろのある美人が。
しなを作って仕切りにファントレイユの関心を引こうと努力する様に、ギデオンは目を止め、そう尋ねる。
が、ファントレイユはチラリと相手に気づかれない様、視線をくべて確認すると、素っ気なく言った。
「…残念だが私を寝取って、自分の株を上げたいだけだ。
連れ歩いて自慢の種に、したいんだろうな。
…そういうのが、君のタイプなのか?」
ギデオンは途端気を悪くし、すまして食事するファントレイユの美貌を睨んだ。
が更に別のテーブルにその豪奢な金髪を振り、綺麗な面を向けてつぶやく。
「…じゃあ、あっちはどうだ?
それは豊満な、胸をしている。
色白で小柄で顔も可愛い。
それはうっとりと君を、見つめている様子だが」
ファントレイユはチラリと見る。
「…駄目だ…。情が深すぎる。
彼女と付き合ったりしたら、もう他と付き合えない」
ギデオンは途端、憤慨した。
「贅沢な奴だな…!」
ファントレイユは肩をすくめ、すました表情を向けて告げる。
「君も、人の世話を焼いてないでとっとと食べたらどうだ?
…それとも誰か私に、紹介して欲しいご婦人が居るのか?」
ソルジェニーが途端、くすくすくす笑い出す。
王子に笑われて、ギデオンは仕方無くナイフとフォークを手に取った。
「…君にぞっこんの女性を、誰が紹介してくれだなんて頼むんだ!」
ギデオンは慣れた手つきで肉を切り分けると、フォークで刺してそれは優雅な仕草で口へと運ぶ。
ファントレイユはその、とても育ち良さげな。
それは品良く食事する、綺麗な容姿のギデオンを見つめ。
本音を覗かせ、吐息混じりに言葉を吐いた。
「………そうしていると、本当に本当に、上品なのにな………」
ギデオンは切った肉を口へと運び、眉根を寄せて睨みながら、ファントレイユに尋ねた。
「で、その後なんて続くんだ?」
ギデオンの疑問に、ファントレイユは慌てて本音を後ろに押しやると、言った。
「いや…?
君位身分が最高に高くて、腕っぷしも申し分無くて。
容姿にも恵まれているというのに、どうして女性と遊ぶ気にならないのか、とても不思議だ…」
ギデオンは不遜な顔で、言い放つ。
「私は逆だ。
これだけ選びたい放題で、どうして全うに一人に絞れないのか解らない!」
ファントレイユは肩を、思い切りすくめる。
「どうして一人に絞れるのか、解らない」
それを聞いたギデオンは、もうこの男とは話せない。
と言うように、軽くファントレイユを睨む。
ソルジェニーがもうずっと二人の会話聞いて、くすくす笑い続けてた。
が、ギデオンはムキになってソルジェニーに告げる。
「…ソルジェニー。
ファントレイユの事を、とっても気に入ってる様子だが。
この男の、この趣味だけはマネしないようにしなさい…!
どう考えても不道徳だし、うんと評判を落とすから…!」
ソルジェニーはその言葉に、思わず尋ねる。
「…軍の中でも、ファントレイユはみんなにそう、思われているの?」
ギデオンは肩をすくめた。
「男ばかりだからな…。
羨ましがられてると思うが」
「…そう…なんだ」
「だが一般の場所で、ファントレイユは。
ヘタをすれば、鼻摘み者だ」
ファントレイユはギデオンの言葉に、まるで同調するように頷く。
「そう…。
大抵男達は自分に振り向かず、女性が私に振り向くと。
こぞって嫉妬するものだ。
…その男の、身分が高ければ高いほど」
ギデオンはてっきりファントレイユが、自分の事を指して皮肉っている思い込んで、目を剥く。
「…私は別に、君に嫉妬していないぞ…!」
ファントレイユが首をすくめ、情けない表情を作り、すかさずつぶやく。
「君の事だなんて、誰も、言ってやしない…。
大体、君は嫉妬される側だろう?」
この、自分の怒りを見事にかわす返答に。
ギデオンは思わず素で問い返した。
「………どうして?」
ファントレイユはギデオンこそ、自分の言った事を、まるで心に留めていやしない様子にがっかりし、呻く。
「さっき、言ったじゃないか……。
身分も容姿も何もかもが、もの凄く、恵まれてるって……」
ギデオンはそんなファントレイユの表情を見て『そうか』と軽く頷いた。
が、ファントレイユは思い返し、尋ねる。
「…ああ、だからこれ以上の嫉妬を買わない為に。
わざと女性と遊ぶのを、控えているのか?」
ファントレイユはほぼ、本音で訊ねた。
が、ギデオンはその見解を聞き、思わず怒鳴った。
「…そんな思惑は無い…!」
怒るギデオンを見、ファントレイユはふと思い出す。
「…そう言えば君も、君の取り巻き達も。
どちらかと言えば、あまり女性に対しての、武勇伝は聞かないな…」
ファントレイユの方は素朴な疑問を口にしただけだった。
が、口先で弄ぶかのようなファントレイユのその言動に、ギデオンは降参するように下を向いた。
「………ファントレイユ。頼むから自分を基準にしないでくれ。
大抵の男は、君ほど女性とは、遊ばないものだ」
ソルジェニーはそれを聞くと、また大いにくすくす笑った。
が、ソルジェニーは、いつものように余裕いっぱいでそれは優雅な隣のファントレイユを見た途端。
ふと先ほど、ギデオンがあの酒場から無事出てくるかを。
それは心配そうな、喰い入るような真剣な瞳で見つめていたのを思い出し、ギデオンに向かってそっと囁く。
「…さっき……待っている時間が長かった…」
ギデオンがフォークを止めると、尋ねる。
「いつ…?」
「…店から出た後…。
ギデオン、なかなか来なかったでしょう?」
ギデオンは途端、すまなそうな表情をする。
ファントレイユの視線がまた、見慣れぬギデオンのその気弱な表情に、思いっきり釘付く。
ギデオンが声を落とし、ソルジェニーに労るように告げる。
「心配かけて、悪かったな……」
素直に謝るギデオンのその様子に、ますますファントレイユはギデオンから目が離せなかった。
が、王子は首を横に振る。
「でも、私よりファントレイユが…」
言ってソルジェニーは、ファントレイユを見る。
が、ファントレイユの方はギデオンを凝視していたのを気づかれない様、視線をそっと下に移し、素知らぬ顔をした。
ギデオンは王子を見つめたまま、つぶやく。
「…ファントレイユ?
彼は心配したりはしないさ。
私の事を良く、知ってる。
…そうだろう?」
ギデオンの視線が、ようやくファントレイユに移る。
視線を感じたものの、ファントレイユは相変わらず素知らぬ表情を作り続けた。
ソルジェニーはファントレイユの横顔を伺った。
が、ファントレイユはとりすました表情を崩さず、素っ気なくつぶやき返す。
「君の心配なんて、無駄な事をして、何になる?」
ギデオンが、そうだろうと笑う。
が、ソルジェニーは、ファントレイユが真剣な表情であの道から。
いつギデオンが姿を見せるかと、じりじり居てもたってもいられない様子で伺うのを、思い返す。
「(だって、でも、…それは心配していた)」
だがファントレイユがギデオンにそれを言わない理由も、なんとなく解った。
…心配する必要が。
確かに、ギデオンには無かったからだ。
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しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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